農地バンクによる農地集約化は着実に進んでいる
そもそも農地の「集積」とは、農地の利用権などを能力と意欲のある担い手に集めることであり、担い手の経営面積を増やすための取り組みである。一方、農地の「集約化」とは、担い手が効率的に耕作できるように、地域内に分散している農地をまとまった形で集めることを指す。集積と集約化を同時進行できれば、地域全体としての生産効率が最大化できる。

農地中間管理機構(以下、農地バンク)は、こうした集積・集約化を地域計画に基づいて推進する組織である。農林水産省経営局農地政策課の國本完(くにもと・かん)さんは、農地バンクの役割を次のように説明してくれた。
「農地バンクは都道府県ごとに1つだけ指定される法人で、地域計画に基づき所有者から農地を借り受け、担い手へ貸し付けて農地の集積・集約化を進めています。耕作放棄地の発生を防ぐ、新規就農者に農地を確保する、地域の農業の効率化に貢献する、などのメリットがあります」

提供:農林水産省
農水省が公表するデータを見ても、創設以降、農地の集積面積は年々着実に増加していることが分かる。農地バンクに対して「使いにくい」という声が一部にあるのも事実だが、数字を見る限り、農地バンクが農地の集積を後押ししていることは間違いない。
農地の出し手・受け手・地域に三方よしの制度
農地バンクの特徴は、出し手(所有者)、受け手(担い手)、地域の三者すべてがメリットを得られる制度設計にある。
出し手のメリット
・賃料が期日までに確実に支払われる
・契約終了後には農地が返却される
・地域計画に基づき適切に耕作される
受け手のメリット
・まとまった農地を安定的に借り受けられる
・賃料支払い・契約手続きが簡素化される
地域のメリット
・機構集積協力金が交付され、農業機械・鳥獣害対策・賃料先払いなどに活用できる
・農地バンク経由であれば、農地の基盤整備を農家負担ゼロで進められる
2025年からの農地の権利移動は原則、地域計画に基づく農地バンク経由の仕組みに一本化された。地域ぐるみで農地の将来像を描き、その方向性の中で農地バンクを活用する形に整理されていく。
現地コーディネーターを中心に、分散した農地の団地化を実現

提供:農林水産省
今回焦点を当てるのは、宮城県大郷町粕川地区の事例。2015年時点で、耕作者あたり平均15団地に農地が分散していたために作業効率が上がらず、作目ごとにほ場をまとめることも困難だった。地域としても、担い手の確保や農業の将来像に不安が募っていたという。
こうした状況を改善すべく、町と農業委員会は担い手や行政区に農地バンク事業を紹介した。そして2018年春の作付けに間に合わせることを目標に、具体的な集約化の議論を進めて行った。
ここで中心的な役割を果たしたのが、農地バンクの現地コーディネーターである。國本さんは次のように説明してくれた。
「粕川地区の取り組みの特徴は、現地コーディネーターが集約化方針と土地利用計画図を作成し、地域全体の合意形成を支援した点にあります。担い手間で耕作地を交換するなどして、ブロックローテーションを考慮した団地化を実現しました。当時の人・農地プラン(※)は数値目標が中心であり、地域の担い手配置が視覚的にわかりにくいものでした。そこで現地コーディネーターが担い手の作付け位置や面積を地図化して共有し、地域の将来像を視覚化したのです。これにより、農地の交換や貸し付けに向けた機運が一気に高まりました」
※地域計画の前身

提供:大郷町
現地コーディネーターが農業委員会と連携して、農地所有者一人ひとりを訪問し、賃料の説明や意向確認を繰り返した。統一した聞き取り票で情報を整理したことも合意形成に寄与した。賃料は農業委員会が算出する平均賃料が基準となるため、個別契約より高くなる場合もある。その点についても丁寧に説明を行い、地域全体の理解を得ることで、4経営体の農地23筆を交換することにも成功。担い手1経営体当たりの平均団地数は、10団地から6団地に集約することに繋がった。
団地化がもたらした成果は一目瞭然だ。農地バンク利用前後の比較では、以下のような成果が見られる。
- ・担い手1経営体あたりの平均団地数:9.6団地 → 6.4団地
- ・担い手1経営体あたりの経営面積:12.8ha → 15.5ha
- ・農地バンクを介した借入面積:128.6ha → 191.6ha
- ・労働時間:84.4時間/ha → 76.7時間/ha(約1割減)
- ・生産コスト:852千円/ha → 772千円/ha(約1割減)
- ・耕作者数(うち担い手):71人(8人)→47人(13人)
「担い手への農地集積が進むと同時に、団地化による作業効率の向上も確認されています。数字上では、労働時間と生産コストが共に1割削減されています。これには、水稲と大豆を団地単位でブロックローテーションする際に、用排水管理を効率的に実施できるようになったことが大きく貢献していると思われます」(國本さん)
なお、同地区では、30a区画から2ha区画への大区画化も検討されていたが、後に持ち上がった別の土地利用が選択されたことで中止されたという。それでも、ここまで集約化を実現した同地区の取り組みは称賛されるべきだろう。
基盤整備「進んでいない」が70%超。農地バンクをめぐる課題
粕川地区のように、農地バンクの優良事例は多くある。一方で、全国約2,100社の農業法人などを会員とする日本農業法人協会が2024年に実施したアンケートでは、農地集積・集約化が「進んでいる」との回答が51.0%である一方、「進んでいない」が49.0%あり、地域差が大きいことが示されている。また、農地バンクが管理する農地の基盤整備が「進んでいない」とする回答が71.9%にも上っている。
その背景には次のような実態があるようだ。
- ・地域として農地集約化への機運が不足している
- ・農業委員会・行政・農地バンクの連携がとれていない地域がある
- ・所有者不明の土地が増えており、利用の意向確認に時間がかかる
- ・貸したがらない所有者が一定数存在する
國本さんは、地域により事情が異なるため原因を特定するのは難しい、と前置きした上で「地域の農地集約化に向けた機運は、所有者の意向を反映する場合が多いように感じます。担い手は規模拡大したくても、所有者が手放すことに抵抗がある場合が少なくありません。それだけでなく、所有者が不明・不在の土地が増えています。今後の利用意向の確認ができず、農業委員会が困っている地区が少なくないのです」と話した。
筆者も「農業委員会と特定の土地所有者の関係性が悪いから、代替わりするまで団地化は期待できない」という話を聞いたことがある。農地の集約化は多くの人が関わるプロジェクトだからこそ、一筋縄ではいかないのだろう。
農地集積・集約化に向けた、これからの展望
農地バンクは「借りて貸す」だけの組織ではなく、地域計画を支える調整役としての機能強化が求められている。2025年時点で全国約1,000人の現地相談員が活動しているが、粕川地区のように市町村や農業委員会と密接に動ける体制づくりが実現できれば、スムーズな集約化が実現できるはずだ。また、将来像を地図で可視化するスキームが有効ならば、それらをノウハウとして農地バンク間で共有するなどの手立ても考えられるだろう。
農地集積・集約化は地域農業の未来を左右する基盤だ。農地バンクの優良事例として、先に農地を確保して担い手の営農計画に合わせて調整する三重県の取り組みなど、先進的な事例も出てきている。今後はより、農業生産者・市町村・農業委員会が一体となって地域計画を描き、そこに向かって関係者が歩んで行ける体制づくりが重要となるだろう。
地域の意思を地図として「見える化」し、担い手の経営を支える仕組みを整えることで、粕川地区のような成功事例は確実に増えていくはずだ。
取材協力:農林水産省経営局農地政策課
















