地域の課題
約400年続く「白川茶」の産地

三川和紅茶振興協議会が活動する岐阜県加茂郡白川町は、緑茶の生産地としては日本でも比較的北に位置している。山間部のため霧が発生しやすく、昼夜の寒暖差が大きい環境が、茶葉の生育に適した条件を生み出している。
栽培品種は「やぶきた」が中心で、香りの高さや、ほどよい渋みと甘み、すっきりとした後味が魅力だ。全国のお茶の生産量に占める割合は約0.3%とされ、希少性の高い地域産品でもある。
一説には、約600年前にこの地域へお茶が伝わったともいわれている。そんな長い歴史を持つ白川茶であるが、茶業を取り巻く環境は厳しさを増している。煎茶市場の縮小に加え、生産者の減少と高齢化が進み、地域で茶づくりを続ける担い手が不足しているためだ。
現在の生産体制は、兼業の生産者を中心とした小規模なものである。生産者の多くが茶業以外の仕事も担っているため、茶葉の刈り取りなどが集中する5月から7月には、作業に必要な人手を確保しにくい。また、夜間作業への対応も課題となっている。茶の生育状況や天候に合わせて作業する必要があるため、作業日程を事前に固定することが難しく、繁忙期に柔軟に対応できる人材を集めにくいことが原因だ。さらに、お茶だけで安定した生計を立てることが難しいため、若い世代が茶業を職業として選び、地域に定着することも容易ではない状況という課題がある。
取り組み内容
和紅茶を新たな成長分野に
そんな三川地区では、約20年前から和紅茶の生産を開始した。白川町のなかでも三川地区の生産者がつくる和紅茶は、生産量が年間300キログラムほどの希少な商品である。
煎茶需要が縮小し、生産者や担い手が減少するなか、三川和紅茶振興協議会は、伝統ある白川茶を将来に残すためには、従来の煎茶だけに依存しないことが重要だと考えた。
そこで、白川茶の栽培技術や産地の環境を生かしながら、需要が伸びている和紅茶を新たな収益の柱として整備している。
ブランドと商品基盤の整備
具体的な取り組みとしては、和紅茶の価値を伝えるためのパッケージや販促物、ホームページなどの整備だ。高級和紅茶ブランド「発酵和茶 Trinitea」を開発し、白川茶の産地背景や生産者の思いを含めたブランドづくりを進めている。茶葉そのものの品質だけでなく、どこで、誰が、どのような環境でつくっているのかという物語も商品の魅力として発信している。そのため、白川町の自然環境、約400年にわたる茶づくりの歴史、三川地区で生産される希少性などを整理し、高級志向の商品としてPRを行なう。

さらに、消費者とつながり茶業や地域を知ってもらう入口としてとして、体験ツアーも検討している。今後は、ツアー参加後の商品購入やECでの継続購入、再訪、イベント参加などへつながる仕組みづくりも進めていく予定だ。今後の活動には生産者や生産組合だけでなく、町のお茶関係者の新たな協議会やコンサルタント企業なども関わり、複眼的な視点で和紅茶および白川茶の展開を行なっていく。
取り組みの成果
和紅茶を地域の成長商品として確立
ブランド化の取り組みにより、和紅茶は三川地区における新たな成長商品として位置づけられるようになった。
今では、国内外の展示会や百貨店のポップアップストアへの出店を行ない、これまで接点のなかった消費者や事業者に商品をPRする機会が生まれた。海外では、フランス、イタリア、オーストラリアなどへの展開を視野に入れ、台湾やマレーシアの展示会にも参加している。すぐに取引へ結びつかない場合でも、商品の反応や市場のニーズを把握し、今後の改良や商談につなげる見込みだ。海外展開の条件となるHACCP認証の取得に向けた準備も始まり、輸出に向けた基盤づくりが進んでいる。
さらに、地域おこし協力隊や若手移住者、シルバー人材センターとの連携が生まれ、地域内外の協力関係が生まれたことも大きな成果だ。生産者だけでなく、地域外から移り住んだ人や、地域の経験豊かな人材が関わることで、繁忙期の作業を支える可能性が広がった。また、販売、情報発信、イベント運営など、茶づくり以外の分野でも新たな力を取り入れられるようになっている。
さらに、百貨店催事やクラウドファンディングを通じて、商品を購入する人だけでなく、白川茶や地域の取り組みを応援する支援者との接点も生まれている。地域産品の継続には、販売先を増やすことに加えて、商品の背景を理解し、何度も購入してくれるファンの存在が欠かせない。和紅茶を入口に、白川町や三川地区そのものに関心を持つ人を増やすことが、今後の地域づくりにもつながっていくはずだ。

他の地域で参考にすべきポイントとは
伝統産業に新たな市場を組み合わせる
三川和紅茶振興協議会の取り組みで参考になるのは、伝統を守ることと、新たな市場を開拓することを両立させている点だ。
第一に、既存産業の技術や資源を新たな市場に生かす点である。地域産業の再生では、まったく新しい事業を始めるだけでなく、既存産業が培ってきた技術や地域資源を、別の市場に展開する方法がある。三川地区では、長年培われてきた茶栽培の技術と、霧や昼夜の寒暖差が大きい地域特性を和紅茶に生かしている。地域に蓄積された強みを見直し、需要の変化に合わせた商品へ応用することが重要である。
第二に、商品だけでなく、地域の価値を含めて発信する点である。地域産品の価値は、品質や機能だけで決まるものではない。産地の歴史、自然環境、生産者の思いなども、商品の魅力を構成する重要な要素である。商品の背景を整理し、パッケージ、ウェブサイト、販売現場などで一貫して伝えることで、大量生産品との差別化が可能になる。地域の物語を商品設計に組み込むことは、高付加価値化を目指す地域にとって有効な方法である。
第三に、販売機会を継続的な関係づくりの入口として活用する点である。展示会、百貨店のポップアップ、体験ツアー、クラウドファンディングは、販売や集客のためだけの場ではない。購入者や参加者と、継続的な関係を築くための入口にもなり得る。重要なのは、最初の接点を一度きりで終わらせず、再購入、再訪、情報発信、継続的な支援などにつなげる仕組みを整えることである。地域外の人を一度呼び込むだけでなく、長期的な関係人口へ育てる視点が求められる。
第四に、多様な人材の役割分担と、将来の取引を見据えた体制整備を並行して進める点である。生産者が減少する地域では、少数の担い手にすべての仕事を集中させないことが重要である。生産、加工、販売、広報、商談、衛生管理などの役割を分け、それぞれの分野で地域内外の人材と連携することで、小規模な組織でも事業を継続しやすくなる。
また、新しい市場への営業活動と、品質管理、衛生管理、供給量、納期などの内部体制の整備を同時に進める必要がある。特に海外展開を目指す場合、商品を紹介するだけでなく、継続的な取引を支える仕組みを早い段階から整えることが重要である。
白川茶の伝統を、次の世代へ
三川和紅茶振興協議会が目指しているのは、和紅茶を販売することだけではない。約400年続く白川茶の歴史と技術を受け継ぎながら、市場の変化に対応した新しい商品と働き方をつくり、地域で茶業を続けられる環境を整えることである。
山間部の霧や寒暖差に育まれた白川茶。その茶葉から生まれる和紅茶は、地域の歴史と未来をつなぐ存在になりつつある。これらの取り組みを積み重ねることで、白川茶の価値を守りながら、三川地区の産業と関係人口を育てていくことにつながるはずだ。
▼問い合わせ先
三川和紅茶振興協議会
https://www.yorisuguri.net/
会長:纐纈(こうけつ) 雄貴
koketsu.sky@gmail.com















