科学的根拠に基づくBSのみを普及するEco-LAB
Eco-LABとは、「バイオスティミュラント活用による脱炭素地域づくり協議会(Expert COuncil for Low carbon Agriculture in Biostimulant technology)」の略称。設立は2023年9月と若い組織だが、加入メンバーは全国13JA(県連含む)のほか、事務局を務めるAGRI SMILEをはじめとした企業7社、自治体、金融機関と幅広い。事務局長の大堂由紀子(おおどう・ゆきこ)さんが、Eco-LABの目的から話し始めた。

「Eco-LABは、食品残渣型BSを軸に脱炭素地域の社会実装を図る組織です。そのために3つのコンソーシアムを設けています。それが①食品残渣BS開発コンソーシアム、②BS栽培検証コンソーシアム、③炭素クレジットコンソーシアム。今回お話しするのは②BS栽培検証コンソーシアムの活動成果の一部です。
Eco-LABの活動においてご注目いただきたいのは、2025年4月に公開した 『バイオスティミュラント自主規格(第1版)』です。これは農水省が同年5月に発表した『バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン』に準拠したもので、以下のような項目を盛り込んでいます。
「対象資材の植物体内で起こる反応を確認するために、遺伝子発現量解析・植物ホルモン解析・生化学解析・元素解析のいずれか1つ以上を行うこと」
Eco-LABが扱うのは、科学的根拠に基づき作用メカニズムが明確化されたBS資材のみです。従来のBSにまつわる曖昧さを排除し、“いつ・どの品目に・どのように使えば良いか”を明確にできるBS資材だけを普及対象としています」
これによりEco-LABでは、農業生産者(産地JA)が栽培暦に組み込めるレベルにまで再現性を高めようとしている。この点がEco-LABのBS普及における最大の特徴と言って良いだろう。

JA全農いわてによる多品目での体系化と“栽培暦への落とし込み”
いよいよ本題。Eco-LABの活動を具体的に示す事例として、全国農業協同組合連合会岩手県本部(以下、JA全農いわて)の取り組みを見ていこう。

岩手県は北海道に次ぐ広大な面積を持ち、主たる作目は米・小麦・大豆のほか、園芸・果樹・畜産など幅広い。”りんどう”は全国1位の産地であり、畜産が盛んであることから、堆肥循環を活かした耕畜連携も活発だ。JA全農いわて園芸部次長の佐々木章(ささき・あきら)さんは、次のように説明した。
「県内JAとの連携が強く、新しい技術にも取り組みやすい風土があります。だからこそBSも体系的に普及できる環境が整っているのです」
佐々木さんによれば、2023年までは、産地ではBSに対して懐疑的な声が多かったという。「施用効果が不透明」「利用条件が曖昧」「再現性が低い」といった声が多かったのだとか。ところが同年は記録的高温となった年であり、園芸品目で生理障害が多発。その対策としてBS活用が本格的に検討されるようになった。BSへの取り組みの追い風になったのは、2024年度から開始した「グリーンな栽培体系加速化事業」によるAGRI SMILEと協働した生産実証だ。
「この実証で手応えを得たことが、Eco-LAB加入の大きな理由となりました。産地JAでも、作用メカニズムが明確で目的がはっきりしたBS資材であれば再現性が高い、という理解が広がりました」

JA全農いわてがBS普及に取り組んだきっかけは園芸品目の高温対策であったが、現在は栄養対策を中心とした「単収増」と「品質向上」へと、目的も広がっている。実証を行った作目は、ピーマン、きゅうり、りんどう、トマト、キャベツ、レタス、りんご、など多岐に渡るが、ここではピーマン、きゅうり、りんどうの成果を紹介しよう。
●ピーマン:規格内品率・単収ともに大幅に向上
・目的:単収増
・実証面積:約10a・結果:「規格内比率が49%増、規格外比率は5%減、そして収量は40%向上しました。栄養系BSと果菜類との相性が良いことが確認できました」(佐々木さん)
●きゅうり:減肥しても慣行区と同等以上の収量
・目的:単収増
・実証面積:0.2a
・結果:「BSの施用効果発現が収穫盛期に間に合わず慣行区に比べトータル収量は減少したものの、BS施用区では減肥しながらもA品・AS品の割合が増加し歩留まりが改善しました」(佐々木さん)
●りんどう:秀品比率が大幅に向上
・目的:欠株の予防
・実証面積:0.08a(100株)
・結果:「秀品率が大幅に向上しました(早生は23%増、晩生は39%増)。ただし面積が小規模(約0.08a)だったので今後より大規模な実証が必須です」(佐々木さん)
栽培カレンダーへどう落とし込むか
科学的根拠に基づくBSの使用条件について大堂さんは「Eco-LABでは、32都道府県の106JAと連携して、全国318ヵ所の計1,500haの圃場におけるBSの結果データを保有しています。これらデータとBS資材の作用メカニズムの根拠データを活用することで、作目ごとに効果が出る使用条件を設計でき、どの時期に施用すべきかの情報を保有しています」と説明した。JA全農いわてが行ったBSの実証は、やや実証面積が小さい点が気になったが、JA全農いわてが実施した実証試験の結果に加えて、Eco-LABが保有する豊富なデータを利用できる、というわけだ。
それでもまだ、地域でBSの施用効果を安定して発揮させる“技術体系化”への挑戦が残っている。佐々木さんも「BSは栽培カレンダーに落とし込めるレベルまで標準化しなければ普及しない」と話した。

「例えば、ピーマンへの施用として、現場で潅水条件を調整することによって、効果が最大化することが分かりました。また、キャベツとレタスでは、定植前にBS希釈液にどぶ漬けすると良いことがわかっています。ここまで整理して初めて、産地JAは農業生産者向けの印刷物や栽培指導資料にBSの施用タイミングを明記でき、BSの普及に繋がるのです。これが栽培カレンダーに組み込む本当の狙いなのです」(佐々木さん)
科学的根拠と再現性がBS採用の決め手

続いて紹介する取り組み事例は、北海道恵庭市に本所を置く道央農業協同組合(以下、JA道央)に所属する萩原農場の萩原雅樹(はぎわら・まさき)さんが説明してくれた。
JA道央は、札幌市の南東部に位置する、恵庭市、江別市、北広島市、千歳市を管轄区域とする広域JA。地区内は1万7,000haもの耕地を抱え、稲作・畑作・酪農を基幹とする、多様な経営形態が形成されている。萩原さんは、そんなJA道央管内で、レタス、きゅうり、白菜、水稲を栽培している。
「知人の紹介で、Eco-LABで事務局をしているAGRI SMILEのBS資材を知りました。科学的根拠が明確で、正しい条件で使えば再現性が高い点に魅力を感じました」と、BS資材との出会いを振り返った。それ以前は、複数のBS資材を手当たり次第に試したが、明確な効果にたどり着けなかった、とも話した。
JA道央のレタスでの実証
ここからは、JA道央の会員として萩原さんが行ったBS施用の取り組みを紹介しよう。

●レタス
・目的:高温期の活着不良・チップバーンの発生による歩留まりの低下対策
・実証面積:約11ha
結果(萩原さんコメント):「生産部会8名中4名で使用しました。チップバーンの発生を抑える効果に、再現性がありました。BS資材コストは2,660円/10aでしたが、収入増は125,680円/10aであり、費用対効果は約47.2倍になりました」
●きゅうり
・目的:高温期の花落ちや着果量の低下対策、なり疲れ防止
・実証面積:50a
結果(萩原さんコメント):「全面散布のため経済性評価はできないが、樹勢もよく収穫時期を長くすることができました」
この結果について萩原さんは「AGRI SMILEと実証したことが大きかった。メカニズムが明らかな資材を用いて実際の圃場で施用することで、正しい使い方を確立できた」と話した。そのうえで、BS資材を利用するうえで重要なポイントとして、下記が重要であると説明する。
・基本となる栽培技術をしっかりした上で活用すること
・BS資材は減収リスクを抑えるものなので、適切な理解と使用方法を認識すること
・資材ごとの特徴をメカニズム含めて見極めて栽培に取り入れること
「BS資材と名乗る製品が乱立しています。農業生産者は科学的に証明された商品を使用すべきですが、メーカーの情報提供が不足しています」と警鐘を鳴らした。これは萩原さんご自身がEco-LAB加入前に「複数のBS資材を手当たり次第に試したが、明確な効果にたどり着けなかった」という苦い経験から来る言葉だ。
「北海道でもあらゆる品目が取れなくなってきています。減収リスクを抑えることは中長期的に見ても重要ですから、青年部や生産部会中心に情報発信して、農業生産者がBS資材を適切に使えるようになることで産地としての安定生産に繋げていきたいです」と、将来を展望してくれた。
BSは”どう使えば効くか”の技術へ
Eco-LABの取り組みは、従来の「BSは効果が曖昧」という悩みから、農業生産者を解放する可能性がある。
・作用メカニズムを科学的に証明する
・目的別に資材を選ぶ
このことの重要性を強く示唆するとともに、最終的に「品目別の最適施用条件を技術体系として確立して栽培暦に落とし込む」というプロセスにより、BSを“再現性のある農業技術”へと進化させようとしている。
JA全農いわて、JA道央の取り組みは、いずれも「農業生産者が主体となって、根拠ある技術としてBSを取り込む」というEco-LABの理念を体現するものだ。BSはもはや”魔法の資材”ではなく、正しく使えば確かな効果を発揮する農業技術と言える。BSが科学的根拠に基づいてt栽培暦に組み込まれて定着すれば、BSは安定生産と品質向上のための”当たり前の選択肢”になって行くだろう。
取材協力・写真提供
Eco-LAB
全国農業協同組合連合会岩手県本部(JA全農いわて)
道央農業協同組合(JA道央)
















