イチジクとは?
イチジク(学名:Ficus carica)は、クワ科イチジク属の落葉果樹である。原産地は、西アジアから地中海沿岸地域とされる。乾燥気味の気候にも適応しやすく、古くから人類の生活圏で栽培されてきた歴史を持つ果樹である。現在は温帯から亜熱帯まで広く栽培され、日本でも露地・施設の両方で生産されている。果樹の中でも栽培のハードルが比較的低く、地植えでも鉢植えでも結実しやすいことから、とても人気が高い。
無花果という名前の由来

イチジクの果実
イチジクは漢字で書くと「無花果」と、花が無い果実と表記されている。ただ、実際に僕らが食べている部分の内側は、多数の小さな花が結実して小さな粒になったものである。花托(かたく)が肥大して袋(花嚢)状になり、その内側に多数の小さな花が隠れて咲いているのである。
このような特殊な花のつき方は、隠頭花序(いんとうかじょ)と呼ばれ、花が外からは見えないため「無花果」となった。この独特な構造により、イチジクならではのプチプチとした面白い食感になる。
国内で栽培されるイチジクはほぼ「単為結実」する。つまり、受粉しなくても果実が肥大・成熟するため、受粉樹がいらず、一本でも十分楽しめる。受粉を気にする必要がないため、受粉虫が飛んでこないベランダなどでも栽培ができる。そのため、枝の更新や樹形などに気をつけるだけで良いのである。
樹や枝の特徴
イチジクは、果樹の中でもとても生育が旺盛である。春の萌芽力が強く、剪定後には切り口付近から複数の新梢(新しい枝)を勢いよく伸ばす性質を持つ。この特性により、太い枝を切り戻しても樹勢が極端に衰えにくく「強剪定でも枯れにくい果樹」として知られている。
一方で、この樹勢の強さは欠点にもなりやすい。剪定や樹形の管理を行わずに放任をし続けると、新梢が無秩序に発生し、枝が密集して樹内が急速に暗くなる。その結果、下記の問題が生じやすくなる。
・日照不足による果実の小玉化
・風通しの悪化による病害リスクの増加
つまりイチジクは、「切らなくても生きる」果樹であるが、「切らない方が良い果樹」ではないという点を理解する必要がある。
また、イチジクの枝は比較的柔らかく、若木のうちは特にしなやかである。剪定によって枝の勢いと結果位置をコントロールしやすいという利点もあるが、さらに枝が柔らかいということで、作りたい樹形がすぐに作りやすい。他の果樹とは違い、低木を維持した一文字樹形などが作れるのは、イチジクの枝だからこそでもある。
「夏果」VS「秋果」
イチジクは大きく分けて「夏果」と「秋果」の二つの系統がある。もしくはその両方の性質を持つ「夏秋兼用」という品種も多いが、まずは「夏果」と「秋果」の違いを理解してもらいたい。
注意が必要なのは、夏に収穫できるから「夏果」、秋に収穫できるから「秋果」という覚え方ではやや雑であるという点である。本質的には、「どの枝にどのように果実がつくのか」という結果習性の違いが、「夏果」と「秋果」を分けている。ここを正しく理解すると、どの枝を残し、どの枝を切るべきか、すなわち剪定の考え方が自然と見えてくる。

イチジクの夏果と秋果の違い
夏果とは
夏果というのは、前年に伸びた枝に果実がつくタイプである。前年枝はすでに木質化しており、枝の色は茶色くなっていることが多い。この枝の葉腋に形成されていた果実の原基が、春から初夏にかけて肥大し、初夏頃から収穫される。
夏果の特徴としては、下記の点が挙げられる。
| ●枝先に近い位置から果実が肥大
●上から下へ向かって順に収穫されていく |
これは、前年枝の先端側ほど生理的に充実しやすく、果実の肥大が先行しやすいためである。
ただし、夏果は前年の管理や剪定の影響を強く受ける。前年枝をどの程度残したか、枝の充実度はどうだったかによって、夏果の着果数や品質には大きな差が出る。
秋果とは
一方で、秋果というのは、その年に伸びた新梢に果実がつくタイプである。今年伸びたばかりの枝であるため、枝の色は少し緑色〜茶色で柔らかく、節間が比較的長くなることが多い。
秋果の場合、枝が伸長しながら葉腋に次々と果実が形成される。
そのため、下記のような特徴がみられる。
| ●果実は枝元側から先に熟し
●下から上へ向かって順番に収穫していく |
これは、新梢の基部ほど早い段階で形成された果実が、先に肥大・成熟するためである。
秋果は、その年の枝の勢いに大きく左右される。剪定が強すぎて徒長枝ばかりになると着果が不安定になり、逆に枝数が多すぎると果実一つ一つへの養分供給が不足しやすくなる。

「秋果」のつき方
結果習性を踏まえて栽培計画を
このように、「夏果」と「秋果」は単なる収穫時期の違いではなく、どの年の枝に果実がつくのか、果実がどの方向へ成熟していくのか、という点で、はっきりと異なる性質を持っている。
すなわち、イチジクの剪定を考える際には、「夏果を重視するのか」 「秋果を中心に収穫するのか」 あるいは
「夏果と秋果をバランスよく取るのか」 という栽培方針を明確にすることが重要である。
次章では、この結果習性を踏まえたうえで、実際にどの枝を残し、どの枝を切るべきなのかという剪定の具体的な考え方について解説していく。
【初心者向け】「秋果」収穫を目指した剪定方法

秋果の剪定イメージ
イチジクには「夏果」と「秋果」という二つの結果タイプがあることを解説してきたが、初心者にまずおすすめしたいのは「秋果」の収穫を目的とした栽培である。そもそも日本で流通する品種の多くは、秋果収穫を目指した品種であり、苗が手に入りやすい。夏秋兼用種であることもあるが、初心者は秋果収穫を目指して欲しい。
秋果はその年に伸びた新梢に果実がつくため、剪定の結果がその年の収穫に直結しやすく、栽培と結果の関係が非常に分かりやすい。そのため、秋果収穫を前提とする場合は、秋果が安定してつく系統を選び、今年枝(新梢)をしっかり発生させる剪定を行う必要がある。
イチジクは樹勢が強く、萌芽力が高いため、大きく切り返しても枯れることは少ない果樹である。むしろ、中途半端に枝を残すよりも、大きく切り返した方が、新しい枝が勢いよく発生しやすい。そのため、秋果を狙う剪定では、弱い剪定よりも思い切った切り返し剪定の方が適している。
「切りすぎると実がならないのではないか」と不安に感じる人も多いが、秋果型のイチジクでは、その心配はほとんどない。切り戻しによって発生した新梢こそが、その年の結果枝になるからである。
剪定作業も、細かく枝を残す弱剪定よりも、枝の付け根付近からバッサリ切る強剪定の方が判断が単純で、迷いにくい。どの枝を残すかを細かく考える必要はなく、基本的には「不要な枝を根元から切る」だけでよい。
秋果収穫を目的とする場合、剪定のタイミングは休眠時期の冬から春先までとなる。この時期に、前年までの枝を大きく切り返す。すると、春以降に勢いのある新梢が多数発生する。
発生した新梢が多すぎる場合、3〜5本程度選んで残す。その残した新梢がその年の主な結果枝となり、枝元から先端へ向かって果実が順に成熟していく。
沖縄でイチジクを栽培する筆者の場合、毎年2〜3月上旬にすべての枝を枝元から切り返す剪定を行っている。すると、春から夏にかけて新梢が勢いよく伸び、夏以降、枝元側から順に果実がつき始める。
2〜3月に切り返した場合、収穫はおおむね9月から12月頃までと長期間にわたる。これは、秋果が新梢の伸長に合わせて段階的に成熟するためであり、秋果型イチジクならではの特徴である。
このように、「秋果」を狙った剪定は、
●強く切っても失敗しにくい
●剪定と結果の関係が分かりやすい
●樹高を抑えながら安定収穫ができる
という点で、イチジク栽培を始める人にとって非常に取り組みやすい方法である。まずは秋果収穫を軸に剪定を行い、樹の反応を観察しながら、徐々に自分なりの剪定へと発展させていくとよいだろう。
以下は、沖縄県で露地栽培しているイチジクの秋果収穫を目指した収穫の例である。

沖縄露地でのイチジクの剪定

枝元からどんどん切っていく

太い枝はノコギリで剪定する

切った枝は挿し木などにも十分使える

剪定から5ヶ月後には立派な新梢と秋果がついてる(同じ木)

収穫タイミングの果実、秋果は下から収穫していく

【上級者向け】「夏果」収穫を目指した剪定方法

夏果の剪定イメージ
夏果収穫は、秋果収穫よりも少々難しい。夏果は秋果と比べて、収穫時期が早いという特徴がある。栽培地によっては、収穫期が梅雨と重なりやすく、雨に打たれることで、裂果や傷み、糖度や風味の低下といった果実品質の低下が起こりやすい。このような理由から、露地栽培では、あえて夏果を狙わず、秋果中心の栽培を選択する生産者も多い。
一方で、イチジクは鉢植え栽培にも適しており、ベランダや軒下など、雨が直接当たらない環境で栽培することも可能である。そのような環境では、梅雨の影響を受けにくく、夏果収穫を安定させやすいという利点がある。
また、夏果は、前年に伸長した枝に果実をつけるという性質を持つ。そのため、秋果収穫型のように強く切り戻す剪定ではなく、充実した前年枝を見極めて残す剪定が必要になる。基本は、不要な枝を間引きつつ、枝が長くなりすぎている場合には、枝先を軽く縮める「弱めの剪定」を行う。
夏果では、枝先の上側から果実が肥大・成熟していく。そのため、枝が高くなりすぎると、収穫作業が難しくなるといった問題が生じやすい。この点からも、枝先の位置を意識した剪定が重要になる。
夏果収穫を目指した剪定では、まず前年枝の充実度を見極めることが重要である。太く、節間が詰まり、日当たりの良い位置で育った枝は、夏果が安定して肥大しやすい。一方で、細く弱い枝や、樹内で日照不足になりやすい枝は、果実がついても品質が上がりにくいため、基部から整理する。
枝を残す際には「質の良い枝を選ぶ」意識が重要である。枝数が多すぎると、果実一つ一つへの養分配分が不足し、果実が小さくなったり、味が薄くなるといった問題が起こりやすいからだ。夏果収穫では、前年枝を厳選して残し、果実に養分を集中させることが、品質向上につながる。
秋果重視の剪定と比べると、夏果の剪定は、やや難易度が高い。しかし、条件が整えば、初夏に収穫できるという大きな魅力を持つのも事実である。栽培環境や作業性を踏まえたうえで、夏果を主とするのか、秋果を主とするのかを選び、それに合わせた剪定を行うことが、イチジク栽培を長く楽しむための重要なポイントである。
まとめ
イチジクは、「剪定しなくても実がなる」と言われるほど強健な果樹である一方で、剪定の考え方次第で収量や果実品質が大きく変わる果樹でもある。その理由は、イチジクが「夏果」「秋果」という異なる結果習性を持ち、どの枝に果実をつけるのかが品種や剪定方法によって変わるからである。本記事で解説したように、秋果は「今年伸びた枝」に実がつくため、強く切り戻す剪定と相性がよく、初心者でも結果を出しやすい。一方で、夏果は「前年に伸びた枝」に実がつくため、枝の見極めや更新計画が重要で、やや上級者向きという明確な違いがある。
特にこれからイチジク栽培を始める場合は、まずは秋果収穫を軸にした剪定から取り組むことをおすすめしたい。思い切って切り戻し、新梢を数本育てるというシンプルな管理だけで、樹高を抑えながら安定した収穫が得られるからである。また、少し慣れてきたら、夏秋兼用種で、長い収穫時期を楽しむという栽培方法もアリだと思う。ぜひ本記事を参考に、自分の栽培環境や目的に合った剪定を行い、イチジク栽培を楽しんでほしい。

















