新型コロナ流行が影を落とした花き栽培。洋蘭栽培現場の課題とは!

熊本県宇城市にある三角町戸馳島。周囲を海に囲まれ、温暖な気候を活かして花の生産が盛んなことから「フラワーアイランド」とも呼ばれています。中でも全国的に知られているのが胡蝶蘭に代表される洋蘭の栽培です。地域の洋蘭農家が「五蘭塾」と呼ばれる生産者グループを作り、切磋琢磨しながら品質向上や販路開拓に取り組んでいます。
そんな戸馳島で1992年に洋蘭の栽培を始めたのが、島で生まれ育った(有)天川花園の嶋田薫社長です。父親が農業をやっていたこともあり、学生の頃から事業を継ぐことを意識していた嶋田社長。熊本県の農業振興支援の制度を活用し、愛知県の蘭農家での2年半の研修を経て、父と蘭の栽培を始めました。
「父はみかんと米を作っていましたが、五蘭塾の創設に関わるなどしていたので、私も蘭の栽培に興味を持ちました。愛知県では、フラスコ育苗から苗の出荷まで一通りのサイクルを学びました。1992年7月に戻って蘭の栽培を始めたのですが、前年の1991年6月に対岸に望む雲仙普賢岳が噴火したばかりで、ハウス建設時に灰の影響があり大変でしたね」と当時を振り返る嶋田社長。
1999年に法人化した天川花園では現在、55アールの栽培面積に5棟あるハウスで胡蝶蘭の栽培を行っています。従業員は家族を含め17人、うち4人がインドネシアからの技能実習生です。
「メインの品種はソゴーユキディアンV3で、他にも常時5〜6種類の胡蝶蘭を栽培しています。2008年には、独自のブランド蘭“鳳凰”を名称付けました。出荷先は主に関西以西で、地元の花き市場にも卸しています。“鳳凰”は、開店祝いや移転祝いなど法人需要が多いです。」

洋蘭の生産規模を拡大するなか、売り上げも順調に推移していましたが、状況を一変させたのが新型コロナウイルス感染症の流行でした。
「飲食やお祝い事の縮小で洋蘭の需要が止まりました。法人需要が中心だったので、大きな打撃を受けました。さらにウクライナ情勢が燃料費や資材費のコスト高騰に追い打ちをかけ、資金繰りが悪化しました。」
従業員の雇用は維持したまま、仕事の効率化を図りましたが、経営の厳しさは増していきました。このままでは、洋蘭の生産拡大が逆に負担となってしまう…。そこで頼りにしたのが、農林中央金庫の「担い手コンサルティング」でした。
JAグループならではの総合力を活かす「担い手コンサルティング」とは
深刻化する高齢化や後継者不足などを背景に、離農する農業者が全国で増えるなか、手放された農地を引き受け、地域の農業を守る中核的な農業者は、まさに今後の日本の農業の”担い手”です。しかし事業規模が拡大することで、営農技術だけでなく、より高度かつ幅広い経営管理のノウハウも求められ、そこには第三者からの客観的な分析と支援が必要とされるケースも多くなります。
農林中央金庫を含むJAバンクが行う「担い手コンサルティング」とは、そういった担い手を対象に、金融事業の知見を活かした財務・収支分析やヒアリングなどを通じて、農業経営者が抱える課題を「見える化」し、JAグループの総合事業力を活かした幅広いソリューション提案を通じて、資金のことだけでなく、経営そのものを継続的にサポートするワンストップの経営支援サービスです。
農業経営の現状分析から資金繰りの改善コンサルティング、事業計画作成支援、補助金・制度資金の活用支援、経営管理の支援、労務管理支援、事業承継支援まで、経営者に伴走しながら支援を行います。単なる金融機関としての支援にとどまらず、JAグループの総合力を活かした幅広い提案が特長です。
担い手コンサルティングは通常5回程度の打ち合わせを経て、段階的に課題解決を進めます。
- 事業実態の把握と課題の洗い出し:担い手の事業状況を詳細に分析します。
- 解決策の検討と提案:課題に対する具体的なソリューションを検討し、提案します。
- 進捗確認と体制構築:提案した解決策の実施をサポートし、継続的なフォローアップを行います。
コンサルをもとに天川花園が実践。規模拡大ではなく回転率の向上で収益改善!

▲左側がベトナム産の苗、右側が台湾産の苗。ある程度成長した状態で仕入れられるベトナム産苗は、回転率・ロス率の改善をもたらしている
2023年の熊本県農業コンクールをきっかけに出会った、農林中央金庫の淺田さんに担い手コンサルティングを依頼した嶋田社長。「経営の全てを見てもらう」方針で、経営に関するあらゆる資料を提示したそうです。
財務内容の分析や経営課題の洗い出し、1年・3年・5年後の将来像の共有など、綿密な打ち合わせが重ねられました。何が問題なのか経営実態を細かく分析しつつ、嶋田社長が抱える課題意識を汲みとりながら経営改善に向けた道筋を紡いだ結果、「栽培面積の拡大は行わず、売り上げと利益の確保を目指す」という方針が定まりました。導き出されたのは、投資で規模を拡大するのではなく“苗の回転率”を上げるということです。
「当時、台湾から仕入れていた苗は出荷までに1年以上を要し、時間と手間がかかる割に値段に反映されないことから、5〜6カ月で出荷可能なベトナム産にシフトすることにしたのです。」と嶋田社長。もともと、ベトナム産に切り替えて回転率を上げることの効果は、嶋田社長自身も薄々理解していたそうですが、仕入れ単価が台湾産よりも高く、失敗した時のリスクを考えて決心がつかなかったとのこと。淺田さんから提示された経営シミュレーションの中で「これだけの効果が試算されます」と、実際に具体的な数値を提示してもらえたことが、嶋田社長の背中を押しました。
「ベトナム産比率を高めて在庫期間を短縮した結果、回転率を上げるだけでなく、育苗期間中のロス率の削減や、高騰する燃料費の削減にもつながりました。」
実際、この取り組みは数字にも反映され、今年6〜8月の売り上げは昨年比で約20%アップ。さらに育苗から出荷までの作業サイクル全体が高速化されたことで、実習生の学習速度の向上にも寄与したとのこと。
あまりにも早く結果が出たことに、嶋田社長も驚いたといいます。
コンサルで見えてきた新たな課題やその先の目標とは!

コンサルティングの影響は他にも表れているといいます。
「コンサルの一つとして行われた従業員向けアンケートで、『会社の雰囲気はいいけど、提案したことが反映されづらい状況があった』という声を確認できたので、現在は週に1度のミーティングを定例化し、お茶を飲みながら気軽に話をする場を設けています。従業員の皆さんが、作業する中で感じたことを記入しあえる交換ノートも始めました。」
嶋田社長にとって、事業承継もそう遠くはない課題です。
「農学部を卒業して会社員になった息子が近く退社し、まずは父の米作りを手伝うことになっています。少しずつ花き栽培のことを覚えてくれたら。」と語る嶋田社長。いつか事業を引き継ぐその時までに、コンサルティングで受けた様々な提案をもとに、少しでも良い経営状況を実現できるように取組みたいとのこと。
そんな嶋田社長の当面の目標は、「年商40%増加と安定的な黒字経営」の実現とのこと。「運送費の値上げなど新しい課題もありますが、目標に向けて頑張っていきたい。」と笑顔を見せます。
「会社そのものを元気づけてくれている担い手コンサルティングのサービスに感謝しています。丁寧に寄り添ってくれたこともあり、今後事業承継のサポートもしていただきたいと思っています。」と嶋田社長。
今回コンサルティングを担当した淺田さんは「これからも寄り添いながらサポートさせていただきたい。」と話します。足元では、ベトナム産苗に切り替えたことによる、増加運転資金見合いの短期融資枠も新たに対応しているとのこと。
資材価格高騰や労働力不足など、農林水産業を取り巻く課題は山積しています。そんななか、担い手に寄り添いながら、経営課題を細かく分析してデータに基づいた最適解を紡ぎ出す担い手コンサルティングの取組みが日本中に広がることは、担い手の所得向上や生産基盤の強化、ひいては農林水産業の持続的発展に向けた糸口になるかもしれません。
農林中央金庫を含むJAバンクが取組む担い手コンサルティングは、2021年度からの4か年で累計1000件を突破、2030年までに累計3000件を目指しているとのことです。

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