前回の記事「ふかふかを目指す! 家庭菜園の土作りでまずやるべきこと」では、土作りの中でも主に「物理性」について解説しました。水が抜けない、土が硬い、根が伸びない。こうした問題がある畑に、いくら堆肥や微生物資材を入れても、根本的な解決にはなりません。
前提として、排水不良の問題を堆肥だけで解決することは難しいことを頭に入れておきましょう。
堆肥の効果とは
堆肥というと「有機肥料の一種」というイメージがあります。牛ふんのことを肥料と呼ぶ人もいるほどですし、実際、江戸時代の文献などでは「肥料」という単語と同義で「糞(こえ)」と記されていますから、それ自体は間違いではありません。
しかし、堆肥の役割を肥料だけで考えると、かなり本質を見失います。
堆肥には土壌の物理性・化学性・生物性の三つを改善する作用があります。
一つ目は物理性の改善です。堆肥が団粒構造の形成を助け、土壌の保水性と排水性の改善に貢献します。ちなみに、団粒構造の効果について「ビチャビチャの水たまりができる畑が、水はけのよい畑に変わる」という捉え方をすると少し違います。すーっと土が染み込みやすい土に変わる、と表現した方が適切でしょう。
二つ目が化学性の改善です。土壌中の有機物は表面に多数の陰イオン(マイナスの電気)を持つため、カルシウム、マグネシウム、カリウム、アンモニウムなどの陽イオン(プラスの電気)を引き付けて保持できます。そのため有機物が増えることで、土の養分保持能力が高まることがあります。
さらに堆肥そのものにも窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが含まれています。これらの植物にとって有用な化学的成分を指して、堆肥を「肥料」と表現しているのです。
そして三つ目が、生物性の改善です。これが今回もっとも重要です。
自然界の仕組みを知ろう
堆肥の役割を理解するには、自然界の仕組みを知っておくとよいでしょう。森の中では、誰も毎年肥料をまいていませんが、何十年、何百年と木が育ち続けていますよね。
植物はまず、空気中の二酸化炭素を光合成のために取り込みます。太陽のエネルギーを使って炭素を固定し、糖を作り、それを材料に葉や枝、幹、根を作ります。
やがて葉は落ち、枝は折れ、植物そのものも死にます。落ち葉や枯れ木は、菌類や細菌、土壌動物によって分解されます。
そのうちの炭素の多くは最終的に再び二酸化炭素となって大気へ戻ります。しかし一部は土壌有機物として残り、微生物の餌になったり、土の粒をくっつけたりしながら、森の土壌を形作っていきます。

【植物が育つ→死ぬ→微生物によって分解される→土ができる】
森ではこの循環が延々と続いています。

ところが畑では、「収穫」という作業により、本来の自然の循環を人間が断ち切ってしまっています。
植物が大気から取り込んだ炭素も、土から吸収した窒素もリンもカリウムも、収穫物に含まれた分だけ畑の外へ出ていきます。
そこで畑に必要となるのが堆肥。農業によって失われた有機物を土へ戻し、自然界の物質循環を補います。
有機物そのものが必要なわけではない?
では、その有機物の中身と役割について考えてみましょう。
18世紀から19世紀初頭には、植物は土の中の腐植(微生物によって分解された有機物)を直接吸収して生長するという「腐植説」が有力でした。
ところが19世紀になり植物の栄養研究が進むと、植物が必要としているのは腐植そのものではなく、窒素やリン、カリウムなどの無機的な栄養元素であることがドイツの科学者リービッヒなどにより明らかになってきました。

だから極端な話、土がなくても植物は育てられます。水耕栽培がその証拠で、水と光と二酸化炭素があり、必要な無機元素を養液として与えてやれば、トマトでもレタスでも立派に育ちます。
その延長線上で開発されたのが化学肥料です。
では、堆肥はいらない?
ここで一つの疑問が出てきます。植物に必要なのが無機成分なら、化学肥料だけ入れておけばいいのではないか。
しかし、それはちょっと違います。水耕栽培のように隔離された空間で完全に制御するのであればそれでいいのですが、自然界の力を活用するのであればまた話は変わります。
実際に堆肥を入れずに育てていると、徐々に畑の土は痩せ、肥料を入れてもすぐに流れて、生長が悪くなります。
土というものを単に「植物を立たせておく茶色い粉」だと思えば、化学肥料だけ与えておけばいいように思えますが、実際の土は、ものすごく複雑です。
目に見えない細菌、菌類、原生生物などの微生物や、線虫、ダニ、ミミズなどが暮らしていて、それらが有機物を分解し、微生物が養分を無機化し、別の微生物がそれを利用し、植物の根から出た有機物をまた別の微生物が食べる。
土は複雑で巨大な生態系だったのです。

植物は腐植を直接食べて生長しているわけではありません。しかし腐植や有機物は、植物が根を張る「土」という環境そのものを支えています。
水を保持したり肥料成分を保持したり、土壌粒子を団粒化したり。こういった分かりやすい「ふかふかの良い土」とは、有機物(炭素)を餌にした微生物の活発な働きによるものだったのです。
つまり堆肥とは、単なる「天然の肥料」ではありません。
先ほど収穫により失われた有機物を土へ戻すと話しましたが、それだけでなく微生物の動きを活発にし土本来の生態系を改善する役割も担っているのです。これが三つ目の「生物性の改善」です。
C/N比で堆肥の特性を見る
堆肥と一口に言ってもその効果は多岐にわたります。堆肥や有機物の特性を見るとき、目安になるのが「C/N比」です。これは炭素と窒素の比率で、つまり有機物質と化学的肥料成分の比率をイメージすると分かりやすいかもしれません。
C/N比は販売されている堆肥の袋に記載されているので確認してみてください。
C/N比が高いほど炭素が多く、分解はゆっくりですが、そのかわり長期的な土作りの効果は高いです。逆にC/N比が低いほど炭素が少なく、土作りの効果は低いですが、窒素が多い分、その年の肥料として効きやすくなります。
ざっくり言えば、
C/N比が高い=土作り寄り
C/N比が低い=肥料寄り
と考えると分かりやすいです。
もみ殻や腐葉土はC/N比が高く、分解が遅いため、肥料と考えてはいけません。むしろ肥料分としてはマイナスで、これだけの有機物を分解するために微生物が周囲の窒素を消費するので、一時的に肥料不足になることすらあります。主に、土に有機物(炭素)を補う資材です。
馬ふんや牛ふん堆肥は中間で、土作りと肥料の両方の性格があります。特に牛ふん堆肥は、家庭菜園で使いやすい代表的な堆肥です。
米ぬかや生ごみ堆肥はC/N比が低く、微生物に分解されやすい資材です。
豚ぷん、鶏ふんになるとさらに肥料成分が多くなり、特に鶏ふんは堆肥というより、かなり短期的な即効性肥料に近い資材と考えた方がいいでしょう。土作り効果は低いですが、その即効性から、有機栽培農家などは追肥に鶏ふんを利用することも多いです。
つまり「堆肥を入れる」と言っても、何を入れるかで意味は大きく違います。
炭素を補いたいのか、肥料を補いたいのか。目的によって使い分ける必要があります。
※ C/N比はあくまで目安です。実際の分解速度は、リグニンなどの成分や腐熟度、水分などでも変わります。
ここまで見てきたように、堆肥の違いは、微生物へどのような餌を供給するかの違いとも言えます。では、その微生物そのものを畑へ投入したらどうなるのでしょうか。
堆肥の代わりに微生物を入れるのはダメ?
堆肥はあくまで微生物のご飯であり(窒素は微生物のおかずと表現されることもあります)、土作りの主役は微生物なのだから、堆肥ではなく微生物そのものを畑に投入したらいいのでは?と考える人も多いようです。実際に微生物を配合した菌資材もたくさん販売されています。
しかし、効く菌は存在しますが、「良い菌を土に入れれば増えて働く」と考えるのは単純すぎます。
菌株そのものに植物の生育を促進する能力があっても、その菌がその畑で生存できるか、根に到達できるか、すでにいる微生物との競争に勝てるか、目的の物質を十分に作れるかは別問題です。
根粒菌(空気中の窒素を固定する微生物)のように長い成功実績を持つ特定の微生物がある一方、それ以外の多くの菌資材では、実験室や温室で見られた効果が圃場(ほじょう)で安定して再現されないことが科学的な問題としてよく挙げられています。
では、なぜ圃場では再現性が低いのでしょうか。
この理由を示してくれたのが、ホウレンソウ萎凋(いちょう)病に対して有機質資材を施用したとある日本の研究です。発病抑制に関係していたのは、資材そのものに含まれていた微生物そのものよりも、資材を投入したことによって活性化した「もともと土にいた微生物」である可能性が高いことが示されたのです。
この違いは非常に重要です。
植物の根や有機物がある畑の土には、細菌、菌類、放線菌、原生生物など、膨大な数の微生物がすでに暮らしています。
そして重要なのは、その「数」だけではありません。
ある菌が別の菌の増殖を抑えたり、ある菌の作った物質を別の菌が利用したり、植物の根から出てくる糖やアミノ酸をめぐって競争したりしています。土の中では、私たちが想像する以上に複雑な生態系がすでに成立しているのです。
だから、「菌が足りないから、外から良い菌を足そう」という単純な話ではありません。むしろ重要なのは、すでにいる微生物たちが働ける環境、つまり生態系を整えることです。
土作りは生態系作り
ここまで話した通り、私たちが管理しているのは1種類の菌ではなく、生態系です。だから土作りで先に見るべきなのは、微生物が生きていける環境です。水がたまっていないか、pHは適切か。有機物は十分にあるか。その環境を整えるための手段として、堆肥や菌資材などの投入を検討していきましょう。
ふかふかの土は、何か特別な資材によって生まれるわけではありません。微生物が働きやすい環境を整え、その活動を支える有機物を補うことによって作られていくのです。


















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