なぜ新規就農は「感情経営」に陥りやすいのか?
農業は自然を相手にする魅力に加え、「自分で作ったものを人に届ける」という大きなやりがいがあり、近年、異業種からの新規就農者が増加しています。
僕自身も親元就農ではなく、農地がないゼロからのスタートで、就農の動機は「栄養価が高い、本当にいい野菜を作りたい」という熱意でした。
しかし、この強い熱意こそが、新規就農者が「感情経営」に陥る最大の要因です。
感情経営とは文字の通り、感情のままに動く経営のこと。初期段階では「良いものを作りたい」「自然の中で働きたい」という感情や熱意が先行しがちで、農地の選定、作物選定、資材購入、販売ルート確保といった重要な経営判断において、収益性や採算性といった「数字」の検討が後回しになりがちです。特に初期の失敗の主な原因として、熱意があれば何とかなるという楽観視や、感情的なこだわりから市場のニーズを無視した高額投資が挙げられます。
逆に、これらのリスクを回避すれば、新規就農から3年で持続可能な採算ラインに乗せることが可能です。いかにして「熱意」と「数字」のバランスを取り、「脱・感情経営」を実現するのか、具体的な方法を解説します。

第1章:採算ラインに乗せるための「3年計画」と初期投資の可視化
1. 採算ラインの定義と目標設定
農業は天候や販売先に左右され、さらには単価と数量が毎年変動するという極めてリスキーな事業です。この不安定さゆえに、新規就農者はまず「脱・感情経営」の土台となる採算ラインを明確に定義する必要があります。
多くの新規就農者は「おいしい野菜を作れば、売上は後からついてくる」と考えがちですが、これは典型的な「感情経営」の思考です。最初に行うべきなのは、目標達成から逆算して考える「逆算思考」です。
理想の生活や夢の設備から考えるのではなく、まず3年後の時点で、事業が持続可能であるために「最低限必要な売上(採算ライン)」を、徹底的にシビアに見極めることから始めます。
この「採算ライン」とは、単なる「年間の生活費」ではありません。それは以下の4つの要素を全てカバーできる最低限の売上高を指します。
- 最低限の生活費(自身と家族が生活を維持できる水準)
- 事業継続費(種苗、肥料、資材、燃料、消耗品などの変動費)
- 初期投資の回収費(減価償却費)
- 借入金の返済額(もしあれば)
「良いものを作りたい」という熱意は大切ですが、この採算ラインを下回るということは、どんなに良い野菜を作っていても、事業として破綻に向かっていることを意味します。この最低ラインの数字を感情抜きで算出し、それを達成するために単価と数量をどうするか逆算することが、「脱・感情経営」の第一歩となります。
2. 実際の具体的な金額
ずばり、新規就農者がファーストステップとしてクリアすべきラインは
- 生活費250万円
- 事業継続費250万円(初期投資の回収費、返済含め)
- 合計売上500万円
です。
シンプルでわかりやすいですね!
つまり、売上500万円を作るには、250万円の経費がかかり、250万円の生活費が残るということです。
ちなみに生活費250万円は自分自身の人件費なので、純利益ではありません。
そして、この売上500万円は正直言って、毎年安定しません。
「不作で売上300万円に…」
「豊作で忙しかったけど、売上550万円が限界…」
というように、不作で下がる時は徹底的に売上が下がり、たとえ豊作でも相場で単価が下がるので、売上の爆増はなかなか難しいのです。
めちゃくちゃ売上がうなぎ登りに上がるには、ある条件を満たさないと非常に難しいです。この条件についてはまた機会があればお話ししようと思います。
「待て待て、売上が上がる機会がかなり少ないのでは?」と疑問に思った皆さん。
はい、その通りです。
では、どうすればしっかりと経営できるのか、お話していきます。

第2章:儲かる農業のための数字を作る技術
1. 売上という命綱を作るのは栽培技術
第1章で、新規就農者がまず目指すべき採算ラインは、最低限の生活費と事業継続費を含めた「売上500万円」であり、この売上は非常に不安定である、という現実をお伝えしました。
では、不安定な売上をどう安定させるのか? 答えはシンプルです。熱意やこだわりではなく、 「栽培技術」 こそが、売上という命綱を生み出す唯一の手段になります。
例えば、相場が下がったとしても、周囲の農家が1トンしか作れない状況で、あなたが2トン作ることができれば、同じ単価でも売上は倍になります。逆に、どんなに高品質なこだわり野菜を作っても、台風や病害虫で収穫量が半分になれば、売上は一気に採算ラインを下回ります。
つまり、経営の数字を安定させるために最も重要なのは、常に安定した数量(歩留まり)を確保できる、再現性の高い栽培技術なのです。この数量の安定化こそが、単価の変動リスクを吸収する唯一の防御策となります。
「周りが豊作の年でも不作の年でも自分だけはいつも通り大豊作!」になるわけです。
2. 「ありかた農法」にこだわるな!確実に作れる技術こそが「経営農法」
農薬や化学肥料に頼らない、自然の力を生かした農業のことを僕は「ありかた農法」と呼んでいます。僕自身も「栄養のある野菜は高く売れる」「農薬と化学肥料は良くない」という強い信念(ありかた)から、就農当初は有機JASや自然農法を選んでいました。これらのありかた農法は、お客様への訴求力はありますが、初期段階では大きな落とし穴になります。
なぜなら、ありかた農法の多くは、栽培の難易度が高く、生産量が不安定になりがちだからです。特に新規就農者が、経験や知見の少ない中で信念にこだわり過ぎると、安定生産ができず、結果として売上が立ちません。
「脱・感情経営」を目指すなら、まずは 「どう作るか」という理想よりも、「確実に売上500万円を作るにはどうすればいいか」という現実的な目標を優先すべきです。
持続可能な事業を最優先に考える「経営農法」では、土壌・気象条件を問わず、安定した収量と品質を確保するための合理的で再現性の高い技術が必要です。まずはこれをしっかり構築し、事業が軌道に乗ってから少しずつありかた農法を取り入れる、という順番が正しいのです。確実な技術こそが、あなたの事業を守る「経営」そのものになります。
3. 単価を確定させて「脱・感情経営」の土台を築く
栽培技術で「数量」の安定を目指す一方で、次に手を打つべきは「単価」です。
「売上=単価(変動しやすい) × 数量(変動しやすい)」
この両方が変動するから、農業はリスキーなのです。採算ラインに乗せるためには、このうち少なくとも 「単価」を自分の手で確定させることが極めて重要になります。これが「脱・感情経営」の最も強力な一歩です。
市場出荷(相場任せ)の場合、単価は毎日変動し、感情的な値付け(「これだけこだわったから高くてもいいはずだ」)も通用しません。
そして市場価格は需要と供給の相場なので、実際のところ農家の採算は度外視されていて、農業初心者には食べていくための売り先として機能しない場合が多々あります。
そこで、新規就農者が積極的に取り組むべきなのが、契約栽培や固定価格での直接販売です。
- 飲食店との契約
- 個人顧客との定期購入(サブスク)
- 固定価格での卸売契約
もし「この野菜は一袋100円で売る」と確定できれば、採算ラインの売上500万円から逆算して「年間で何袋作ればいいか」という目標数量が明確になります。単価を確定させることで、「熱意」ではなく「数字」に基づいた具体的な生産計画が立てられるようになり、感情的な経営判断から脱却できるのです。
実際のところ、売上500万円くらいが設備を整え、一人でできる農業の限界点かなと僕は感じました。
作物や作型、栽培する時期によっても変わるため、一概には言えませんが…。
僕自身はYoutubeを運営しながら、毎年少しずつ規模拡大して一人農業の枠を超えた経営へ進化しています。感情経営から脱却したことにより、次のステージへ進むための具体的な数字や指標が見えるようになりました。
それまでは怖くて人を雇うなんてとんでもない…!
切実にそう思うほど安定せず、苦しみ悩む農業だったわけです。
今では販売に関しては、同じ作物を栽培している農家同士が集まり、小さな農協を運営しながら有利に取引が進められています。この仕組みの上で、各農家が100トン以上出荷し、お客様に安定供給を続けています。
今回はあまり難しい内容を事細かに書くと新規就農者にとっては読む気になれないボリュームになってしまうので、さらっとシンプルにお伝えしました。
この内容は僕がすべて経験し、採算が合わず苦労したことから得た知見ばかりです。
これから野菜を売ってみたい方、これから農業で採算が合うようにしたい方、これから農業で食べていきたい方の参考になれば幸いです!
僕はYouTubeで「ゼロイチ農業チャンネル」を運営し、これから農業をゼロからはじめたい方に向けて、最初のステップである「確実に栽培する基礎」を発信し続けています。
- 家庭菜園でおいしい野菜を作ってみたい!
- 家庭菜園の野菜を売ってみたい!
- 農業で食っていけるようになりたい!
そんな方に向けてプロレベルの品質で栽培できる技術をお伝えしているのが僕のチャンネルです。
農地ゼロ、人脈ゼロ、経験ゼロから毎年100トンを出荷する農家になったプロの栽培技術を公開しています。動画を見ておいしくて見た目も美しい野菜作りを楽しんでくださいね。


















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