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農研機構が生み出した新たなブドウ「サニーハート」とはどんな品種なのか

少年B

ライター:

農研機構が生み出した新たなブドウ「サニーハート」とはどんな品種なのか

2025年、ブドウ農家の話題の中心になった品種がある。その名は「サニーハート」。シャインマスカットやクイーンニーナを育種した国の機関・農研機構が新たに育成した新品種で、シャインマスカットの血を引く赤いブドウだ。2025年6月にプレスリリースが発表されたが、海外流出を警戒してか、各県の試験場でも出せる情報は少ないという。いったいどんなブドウなのか。そんなうわさの新品種・サニーハートについて、育成元の農研機構ブドウ・カキ研究拠点(広島県東広島市)に赴き、尾上上級研究員にお話を伺ってきた。

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サニーハートとはいったいどんなブドウなのか

──サニーハートとは、いったいどんな品種なんでしょうか?

一番の特徴は、「皮ごと食べられる赤色のブドウ」というところになります。

──公的機関が育種した赤いシャインマスカットの子品種は、長野県が育成したクイーンルージュ、島根県の神紅、山梨県のサンシャインレッドなどがありますが、それらとはまた違う特徴があるということですか?

いま名前を挙げられた品種は、育成した各県内でしか作ることができませんが、サニーハートは「全国で作れる」というのがまず大きな違いです。

そして、一番の違いは見た目ですね。粒に溝が入ったような特徴的な形はサニーハート特有のものかと思います。

サニーハートの果実

──交配は2003年ということですが、この時期はまだシャインマスカットが品種登録される前ですよね。

はい、そうなりますね。

──ということは、品種登録の前からシャインマスカットについては有望だと思われていたということですか?

農研機構では品種登録の有無に関わらず、親として有望そうな系統は普通に交配に使いますので、それ自体は珍しいことではないんですよ。

サニーハート育成のコンセプトとは

──サニーハートはシャインマスカットと626-84を交配したものですが、この626-84はどういった品種なんですか?

農研機構では、ヨーロッパ系の高品質なブドウと、アメリカ系の育てやすいブドウを掛け合わせて、両者のいいとこ取りを狙った品種を育成しています。
626-84はその過程で生まれた系統になります。

626-84の交配図 ※出典:農研機構2018年成果情報「ブドウべと病抵抗性に関与する葉裏の毛じ密度を減少させる遺伝子座

──官民問わず、シャインマスカットの子品種は、シャインマスカットにさらにヨーロッパ系の品種を掛け合わせた交配が主になっていますが、626-84はアメリカ系の高砂や安芸津7号といった見慣れない品種が交配されていますよね。少し変わっているなと思ったんですが。

おお、鋭いですね……! やっぱり日本でブドウを作る際に問題になるのは、病気と裂果なんです。多くの先人たちが大変苦労されながら作ってきたという歴史があって。

なので、「どういう栽培形態であっても、全国で作りやすいブドウ」を育成するために、アメリカ系ブドウの血を入れていこうと考えています。そのため、ヨーロッパ系とアメリカ系のハイブリッドを目指しています。

──それこそ、シャインマスカットもそうですよね。

そうですね。アメリカ系品種のスチューベンの血が入っているという。ただ、ヨーロッパ系のブドウを使うと確かに大粒でおいしいブドウはできるんですが、どうしても裂果したり、病気に弱かったりという問題が出てきます。

農研機構では全国の農家さんに長く安定して作っていただくために、アメリカ系の血を入れた交配をしていこうと考えています。

──農研機構ではヨーロッパ系同士の交配は考えていないということですか?

基本的にはないですね。日本全国、新人さんからベテランまで、誰でも作れる品種を目指していますので。

サニーハートの栽培性について

──シャインマスカットと比べて、サニーハートの栽培性はどうですか?

病気に関しては特に問題なく、シャインマスカット並だと思います。
ただ、栽培の労力でいうと、摘粒に関しては明らかにシャインより大変ですね。小果梗(しょうかこう)が伸びづらく、主穂(しゅすい)も伸びないので、花が密に詰まったようになってしまいます。

花ぶるいもしにくいので、ハサミを入れるのが遅くなると、摘粒が大変になってしまうという欠点があります。

──露地とか雨よけ、ハウスなど、作型が色々あると思いますが、農研機構ではサニーハートをどのように作っていますか?

栽培は露地ですね。農薬散布は必要ですが、サニーハートは露地栽培が十分可能な品種だと思います。

試食用に提供されたサニーハートの果実

──粒の大きさはこれぐらいですか?

これは今回試食用に用意したものですが、時期的に少し遅かったので、小粒になってしまいました。通常のものはこれよりは大きく、1粒11グラム程度です。

──なるほど。熟期はいつぐらいですか?

ここ(広島県東広島市)で9月1日なので……。シャインマスカットと比較すると、1週間程度遅いですね。

──シャインマスカットといえば、開花異常が近年問題になっていますが、サニーハートはどうですか?

現状では、そのような症状は全国の試験場でもほとんど見つかっていません。

──脱粒や裂果などに関してはいかがですか?

脱粒性は中程度で、輸送性も特に問題はないと考えています。裂果に関しては果頂部の縫合線(果肉先端の筋)沿いと、軸の横に三日月型の裂果がごくまれにありますが、大きな問題にはなっていません。

──ありがとうございます。実際に栽培する農家さんからすると、気になるのは反収だと思います。どのくらいの収量を見込めそうですか?

うーん……。赤系品種なので単収1.2トンを目標にしていますが、もう少し栽培が広がってからはっきりしてくると思います。農研機構の畑では、1.2トンより少し抑えめにして、品種の特性を見ていますね。

基本的にはクイーンニーナ等の一般的な赤系品種と同じように、色をしっかりつけることを意識して栽培していただくのがいいと思います。

短梢栽培のサニーハート。マルチを敷いている

──ありがとうございます。ちょっとマニアックな質問かもしれませんが、色の入り方はどうでしょうか?

太陽光を受けると着色しやすい直光型と考えています。棚を明るくするのが、サニーハートの色付きをよくするポイントですね。着色先行(果実の色づきが成熟過程より先に行われること)ではないので、色付きをよく見ながら収穫するのがいいと思います。

──ブドウの栽培には、短梢剪定・長梢剪定という仕立て方がありますが、農研機構ではサニーハートをどのように仕立てていますか?

両方やっています。食味は大差ないので、どのような作り方でも大丈夫かと思いますが、短梢剪定は玉張りがいいので、その分色付きが少し悪いですね。

短梢栽培のサニーハート

サニーハートの今後について

──苗木屋さんからは、ブドウ農家さんからの問い合わせが多数届いていると聞きました。いつぐらいから苗が買えるようになるんでしょうか?

穂木自体は2025年の秋〜冬に苗木屋さん向けに解禁しています。なので、最速だと2026年秋冬に購入できる予定です。

──苗木屋さんによると、穂木を育てて、大きくなるまでに数年かかるので、農家さんに提供できるのはもう少し先になるかもしれないとのことでした。

サニーハートの栽培に関する要望は多いので、たくさん穂木を提供できるように、できる限りのことはやっていくつもりです。

──まだ気が早い質問かもしれませんが、2025年には農研機構育種のブリラニーナが品種登録出願されました。名前からクイーンニーナを想像しますが、これはどのようなブドウですか?

出願公表されたということ以上の話はできかねます。ご想像にお任せしますので、詳細は品種登録されるまでお待ちくださいね。

──さすがにちょっと厳しい質問でしたよね、すみません。

そうやって興味を持っていただけるのは、それだけブドウ産業が盛り上がっている証拠だと思うので嬉しいですが、でもまだ先の話ですね。
苗木の配布は品種登録後になるので、ブリラニーナも同じように考えていただければと思います。

農研機構から品種登録出願が出されたブリラニーナ ※出典:流通品種データベース

──シャインマスカットは育成から登録まで18年、サニーハートは22年です。新品種の育成には時間がかかりますね。

育成後に複製樹を作り、各地で栽培試験をして、品種の特性を把握するので時間がかかるというのもありますが、苗木配布までの期間は伸びていく傾向にあります。

以前は早く生産者の方に新品種を栽培してもらうことを優先して出願公表の後に苗木を配布していました。しかし、その状態だと品種の権利は保護ではなく、仮保護になるんですよ。

現在はシャインマスカットの海外流出のこともあって、苗木配布は品種登録後であることが求められています。なので、農家さんが栽培ができるようになるまでには、どうしても時間がかかってしまいますね。

──確かに、個人的には待ち遠しいですが、そういうことを考えると仕方ないですね。では、次の品種目標についてお聞きできますか?

世間的なニーズは、皮ごと食べられる黒ブドウだと考えています。なので、例えば巨峰系の味を持った、皮ごと食べられて、露地栽培でも裂果しないものを目指しています。

ただ、自然のものなので、狙い通りに行くとは限りません。たとえ緑色のブドウでもシャインマスカットと明らかに違って、生産者や消費者からのニーズがあるものができれば、世に出そうと思っています。

──そのニーズというのはどこで判断していますか?

県の担当者や、安芸津にいらっしゃる生産者の方に雑談ベースで話を聞いています。「こういうブドウが欲しい」と言われることもあれば、こちらから「こんなブドウがあったらどうですか?」と聞くこともあります。

──近年は高温やゲリラ豪雨などの異常気象が続いていて、ブドウ栽培もより大変になっていると思います。育種の方向性に変化はありますか?

温暖化に関しては、意識して着色がいいものを選抜していて、例えばグロースクローネなんかがそうですよね。

ただ、露地という自然の環境で育てているので、その中でも安定しているものを選抜すれば、気象に合ったものが出てくると思います。

農研機構の育種について聞いてみた

──農研機構で行われている育種についてもお伺いします。先ほどはアメリカ系とヨーロッパ系のハイブリッドを育種しているとおっしゃいましたが、「アメリカ系とヨーロッパ系のハイブリッド」のような大きな枠組みの中で交配しているのでしょうか?それとも「この品種とこの品種を掛け合わせて欠点を克服しよう」というコンセプトを持って交配しているのでしょうか。

今は両方やっています。短期的・中期的・長期的な視点を持つようにしていて、例えば「この品質だと1代じゃ品種はでないだろう」といった交配も、大事にしています。

既存品種の特性を見た上で、色や香り、肉質などの欠点を改良し、弱点を補完するような交配をメインにしながら、常に先を見た交配もするようにはしていますね。

──それはいったいなぜですか?

ブリーダーからすると、1代でいい品種を出したい気持ちはあります。でも、それは民間の方々も同じですよね。そういった交配ばかりになると、結局できる新品種が似たようなものばかりになってしまいます。

長期的な目線で仕込みをしておくと、「この形質は意外とおもしろいね」とか、「この香りは今までにないよね」みたいな、多様性のある交配種が出てくるので、そういうところは意識しています。

農研機構がこれまで育種したブドウ品種たち

──年間でどれくらいの交配をするんですか?

種をまく数は、1年にだいたい4000粒ぐらいでしょうか。発芽後は遺伝子マーカーで選抜をしていて、目的に合ったものを育てています。

──すごい規模ですね。

品種育成に携わる研究員はブドウ・カキを合わせて5名しかいません。その他に、品種育成に関わる補助をしてくださる非常勤職員が3名、また圃場管理専門の職員が非常勤含めて11名いらっしゃるんですが、そういう方がいないと回りません。多くの方が関わって、サニーハートが生まれているんです。

今後も、多くの人の力を借りながら、みなさんに役立てるような新たな品種を作りたいと思っています。

東広島市にある農研機構ブドウ・カキ研究拠点では、カキの育種も並行して行っている

──ありがとうございました。最後に、サニーハートに期待している農家や消費者のみなさんに一言お願いします。

生産者の方に作っていただき、消費者のみなさんに届いて、多くの方が少しでも笑顔になって、楽しい時間を過ごしていただければ育種者として一番嬉しいです。サニーハートをどうかよろしくお願いいたします。

サニーハート試食

今回は試食用のサニーハートを用意していただいたので、最後に年間100房以上のブドウを食べている筆者によるレビューをお送りする。

食感はシャキシャキしていて、皮は噛みきりやすい。皮はシャインより薄く、果肉はややもっちりしている。

皮にはほんのり渋みがあるが、とくに気にならない。尾上上級研究員によると、「年によって、場所によっても渋味を感じるときがある」とのこと。

ほのかに酸味があり、さくらんぼのような印象を受ける。酸味はすっと消え、じわじわと甘味が残っていく。

花のような香りがあるとのことだったが、収穫後に貯蔵していたせいもあるのか、残念ながら筆者が食べたものは香りを感じなかった。独特の香りを感じることができなかったのは残念だが、甘酸っぱいブドウというのは近年珍しく、独自性のある特徴のように感じた。

広く万人に受け入れられるような品種かというと個人的には疑問もあるが、好きな人には間違いなく刺さる、強い個性のあるブドウという印象だった。

もちろん、この1回の試食だけでサニーハートのすべてがわかるわけではない。さまざまな農家が作ることによって、サニーハートもまた違った顔を見せてくれることだろう。

ひとりのブドウマニアとして、数年後を楽しみに待ちたいところだ。

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