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契約栽培に全振りし、売上1億円が目前に! 高利益率を実現した自社物流という強み

鈴木 雄人

ライター:

契約栽培に全振りし、売上1億円が目前に! 高利益率を実現した自社物流という強み

市場価格の乱高下に一喜一憂し、丹精込めた野菜が二束三文で買い叩かれることも珍しくない農業界。そんな中、常総井上農園の代表・井上真晴(いのうえ・まさはる)さんは、メインで生産している白菜やキャベツのほとんどを加工・業務用向けの契約出荷に特化。さらに、農家としては異例の大型トラックを自社保有し、物流まで自前でハンドリングする独自のスタイルを確立しました。なぜ、井上さんは多くの農家が選択する「市場出荷」や「農協出荷」ではなく、加工・業務用として納品する道を選んだのでしょうか。その原点は、就農直後に発生した未曾有(みぞう)の災害にありました。

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加工・業務用への出荷が全体の8割

茨城県西地域、肥沃な大地が広がる常総市で、白菜、キャベツ、ネギを主力に栽培する常総井上農園。現在の栽培面積は、キャベツが13ヘクタール、白菜が12ヘクタール(春・秋冬計)、ネギが1.8ヘクタール。

最大の特徴は、出荷量の実に約8割で加工・業務用の契約出荷をしている点です。一般的なスーパーの店頭に並ぶ「見栄え」を重視した青果ではなく、カット野菜工場や漬物メーカーといった「実需者」のニーズに応える生産体制を敷いています。

特筆すべきは自社で完結する物流機能。冷蔵ウイング車2台(4t増トン車と12t車)を自社保有しており、自ら納品まで行うことで、高い利益率を生み出しています。

常総井上農園の白菜畑

なぜ契約栽培? 相場からの脱却

元々、アウトドアショップで7年間勤務していた井上さん。家業を継ぐために実家に戻って就農したのは2011年3月8日でした。しかし、そのわずか3日後に東日本大震災が発生。この直後から原発事故の影響による風評被害で、茨城県産の白菜の市場価格が暴落し、多くの農家が悲鳴を上げる事態になったといいます。そんな中、井上さんの父は、いつも通り収穫を続けていました。

「市場相場は暴落しているのに、契約栽培の取引価格は下がらなかったんです。注文も変わらず入ってくる。親父に聞いたら『うちは契約栽培だから、放射能検査の結果を出して安全性を証明すれば、取引に影響はない』と言うんです」

畑の野菜を全て廃棄せざるを得ない農家もいる中で、市場相場に左右されにくい契約栽培の安定性という強みを目の当たりにした出来事だったと振り返ります。

井上さんは現在、父の代から属してきた農協の生産部会を脱退し、独自に開拓した販路へ野菜を契約出荷しています。きっかけは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、2018年に常総市の露地野菜農家として初めて「GAP(農業生産工程管理)」の個人認証を取得したことでした。

「晴れて認証を取得したものの、当時所属していた農協には、JGAP認証野菜を差別化して販売するルートが存在しませんでした。せっかく認証を取ったのに、売り先がない。農協に相談しても状況は変わらず、個選(個人選果)扱いになってしまうという状況でした」

そこで井上さんは独自に販路を開拓。JGAP野菜を取り扱っている中間流通業者と出会いました。また、自社のホームページで加工向け野菜を作っていることを前面に押し出したことで、多くの問い合わせがあったといいます。

こうした独自の取引は、当時の農協との契約ルールに抵触したため、2022年1月に農協の部会を脱退。完全な独立経営へと踏み出しました。井上さんは当時について、「妻からの『好きなことをやれ』という後押しも背中を押してくれた」と回顧します。

常総井上農園のキャベツ畑

契約栽培のメリット/「見た目」から「合理性」への転換

常総井上農園の最大の特徴である加工・業務用向けの契約出荷。そのメリットを聞くと、大きく4つの強みがあると言います。

「畑に何も残らない」圧倒的な歩留まりの良さ

加工用の最大の利点は、収穫段階での「ロスの少なさ」にあります。青果用であれば、白菜やキャベツの「芯抜け(内部の空洞化)」や「虫食い」が少しでもあると、A品として出荷することはできません。しかし、工場でカットされる加工用であれば、その部分を削ぎ落として利用できるため、出荷規格が大幅に広がります。

「青果向け農家の畑には収穫後も多くの野菜が残っていますが、うちの畑は最後、綺麗に空っぽになります。同じ面積を耕していても、実際に『お金』に変わる量が圧倒的に多いんです」

資材コストの削減と営業材料

独自の販売先に切り替えた井上さんは、取引開始に際して物流用の鉄コンテナを80基導入。その後追加で120基、その後も少しずつ購入していったことで、現在は300基以上を所有しているといいます。

市場出荷で使われる段ボール箱(15kg詰め)を1枚150円と仮定すると、鉄コン1基(約300kg収容/約2万円)の費用は段ボール20枚分に相当します。


・1回転あたりの削減額: 約3,000円(段ボール20枚分)
・損益分岐点: 約7回転(約1.5年)

つまり、わずか1年半で初期投資を回収でき、それ以降は本来かかっていた資材費が「純利益」に変わる計算です。また、受け取り側の工場にとっても、開梱や廃棄の手間が省けるため、キロ単価で数円のコストメリットを提示できる強力な営業材料となります。

作業の「平準化」がもたらす、人材活用の多様性

加工用出荷への転換は、現場の作業風景も劇的に変えました。市場向けの段ボール詰めでは、サイズごとの選別や見栄えの良い詰め方など、一定の「熟練の技」と「規格の暗記」が求められます。しかし、鉄コン出荷は「コンテナに満杯に入れるだけ」という極めてシンプルな工程です。

「切ったものをコンテナに投げ入れるだけ。複雑な規格を覚える必要がないため、女性スタッフや外国人技能実習生、ハンディキャップを持つ方など初日から即戦力として活躍できます」

実際に、常総井上農園では「農福連携」にも取り組んでいるといいます。

銀行融資における「信用力」の向上

従来の農協出荷や市場出荷を主軸とする経営は、どうしても市場相場に左右されるため、収入に不安定な要素が残ります。収益の予見性が低い企業に対し、銀行が融資判断を慎重にするのは避けられません。対して、契約栽培をメインとする加工用取引は、大手食品メーカーや上場企業が主なパートナーとなります。

「取引先リストに名だたる企業が並んでいること、そして契約販売によって売上の見通しが明確であること。これらが『経営の安定性』の証明となり、融資のハードルが大きく下がりました。実際、銀行側から借りてくださいとプロパー融資の提案が届くことも少なくありません」

常総井上農園の鉄コンテナ

立ちはだかる「投資」の壁と「管理」の難しさ

一方、加工・業務用の契約栽培には難しさやデメリットもあると言います。

巨額の初期投資と「与信」の壁

加工用への参入には、青果出荷とは比較にならないほどの設備投資が必要です。1基約2万円の鉄コンを数百基揃え、さらに荷役用のフォークリフトや大型冷蔵庫まで完備するとなると、初期費用は莫大に膨らみます。

「個人農家がいきなりこれらを揃えるのは容易ではありません。また、実績がない段階ではリース契約の与信が通らず、多額の保証金が必要になることもあります。この高い参入障壁こそが、最初のハードルとなります」

資産を守り抜く「管理」の厳格さ

自社で購入した鉄コンは「消耗品」ではなく「資産」です。しかし、流通の過程で行方不明になったりするリスクが常に付きまといます。

「過去にはコンテナを紛失され、大きな損害を出しそうになったこともありました。対策として独自の追跡システムを開発し、所在を徹底管理しています。中間業者に対しても『紛失は弁償』という厳しい契約を結ぶ。時には『うるさい農家』と煙たがられても、自社の資産を守るためにはドライな姿勢が不可欠です」

「重さ」を追求する技術が必要

加工用取引は「キロ単価」が基本。つまり、野菜の「重さ」がそのまま利益に直結します。しかし、近年の酷暑の中で品質を維持しつつ、ずっしりと身の詰まった個体に仕上げるのは至難の業です。

「特に7〜8月の高温乾燥期に定植するキャベツを枯らさず、太らせるには、灌水設備への追加投資と緻密な栽培管理が求められます。単に作ればいいわけではなく、気候変動という不確実なリスクと直接対峙し続けなければなりません」

見えない生理障害「チップバーン」のリスク

加工用で恐れられるのが、外見では判別不能な内部の生理障害「チップバーン(石灰欠乏)」です。カットした瞬間に中が黒ずんでいれば、全量廃棄や多額のクレームにつながります。

「それを防ぐため、出荷前の試し切りは欠かせません。また、弊社ではあえて加工に向いている品種だけでなく、20を超える複数の品種を栽培するようにしています。それにより、1つの品種が駄目でも他の品種ならとリスク分散に繋がるのです」

鉄コン1つ1つに番号を割り振っており、何番がどこにあるのか管理されている

鉄コンを管理する自社ツール。どこの取引先に何個あるのか分かるようになっている

自社物流で実現する未来

常総井上農園の契約出荷の取り組みとして特徴的なのが、自社で物流の機能を備えていることです。通常、配送は運送会社へ委託するのが一般的ですが、同社はあえて自前で運ぶことにこだわります。

「圧倒的なリードタイム」が強みに

実需者(工場)からは「急ぎで欲しい」というタイトな要望が寄せられることも珍しくありません。運送会社の手配を待っていては逃してしまう取引のチャンスも、自社便なら即座に対応可能です。この機動力こそが、バイヤーが常総井上農園を選ぶ理由の1つになっています。

「容器×物流」が生む強固な交渉力

「自社の鉄コンがあり、それを自社で運べる」。このワンストップ体制は、商談において強力なカードになります。物流まで自前でハンドリングできる農家は稀であり、相手に依存しない体制があるからこそ、対等な立場で価格や条件を勝ち取れるといいます。

「趣味と実益」を兼ねた車両運用

実は大のトラック好きという井上さん。その情熱は車両選定にも現れています。故障リスクやランニングコストを抑えるため、あえて尿素や排ガス浄化装置(DPF)が不要な旧年式の車両を中古で導入。さらに、使わない時には車両を運送会社へリースし収益化するなど、物流を「眠らせない投資」として活用しています。

常総井上農園の12tの冷蔵ウィング車

1億円の壁を超え、次世代のスタンダードへ

井上さんが取り組んでいるのは、単なる野菜作りではありません。配送の戻り便を利用して実需者の「食品残渣」を回収し、畑の堆肥として再活用する循環型農業。そして、スタッフにしっかりと利益を還元し、それぞれの夢を応援し続けられる強い経営体づくりです。

右が井上さん、左がドライバーを務める小貫さん。プロの格闘家でもあり、常総井上農園がスポンサーも務める

現在は売上8,700万円。目標とする売上1億円の突破は、もう目の前です。しかし、ゴールではなく、より大きな循環を生むための通過点に過ぎません。変化を恐れず、物流、容器、そして「人」へと戦略的に投資を続ける常総井上農園。その挑戦は、これからの「攻める農業」のスタンダードを予感させます。

取材協力

常総井上農園

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