サクランボはどんな果樹?
サクランボは、冷涼で雨が少ない気候を好む果樹です。 日本の「高温多湿+梅雨」という気候は、実はサクランボにとってはかなり過酷。そのため、家庭で育てるなら植え付ける場所と苗の選び方が大切です。ただし、そこさえクリアすれば、家庭においての栽培管理に関してはなにも難しいことはありません。ブドウなどに比べれば、放置してたらできちゃった、くらいのものです。
どうしても環境が合わない場合の、どこでも育つサクランボの品種は後に紹介しますが、まずは佐藤錦や紅秀峰のような、あのお高いサクランボを育てたい場合の条件です。
サクランボ栽培に適した条件
場所の選択
水はけが良いこと(根っこが窒息しやすい!)
サクランボは他の果樹と比較して酸素要求量が極めて高く、耐水性が低い根系を持っています。排水不良は直ちに根腐れや生理障害を引き起こすため、水はけを良くすることが大切です。
冬にしっかり寒いこと(寒さに当たらないと目が覚めません)
冬の寒さには比較的強く、マイナス20度程度まで耐えうるとされますが、正常な開花結実のためには冬季に一定期間(約1000〜1400時間程度)、大体7℃以下の低温環境にあり続けなければ、休眠打破できません。でも品種や環境を選べば九州でもできない訳ではありません。
収穫期に雨に当てないこと(雨に当たると実が割れます)
「降雨遮断(雨よけ)」が、栽培成功の条件となります。開花してから収穫までの4〜6月の間だけでも、ビニールを被せたり、傘をさすだけでもよいのでとにかく濡らさないことです。最悪、収穫の直前だけでも構いませんので、この期間雨をしのげるかどうかが肝になります。
品種の選択
そしてもっと重要なのは、品種の選び方です。サクランボの多くの品種は、自家受粉(自分の花粉で受精すること)ができません。なので二つ以上の品種を植え付けてお互いの花粉で受粉させなければいけません。この性質を自家不和合性といいます。
しかも、他品種であっても、互いの「S遺伝子型」が一致する場合、花粉管の伸長が雌しべの中で停止し、受精に至りません!(まぁ多くの果樹でもそうなので特別ではないですが)できるだけ遠い遺伝子と交配しようという生物的戦略ですね。
例えば、最高級品種である「佐藤錦」の遺伝子型はS3S6です。これに対し、同じく人気品種である「南陽」もS3S6であるため、この2品種を混植しても互いに受粉せず、結実しません。家庭園芸家は、この遺伝子型のパズルを解き、適合するパートナー(受粉樹)を選定する必要があります。
ちなみに西日本でよく売られている「暖地桜桃」という札のついた苗の場合は、1本でも受粉する自家和合性の性質があります。「暖地桜桃」とは、品種としては「シナミザクラ」の一種。佐藤錦やナポレオンといった「セイヨウミザクラ」とは異なり、中国の実桜です。
中国のサクランボ、ということは高温多湿なアジアの環境に適した品種であるといえます。1本だけぽんと庭に植えていてもたくさんの果実を収穫できますが、食味は劣ります。どうしても環境が合わない場合はシナミザクラで我慢しましょう。
植え付け時期と方法
サクランボも他の果樹と同じく、眠っている11~3月の「落葉期」に植え付けます。降雪の多い地域では暖かくなる春に植え付けることも多いですが、それ以外は11〜12月が多いです。
サクランボの根は酸素を好むため、通気性と排水性の確保が最優先です。
- 地植えの場合:直径50センチ、深さ30センチ程度の穴を掘り、掘り上げた土に腐葉土、完熟堆肥(たいひ)などの有機物を3〜4割程度、配合肥料を200グラムほど混ぜ込みます。これを「ごちそうゾーン」とし、根が初期生育でスムーズに伸長できる環境を作ります。さらに、地面より20〜30センチ高く土を盛る「高畝(たかうね)」にすることで、梅雨時の滞水を物理的に回避します。
- 鉢植えの場合:市販の「果樹の土」に加え、赤玉土(中粒)や軽石を混ぜて排水性を強化します。鉢底石は必須です。

サクランボの植え付け(地植えの場合)
家庭菜園であれば、「矮性台木(わいせいだいぎ)」と書かれたものを選ぶとよいでしょう。サクランボは放っておくと結構大きくなりますが、これなら小さく管理できます。 そして、植えたら地上50センチくらいまで「バッサリ」切り戻しましょう。
2年目以降の剪定
剪定(せんてい)は詳しく書くと無限に長くなってしまうので最低限ここだけは、という内容をお伝えします。まずは花が咲く枝と葉っぱが茂る枝を見極めて、木の内部まで光が届くように、日当たりが良くなるように透かす、と理解してください。
基本的には日当たりが良くなるように枝の数を減らすのですが、剪定時点でその枝に実がなるのかどうかは知っておきたいですよね。
植え付けて2〜3年間くらいは、長く太い枝がたくさん発生します。発生しないのであれば肥料や水が足りないか、水がたまり過ぎて根が弱っているかもしれません。
この長く太い枝には花があまり咲きませんが、生長して葉っぱを茂らせ、葉っぱが光合成をしてエネルギーをたくさん生産します。こういった枝は、混み合い過ぎたら木の内側に発生した分だけ根元から間引き、混み合い過ぎるのを避けます。
残す枝は先端をちょんと切り詰めておきましょう。それによってすべての芽が生育しやすくなります。

一方、ある程度長く太い枝の生長が落ち着いてきたら、長い枝の根元の方が葉芽ではなく花芽になっていき、花束状短果枝(かそくじょうたんかし)というグジュグジュっと花芽をたくさんつけた短い枝も発生します。
花束状短果枝にはたくさんの花が咲き、サクランボの果実がたわわに実ります。楽しみですね。
もしこのような短い枝が出ずに葉ばかりの長い枝しかない場合は、今度はちょっと肥料が多過ぎたのかもしれません。
あまりにも花束状短果枝ばかりになると収穫量は増えますが、栄養源のエネルギーを作り出す葉っぱが足りなくなるので、長い葉っぱをたくさんつける枝も、短い花芽をたくさん持つ枝もバランス良く配置されていることが理想です。
春〜初夏の摘心
自分の家のサクランボ、たくさん花芽をつけたいですよね。たわわになったサクランボが欲しい人は、冬よりも夏の枝管理をした方が花が増えます。その代わり木はちょっと弱りますので、小さく仕立てたい人も夏に細かな剪定をするとよいでしょう。大きな枝や花芽のない長大な枝は冬の間に切っておくのですが、春に伸びてきた新梢(しんしょう:新しい枝)が20センチくらいまで伸びたとき(5月下旬頃)に先端を摘んでおくと、花芽に栄養が集中し着生しやすいです。
サクランボの受粉
開花期(4月上旬〜中旬)は、1年間の成果が試されるときです。前述の通り、サクランボは自家受粉ができないため、他のサクランボの木の花粉で受粉する「他家受粉」が必要です。自然の訪花昆虫(ミツバチなど)が行ってくれますが、収穫量を増やしたい場合や開花時期にすでにビニールなどで覆われている場合は人工授粉が必須となります。
人工授粉の手順

- 花粉の確認:花が咲いたら、雄しべの先端の葯(やく)が開いて花粉が出ていることを確認します。
- 花粉の採取:耳かきの梵天(ぼんてん)や、毛ばたきを使用します。専用の梵天がない場合、100円ショップで販売されている化粧用のチークブラシや、綿棒でも代用可能です。重要なのは「異なる品種間の花粉を物理的に移動させること」です。当然、一方の花をブチブチとちぎり、もう一方の木の花にダイレクトにチュッチュしても構いません。
- 交配作業:受粉樹の花を梵天でなでて花粉を付着させ、すぐに別品種の花をなでます。これを品種をまたいで交互に繰り返すのみです。
タイミングは開花してから3日以内が勝負です。気温が15〜20℃の日中に行うと、花粉管の伸長が良く、受精率が向上します。
鳥害対策:収穫直前の攻防
さあ収穫だ! しかしあなたには最大の敵がいます。そう、鳥です。
完熟したサクランボは、人間よりも先に鳥(ヒヨドリ、ムクドリなど)に狙われます。一瞬で全滅するので要注意ですよ。
防鳥ネット活用
木全体をネット(網目20ミリ以下)で覆うのが最も確実です。
水切りネット活用
果実の房ごとに、台所用の水切りネットを被せて口を縛る方法があります。これは防鳥だけでなく、カメムシなどの害虫侵入も防ぐことができ、通気性も確保できるため、家庭菜園における非常に有効な「裏ワザ」です。
収穫は「うわ、甘っ」と言ったらOK
サクランボは収穫した後に甘くなることはありません(追熟しない)。全体がしっかり色づき、透明感(うるみ)が出てきたら食べ頃です。変に意識しなくても、自分の動物的直感を信じて、「おいしそうになった」と思ったら大体おいしいです。
数粒食べてみて、「うわ、甘っ」と素で言えたら収穫大勝利です。
完熟したサクランボは鮮度が命。早朝に収穫して冷やして食べる……これは育てた人にしか許されない、究極の贅沢です。
【まとめ】サクランボ栽培で必ず押さえたいポイント5つ
サクランボ栽培を成功させるための「戦略」をまとめました。
①「結婚相手(受粉樹)」の相性がすべて!
サクランボ栽培の最大の壁は、「自分の花粉では実がつかない」こと(自家不和合性)。さらに、相性が悪い品種同士だと、いくら隣に植えても実はなりません。
- 王道コンビ:「佐藤錦」×「ナポレオン」(迷ったらこれ!)
- 1本でいきたいなら:「紅きらり」や「暖地桜桃」(1本で実がつきます)
②排水対策!「高畝」と「ごちそうゾーン」で土づくり
サクランボの根っこは酸素が大好きです。 地植えなら、穴に堆肥をたっぷり入れた「ごちそうゾーン」を作り、地面より20~30センチほど高く土を盛った「高畝」に植えましょう。
③雨よけは「必須装備」
収穫直前に雨が降ると、実は水を吸いすぎてパンッ!と割れてしまいます(裂果)。 プロは巨大なハウスを建てますが、家庭なら「100円ショップの支柱とビニール」でもOK。傘のように天井だけ覆ってあげましょう。鉢植えなら軒下に避難させるだけでも全然違います。
④「桜切る馬鹿」は無視して、しっかり剪定
「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」と昔から言われますが、果樹としてのサクランボは別。切らないとどんどん巨大化して、手が届かなくなります。
- 冬の剪定: 混んだ枝を間引き、骨格を作ります。
- 夏の摘心: 新梢を摘心して、翌年の「花芽」を促します。 立っている枝を「地面と水平」に誘引してあげると、木が落ち着いて花芽がつきやすくなる裏ワザもあります。
⑤鳥から守り抜く
サクランボは、鳥にとっても「宝石」です。
- 防鳥ネット: 全体を覆うのがベスト。
- 水切りネット裏ワザ: 台所の水切りネットを房ごと被せると、鳥も害虫も防げて一石二鳥です。
* * *
サクランボ栽培は確かに何も考えずに植え付けると失敗しやすいのかもしれません。品種の相性を調べ、雨よけを自作し、鳥と闘う。でも、その苦労をすべて吹き飛ばすほどの感動が、完熟のルビー色の中には詰まっています。
まずは1本植えから始めてもいいですし、「佐藤錦と紅秀峰」の両手に花で挑むのもアリです。ぜひ、あなたの庭にも「サクランボの夏」を迎えてみてください。


















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