農家になることを反対されても使命感に突き動かされる

小松菜や水菜を栽培する北村毅さん。様々な栽培方法に挑戦している
「曾祖父が狭い土地で野菜を栽培し、栽培した野菜は行商で販売しました。行商で増えた土地を戦争から復員した祖父が開墾し、農業を営んでいました。父は農業とはいっさい関係ないサラリーマンで、その父の反対を押し切って農家になりましたが、今は全面的に応援していただいています」と笑う北村さん。北村さん自身も、就農前はリゾート関連企業に勤務していました。転機となったのは米不足が騒がれた27年前のこと。
(北村さん)「当時、タイ米が混ざっていても気づかないほど食に無頓着な人間でした。これではいけない。もっと食を大切にしなければと思い、就農を決意しました。祖父が大切に守ってきた農地がせっかくあるのに放棄するわけにはいかないとも思ったのです」。
まず祖父の土地を借りて小松菜やほうれん草、モロヘイヤ、大根などを育て始めます。その後徐々に規模を広げ、現在はおよそ1haのハウスを経営しています。
主力野菜の小松菜は、この地域で69軒の農家が栽培し、生産部会が存在する一方、水菜は、暑さに弱かったり、手間がかかったりすることから生産者が次々と離れ、今では北村さんただ1人が守り続けています。

このエリアでは北村さんのみが生産している水菜。有機栽培にこだわっている
「1人だからこそ、自由にチャレンジができる」と常に前向きな北村さん。この身軽さを逆手に取り、有機栽培に踏み出します。
紫外線の乱反射でアザミウマを防ぐ『虫フラッとネット』
北村さんは、5年ほど前から、一部のハウスで農薬や化学肥料に頼らない有機基準に基づいた栽培に取り組み、公的な有機JAS認証の取得を目指しています。ハウスが密集する地域の特性上、隣接ハウスとの距離基準をクリアし、周辺農家の理解を得る必要があり、現在も準備期間と位置付けています。まずは水菜から手がけ、現在は小松菜にも拡大。しかしここで最大の壁となったのが、アザミウマやコナジラミなどの微小害虫被害です。
(北村さん)「LEDの光の波長で虫を忌避するライトを導入したものの、あまり効果が見られませんでした。2024年5月には水菜がアザミウマの被害を受け、一時はその圃場での有機栽培の実証を諦めかけたんです。その時に担当の資材業者から紹介してもらったのが『虫フラッとネット』でした。以前から周囲に害虫対策の防虫ネットが欲しいと話しており、ようやく出会えた商品でした」。
UV反射糸を使用した次世代型防虫ネット『虫フラッとネット』
小泉製麻株式会社の防虫ネット『虫フラッとネット』は、紫外線を乱反射させる特殊な糸構造が最大の特徴です。昆虫は、太陽光や紫外線を背中で感知して飛行方向を保持しているといわれています。そこで、このネットが横や下方向から紫外線を乱反射させることで方向感覚を失い、落下してしまうという仕組みです。


ハウスの側面に張り巡らされた『虫フラッとネット』
小泉製麻株式会社の渕本知佳子さんは「このネットは、『IPM(総合的病害虫管理)』の実践において効果を発揮します。紫外線を利用して飛行する昆虫に効果があり、アザミウマをはじめ、コナジラミへの防除も実証済みです。糸自体にも薬剤成分を含まないため、北村さんが実践する有機栽培との親和性も高くなります。」と、薬剤に頼らない防除方法の一つとして、原理が分かりやすいため様々な農家さんにお薦めしたいといいます。

小泉製麻の渕本知佳子さん(左)
北村さんは『虫フラッとネット』を2025年10月に導入してからまだ4作目のため効果はこれからといいつつも、導入以前と比べて既に効果を実感し始めているようです。「今の時期は暑すぎるので虫の活動も少ないが、むしろ涼しくなってくるこれからの時期にどれだけ効果が出るのか期待したい」と語ってくれました。
ただ、地域内では『虫フラッとネット』を知る農家はいるものの、それほど普及していないのが現状です。
(北村さん)「害虫忌避を謳った防虫ネットはありますが、害虫の種類によっては十分な対策が難しく、特にネギアザミウマへの対応には課題を感じていました。害虫が入り込んでしまうと被害が大きく、消毒などの手間もかかります。あらかじめ侵入を防ぐ手段としての『虫フラッとネット』は紫外線を利用している原理も大きな特徴だと思います。本当の効果がわかるのは10月ですが、期待できるものだと思っています」。
若者が安心して農業を続けられるよう土台作りが最大の役目

現在5棟のハウスに「虫フラッとネット」を設置している
「乗り遅れたくない」。北村さんが、有機栽培にいち早く取り組むのも、普及前の資材を導入するのも、年に2、3回は全国の有機栽培産地を視察に訪れるのも、この地域の農業が、時流から遅れないようにしたいという強い思いからです。
「まずは何でも自分で試してみて、良ければそれでよし。ダメだったらリベンジしたくなる」と北村さん。指導農業士としてGAPに関して学ぶ学生の受け入れや指導にもあたり、環境負荷を減らす農業計画を立てた事業者が認定される「みどり認定」も水菜で取得。次世代の育成にも積極的に取り組んでいます。
(北村さん)「産地の平均年齢は59歳です。地域の若い人たちが、ちゃんと儲けて続けているように、自分の代でその土台を作っておきたいのです」。
まさにこのエリアの農業の牽引役を担っている北村さん。日頃から資材メーカーや業者が持ち掛ける提案に、丁寧に話を聞く姿勢を大切にしています。特に手間のかかる水菜も、ただ1人作り続け、他産地より高い価格で市場と全量契約を締結。その行動力と丁寧な栽培、さらに情報収集の姿勢は、JAをはじめ地域の農業仲間からも高く評価されています。

小泉製麻の稲澤さん・渕本さんからの資材の紹介に興味津々な北村さん
(北村さん)「有機栽培に限らず、周辺の慣行栽培ハウスへも順次ネットを広げ、農薬や肥料代、人件費の削減に繋げたいと思っています。目標は有機JAS認証の取得です。取得後は契約出荷による付加価値販売を実現させ、その成功例を示すことで、地域の若手農家の有機栽培や減農薬栽培での販売戦略の立案を視野に入れています。一方でハウス内の高温対策に関しては、ハウスの立地的に風が通りにくいこともあり、遮光・遮熱ネットとの併用も視野に入れています」。
(稲澤さん)「弊社の別商材に『虫フラッとシート』や遮熱シート『涼風』もあります。更なる効果のために、こうした他の資材との組み合わせも一緒に提案して、試行錯誤していきたいと思います」。
1日として同じ条件下にはない圃場。資材の効果は諸条件によって大きく変わります。メーカーの実験値ももちろん参考にしますが、実際に圃場で使ってみて、自分の目で確かめたいと北村さん。慎重な検証の姿勢を忘れず、地道に試行錯誤を続ける北村さんに、産地の未来の担い手としての覚悟が強くにじんでいました。
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