アップルバナナとは何か?

アップルバナナ(収穫から5日経過)
現在、「アップルバナナ」と聞いて多くの消費者が思い浮かべるのは、一般的なスーパーで売られているキャベンディッシュ系のバナナよりも果実はやや短く、皮は薄めで、果肉は締まりがあり、ねっとりとした食感と、歯切れの良さを併せ持つタイプだ。味は濃厚で、甘味が強く、香りが良く美味しい。

キャベンディッシュバナナ
沖縄県内の直売所や観光地の売店、さらには通販サイトなどでも、アップルバナナは普通のバナナとは違う、ワンランク上のバナナといった文脈で紹介されることが多い。筆者自身も、実際に食べ比べてみてそのように感じている。
実際、アップルバナナとして販売されているバナナの多くは、糖度が高く、完熟時にはフルーティーで華やかな香りを放つものが多い。

アップルバナナ(収穫から3週間経過で黒くなってきたが美味しく食べられる)
「アップルバナナ」の名前の由来
上記のような特徴が、現在のアップルバナナの共通認識になっている。しかし、このようなイメージが先行する一方で、アップルバナナとは、どの品種を指すのかという問いに対して、明確な答えを持つ人はほとんどいない。
実はアップルバナナという名称は、キャベンディッシュのように、特定の遺伝的背景を持つ品種名ではなく、流通や販売の現場で使われてきた呼び名にすぎないのだ。
そのため、時代や地域、流通経路によって、アップルバナナと呼ばれるバナナの中身は大きく変化してきた。
ある時代にはブラジル由来のデザートバナナがアップルバナナと呼ばれ、現在ではナムワ系のバナナが同じ名前で流通している。さらに、沖縄の直売所では、小笠原系の島バナナがアップルバナナとして販売されている例も見られる。

果実が小ぶりな島バナナ(小笠原種)
このように、「アップルバナナ」という言葉は、学術的に整理された品種ではなく、マーケティングの中で、美味しそうあるいは、特別感があるという印象を与えるために浸透した名称なのである。
現在のアップルバナナは「ナムワ系バナナ」のこと

アップルバナナは糖度も高い(27.4%)
現在、日本の市場や通販、直売所などで「アップルバナナ」として販売されているバナナの多くは、実態としてナムワ系(Namwa)バナナである場合が多い。ナムワ系バナナは東南アジア、特にタイ原産の伝統的なバナナであると言われており、現地では「Kluai Nam Wa」として古くから親しまれている品種群である。この系統は、世界の熱帯・亜熱帯地域でも広く栽培されており、単一の品種に限らず、地域や栽培地によって複数のバリエーションが存在することが知られている。

タイで見つけたナムワバナナ
ちなみに、台湾でもナムワバナナが芭蕉という名前で販売されていた。場所によっては、南華蕉と表示されていることもある。

台湾の屏東で見つけた芭蕉(ナムワバナナ)

一房ごとに切り分けて販売されている
ナムワ系バナナの特徴は、糖度が高く、甘味が濃厚でありながら酸味や香りのバランスが良い点である。沖縄で栽培されるナムワ系のバナナは、甘味が強いのに甘ったるくなく、バナナの持つリンゴ酸が、後味を引き締めると評されることが多い。この系統の持つ酸味は、クエン酸のように鋭く酸っぱいものではなく、主にリンゴ酸によるもので、甘味を引き立てるタイプの酸質である。これにより、単に「甘くて美味しい」というだけでなく、味の余韻や香りの立ち方に独特の魅力がある。

完熟状態のアップルバナナ(収穫から2週間程度)
また、ナムワ系バナナは果実がやや短めで丸みを帯びている傾向があり、手に取りやすいサイズ感が消費者に受け入れられやすい。この小ぶりで食べやすいという点も、現在の人気の一つである。また、世界的にもナムワ系は、甘味と酸味のバランスが良いデザートバナナとして人気があるだけではなく、加工や料理にも幅広く使われる。
さらに、沖縄で古くから栽培される島バナナよりも、樹勢が強く病気にも強い。また、果実収量も2倍程度多いことから、生産者からも人気が高い。

弊社で苗を販売するアップルバナナ(トールナムワ)

アップルバナナは冬収穫でもかなりのボリュームがある
ナムワ系にもいくつか品種がある
ナムワ系の内部には複数の品種が存在するため、味や香り、食感に微妙な違いがある。たとえば、ナムワの中でも糖度や香りの強さが異なる品種があり、地域ごとに好みや用途が異なる。
・ベジタブルバナナ
・アイスクリームナムワ
・トーマン
・ドワーフナムワ
・銀バナナ
これらもナムワ系であり、アップルバナナとして販売されている可能性も高い。また、品種がわからなくなったナムワ系のバナナが、アップルバナナとして販売されているケースもある。

ベジタブルバナナはナムワ系の中でも抜群に美味しい

アイスクリームナムワバナナも、モチモチしてて美味しい

トーマンも甘味が強く美味しい

果皮が少し青白い銀バナナも絶品だ

追熟が完了した銀バナナ
「ベジタブルバナナ」や「ドワーフナムワ」と言われてもピンとこないだろう。品種が分からなくなってしまったナムワ系バナナの歴史的背景から、「アップルバナナ」という、便利な名前で販売されることが増えているのである。アップルバナナという名称が、美味しいバナナであるというイメージとして定着するにつれて、中身の系統や品種が本来持つ呼び名から離れ、ナムワ系の総称的な売り方に置き換わってきた側面がある。
かつてのアップルバナナは、ブラジルバナナ・マッサンだった
現在、日本で「アップルバナナ」として流通しているものの多くはナムワ系であるが、以前は、別の系統がアップルバナナと呼ばれていた。それがブラジルバナナの「マッサン」という品種である。

ブラジルのマッサンバナナ

皮がナムワより少し厚く、酸味がある
マッサンはブラジルをはじめとする南米地域で古くから栽培されてきたデザートバナナであり、現地ではリンゴを意味する「Maçã(マッサ)」の名で呼ばれている。
日本においてアップルバナナという言葉が広まり始めた背景には、この「Maçã=リンゴ」という語感が大きく影響していたと考えられる。
マッサンバナナの特徴は、キャベンディッシュ系と比べて果実がやや短く、果皮はナムワバナナより若干厚めで、フルーティーな香りはあるが、それなりに強い酸味がある。この酸味のため、一般的なバナナよりも「味に輪郭がある」と表現されることが多い。このマッサンで、バナナケーキを作ると、強いリンゴ酸のため、アップルケーキのようになる。初期のアップルバナナは、酸味の強いバナナであった。
ただ、マッサンは沖縄で栽培すると、冬の低温や収量の面で、キャベンディッシュ系やナムワ系ほど生産性に向いた品種ではなく、日本国内での安定供給は容易ではなかった。
その結果、市場の流通でインパクトを残せずに、代わりに現在のナムワ系がアップルバナナと呼ばれるようになった。

マッサンバナナ
マッサンは国内から姿を消したわけではない
ただし、マッサンは完全に日本の栽培現場から姿を消したわけではない。現在でも、一部の生産者の間ではマッサンが栽培されており、直売所などでは、実際にマッサンが「アップルバナナ」という名称で販売されている例も存在する。
このため、同じ「アップルバナナ」という名前であっても、ある直売所ではナムワ系が並び、別の直売所ではマッサンが並ぶといった状況が生まれている。
このように、アップルバナナという名称は、過去の系統を完全に置き換えたわけではなく、複数の種類が同時にその名を共有する状態で使われ続けている。小笠原産の島バナナでさえ、アップルバナナとして販売されていることもある。これが、消費者や栽培者の間で「アップルバナナとは結局どれなのか」という混乱が生じる一因となっているのである。
「アップル」は果物の美味しい呼び名として使われがちである
「アップルバナナ」という名前の曖昧さは、決してバナナ特有の問題ではない。
果物の世界では、「アップル」という言葉が、特定の品種や系統を示す学術的名称ではなく、消費者に分かりやすく、美味しさや高級感を想起させる役割として用いられる例が数多く存在する。
その代表例が「アップルマンゴー」である。
日本では、一般に赤く色づいた美しい果皮と丸みのある果形を持つ、マンゴー品種「アーウィン(Irwin)」がアップルマンゴーと呼ばれている。
一方で、海外の市場では、「アップルマンゴー」という名称がトミーアトキンス(Tommy Atkins)など、別の品種に対して用いられる例も見られる。

左がアーウィン種、右がトミーアトキンス、どちらもアップルマンゴーと呼ばれる
つまり、「アップルマンゴー」という呼び名も、特定の遺伝的背景を持つ品種名ではなく、「リンゴのように赤く、美しく、丸みがあり、甘そうに見えるマンゴー」というイメージに付与された名称にすぎない。
このような命名の背景には、見た目・色・丸さ・甘さといった要素が、消費者にとって「リンゴ的」に認識されやすいという文化的な構造がある。リンゴは多くの人にとって甘くて美味しい果物の代表格であり、そのイメージを他の果物に重ねることで、これは美味しい果物ですよというメッセージを直感的に伝える効果が生まれる。
このアップル名称問題は、釈迦頭(バンレイシ)にも見られる。英語圏では、釈迦頭は「シュガーアップル(Sugar apple)」と呼ばれることが多い。

台湾で購入した釈迦頭。別名シュガーアップル
もちろん、釈迦頭はリンゴの仲間ではなく、形態的にも生物学的にもリンゴとは無関係である。にもかかわらず「アップル」という語が用いられているのは、とても甘く、デザート的価値の高い果物であることを分かりやすく伝えるための言語的装置にほかならない。僕もこの前台湾でとても立派な釈迦頭を食べたが、アップルよりも甘かった。シュガーアップルと呼ばれるのも納得であった。
このように、「アップル」という言葉は、果物の分類学的な正確さを示すものではなく、高級感、美味しさ、分かりやすさを象徴するマーケティング的な記号として機能している。
アップルバナナも、この命名文化の延長線上に位置付けることができる。甘くて美味しい、小ぶりで特別感のあるバナナというイメージを、消費者に直感的に伝えるために、「アップル」という言葉が使われている。
美味しいアップルバナナの見分け方と食べごろ
ナムワ系統やマッサンなどの違いがあるアップルバナナ。ここでは、現在流行しているナムワ系アップルバナナに関して美味しいものの見分け方と食べ頃を紹介する。
まず、美味しいアップルバナナの見た目のポイントとして重要なのは果実の張りである。
しっかり木の上に置かれたバナナは、張りがあって角が少し取れて丸みを帯びている。
バナナは追熟する果物なので、収穫時は未熟な状態として、果皮に青みがかって硬い状態であるが、収穫後1~2週間経つと、果皮の色が黄色くなってくる。触るとわずかに弾力を感じるがやや柔らかく、皮も薄くなってくる。
シュガースポット(果皮の黒い斑点)については、キャベンディッシュのような細かい点々はでない。じわーっと黒い部分が段々と広がっていく。アップルバナナは、黒い状態がやや出かけた時に甘味が最高値になるが、甘味が強く、ち強く熟れたような味が苦手な方は、黄色い状態で食べると良い。
保存方法・追熟方法
アップルバナナの基本的な保存・追熟の考え方は、多くのバナナとだいたい同じであるが、果皮がやや薄いため、扱い方によっては傷みやすい点に注意が必要である。
未熟な状態で購入した場合
購入時に果皮が青みがかっている場合は、常温(20~25℃前後)で風通しの良い場所に置くのが基本である.決して冷蔵庫に入れたりしてはいけない。また、直射日光が当たる場所などに置くのも避けよう。
房のまま新聞紙や紙袋で軽く包むと、自ら放出するエチレンガスがこもり、追熟が穏やかに進みやすい.リンゴなどエチレンを多く放出する果物と一緒に袋に入れると、追熟を早めることもできる。
果皮が黄色くなった場合
果皮が黄色く、やや柔らかくなったらバナナの渋みが消えて食べられるようになる。その状態で、そのまま常温に置いておくとさらに追熟をして黒く甘くなってしまう。それを楽しみたい方は、引き続き常温で保存をする。
追熟を止めたい場合、もしくは、数日以内に食べきれない場合は、房から1本ずつ切り離し、皮を剥き、ラップでしっかり包むか、ジップロックなどに入れて冷凍庫で保存すると良い。果肉の劣化は抑えられ、風味も比較的保たれる.翌日食べる場合は、冷蔵庫でも良い。
冷凍の場合、解凍すると食感は変わるものの、味はほぼ変わらない。スムージーやアイスの代わり、焼き菓子などの加工用途にも適している.アップルバナナは、冷凍後も風味が比較的はっきり残りやすく、加工しても美味しく食べられる。
まとめ

アップルバナナは少し黒くしても甘さが濃厚になり美味しい!
アップルバナナという名前の背景を少し踏み込んで理解するだけで、バナナという果物の見え方は、大きく変わってくる。
これまで「甘くて美味しいバナナ」として何気なく食べていたものが、実はどの系統に由来し、どのような歴史や文脈の中でその名前が与えられてきたのかを知ることで、一本のバナナが持つ情報量は一気に増える。バナナには想像以上に多くの品種・系統が存在するのだ。
しかし、日本、とくに沖縄県の流通現場を見渡すと、それらは必ずしも整理されて紹介されているわけではなく、名前と中身が対応していない例も多く、正直なところ混沌としている。
だからこそ、アップルバナナという曖昧な名前を手がかりに、「これはどの系統なのだろうか」、「他にも似た特徴を持つバナナはあるのだろうか」と一歩踏み込んで考えてみることが、バナナをより深く楽しむ入り口になる。
アップルバナナを皮切りに、ぜひバナナの多様性そのものに目を向けてみてほしい。
キャベンディッシュしか知らなかった世界の先には、香り、甘味、食感、栽培特性まで異なる無数のバナナの世界が広がっている。アップルバナナも存分に楽しんでほしいが、そこを入り口に、多様なバナナの世界にも目を向けていただけたら、自称バナナマニアとしてこれ以上うれしいことはない。

















