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「生産者と消費者を繋ぐ架け橋に」。米屋が農業生産法人を設立してコメ作りに乗り出す

kumano_takafumi

ライター:

「生産者と消費者を繋ぐ架け橋に」。米屋が農業生産法人を設立してコメ作りに乗り出す

千葉県富津市で米穀店を営む有限会社竹ノ内米店は2021年にグループ会社として農業生産法人を立ち上げ、コメ作りを行う事業を始めた。現在手がける面積は、山間部を中心に約30ha。有害鳥獣や用水の問題にも直面するなど、決して恵まれた土地条件ではないながらも、代表取締役社長の竹ノ内邦宏(たけのうち・くにひろ)さんは「農業を基盤にしてこの地域をバックアップできれば」と意気込んでいる。

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コメ作りを行う株式会社ファームたけのうちを設立

竹ノ内米店の所在地は、房総半島の南端にある保田地域から鴨川市に抜ける県道34号線の中間地点から分岐する県道182号線(通称もみじロード)にあり、わかりやすく言うと山の中を通る県道沿いに店舗を構えている。

なぜ、こうした場所にあるのか。元々の家業が炭を製造して販売していたことが理由だ。1983年にコメの集荷業に参入し、集荷したコメの卸売りや小売りもするようになった。この地区一帯は千葉県内でもコメの食味が良い地区として知られ、「長狭米」というブランド名がつけられているほど。明治天皇の即位後の大嘗祭(だいじょうさい)で献上された斎田に選ばれるという由緒ある水田地帯でもある。

竹ノ内米店は、この地区のコメの生産者300軒ほどから長年コメを集荷していたが、平成の終わりごろから「コメを作り続けられないからあとを何とかして欲しい」という相談が持ち込まれるようになった。当初こそ「うちは米屋なので」と断っていたが、年々相談件数が増え、このままではコメを作ってくれる人がいなくなる可能性を危惧した竹ノ内さん。「自分たちがやるしかなかった」と、グループ会社としてコメ生産農業法人株式会社ファームたけのうちを設立してコメ作りに乗り出した。

機械化が難しい山間部が主戦場

ショートボディーのトラクター

ファームたけのうちの代表取締役には、山口通弘(やまぐち・みちひろ)さんが就任した。実家が鴨川市で稲作農家を営んでおり、コメ作りをしながら竹ノ内米店の社員として働いていた。コメ作りのことをよく知っているだろうと、白羽の矢が立った形だ。現在、ファームたけのうちの社員は4名。初めて農業に携わる人も採用している。

農業生産法人を立ち上げてから4年目には、耕作地が30㏊にまで増えた。株式会社組織としては規模が小さいのでは、と思われるかもしれないが、この地区は山間部が中心で平坦部が広がる水田地帯ではない。実際にどのような水田を耕作しているのか航空地図上で説明してもらったが、なんとわずか2畝しかない田んぼまで耕作している。こうした田んぼは機械が入らないため、人力の田植え機まで使っているという。やや広い場所でも30馬力のショートボディーのトラクターを使用しており、大型機械が使用できるような場所は限られている。

手押しの田植え機

農地の集約について山口さんは「固める」という表現を使う。1筆の田んぼの耕作を請け負うと、隣の田んぼの所有者からも「うちの田んぼも頼むよ」と依頼されるなど、分散された田んぼを少しずつまとめていくことを意識しての表現だ。ただし、請け負うのは管理している水田から最大2km四方までで、それ以上の遠隔地は断っている。

苗づくりは竹ノ内米店から車で20分ほど離れた鴨川市にある。育苗ハウスは今年4棟まで増やし、6回転ぐらい育苗を繰り返し4000枚ほどの苗箱を作る。品種は極早生の五百川、早生のふさおとめ、中生のふさこがね、粒すけ、ミルキークイーン、晩生のコシヒカリ、ゆうだい21、にじのきらめき、プリンセスサリーの9品種。最も早い五百川は2月後半に種まきをして4月上旬には田植えを開始する。最も遅いプリンセスサリーは6月に田植えをする。

田植えは1人が田植え機に乗って作業に当たり、苗箱の供給に1人、残る2人が次に田植えする圃場の整備にまわる。これだけ多くの品種を作っているのは、竹ノ内米店からのオーダーで、生産されたコメは全量を竹ノ内米店が買い取る。竹ノ内米店は地元のスーパーや外食、旅館、事業所給食などにコメを供給しており、取引先が求めるコメを作るというのが基本的な事業だ。需要者からの依頼があれば「カレーに向いたコメ」などのこだわった品種まで作付けしている。

キョンが田植え後の苗を食べてしまう現実

田植え後に山口さんを悩ませているのが獣害対策だ。千葉県はイノシシやシカに加え、近年はキョンが急増しており、植えたばかりの柔らかい苗が食べられてしまう。高さ1メートルの柵で囲んでも軽々と飛び越えてしまうため、コストはかかるが、山際にある圃場は周辺を電気柵で囲んで苗を食べられないようにしている。

電気柵で囲われた育苗ハウス前

わな猟師に頼んで被害を抑えようとしているが、猟師も高齢化が著しく対策が後手に回っており、害獣を捕獲した後にどう処理するかも考えなくてはならない。竹ノ内さんは「クマが出ないだけまし」と苦笑いする。また、カメムシ防除も必須で、これはドローン散布で対応している。同社の社員4名のうち3名がドローン免許を取得しているが、大型のドローンは小回りが利かないため、積載量8㎏の国産のドローンを使って散布している。草刈りも重要な仕事になっており「田んぼと同じぐらいの面積の草を刈っている」(山口さん)と言うのだから大変だ。

耕作地が思うように広がらない問題として、山口さんは水の問題があるという。山間部が多いこの地区では水が来ない地区もあるが、同社のように耕作委託をしている組織では、これらを維持管理している水利組合に参加して対策を決められないという長年のしがらみがある。

若い人材を確保して地域農業を担う

コメ作りを行う土地条件としては、決して恵まれた場所とは言えないが、竹ノ内さんは「農業を基盤にしてこの地域をバックアップできれば」と言う。幸いにも温暖な地区であるため、耕作放棄地では畑作で菜花やネギを作付けする計画で、通年で作物を作れることが強みになっている。また、「長狭米」という伝統あるブランド米の価値を守り、それを少しでも消費者に認知してもらうことも大切な使命だと考えている。

農業生産法人共通の課題である人材確保に目を向けると、ファームたけのうちを立ち上げた当初、社員募集をしたところ、2名の応募があった。そのうちの一人は館山市出身で、趣味のサーフィンをしながら農業もやりたいという動機で入社したという。こうしたケースは想定していなかったが、山口さんは「これからは農業とスポーツが連携するという考えも大切ではないか」という思いも持っている。こうした若者に農業を教え、継続していけるように手助けすることが、地域農業を担う自分たちの責任だと感じている。

千葉県の南房総地域は首都圏ではあるものの公共交通機関が縮小している不便な地域。過疎化が非常に深刻な問題になっており、中でも農業に就労する若者は少ない。特に米農家の現場では高齢化が進み、後継者が引き継がない事例も多く、このままではコメを生産する人が居なくなると危惧される。「『長狭米』というブランドを守っていくためには、企業として取り組むしかないとの思いが強くなった」と竹ノ内さんは思いを語る。昨年からはコメに限らず、農業全般のバックアップが出来るよう「農業資材部」を立ち上げ、肥料・農薬の販売も始めた。

竹ノ内さんは「生産者と消費者を繋ぐ架け橋として、また日本の農業を未来へ繋ぐ企業として、社会的な役割を全うしていきたい」と決意を新たにしている。
米穀小売店が農業生産法人を立ち上げて自らコメ作りに乗り出さなければ販売するコメが入手できない。そんな現実が起きている。今後、コメを必要とする外食企業やコメ加工食品メーカーなども自らコメ作りに取り組む時代が来ているといえるのかもしれない。

竹之内邦弘(右)さんと山口通弘さん

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