【青森県】各金融機関と協調融資体制を構築。収益源の確保と効率化も
まずは、農林中央金庫青森支店によるコンサルティング事例を見ていこう。支援先は飼養頭数約12000頭と、県内有数規模の畜産法人である。同法人では、ホルスタインから和牛への畜種転換を進める過渡期にあって資金調達を進める必要があったものの、動態や資金繰りの正確な把握ができておらず、金融機関への説明力不足が資金調達を難航させる要因となっていた。
そこで、農林中央金庫の食農金融部と連携して動態表・資金繰り表を作成。経営の実態を数値で明らかにした上で、メインバンクを含む全取引金融機関を集めた「実績検討会」の開催を主導した。これにより、各行の足並みを揃えた協調融資体制を構築。長期運用資金5億円の融資を実現した。
このほか、アミノ酸バランス改善飼料の導入によって、環境負荷低減とJ-クレジットという新たな収益源の確保を提案。伝票入力の手間を削減することを目的に、システム導入による事務効率化も実現した。

事例発表に先立ち、表彰を受ける農林中央金庫青森支店の工藤健斗さん(中央)
【山形県】販売戦略見直しと系統回帰の後押し
JA庄内たがわが発表したのは、昨今の高温障害による農薬・肥料費の増加や、米価変動などのリスクに直面してきた水稲農業法人の支援事例だ。
特筆すべきは、販売単価の向上を目的に、販売データの徹底的な分析に基づく「ターゲット顧客の明確化」だ。過去3カ年分の販売先別数量・単価をプロット分析し、顧客を「一般顧客」「大口顧客」「お得な顧客」「ファン(高単価・大口)」の4つに分類。収益性の低い小口取引や低単価取引の実態を可視化した上で、最終的に「同社のお米のファン」の獲得を目指す工夫について提示した。
もう一つ注目したいのが、JA出荷へ回帰する戦略の提案だ。同JAが企画した、3年間の出荷を約束することで加算金を支払う「米の複数年契約」の仕組みを活用し、「はえぬき」や「雪若丸」両品種の契約にこぎつけた。昨今、商系業者との集荷競争が激化する中で、生産者の所得向上とJAへの安定集荷を両立させる「Win-Win」のソリューションにもなっている。
【長野県】時代に合わせた高温耐性品種への転換
高齢化が進む地域で農地を引き受けている個人農家を支援したのが、JAながのである。高温障害による主力品種の品質低下や、点在する圃場の水管理負担による収益悪化が問題視されていた。
赤字要因を突き止めるべく、品目別収支分析を行った結果、「風さやか」をはじめとする一部品種の収益性が著しく低いことを特定した。この結果を踏まえ、「にじのきらめき」などの高温耐性を持つ多収品種へ転換した場合の収支についてシミュレーション付きで提示し、意思決定を後押しした。
高温耐性品種への切り替えにより、初年度から約290万円の所得向上を見込んでいるという。このほか、同JAのこうした親身な対応が信頼関係を生み、商系からJA出荷への回帰も実現した点も高く評価された。
【石川県】「正社員を追加しても成り立つ」。緻密なシミュレーション
家族経営からの脱却を目指すも、固定費増の懸念から、正規雇用の決断に踏み切れずにいる-。規模拡大を進めながらも、こうした悩みを抱えてきた農業法人の背中を押したのが、JA金沢市だ。
本事例のポイントは、収支シミュレーションに基づいた「雇用の後押し」だろう。社会保険労務士とも連携し、正規社員を雇用した場合の緻密な労務費計算を実施。複数のシナリオに基づく収支シミュレーションを提示することで、「雇用しても経営が成り立つ」という安心感を与え、長年の懸案事項であった正社員雇用などの決断を後押しした。
正社員1名の雇用が実現し、長期的な事業継続性が強化された。このほか、規模拡大を目指すに当たって、労働負荷や作業スケジュールなどを踏まえた拡大品種の優先度を特定し、同社の成長ビジョンを示した。

【福岡県】資金繰りの可視化と労働生産性向上
売上は伸長しているものの、それに伴う人件費などのコスト増が収益を圧迫する-。そんな悩みを抱える柑橘生産法人を支援したのが、JAみなみ筑後である。
この生産法人では、社長の経験に頼った資金管理が課題視されていたが、会計ソフトによるデータ活用で資金繰りを見える化。実績把握と将来予測を可能にし、適切な投資判断ができる体制を整備した。
また、収益性分析の結果、人件費の高さが課題であることが判明した。そこで、JAのマニュアルをベースに、シンプルで初心者にも分かりやすい独自の「作業マニュアル」を作成。未経験の臨時パートでも早々に戦力として活躍してもらえる仕組みを構築し、労働時間の短縮とコスト削減を目指している。

まとめ
今回のコンペティションを通じて共有された5つの事例には、大きく2つの成功要因が見受けられた。
一つが、徹底した現状分析と可視化。財務データや品目別収支などの数値に基づき、経営者自身も気づいていなかった課題が定量的に明らかにされていた。こうしたデータに基づく対話が、経営者の納得感と行動変容を促すカギになったと言えるだろう。
もう一つが、将来の農業経営まで見据えた提案である。目前の資金繰りや収支改善にとどまらず、後継者育成や長期的な設備投資計画も視野に入れた、5年、10年先の持続可能な農業経営のための提案がなされていたことが印象深かった。
担い手コンサルティングは今年度、300件超の実施が見込まれている。これらの優良事例を参考に、それぞれの地域実情に合わせた支援が各県域で生まれていくことが期待される。















