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乾田直播が急拡大する秋田県大潟村。温暖化と栽培技術の深化が追い風に

kumano_takafumi

ライター:

連載企画:コメ記者熊野の水田行脚

乾田直播が急拡大する秋田県大潟村。温暖化と栽培技術の深化が追い風に

秋田県大潟村は、かつて琵琶湖に次いで日本で2番目に大きい湖だった八郎潟(はちろうがた)を干拓してできた村である。オランダの対外援助機関の技術協力を得て、20年の歳月と852億円の巨費を投じて昭和52年に完工した。干拓で出来上がった農地は1万2802㏊。このうち9000㏊で水稲を作付けしている。
その大潟村で1月15日、JA大潟村主催の組合員研修会が開催された。研修会では「令和7年産米の作柄分析報告と乾田直播の結果報告」がなされ、乾田直播の収量調査では7年産米で「あきたこまち」が10a当たり534㎏、もち米の「たつこもち」が625㎏という移植栽培と遜色ない収量が記録されていることを紹介した。乾田直播の普及に力を入れているJA大潟村営農支援課長の斉藤春彦(さいとう・はるひこ)さんと、乾田直播にいち早く取り組んできた生産者の吉原忍(よしわら・しのぶ)さんに話を聞いた。

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移植に比べ遜色ない乾田直播の収量

組合員研修会で斎藤さんは、乾田直播の出芽予測について東北農研機構からの指標を基に「播種後の日平均気温が1.5℃を上回った気温の積算気温が50℃を超えると出芽する」と説明。大潟村では4月20日ごろから11.5℃を超えるため、直播の時期が移植と重ならないようにするには4月上旬から4月10日が播種期の理想とした。

直播した「たつこもち」の生育調査のデータも示し、収量・品質の安定化におけるポイントについて、下記のようにまとめた。

①播種時期が遅れると、分げつ遅れや一次枝梗・粒数低下、稲体の茎成熟に影響する可能性がある
②播種時期は4月上旬~中旬(10日ごろ)移植の作業分散が可能
③播種晩限(※)は4月末ごろ。5月上旬は年次により不安定になる

※作物の品質や収量を確保するために播種できる限界の時期

田んぼで草刈りをする人

上の表は「あきたこまち」と「たつこもち」の移植と乾田直播の過去3年間の収量調査結果だが、一見して分かるように、乾田直播は移植と比較しても遜色ない収量を上げている。2023年に関してはむしろ、乾田直播の方が10㌃当たりの収量が上回っているほどだ。

具体的に現場ではどのようにして栽培しているのか。乾田直播をいち早く取り入れた吉原さんに話を聞いてみた。

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斎藤さん(右)と吉原さん

すべての水田を乾田直播に。「格段に労力が軽減される」

吉原さんの経歴は少し変わっている。大潟村の農家は全国各地からモデル農村を目指して入植した人の2世、3世が多くを占めるが、吉原さんは入植者の娘との結婚を機に入村した。それまでの生活は農業とは無縁だったが、当時60歳だった義父から「65歳になったら経営移譲するからそれまでに農業を覚えてくれ」と言われたのが就農のきっかけだ。

言われるがまま、必死に農業に取り組んだことで、今では大潟村の特産にもなっているかぼちゃの生産組合の組合長を務めるまでになっている。水稲の直播栽培に取り組み始めたのも、このかぼちゃ栽培が関係している。

それは、かぼちゃ栽培は収穫作業を機械では行えず、どうしても人手が必要になるからだ。人手が必要なのは水稲の移植栽培も同じ。苗づくりから田植えまでを行うには労力的に負担が大きく、体力を必要とする。そこで、稲作研究会のメンバーでもあった吉原さんは、直播を先駆的に行っていた知人に教わって生育調査などを行い、3年前から乾田直播に取り組み始めた。

「当時は移植ほどの収量を得られなかったが、やり方次第ではまだまだ収量が得られるだろうし、長い目で見たらこれが最適だろう」という予想があったと、吉原さんは当時を振り返る。田植え機を更新して苗箱を持つのかを考えた結果、直播にすべきと決断。水田はすべて乾田直播にした。「実際に乾田直播に取り組んでわかったことは自分一人で作業ができ、かつ移植に比べ格段に労力を軽減できる。これなら年齢を重ねて体力が落ちても続けられると実感した」

気温の上昇が追い風に。種子や栽培技術の向上も

農地の基盤整備が進んでいる大潟村では、早くから直播栽培に取り組んできた生産者が多くいる。だが、湛水直播や乾田直播の栽培方法が村内で大きく広がることはなかった。最大の原因は移植に比べて収量が少なかった点にある。

それが近年は、にわかに乾田直播に取り組む人が増えてきた。斎藤さんはこの要因の一つに「気温の上昇」があるという。以前の秋田県は、3月は田んぼに入れるような状態ではなかったが、今では4月の頭には播種できるようになり、移植の時期と重ならないような作業が出来る。日平均気温が11.5℃になると種子が水分を吸い始め発芽するため、この時期が早まっているのだ。種子の品質も上がっており、吉原さんも「今は全く塩水選をやらない」という。

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V溝式の播種機

直播に使用する機械は、V溝方式とドリルシ―ダ―の2方式。吉原さんは最初、V溝方式で「たつこもち」の直播栽培に取り組んだ。「たつこもち」を選んだのは早生品種であること、倒伏しづらいことが理由だ。これまでコンスタントに9俵以上穫れているので、この技術を固定したいと考えている。この直播技術は東北農研が開発した技術を大潟村での栽培にアレンジしたものだという。ただし、大潟村でも直播の除草作業が大変なことには変わりない。

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ドリルシーダー式播種機

吉原さんいわく「水もちが良いところは水はけが悪い。水はけが良いところは水がすぐなくなってしまう」とのことで、その対策として代掻きを行い、鎮圧して水を溜めて除草剤を撒いている。除草剤の散布はコンバインを改造してブームスプレイヤーを取り付けたもので行っており、これで肥料も撒けるとあって重宝している。

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改造したコンバイン

農協では乾田直播の面積が急激に増えることを予想し、V溝の直播機とドリルシーダーの直播機を購入して組合員に貸し出すことにしている。V溝播種機はトラクターの後ろにつないで種子を播く機械で、7㎏の種子が入るタンクが12連付いており、その下に12の溝が掘れるようになっている。溝の幅は20センチ固定だが、ドリルシーダーは15~30センチで調整できる。

種子の量は農研機構では10a当たり6~8㎏を推奨しているが、大潟村では8~10㎏で発芽率を高め、10a当たり10俵を狙っている。

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直播機をけん引するトラクター

管内の4割強が規模拡大を視野に

これだけ直播の技術が上がれば規模拡大も容易だろうと思われるだろう。しかし大潟村は他の農村地域と違って離農者が少なく、すぐには耕作地が手に入らない。吉原さんも「周りの田んぼが手に入るのなら、私一人で夜通しでも種を播く」と笑う。齋藤さんは今後も直播を始める生産者が増えると予想。8年産では村全体で80㏊になると見ている。

大潟村の地域計画では5年後の経営規模について回答のあった419名のうち、拡大したいと答えた人が176名と42%を占めている。周辺地域でも、大潟村の生産者が直播栽培で面積を請け負う時代が来そうだ。

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