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親子二代で年商5億円超。飛躍の糸口は、2度にわたる作物の全転換

鈴木 雄人

ライター:

親子二代で年商5億円超。飛躍の糸口は、2度にわたる作物の全転換

年商5億円超、通年出荷体制の構築、3拠点生産、そして90歳でも働ける「出来高払い」。株式会社アグレスは、なぜこれほどアグレッシブな経営判断を続けられるのか。同社の物語は、地域の代名詞でもあったレタス栽培を捨てた先代の決断から始まった。先代の父が「夏ほうれん草」への作物転換で掴んだ市場を、子はいかに「ブロッコリー」への再転換で拡大させたのか。代表取締役社長の土屋梓(つちや・あずさ)に話を伺った。

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標高1350mの地で、日本最大級の夏ほうれん草を生産

株式会社アグレスは、JRの標高最高地点・野辺山駅(標高1350m)を擁する長野県南牧村に本拠を構えています。冷涼な気候を生かし、約280棟のハウスでほうれん草を栽培。夏の雨よけハウス栽培としては日本一の規模を誇ります。

同社の強みはほうれん草だけではありません。長野県・野辺山に加え、山梨県と埼玉県にも農場を展開し、ほうれん草(年間427t)、ブロッコリー(年間359t)、白菜(年間306t)といった主力作物を生産。3拠点をリレーすることで、ブロッコリーでは365日の出荷体制を構築しています。

創業から約18年、これらの事業を柱に年間売上は6億円に迫る勢い。長期ビジョンとして自社生産のみで20億円を目指すなど、社名の由来である「アグレッシブ」を体現するような、目覚ましい成長を続ける農業法人です。

すべては父の「100%の転換」から

アグレスの物語は、土屋さんの父である先代社長の土屋鋭(つちや・えい)さんによる「100%の作物転換」から始まります。

もともと土屋家は、この地の開拓第一世代としてレタス、白菜を栽培する農家でした。しかし2000年代初頭頃には国内有数のレタス産地として栽培技術が確立した半面、生産過剰で毎年のように廃棄が出る状況に。危機感を覚えた鋭さんは「もっと必要とされる野菜を作るべきだ」と、59歳の時に作物転換という一大決心をします。

鋭さんが着目したのは、市場からの需要はありながらも、この地域では誰も作っていなかった「夏場のほうれん草」でした。

「親父はとんがってましたから」と土屋さんが振り返る通り、その決断は徹底していました。大規模な作物転換には約7000万円の融資が必要でしたが、借入を実行しやすくするため、2006年に個人経営から株式会社アグレスへと法人化。

それまで使っていたレタス、白菜用のトラクターや設備は全て売却し、100棟のハウスを建設するなど、ほうれん草のための資金に変えました。退路を断ち、ほうれん草に100%集中できるように振り切ったのです。

1000万円の赤字経て、経営基盤の礎築

法人化の初年度から、元々作っていた白菜やレタスは一切植えずにほうれん草一本で勝負した鋭さん。当初は栽培技術もないので、栽培がうまくいかず、1年目は1000万円の赤字を出す結果に終わったといいます。

しかし、元々需要のあった夏場のほうれん草。3年目には栽培技術も確立でき、黒字化を達成。アグレスの経営基盤が確立された瞬間でした。

継がれたDNA。ブロッコリーへの「再転換」

「親父の農業をしている姿がかっこよかったです」。鋭さんから代表の座を継いだ土屋さんは、幼い頃から父の背中に憧れを抱いてきたといいます。しかし、その憧れの対象は、大きなトラクターでレタスや白菜の畑を耕す姿。父がほうれん草のハウス栽培に転換した時、「憧れていた農業ではない。自分のやりたいこととは違う」と感じていたと話します。

そのため、父に内緒で再びレタスや白菜の栽培を試みたこともありました。それでも、実際にやってみて下した結論は「アグレスとして、この地でやる強みがない」というものでした。そこで土屋さんは、父と同じ行動に出ました。市場の分析です。

市場の隙間を突いたブロッコリー365日体制

当時、卸売業者と話す中で、夏場のブロッコリーは北海道産が天候の影響で不安定になりがちで、市場から強く求められていることが分かりました。「これだと感じましたね。切り替えるのは得意なんで(笑)」。土屋さんは翌年、レタスや白菜を1本も植えず、全てブロッコリーに転換しました。

父がほうれん草を選んだのと同じ論理。「市場の需要」と「産地の強み」が合致した瞬間です。ただし、ほうれん草とブロッコリーでは、市場の特性が根本的に異なっていました。

ほうれん草は本来「冬野菜」であり、冬場の産地は全国に多数存在します。アグレスの強みはあくまで、他の産地が作れない「夏場」に野辺山の冷涼な気候を生かせる点にあり、あえて競合が多い時期に栽培する意味はありません。

一方のブロッコリーは、当時は通年で国内の需要が供給に追いついていない品目です。もし365日、年間を通じて安定出荷できれば、小売店(スーパーマーケット)の棚を年間契約で確保できる可能性が生まれます。

この「ブロッコリーの通年需要」という市場の追い風は、奇しくもアグレスが抱えていた経営課題と見事に合致しました。正社員や外国人技能実習生の雇用が進むにつれ、「通年雇用するための仕事の創出」が急務となっていたのです。本拠地である野辺山は冬場の気温が-15℃以下になることも多く、畑が凍結するため、一切の農作業ができません。そのため、特に「冬の仕事」をいかに作るかが悩みのタネでした。

市場には「通年出荷」の需要があり、社内には「通年雇用」の課題がある。その答えが、野辺山より温暖な地域への進出でした。春・秋の生産を担う「山梨農場」、そして冬の仕事を確保する「埼玉農場」を次々と開設。この3拠点をリレーすることで、アグレスは「ブロッコリーの通年出荷体制」という強力なビジネスモデルを確立したのです。

品質と地域連携を生む「自社製氷機」という投資

ブロッコリー事業の成功を裏で支えているのが、自社で保有している大型製氷機です。ブロッコリーの市場評価は、遠方へ輸送した後も「箱の中に氷が残っているか」で大きく左右されるといいます。

アグレスでは製氷機2台を設置し、1日5トンの氷を製造。さらに振動機を使い、ブロッコリーの隙間に氷をしっかり詰め込むことで、九州への輸送にも耐える高い品質を維持しています。

この設備投資は、思わぬ副産物も生みました。自社で製氷・箱詰め設備を持たない地元のJAや農家からの、ブロッコリー出荷調整の委託です。箱詰めと氷詰めを代行し、JAへ納品する業務も行っています。自社の強みを、地域へ還元するプラットフォームとしても機能しているのです。

90歳でも働ける。「出来高払い」というソリューション

アグレスの事業拡大を支えるのは、約100名にのぼるパート従業員の存在です。特筆すべきは、スタッフの多様性。最年長では90歳の方も現役で働いています。

しかし、この多様性こそがスタッフ間の軋轢を生んでいました。
「ベテランと新人、あるいは年齢による体力差で、収穫量には3〜4倍の差が出ます。時給制ではその人の技術や成果に見合った賃金を払うことは難しく、どうしても不満が出ていました」と土屋さんは振り返ります。

さらに、最低賃金が年々上昇する中で、経営者としてのジレンマにも直面していました。「時給が1500円になれば、当然会社としてはそれに見合った成果を求めます。そうなると、ゆっくりとしか作業ができない高齢の方は『雇えない』ということになってしまう。でも、それは僕が目指す『どんな人でも働ける職場』ではありませんでした」

この2つの課題を同時に解決するためにアグレスが導入したのが、収穫量(kg)に応じて賃金を支払う「出来高払い」の仕組みです。

この制度では、1年目のパート(時給制)が仕事の流れを覚えた後、2年目から本人の希望と適性に応じて出来高制へと移行します。

導入にあたり、他の農家からは「収穫しやすい良い畑の取り合いになるなど、かえって人間関係が悪くなる」との忠告も受けたといいます。しかし、土屋さんは「うちでは逆でした。不満は明らかに減りましたね」と断言します。

成果が直接報酬に反映されるため、スタッフの中には時給換算で1,600円、月収30万円を稼ぎ出す人もいます。一方で、高齢のパートも「時給分の成果」というプレッシャーから解放され、自身の体力とペースに合わせて働き、収穫した分だけの収入を得ることができているといいます。

「時給」という画一的なモノサシを外したことで、アグレスは「できる人」の意欲を最大化すると同時に、「ゆっくりな人」の居場所をも守る、持続可能な雇用モデルを確立したのです。

新規事業として、ソーラーシェアリングにも挑戦

アグレスの挑戦は止まりません。現在、野辺山ではソーラーシェアリング事業が進行中です。

農地が飽和状態の野辺山において、これは新たな「土地確保」の戦略でもあります。アグレスは「野辺山営農ソーラー株式会社」が主導するプロジェクトに、中核となる「地元農家」として参画。具体的には、太陽光発電設備の下に新たに55棟のハウスを建設し、そこでほうれん草栽培を行うというものです。

このプロジェクトの先進性は、アグレスが「このハウスの設計でないと農業ができない」と太陽光パネルの建設段階から深く関与し、既存のトラクターが入れる軒高を確保するなど、「発電効率よりも農作業のしやすさを優先」した点にあります。

この「農家が主役」の取り組みは外部からも高く評価され、3ヘクタールの耕作放棄地を優良農地として再生する点や、持続可能な農業と地域活性化の可能性が認められ、2025年度の「ソーラーウィーク大賞」において、最高賞である大賞を受賞しました。

「親父も自分も、とにかく需要があって、自分たちの産地で強みになるものは何だ、というところを圧倒的に重視しています」

土屋さんは、あくまで他社の野菜を集めるのではなく、農業法人として「自社生産」にこだわり、長期ビジョンとして売上20億円を掲げます。そのため、ほうれん草のハウスも現在の約280棟から500棟を目指し、日本一の座を確固たるものにする計画です。

父が約7000万円の借金でレタスをほうれん草に切り替えた決断。そして子が、憧れだった路地野菜を、市場が求めるブロッコリーに切り替えた決断。そして新たに取り組む、ソーラーシェアリング。品目は変われど、その根底に流れるアグレッシブな経営哲学こそが、アグレスを未来へ推し進める原動力になっています。

取材協力
株式会社アグレス

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