株分けとは何か

株分けの様子(アガベとサンセベリア)
株分けとは、多年生植物が形成した「株」を物理的に分割し、それぞれを独立した苗として再定植する増殖法である。挿し木や取り木、接ぎ木と並ぶ栄養繁殖の基本技術の一つに分類される。もちろん株分けによって得られた新しい株は、親株と遺伝子的に同じである。

株分け、挿し木、取り木、接ぎ木の違いについて
園芸の現場では、「根が絡んできたから分ける」「込み合ってきたから株を割る」といった実務的な説明で済まされがちであるが、生物学的には、株分けははるかに深い意味を持つものである。それは、一つの遺伝的個体として存在していた植物群体を、複数の生理的個体へと再構成する行為だからである。
植物はなぜ「株」になるのか

株が増えた斑入りのクワズイモ
樹木や多年草は、動物のような単一の個体として成長する存在ではない。植物の本質は「モジュールの集合体」である。
つまり植物は、動物のように「頭が1つ、心臓が1つ」といった固定的な器官配置をもつのではなく、芽や枝、葉、根といった構造が半独立した単位として反復的に形成され、それらが地下や地上で連結する構造をもっている。そしてそれらが集まって「株」という群体を形成している。
例えば、ホスタ、バナナ、ヘリコニア、ショウガ、サトイモなどでは、地下に伸びる根茎や球茎から次々に新しいシュートが生じ、時間とともに一つの遺伝的個体群が空間的に広がっていく。

ホスタ(別名:ギボウシ)、斑入りなど多くの種類がある

タネがないバナナは株で増えていく

斑入りヘリコニアと地下部の様子、それぞれの株は地下茎で繋がってる

ショウガ科のウコンの根茎は、とても肉厚な地下茎

サトイモ科「コロカシア・モヒート」も株で増える
この構造の強みは、一部が枯れても全体が生き残ること、良い環境へと広がっていけること、食害や強風などによる物理的損傷を受けても、環境次第では何度でも回復できることなどだ。植物は動物とは違い、自身では自由に移動できないからこそ手に入れた特徴であると言ってもよい。
株分けをするとどのような影響が出るのか?

レモングラスも株分けで簡単に増やせる
株分けというのは、遺伝的には同一な個体の集合体(モジュールの集合体)を切り離す作業であるが、これによって、遺伝的には完全に同一であるが、植物生理的な状態や成長相などに影響が出てくる。つまり、根圏や成長点の競合関係の違いにより、ホルモンの流れや栄養配分が異なる。また、成熟した個体から株を分けたとしても、タネから発芽したばかりのような若々しい幼若相のような状態になることも多い。つまり、遺伝的には同じだが、生理的には全くの別個体になるという性質こそが、株分けである。
なぜ株分けをすると調子がよくなるのか

ヘリコニアの株分けの様子
植物を株分けすると、なぜか元の状態よりもそれぞれの個体がより元気になったと感じる園芸経験者は多いだろう。その理由は、全体的に老化が見られるような元気のない株が、株分けを行うことで、生理状態が良くなり健康になることが多いためだ。

鉢の中で子株が密集したパイナップル
株分けをすると、新しい用土や新しい空間に配置され、古い根が無くなり根が再構築される。これにより、酸素や養水分の供給がスムーズに行われ、健康的な若い根が活動しやすくなる。また、株分けによって、各個体は独立したホルモンの循環を持つようになる。これによって株分け前に起こっていた枝間のオーキシン支配や、根由来のサイトカイニンの偏りが解消される。すなわち芽同士の競争が解消され、各個体が単独で資源を利用できるようになり、それぞれの株が若返ったように振る舞う。

親株から子株を分けたパイナップル

一つの尺鉢に一つの株を植えて生育良好なパイナップル
株分けされた苗が、勢いを取り戻したように見える理由として、生育環境が良くなり、光合成や呼吸、栄養吸収、ホルモン作用などの個体の生理的状態が改善したこともあるが、実は、株分けではそれとは別に、実際に株自体が若返ることもある。
そもそも、株が老化する原因は?
多年生植物の「株」は、時間とともに必ず生理的な歪みを蓄積する。鉢植えでも地植えでも起こりうるが、鉢が小さい場合には特に植物は老化しやすい。
原因1:根の過密化

根がギチギチに詰まった状態のサンセベリア・スタッキー
株が老化する原因はいくつかあるが、一番多い原因は、根の過密化である。根が密集し、細根が更新されにくくなることで、水分・酸素・養分の吸収効率が低下する。とくに多年生草本や熱帯性の地下茎植物では、古い根組織が残存したまま新しい根がその上に重なり、土壌の通気性が失われていく。
原因2:地上部の過密化

株分けが行われず過密化したバナナ。もちろん果実の付きも悪い
第二に、地上部の過密化もある。株が大きくなると、新芽や新葉は株の周縁部に集中し、中心部は光を受け取れなくなり、そこだけ弱々しくなる。最悪中心だけ枯れて空洞化してしまう。
バナナなどは、特に地上部が過密になりやすく、そうなると花芽のつきも悪く、徒長してしまい弱々しい株になる。さらに風通しも悪く病害虫が発生しやすくなる。
原因3:地上部と地下部の栄養バランスが崩れる

ギチギチのストレリチア・レギネ(極楽鳥花)は花つきも悪い
第三に、地上部と地下部の植物ホルモンや栄養のバランスが崩れて、生育が徐々に上手くいかなくなることがある。オーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンは、枝葉と根の間を循環しながら成長を促進・制御しているが、株が巨大化・過密化すると、この輸送ネットワークが不均一になり、栄養配分のバランスも偏り、特定の芽だけが強く、ほかが抑制される状態になる。これらの要因が重なることで、株は「遺伝的には同一でありながら、生理的にはとても疲弊した集合体」へとなってしまう。
株分けで「若返り」が起きる証拠

春に元気に芽吹くケンフェリア
生育環境が良くなり、生理的状態がよくなる場合もあるが、しかし、株自体が若返って、タネから発芽したばかりの苗のようにとても生き生きとする場合もある。同じ遺伝子の苗であるにもかかわらず、節間が短くなったり、葉が小さくなったり、花芽が付きにくくなったりといった、発達相の違いを反映した幼若相に近い形質が現れることがある。
幼若相と成長相とは?
幼若相と成長相(成相や栄養成長相などとも)は、植物が一生の中でたどる発達相を区別するための概念である。これらの相は、連続的であるために、少々区別するのが難しいところもあるが、幼若相は、植物がまだ「繁殖(開花)」を行わずに、形態的にも未成熟な発達段階とされる。
一方、成長相とは、栄養成長を続けながらも、生殖の行える状態を指す。幼若相の場合、花芽を形成しないばかりか、葉が小さいか、あるいは形が単純もしくは複雑であることも多く、節間が短い、毛茸(もうじ)が多いかもしくは少ないなど、成長相と異なる形態であることが多い。また、成長が旺盛ということもあり、生き生きと見えることが多い。
接木や取り木などは、成長相の枝からクローン個体を増やすために、苗が小さいうちから開花して、コンパクトな植物を作ることができるが、株分けの場合、地下器官の地下茎や球茎などから増やすと、幼若相に近い状態から個体が再構築されやすいという特徴がある。
学術研究から根拠をひも解く
近年は植物の成長で、特に幼若性から成長相への移行を制御する重要な分子機構が研究されており、例えば、東京大学総合文化研究科によれば、miR156–SPL系が特に幼若性から成熟への移行を制御する重要な要因であることを報告している[1]。
また、クローン繁殖では、どの器官が若返りに強く起因するのかを、実験的に示したのが、 Liuらによるニセアカシア(Robinia pseudoacacia)の研究である。この研究では、同一クローン個体から、 挿し穂、ひこばえ(根萌芽)、根という3つの方法で苗を作り、さらに実生を対照として、それぞれの「幼若性」を比較した。 その結果、ひこばえや根由来の個体は、葉形、葉の解剖構造、その他の形質において、実生に最も近い特徴を示した。 挿し穂由来の個体は、元の成木の形質をより強く引き継いだ。 これは「クローン個体が根・地下器官由来になるほど、植物は幼若相に近い状態から再構築される」ことを意味している[2]。なお、本研究は形態形質だけでなく、葉の解剖学的特徴など複数の指標を用いて幼若性を評価している点で、実験的証拠として位置づけられる。
つまり、株分けのように地下器官から再生する個体は、挿し木や接ぎ木と比較して、より若い発達段階から再構築される可能性が高い。
株分けの基本的な方法
ここでは、一般的な株分けの方法を紹介する。株分けもどこからどのように増やすのかで、いくつか方法が違ってくる。
掘り上げて分ける方法
最も一般的な株分けは、株全体を掘り上げ、根と芽の塊をいくつかに切り分ける方法である
観葉植物や、サトイモ類、多くの多年草がこの方法で分けられる。
この方法では、既に形成されている地上芽や、地下に眠っている潜伏芽、若い根系が同時に含まれている。
したがって、分けた苗は主として既存の地上芽を引き継いで成長することが多く、主に根圏と環境のリセットによる勢いの回復として現れる。
以下では、サンセベリアを例に手順を紹介する。

手順1:株が詰まったものを選ぶ

手順2:鉢から抜くさい、地上部がちぎれないように気を付ける

手順3:それぞれの地下茎を丁寧に切り離す

全て並べるとこのような感じ

手順4:株分けしたものが収まるちょうど良いサイズの鉢を探す

手順5:排水性の良い土を使って完成

徐々に鉢増しや株分けを繰り返して健全に大きくしていくこと!
掘り上げずに、一部だけ分ける方法
株全体を掘り上げるのが難しい場合には、一部だけ丁寧に切り分ける方法も行われる。露地に定植したバナナや、ヘリコニアなどは、基本的にはこの方法で行われるが少々難しいやり方でもある。株分けの際に、地下部の根茎を破壊すると、移植後に生育不良が起きる場合があるため、株分けをする子株の周りを深く掘り下げる必要がある。割と時間がかかる作業でもあるが、丁寧にやると株分け後の子株の活着もよく、親株の状態もよくなる。
以下は、バナナを例にその手順を解説する。

手順1:株分けできる状態(80cm~150cm)のものを選ぶ

手順2:株分け対象の周囲の土を深く掘る

手順3:子株をその穴に転がすように切り離す

手順4:地下部に埋まっていた球茎を傷つけずに取り出す

手順5:60cm程度まで深く掘って他の場所に定植
地下茎・根茎を切り分ける方法
一方で、地下茎や根茎そのものを切り分ける方法もある。掘り上げた後に、丁寧に分ける。ショウガ、カンナ、サトイモ、バナナなどでは、地下器官そのものを切り分ける株分けが行われる。
この場合、地下茎の節にある休眠芽や、あるいは根から新しく再生する芽が立ち上がる。これは地下器官由来の再生であり、発達相が幼若相側へ寄りやすいクローン個体である。株分けの中でも最も「若い苗」を作りやすい方法である。初期生育がとても旺盛で、育てやすい。
以下は、バナナは地上部を全て切り落として球茎だけにした状態であるが、2週間ほど経つと新芽が出てきた。

球茎から発芽したバナナ
他にも、ケンフェリアや琉球自然薯なども、地下部を植え替えて増やす。

冬になると葉が枯れるケンフェリアも球茎は生きており、植え替えをすると春に発芽する

ヤマノイモ科の琉球自然薯も初夏に植えると冬に収穫できる
ランナーで増えるタイプも株分け可能
イチゴのように、ランナーというものを伸ばして増える植物も存在する。ランナーとは、地表または地表直下を横方向に伸びる茎(匍匐茎)を形成し、その先端や節から新しい個体を作るものである。ランナーは、最初、親株から栄養供給を受けながら、新しい環境へ伸び、発根後に株分けで独立させることが可能だ。

2本のランナーが伸びたイチゴ
特に親株の邪魔にならず、そのまま活用できそうであれば、伸びた先で大きくしても良い。筆者は、畑で地植えのイチゴを育てているが、畝が広い分、ランナーで増えた個体はある程度許容している。

親株から少し離れた場所で大きくなったランナー株
株分けに適した時期と条件
次に、株分けの適期や条件などについて解説する。
基本は春だが、秋でも良い
多くの植物で、株分けの適期は、芽吹き直前の早春から暑くなるまで、もしくは気温的に涼しい秋が良い。
最も株分けに良い春の時期、植物体内では、地上部はまだ十分に展開しておらず、地下器官や根には貯蔵養分が集中し、休眠芽が活性化し始めている状態にある。このとき株分けを行うと、分割された各個体は、地下器官由来の芽や根から再構築されやすいし、すでに新芽が展開しているものでも、4~5月は暑すぎず、寒すぎずで、環境的にも大きなストレスがかかりにくい。秋も同様の理由だ。
熱帯植物(バナナ、パイナップル、ドラセナ、アロカシアなど)では、明確な休眠がない代わりに、もともと乾季と雨季といったシーズンに合わせた生育リズムがある。この場合、乾季明けが、生育開始期とされるが、日本の場合は、やはりそこが「春」に相当する。3月ごろから温かくなるこの時期は、地下器官の活性が高まり、新しい芽が立ち上がりやすいため、株分け後の再生が安定する。

5℃程度あれば冬越するドラセナドリーミー

まとめ
株分けは、園芸や果樹栽培の現場で古くから行われてきた増殖技術である。しかし本稿で見てきたように、株分けとは単に植物を「増やす」ための作業ではなく、植物がもつ発達相にも介入する高度な再生技術であることも事実だ。遺伝的には同一でありながら、生理的には独立した個体として成長するため、その結果、根圏やホルモンの流れ、養分の資源配分が見直され、植物はしばしば「勢いを取り戻した」ようにも振る舞う。作業自体は簡単ではあるが、とても大切な作業であり、かつ興味深いものでもある。
植物を分けるという行為の背後で、どのような再生と発達が起きているのかを知ることは、今後の栽培技術をより精密で再現性の高いものにしていくための重要な視点であるとも思う。
参考文献
[1]東京大学総合文化研究科・教養学部プレスリリース:陸上植物に共通する生殖成長期移行のための分子スイッチを解明
[2]Jie Liu et. al., Effects of the vegetative propagation method on juvenility in Robinia pseudoacacia L., For Res (Fayettev). 2022 Dec 5;2:17. doi: 10.48130/FR-2022-0017.


















