「トウキョウX」とは?誕生背景と青梅畜産センターの取り組み
未来の畜産業界を担う学生たちが集まった今回のイベントでは、トウキョウXの生産者である株式会社あべファーム代表取締役・小松由佳氏、東京農業大学農学部動物科学科准教授・黒澤亮氏、そしてトウキョウXの種畜場である公益財団法人東京都農林水産振興財団事業課青梅畜産センター・上原由史氏が登壇しました。
冒頭、上原氏からトウキョウXが「中小規模の養豚農家でも高品質・高単価で差別化を図り、収益を上げられるように開発された日本初の合成系統豚(系統名:トウキョウX)」である点が紹介されました。

公益財団法人東京都農林水産振興財団事業課青梅畜産センター・上原由史氏
そもそもトウキョウXは、味に優れる『北京黒豚』、筋繊維が細かい『バークシャー』、サシが入りやすい『デュロック』の3品種の長所を併せ持つよう改良し、平成9年に系統認定されました。現在は青梅畜産センターが系統を厳格に管理し、トウキョウXの原種豚の配付を行っています。また、生産には生産者組織への加入が必要で、販売においても指定流通事業者にのみ出荷できるという特徴を持っています。
そしてトウキョウXの特徴は肉質の良さにもあり、融点が低く質の良い脂肪が形成され、口に入れた瞬間にさらりと溶け、上品な甘みとコクが残ります。
イベントでは、トウキョウX(豚肉としてのブランド名:TOKYO X)のしゃぶしゃぶを試食。学生からは「脂身が苦手なのに全然重くない」「普段食べている豚肉とまったく違う」「これって本当にバラ肉なの?」と、驚きの声が次々と挙がっていました。


そんな高品質なトウキョウXのブランド価値をさらに高めるため、青梅畜産センターでは生産の様子が見える動画配信など、認知度向上に力を入れています。また、高まる需要に対して生産が追いついていないという現状を踏まえ、新規生産者獲得のための活動にも力をいれています。
「その価値を未来へつなぐためには、消費者と生産者という両方の視点を持つ皆さんの力が必要です」と上原氏は学生へ力強く伝え、トウキョウXの魅力を解説しました。
効率化よりも大切なこと。山形の農家が目指す養豚とそれを叶える「トウキョウX」
美味しさと品質で多くの人を魅了するトウキョウXですが、その生産は決して容易ではありません。トークセッションでは、小松氏と黒澤氏が養豚業に対する思いや経営について意見を交えました。

東京農業大学農学部動物科学科准教授・黒澤亮氏(左) 株式会社あべファーム代表取締役・小松由佳氏(右)
山形県でトウキョウXを生産するあべファームの小松氏。家族経営の養豚場を継ぐ形で就農し、2016年に法人化。「次世代が夢を抱けるカッコイイ養豚」を掲げ、豚と真摯に向き合い、愛情と責任を持って育てることを重視してきました。現在では母豚約200頭を飼育し、若手従業員も含めた5名で日々の業務にあたっています。トウキョウXは2025年4月に導入し、9月に待望の子豚が誕生したところです。

従業員の1日は朝の餌やりから始まります。豚舎の温度管理、換気、豚の健康チェックを行い、分娩が近い母豚には特に注意を払います。昼には再び餌やりと豚舎の清掃。夕方には最終チェックを行い、夜間分娩に備えた暖房設定を確認します。「毎日が同じように見えて、実は一頭一頭の状態を見極める繊細な仕事です」と小松氏は語ります。
実はトウキョウXは他の豚と比べて非常にデリケートで、ストレスや衛生管理に細心の注意を払います。特に寒さに弱く、「導入時には風よけを設置するなど環境管理に苦労しました」と小松氏。近年の猛暑対策にも力を入れており、換気扇に加え、ミスト噴霧による気化熱冷却、スポットクーラーなどを導入しています。「自分が暑いと感じれば豚も暑い。豚の立場に立って考えることを徹底しています」(小松氏)。

また、トウキョウXは約7ヶ月かけて育てます。周囲が効率を求める中、あえて手間のかかるトウキョウXに挑んだ決断には反対もあったそう。それでも小松氏は「自信を持って届けられるものを作りたい。トウキョウXには大きな可能性があると思います。そのために日々の小さな変化も見逃しません。愛情をかけるからこそ最高の肉質になります。」と、トウキョウXに向き合う情熱を語ってくれました。
研究者の立場である黒澤氏も小松氏の養豚に対する姿勢を踏まえたうえで、「日本の生産者は動物福祉への意識が高い」ことを指摘しました。
特にトウキョウXの飼育マニュアルには、1頭あたりの飼育面積が定められるなど、ブランド理念「東京SaBAQ」(Safety、Biotics、Animal welfare、Quality)に、アニマルウェルフェアが組み込まれています。また、トウキョウXは枝肉価格が固定相場で安定しており、単価が高いことから「一頭一頭を大切に育てることが経営的に可能となり、結果として動物福祉の実践にすつながっている」と黒澤氏は説明します。

一方で課題もあります。小松氏は「飼育期間が長く、特に仕上げ期に大量の餌を必要とするため、指定飼料のコストが経営上の大きな負担になります」と語り、黒澤氏が「仕上げ期の飼料が脂の質に影響します。この期間短縮など、科学的知見と現場の経験を結び付ける連携が今後の研究課題です」と応じました。
最後に小松氏は学生へ「畜産のイメージ」を問いかけました。あべファームの若手従業員は「大変だが楽しい」と答えるそうです。学生たちにもこれから将来の選択をするうえで「養豚業はきついイメージがあるが、実際にやってみると夢中になれる仕事。難しさの先にこそ楽しさがある。一歩踏み出してほしい」とメッセージを送りました。
トウキョウXから考える畜産業の可能性
イベント終盤の質疑応答では、「従業員のモチベーション管理はどのようにしている?」「畜産業と今後どのように関わっていったらよいか」と踏み込んだ質問が飛び交いました。

小松氏は「理念に共感して集まった仲間がいます。特別な豚・トウキョウXを育て、その価値を広めるという共通の目標が大きなやりがいです」と回答。ブランドが人を惹きつけ、つなぐ力を示しました。
また、登壇者から、畜産業とどのように関わり得るのか多様な可能性が示されました。
「畜産を学ぶ皆さんの中には、実家が農家ではない方も多いはずです。でも、それだけで諦める必要はありません。生産者になる道はもちろん、流通や行政など、畜産を支える道は無限にあります」と上原氏。

黒澤氏は「都市近郊畜産」をキーワードに、トウキョウXがその好例になり得ると説明。環境問題へのアプローチや地域ブランド育成の可能性を挙げ、「新しい発想や研究が、畜産業を前へ進める」と学生を鼓舞しました。
イベントを通して、学生たちからも前向きな感想が挙がりました。



他にも、「トウキョウXについて理解が深まったので、他の人にもお肉を勧めたり、自分としても様々な種類の豚肉を食べて農家さんを応援したいと思いました」「消費者としての意識を変えることが大事なことだと感じた。また、まわりの人にも畜産について学んでいるので、働きかけることも大事だと感じた」といった声も聞かれました。
また、生産者の小松氏からも、「若い方々に、私が日々感じている養豚の魅力を伝えたいという想いで登壇しました。皆さんの真剣な眼差しが印象的でした。これからも積極的に情報発信を続け、この仕事の素晴らしさをより多くの若者に届けたいです。」と意欲を見せました。
生産者、研究者、種畜場、そして未来の担い手である学生が「トウキョウX」を通して想いを重ねた今回のイベント。トウキョウXの魅力だけでなく、畜産業の可能性を実感し、日本の畜産業に新たな光をもたらす場となりました。
▼イベント主催
公益財団法人東京都農林水産振興財団 事業課 青梅畜産センター
〒198-0024
東京都青梅市新町6-7-1
HP:https://www.tokyo-aff.or.jp/site/ome/
▼協力
株式会社あべファーム
〒999-8233
山形県酒田市法連寺字川原5-29
HP:https://abefarm.xyz/
東京農業大学 厚木キャンパス
〒243-0034
神奈川県厚木市船子1737
HP:https://www.nodai.ac.jp/campus/map/atsugi/















