全国の園地でよく見る「もったいない剪定」
全国各地の果樹園をまわる中で、筆者が最も頻繁に目にするのが、中途半端な位置で切り残された枝である。剪定自体は行われているものの、「どこで切るか」という点が深く意識されていないケースは非常に多い。これは果樹栽培の経験年数に関わらず見られる傾向であり、長年栽培を続けてきた熟練者であっても例外ではない。

図1 アボカドの細い枝の切り残し。このような切り残しはとても多い
図1のような細い枝の切り残しは、多くの園地で見かける典型例である。一見すると小さな問題のように思えるが、中途半端な位置で切られた枝は、カルスが形成されないまま次第に枯れ込んでいくことが多い。空気中には常に木材を分解する腐朽菌が存在しており、切断面が適切に閉じない状態では、これらの菌が容易に侵入してしまう。その結果、切り残された枝が枯れ、その枯れ込みが枝元へと進行していく。ある程度大きな木であればすぐに枯れるということはないが、小さな木であればあるほど、このような切り残しが原因で枯れてしまうこともある。

図2 太い枝でもこのような切り残しは多くみられる
同様の問題は、図2に示すような太い枝の切り残しでも多く見られる。図2の断面には癒合剤が塗布された痕跡が確認できるが、このような切り方ではカルスが巻くことはなく、最終的には枝全体が枯れてしまう。癒合剤はあくまで補助的なものであり、切断位置そのものが適切でなければ、本来の効果を発揮することはできない。剪定は枝の太さに関係なく、中途半端な切り方は避けるべきと言えよう。

図3 切り残した枝から腐朽し枯れ込みが入っている
さらに問題なのは、このような切り方をすると、ある程度太い枝であっても全体が枯れてしまうケースが少なくないことだ。図3はその代表的な例であり、切り残された枝から腐朽が進行し、最終的には枝元まで深く影響が及んでいる。この段階まで進行すると、もはや表面的な対処では回復は難しく、枝元から思い切って切り戻す以外に選択肢はない。対応が遅れると、腐朽菌が主枝へと進行し、長期的に樹全体の樹勢を低下させる原因となる。
特にアボカドやマンゴーといった熱帯の果樹では、枯れ枝が炭疽病菌の付着源となりやすいが、もちろん、他の果樹でも同様だ。

図4 マンゴーの木はよく誘引をするため、特に枯れ枝には気を付ける

図5 アボカドも分枝が多く、特に日当たりが悪くなると一気に枯れ枝が出る
枯れ枝の多い樹では、炭疽病の発生頻度が高くなる傾向があり、結果として果実品質の低下や防除コストの増加を招く。剪定の失敗が、病害のリスクを高めている例は決して少なくない。
果樹栽培に携わる多くの方は、肥培管理や植え付け、摘果・摘蕾といった日常管理において、非常に高い技術を持っている。その一方で、剪定に関しては、とりあえず切るという感覚で行われている場面も少なくないように感じる。筆者自身も決して完璧ではないが、一つ一つの剪定について立ち止まり、なぜここで切るのかを考えながら作業するよう心がけている。
正しく剪定を行うことで、病害虫の発生リスクは確実に減少する。その結果、薬剤散布にかかる時間やコストも抑えられ、果樹栽培全体がより健全なものになる。枝一本の切り方は小さな行為かもしれないが、その積み重ねには、果樹をより美味しく、より健全に育てる余地が残されていると筆者は考えている。
なぜ半端に切ると枯れるのか
剪定後に枝が枯れてしまう原因として、切りすぎるということもあるが、それと同様に、切った位置も重要である。適切な位置で切られた枝は、たとえ太い枝であっても回復するが、中途半端な位置で切られた枝は、細い枝であっても枯れ込みやすい。

図6 アボカドも分枝が多く、特に日当たりが悪くなると一気に枯れ枝が出る
図6は、中途半端な位置で切られたことにより、内部まで腐朽が進行した枝の様子を示している。切断面の周囲を見ても、カルスが十分に形成されておらず、樹木が傷をふさぐことができていないことが分かる。その結果、木材腐朽菌が内部へと侵入し、写真中の人差し指付近まで枯れ込みが進行している。このような状態になると、剪定によってつけられた傷が、回復するどころか、むしろ樹木を弱らせる入口になってしまう。
適切に切ってカルス形成を促す!
カルスとは、剪定や傷によって露出した組織を、周囲から包み込むようにして形成される組織であり、いわば樹木にとっての「かさぶた」のような存在である。適切な位置で剪定が行われると、形成層が活発に働き、切断面の周囲から徐々にカルスが盛り上がるように形成され、最終的には傷口が閉じていく。この過程が順調に進めば、枯れ枝が残ることは少なく、腐朽菌の侵入も抑えられる。
一方で、中途半端な位置で切られた場合、形成層の働きが十分に発揮されず、カルスがうまく巻いてこない。その結果、切断面が長期間むき出しの状態となり、空気中に存在する腐朽菌や病原菌が侵入しやすくなる。いくら癒合剤を塗布したとしても、樹木自身の修復反応が適切に起こらなければ、傷口が閉じることはない。癒合剤はあくまで補助的なものであり、剪定そのものの正確さを代替するものではない。

図7 カルスが巻いて剪定傷が塞がってきている
図7に示した枇杷の例では、枝元で正しく剪定を行ったことで、切断面の周囲から均一にカルスが形成され、傷口が順調にふさがっている。枝の太さに関わらず、正しい位置で切ることができれば、樹木は自らの力で傷を修復する能力を持っている。

図8 太い枝でもしっかり切られるとカルスが巻いてくる
また、図8はアボカドの剪定後の様子であるが、下部の分岐した太い枝を切り戻したにもかかわらず、腐敗は見られず、数か月のうちに周囲からカルスが巻き付いてきている。剪定範囲としては決して小さくないが、1年ほどで傷口はほぼ塞がり、樹は健全な状態へと戻っていく。
もし図6の枝が、もともと正しい位置で剪定されていれば、あのように深く枯れ込むことはなかった可能性が高い。図9に示すように、適切な剪定が行われていれば、枝は枯れることなく、正常なカルス形成によって傷が閉じられていたはずである。

図9 前述した図6は、もともとこのように切っておけばよかった
一度枯れ込みが進行してしまうと、その部分の細胞はすでに死んでおり、後から正しい剪定を行っても回復は難しい。だからこそ、最初の剪定が重要になる。
なお、図6の枝では、下側から特に深く枯れ込んでいる様子が確認できる。これは、上側に分岐した枝よりも、下側の方が養水分や植物ホルモンの流れが滞りやすい構造になっているためである。樹体内では、重力や維管束の配置の影響を受けながら物質が流れており、剪定の角度や切り方によって、その流れは大きく左右される。この点を踏まえると、切断面をわずかに斜めにすることにも意味があり、樹体内の流れを妨げにくい剪定につながる。
半端な位置で枝を残すと枯れ込みが進行し、正しく切るとカルスが巻く。この違いは偶然ではなく、樹木の生理に基づいた必然的な結果である。剪定は見た目を整える作業ではなく、樹木の防衛反応を正しく引き出すための操作であることを、改めて認識する必要があるだろう。
枝の内側では何が起きているのか
剪定の良し悪しを感覚ではなく理屈で判断するためには、枝の内側で何が起きているのかを理解しておく必要がある。外から見える枝は単なる木の棒のように見えるかもしれないが、その内部では、水や養分、植物ホルモンが常に流れ、生きた組織と役割を終えた組織が明確に分かれて存在している。
枝の構造について

図10 枝の内側のモデル図
まずは、枝の構造について解説する。枝の外側には、風や乾燥、昆虫などの外的要因から内部を守るための樹皮がある。その内側には師部があり、葉で作られた光合成産物を木全体へと運ぶ役割を担っている。さらに内側には形成層と呼ばれる極めて重要な組織が存在し、この形成層が、カルス形成を行い癒傷する。
形成層の内側には導管があり、根から吸い上げられた水や無機養分を葉や芽へと送り届けている。そして、形成層によって新しい木部が毎年追加されていくことで、古い木部は次第に心材へと変化していく。心材は、セルロース繊維がリグニンによって強固に結合されており、枝や幹の強度を保つ重要な役割を果たしている。
この構造を理解すると、剪定の位置がなぜ重要なのかが見えてくる。剪定によって切断されるのは、単なる木材ではなく、形成層を含む生きた組織である。形成層が適切な形で残されていれば、その周囲から新しい細胞が作られ、カルスが形成される。一方で、形成層の働きを妨げるような位置や形で切ってしまうと、修復反応が十分に起こらず、傷は閉じないままとなる。
どこで切るのか!
剪定において最も重要なのは、どこで切るかである。枝を短くすること自体は誰にでもできるが、切断位置を誤ると、その一回の剪定が数年先まで影響を及ぼす。逆に言えば、正しい位置で切ることができれば、剪定の規模が大きくても、樹木は自ら回復していく力を持っている。
枝の付け根付近で切ろう!

図11 枝を正しく切る位置について
枝の付け根には、「ブランチバークリッジ」および「ブランチカラー」と呼ばれる構造が存在する。ブランチバークリッジは、枝と幹が合流する部分に見られる隆起した樹皮のしわであり、ブランチカラーは、枝の付け根を取り巻くようにわずかに膨らんだ部分である。これらは単なる見た目上の特徴ではなく、形成層が集中して存在し、カルス形成の起点となる重要な領域である。
剪定の際に、このブランチカラーを切り落としてしまうと、形成層の働きが阻害され、カルスが形成されにくくなる。一方で、ブランチカラーを残しすぎて枝を途中で切ってしまうと、前章で述べたように枯れ込みが進行しやすくなる。つまり、残しすぎてもいけないし、切り込みすぎてもいけないという、非常に微妙な位置での判断が求められるのである。
図11では、正しい切断ラインを黒線で示している。この切断ラインは、以下の手順で論理的に導き出すことができる。
①切り落とす枝の中心線を基準として、地面に対して垂直な線をイメージする(赤線)
②ブランチバークリッジを巻き込まないように、幹側から垂直な線を引く(赤線)
③二つの線の二等分線が、適切な切断ラインとなる(黒線)
この位置で切ることで、ブランチカラーを傷つけることなく、かつ枝の切り残しを防ぐことができる。
この切断位置を意識するだけで、カルスの形成速度と均一性は大きく変わる。切断面の周囲からバランスよくカルスが盛り上がり、結果として傷口が短期間で閉じやすくなる。逆に、この位置を外してしまうと、どれだけ丁寧に切ったとしても、修復反応は十分に引き出されない[1]。
太い枝は数回に分けて切ろう!!

図12 複数に分けて切ると切断面が綺麗に切れる
なお、特に太い枝を剪定する場合には、一度で切り落とそうとしないことが重要である。枝には重量があり、一気に切断すると、自重によって枝が裂け、想定以上に大きな傷を作ってしまうことがある。そのため、図12に示すように、まず正しい切断ラインよりも外側で一度切り落とし、枝の重みを取り除く。その後、改めて正しい位置で切り直すことで、樹皮の裂けや形成層の損傷を防ぐことができる。
カルスができるまでの防衛反応
剪定後に形成されるカルスは、単に傷がふさがっている状態を示すものではない。それは、樹木が自らの体を守るために行う、高度な防衛反応の結果である。この考え方を体系的に整理したのが、樹木生理学者である Alex L. Shigo 博士が提唱した「CODIT(Compartmentalization of Decay in Trees)」モデルである[2]。
CODITとは、「樹木は傷や腐朽を治すのではなく、区画化して封じ込める」という考え方に基づく理論である。樹木は動物のように傷口を元通りに修復することはできない。その代わりに、腐朽や病原菌の広がりを抑えるため、傷の周囲に複数の壁を作り、内部への侵入を制限する。この防衛反応が順序よく進行した結果として、最終的にカルスが形成される。
CODITモデルの4つの壁について
CODITモデルでは、樹木の防衛反応を四つの壁として説明している。これらの壁は同時に形成されるわけではなく、それぞれ異なる役割と強度を持ちながら、段階的に機能する。

図13 筆者が描いたCODITモデルの図
壁1:傷の上下方向に形成
最初に形成されるのが「壁1」である。これは傷の上下方向に形成され、主に導管組織を塞ぐことで、腐朽が縦方向に広がるのを遅らせる役割を担う。ただし、この壁は最も防御力が弱く、菌の侵入を完全に防ぐことはできない。樹種によっては、この壁1の形成が不十分なものもあり、幹や枝の内部が上下方向に空洞化していく例も見られる。
壁2:半径方向に形成
次に形成される「壁2」は、腐朽が半径方向、すなわち内部へと広がるのを抑える役割を持つ。年輪方向に存在する、リグニンを多く含んだ細胞によって構成されており、壁1よりは強いが、やはり完全な防御ではない。
壁3:中心から外側へと区切るような方向に形成
「壁3」は、随線(Ray cell)と呼ばれる放射状に配列した細胞群によって形成される。これらの細胞は、茎を中心から外側へと区切るように配置されており、ケーキを放射状に切り分けたときの断面に例えられることが多い。壁3は、壁1・壁2よりも防御力が高く、一部の細胞は化学的に変化し、微生物に対して毒性を持つとされている。数年前についた傷の断面を観察すると、暗く変色した組織と健全な木材との間に、明確な境界が確認できる場合があるが、これは壁3が機能した痕跡である。
壁4:傷を周囲から包み込むように形成
最後に形成されるのが「壁4」である。これこそが剪定後に目に見える形で現れるカルスであり、最も強力な防衛壁である。壁4は形成層から新しく作られた組織によって構成され、傷口を外側から包み込むようにして閉じていく。この壁が完成して初めて、感染の拡大は実質的に止められる。逆に言えば、壁4が形成されない限り、傷は開いたままであり、腐朽や病害のリスクは残り続ける。
重要なのは、これら四つの壁が、正しい剪定によって初めて順序よく機能するという点である。切断位置が適切であれば、形成層が健全に残り、壁4まで含めた防衛反応が円滑に進行する。一方で、中途半端な剪定や形成層を傷つける切り方をすると、防衛反応は途中で破綻し、結果として枯れ込みや腐朽が進行してしまう。
剪定とは、単に枝を取り除く作業ではない。樹木が本来持っている防衛機構を、正しく引き出すための操作である。カルスの形成は偶然ではなく、樹木生理に基づいた必然的な反応であることを理解することで、剪定に対する見方は大きく変わってくるだろう。
枯れ枝は百害あって一利なし
枯れ枝の存在は、果樹栽培において百害あって一利なしと言ってよい。見た目が悪くなるだけでなく、病害の温床となり、樹木全体の健全性を確実に低下させる。にもかかわらず、意外と多くの園地で、枯れ枝がそのまま放置されている光景を目にする。
枯れ枝には、木材腐朽菌をはじめとするさまざまな菌類が定着しやすい。これらの菌は、枯れ枝の内部で増殖し、条件がそろえば健全な枝や幹へと広がっていく。図14は、枯れ枝から腐朽して太い枝まで木材腐朽菌が感染していく様子を表している。

図14 枯れ枝を残すと元の枝まで腐朽菌が移る
また、枯れ枝は炭疽病などの病原菌の付着源にもなりやすく、果実や新梢への二次感染のリスクを高める。枯れ枝を残すということは、病害の入口を自ら作っているのと同じである。
さらに、枯れ枝が多い樹では、樹冠内部の風通しや日当たりが悪化しやすい。その結果、湿度が高く保たれ、病害虫が発生しやすい環境が作られる。枝が混み合うことで、新たな枯れ枝が発生しやすくなるという悪循環に陥るケースも少なくない。
日頃から意識して剪定を行っていれば、枯れ枝の発生はある程度抑えられる。しかし、どれだけ注意していても、日照不足や枝同士の競合、病害などによって、枯れ枝が発生することは避けられない。だからこそ、枯れ枝は見つけ次第、速やかに除去することが重要になる。
図14に示すような枯れ枝では、すでに枝元からカルスが形成され、樹木自身がその枝を切り離そうとしている場合がある。このような状態で剪定バサミを使って途中から切ってしまうと、せっかく形成されつつあるカルスを削ぎ落としてしまう可能性がある。また、切断面の中央に枯れ枝の残渣が残り、かえって傷が治りにくくなることもある。
このような場合、無理にハサミで切るよりも、手で直接枯れ枝を取り除く方が望ましい。枝元が十分に弱っていれば、ポキポキと音を立てながら、きれいに外れることが多い。樹木が自ら排除しようとしている枝を、人が手助けするイメージで作業するとよい。
筆者自身も、図15のように、枯れ枝の除去を怠ったことで、アボカドの果実を傷だらけにしてしまった経験がある。枯れ枝が果実にぶつかり傷がつくだけでなく、その後の炭疽病も心配になるレベルだ。

図15 枯れ枝を放置するとロクなことがない
剪定の基本を理解していても、枯れ枝の管理を怠れば、その努力は簡単に水の泡となる。枯れ枝を取り除く作業は、地味で目立たないかもしれない。しかし、この小さな作業の積み重ねが、病害を減らし、果実品質を守り、果樹栽培全体を安定させる。剪定ももちろん重要であるが、枯れ枝の除去も同時に意識することが、健全な果樹管理につながるのである。
まとめ
果樹栽培の技術が高度化していく一方で、剪定はなんとなくで行われやすい作業である。しかし、枝を半端に切り残すとカルスが巻かず、腐朽菌や病原菌の侵入を招きやすい。枝元のブランチカラーなどを意識して正しく切ることで、樹木は防衛反応を働かせ、傷口を閉じる方向へ向かう。
また、剪定と同時に徹底したいのが枯れ枝の除去である。枯れ枝は腐朽菌や病原菌の温床となり、果実の傷や病害のリスクを高める。見つけ次第、樹が排除しようとしている状態も観察しながら、適切に取り除くことが重要だ。
剪定とは単に枝を切る作業ではなく、どの枝を残すのかを考えて、不要な枝を落としていく作業である。一本一本の枝に立ち止まり、なぜここで切るのかを考え、魂を込めて切る。その積み重ねが、樹を健全に保ち、病害を減らすとともに、栽培の楽しさを高めてくれるだろう。
参考文献
[1] 木下透, 名人庭師のCODIT理論で基本が身につく!剪定「コツ」の教科書(講談社)
[2] Shigo, A. L., & Marx, H. G. (1977). Compartmentalization of Decay in Trees. Agriculture Information Bulletin No. 405. Washington, DC: U.S. Department of Agriculture, Forest Service.
















