突然変異から生まれた大学発品種
「ゆうだい21」の誕生は1990年にさかのぼる。教えてくれたのは、宇都宮大学地域創生推進機構社会共創促進センターで特任准教授を務める櫻谷満一(さくらだに・みつかず)さんだ。
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■櫻谷さんプロフィール 1990年農林水産省入省、科学技術庁(現文部科学省)国際協力官、農林水産技術会議事務局研究専門官、生産局生産専門官、東北農政局企画調整室長、生産局生産推進室長、東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科特任准教授等を経て、2017年より農研機構、NEDO、福井県立大学で農業・食品分野の産学官連携、研究マネジメント、戦略策定などを担当。2025年より現職。 |
「宇都宮大学附属農場の教育・研究用水田で、前田忠信(まえだ・ただのぶ)名誉教授がコシヒカリよりひときわ背の高い株を発見したことが始まりです。以降、選抜を重ね、2007年に品種登録出願。2010年に登録が認められました。登録からすでに16年が経過している品種ですが、当初より食味のよさや冷めても美味しい機能性が高く評価され、大手コンビニなどで使用されてきました。近年は食味コンクールなどで受賞を重ねるようになり、さらに知名度が急上昇。大学が開発したストーリー性から、『奇跡のお米』と呼ばれることもあります」。櫻谷さんは「ゆうだい21」の特徴についてこのように教えてくれた。
「近年、かずさDNA研究所との共同研究でゲノム解析を行ない、『ゆうだい21』の来歴が明らかになってきました。それによると、『ゆうだい21』の遺伝子背景は『コシヒカリ』ベースとなっており、数%、外国産系統の遺伝子が含まれていることが分かってきました。これらの遺伝子の中に『ゆうだい21』の優れた食味や貯蔵適性、高温下の栽培でも未熟粒の発生が少ない、といった特性に関連するものがあると考えられています」
偶然から生まれ、時間をかけて磨かれ、そしてようやく光を浴び始めた品種。それが「ゆうだい21」だ。
「ゆうだい21」の栽培特性:「癖がある」ことが強みになる

画像提供:宇都宮大学
「栽培適地はコシヒカリと大きく違いません。ただし、『ゆうだい21』の出穂は『コシヒカリ』よりやや遅く、収穫も若干後ろにずれます。そのため、『コシヒカリ』の後に『ゆうだい21』という作業体系を組みやすく、生産者は作期分散が可能です」
10aあたりの標準収量は540kg(9俵)。だが、圃場条件や管理によるばらつきは大きい。誰が栽培しても安定多収、というわけにはいかない。安定的に栽培するのは難しい品種なのだ。
「草丈はコシヒカリより約10cm高く、1穂籾数も多い。茎は硬く挫折倒伏は少ないですが、多肥にすれば倒伏のリスクも高まるし、台風や豪雨の影響も受けやすい。近年トレンドとなっている短稈・安定多収型品種とは対照的です。安定よりも個性が前に出る品種だと思います」
一方で、高温条件下でも登熟が良く、品質の劣化が少ない傾向がある。
「コシヒカリは高温条件下では乳白などの被害粒が増えやすいのですが、『ゆうだい21』は被害粒が少なく外観品質が優れる傾向にあります」
櫻谷先生は繰り返す。「『ゆうだい21」は“癖がある”品種。だから面白いのです」
「ゆうだい21」の粒形と食味……“尖った”米とはなにか?
「ゆうだい21」はコシヒカリに近い品種だが、品種特性を理解する必要がある。それでも「ゆうだい21」が注目を集めている理由は、もちろん全国の食味コンクールを席巻している“味”である。

画像提供:宇都宮大学
「ゆうだい21」は、粒が細長く、大粒である。炊き上がりを見ただけで違いが分かる。
「食味を一言でいえば、『柔らかく、粘りがあり、甘味が強い』ということ。食味の良さで圧倒的な個性を発揮します。消費者アンケートでは、『おかずがいらない』『塩むすびが一番美味しい』という声が多くありました。刺さる人には深く刺さる味だと思います」
ところで、お米の味(食味)とは、一体どういうものであり、どのように評価するのだろうか?
「食味の評価は、例えば日本穀物検定協会では、官能試験により外観・香り・味・粘り・硬さを評価します。一方、機器分析により、タンパク質・アミロース・水分・脂肪酸などの数値を出して評価することも行われています。米・食味分析鑑定コンクールでは、まず機械分析で選抜して、その後実食で最終評価を行っています。成分も重要ですがが、最終判断は人間が試食して行っています」
「ゆうだい21」生産者、阿久津農園の挑戦

画像提供:阿久津農園
その“癖”に真正面から向き合っているのが、栃木県大田原市で阿久津農園を営む阿久津政英(あくつ・まさひで)さんだ。
「私にとって、『ゆうだい21』は誇りです。この品種と出会ったことで、人生が変わりました。目指す基準が上がり、出会う人が変わり、挑戦する舞台も広がりました。本気で日本一を目指すきっかけとなってくれた品種です」と熱く語り始めた。
阿久津さんは、米・食味分析鑑定コンクール国際総合部門金賞、世界最高米原料米選出など、「ゆうだい21」での受賞歴は華々しいが、経営面積は9haに過ぎない。働き手は阿久津さんとお父さんの2名のみ。家族経営の小規模生産者である。
「『ゆうだい21』の栽培を始めた切っ掛けは、米・食味分析鑑定コンクールです。他の生産者さんが栽培した『ゆうだい21』が受賞したことを知り、食味の良さに可能性を感じました。地元栃木県の大学が開発した品種ということもあり、取り組むことにしました。農薬不使用0.3haでスタートしましたが、令和8年度産では9haのうち7haでゆうだい21を作付けし、うち3haは農薬不使用とします」

画像提供:阿久津農園
こうして手塩にかけたお米は、農協には出荷せず、個人への直販が2割。残りは直接取引で飲食店や米専門店、ホテルなどに販売している。さらに、首都圏の百貨店のほか、海外(ニューヨーク、ロサンゼルス)にまで販路は拡大している。
「販路の多くは、人のご縁によるものです。共感してくださる方が紹介してくださり、ここまで来ることができました」と、阿久津さんは謙虚に語る。この人柄と、もちろん「ゆうだい21」の優れた食味が、阿久津さんの人生を変えて行ったのだろう。
「ゆうだい21」に取り組むうえでのメリット・デメリットを尋ねると、即答だった。
「最大の魅力はポテンシャルの高さ。粒が大きく、粘り・甘み、旨味の余韻が長い。しっかり管理すれば、他品種では出せない味に到達できると感じています。一方で、『ゆうだい21』は扱いやすい品種ではありません。背丈が伸び、穂が重くなる。育苗期からきめ細かな管理が必要です。肥培管理や水管理を誤れば、結果に直結します」
それでも、この“癖”こそが「ゆうだい21」の魅力であると、阿久津さんは言葉を続ける。「圃場をよく観察し、対話するように栽培する人に応えてくれる。誤魔化しが効かない品種です。だからこそ、本気で向き合う生産者にとっては誇りになるのです」
「ゆうだい21」は、作り手の技術と覚悟が、そのまま味になる。「誤魔化しが効かないんです」、という阿久津さんの言葉に、「ゆうだい21」のすべてが詰まっている。
「ゆうだい21」は中山間地と好相性
櫻谷さんは、こうも語った。「一般に、お米は昼と夜の温度差が大きいと美味しくなると言われています。それに加えて、『ゆうだい21』は、中山間の高地では草丈が伸びにくいので作りやすいとの声も寄せられています。中山間で『ゆうだい21』のポテンシャルを最大限引き出し、良食味を追及してブランド化に取り組みたい地域、米生産者には、向いているのではないでしょうか」
大規模生産者にとっては扱いにくいかもしれない。しかし、中山間地での栽培条件を活かし、ブランド化、差別化を目指す米生産者には「地域の宝」になる可能性を秘めている。
「実際、福島県天栄村などでは特産化を進めており、地域の特産品や町おこしの事例も生まれています」
普及の課題と将来展望:「知る人ぞ知る」から「誰もが知るお米」へ。
櫻谷さんによると、現在「ゆうだい21」の全国での作付面積は約1,000haであるという。随分あるなと思ったが、普及に当たってはいくつか課題もあるそうだ。
「日本全体でみると約0.1%のシェアもありません。それには幾つか理由があります。まず、近年、種子生産が需要増に追いついていない状況にあります。まずは、しっかり種子の供給をしていかねばなりません」
また、「ゆうだい21」の生産者は全国に点在しており、そのほとんどが小規模。大ロットの流通に乗りにくいため、直売をしたり、地域の米穀商や飲食店、ホテルなどとの直接取引が中心となっているという。
「お米屋さんにしてみると、『町のお米屋さんに行かないと買えない特別なお米』というポジションが逆に集客力を生んでいる、とも言えますが、私達としては、もっと多くの人に知ってもらいたい、使ってもらいたい、とも考えています。そこで、米生産者と米穀商とのマッチング支援などの取り組みも始めました。知る人ぞ知るお米から、食べたい人が手に入れられるお米にしたいのです」
大ロット、大量流通ではない「ゆうだい21」ならではの流通・販売があるのかもしれない。例えば、中山間地域などでの特産化もその1つであり、生産者と販売者、それに消費者が、お互いの顔が見える関係でつながる生産販売だ。
宇都宮大学では普及活動の一環として、「ゆうだい21」の専用ホームページを開設している。栽培マニュアルが公開されているほか、「ゆうだい21栽培ホットライン」と名付けた仕組みを用意。栽培に関しての疑問・質問などに、大学が徹底サポートする。

画像提供:宇都宮大学
また、宇都宮大学は「ゆうだい21」のロゴマークを商標登録しており、これを米生産者、販売者に無償提供して、「ゆうだい21」の普及・広報活動を推進している。「ゆうだい21」ロゴマークを利用した米袋のパッケージデザインも使用できる。
「生産量もまだ少ないので、画一化された市場=大規模流通では扱いにくいのは、仕方ない面があります。それでも現代は多様化が進んでいますから、「ゆうだい21」のような個性をもつ美味しいお米は、確かな支持を得ることができるはずです」(櫻谷さん)
米価が激しく上下し、農政が定まらず、中山間地の持続可能性が問われる今、「ゆうだい21」は安定や効率ではなく、付加価値の高い米作りに挑む米生産者に応えることができる品種なのではないか。「ゆうだい21」は、中山間地の米生産者に、「これから、どう生き抜くのか」という問いを投げかける存在なのかも知れない。

















