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「高すぎる」は本当か? 物価高時代に知っておきたい“適正価格”の正体

連載企画:農業トレンド解析局

「高すぎる」は本当か? 物価高時代に知っておきたい“適正価格”の正体

2025年、 合理的な費用を考慮した価格形成と食品産業の持続的な発展に向けた法律として「食料システム法」が成立した。現在、高騰する物価は幅広い分野で企業活動に大きな影響を与えている。農業においても、資材、肥料、農薬、飼料、機械・設備などの価格が上昇することによって、生産コストが大きくなり、農業経営上の利益を圧迫することが課題となっている。食料システム法が目指す、合理的な費用を考慮した価格形成は、こうした生産コスト上昇を踏まえた価格形成、取引を推進するものであり、平たく言えば「生産コストの価格転嫁」を目指すものである。
 今回は、最近よく聞く「適正価格」について考えてみたい。

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ぼったくりか、適正価格か?

ぼったくり、という言葉がある。これは、市場価格をはるかに超える法外な料金を、客に不意打ちで請求する行為を指す言葉であるが、しばしば価値に見合わない高額な商品やサービスを指す言葉としても使われている。不意打ちで騙すようなものは、真のぼったくりであるが、公正明大に価格を提示して、顧客が商品を購入する場合、それがいくらであっても基本的に「ぼったくり」ではない。

例えば、近くのスーパーに行けば1本80円程度で販売されている500mlの水のペットボトルを、富士山の8合目にある山小屋で500円で販売したら、それはぼったくりであろうか。8合目まで水をリュックに入れて運ぶことを考えれば、現地で500円で買えるのであれば「お得」かもしれない。そして、実は似たような価格で良く売れている。つまり、富士山の8合目では、水の500mlのペットボトルが1本500円でも適正であると言える。
そう、たとえ、それがいくらであったとしても「買い手」がその価格に見合う価値があると認め、「売り手」と合意さえすれば適正価格なのである。例えば、過去にシンガポールで農産物の販売実証を行ったとき、日本産の白イチゴが1パック5000円以上でも即日完売した。香港の顧客が1パック5000円以上の価値をそれに見出したからだ。

基本的に価格決定権は、それを生み出した生産者・製造者にある。農業の場合、卸売市場で委託販売をすると市場価格での取引になり、自分で価格を決めることができず苦労することがあるが、それは価格決定権を持たないが故の苦労である。そのため、計画的な生産・販売を目指す農業法人の多くは取引先と直接商談を行い、交渉して価格を決め、取引を行うところが多い。最近では卸売市場でも生産者と交渉して価格決定を行うような買取・相対取引を行うところが増えてきている。生産者として、自分の商品には自分で価格を決めることが重要であるが、この時の価格は「どんな価格」でも良い。価格決定権は自分にある。しかし、その自分で決めた価格が、買い手に受け入れられれば「適正価格」となるが、受け入れられなかった場合は「売れない」ことになる。逆に言えば、「自分で価格を決めて、それが売れている限りは適正価格である」といえる。

価格をどうつければ良いのか?

では、価格はどう設定すればよいのだろうか。基本的な価格の設定方法は3つある。

1.原価ベースの価格設定

1つ目は、「原価」をベースに考える方法である。原価をベースにどれくらい利益を乗せるか(〇〇%のような率であったり、〇〇円といった額であったり)を考えて価格を決める方法である。この場合、当然ながら原価より高い金額、再生産できるだけの利益を確保する金額を設定することになる。

2.競争ベースの価格設定

2つ目は、「競争」をベースに決める方法である。農産物の場合、自分だけが作っている品目は無く、同じ品目を同じ時期に作っている生産者が存在するため、基本的に「競争」は避けることができない。そのため、原価ベースで考える場合も、この後に述べる価値ベースで考える場合も、価格を考える上では、競争の要素は欠かすことができない。自分の農産物・商品のライバルとなる商品や産地の動向をチェックし、常に競合の価格感をおさえておくことが重要である。

3.価値ベースの価格設定

3つ目は、「価値」をベースに決める方法です。富士山の水のペットボトルの価格は、まさに価値ベースでの価格である。差別化を徹底した先で、「ほかに無い」、「ほかの商品よりも優れている」と顧客に認識してもらえれば、「価値」をベースに価格を決めることができる。この場合は顧客が払っても良い、と思ってもらえる価格が設定できる価格の上限となる。

実際には、これらの3つの考え方を組み合わせ、取引先、顧客に提示する価格決めることになる。原価を考え、競合の価格相場を見つつ、差別化・ブランドづくりと合わせて「いくらで売るか(あるいは、売りたいか)」を決めるのである。

適正価格を実現するために

しかし、自分で決めた価格も、顧客が受け入れ、購入してもらうことができなければ適正価格とは言えない。今、価格転嫁で課題となっているのは、生産にかかるコストが上昇した結果、原価ベースで価格を考えた場合には「販売価格を引き上げないといけない」にも関わらず、販売価格を引き上げた場合に「顧客が受け入れてくれない」ことである。
2025年に成立した食料システム法では、農産物を含む食料品全般を対象に、①持続的な供給に要するコスト等の考慮を求める事由を示して、協議の申出がされた場合、誠実に協議 すること② 商慣習の見直しなど、持続的な供給に資する取組の提案があった場合の検討・協力をすることが義務付けられた。また、フードGメンが結成され、無理な価格の押し付けや価格の協議に全く応じないなど、この法律に反するような事柄があった場合、当該事業者に対し、法律に基づく指導・助言、勧告・公表がなされるようになった。

よって、今後の商談において、生産コストの上昇分を価格に転嫁したい場合、取引先に対し、正式に協議を申し入れ、価格交渉を実施していくことが重要である。食料システム法の後押しもあるため、「どうせ無理」とか「価格交渉をしたら怒られるかもしれない」という気持ちを捨てて、ぜひ協議をしてみてほしい。

ただし、ここで重要なことは、単純に「価格を上げてほしい」といっても、相手先からの理解を得ることが難しいことだ。食料システム法でも「持続的な供給に要するコスト等の考慮を求める事由を示して」となっており、「なぜ価格を上げてほしいのかの理由」を示すことが重要である。具体的には、生産にかかるコストの詳細などを示し、「〇〇〇の費用が物価高で高騰したことから、◇◇%ほど生産コストが上昇している。そのため、〇〇円ほど価格を上げざるを得ない」といった形で相手に提示する必要がある。

加えて、自分たちの農産物・商品の価値を高め、それをしっかりと伝えることも重要である。自分たちでも価値を高める努力をして、その結果として価格を上げたい、ということであれば、納得してもらいやすくなる。具体的には、「農薬の価格が〇〇%高騰している。そのため、自分たちも工夫して、農薬の使用量を減らして対応し、特別栽培での生産をするようになったから、〇〇%ほど販売価格を上げてほしい」といった説明である。

価格を上げる具体的な理由の提示と価値の向上・提示、これらを通じて、ぜひ自分の「適正価格」を見つけていってほしい。

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