【プロフィール】
■前田茂雄さん
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前田農産食品株式会社 代表取締役 東京農業大学卒業後、テキサスA&M大学、アイオワ州立大学で米国の大規模農業経営や流通を学ぶ。1999年に前田農産食品合資会社に入社。2016年に国内初の電子レンジ専用ポップコーンの商品化を実現。農業生産に加え、加工・販売までを一体的に手掛ける経営を展開している。 |
■岩佐大輝さん
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株式会社GRA 代表取締役CEO 起業家。1977年宮城県山元町生まれ。大学在学中にITで起業。2011年には東日本大震災で甚大な被害を受けた故郷の復興を目的にGRAを創業。ひと粒1,000円の「ミガキイチゴ」を生み出し、日本におけるアグリテックスタートアップの先駆けとなる。現在もGRAグループ代表として農業の変革に取り組む傍ら、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(EMC)教授として次世代の起業家育成や、農業経営・地域創生に関する学術研究にも力を注ぐ。著書に『絶対にギブアップしたくない人のための 成功する農業』(朝日新聞出版)など多数。 |
6次化を始めたワケ
岩佐:今日は北海道十勝の本別町にある前田農産食品にやってきました。前田さんは小麦の大規模生産で知られる農業経営者ですが、ポップコーンの6次産業化にも取り組んでいます。今回は、農業生産から加工、販売までをどのように事業として成立させてきたのか、その戦略を紐解いていきたいと思います。
まず、栽培面積はどのくらいでしょうか。
前田: 約150ヘクタールです。十勝では小麦などの畑作を中心に経営してきました。
岩佐:なぜポップコーンの栽培を始めたのでしょう。
前田: 冬場の雇用を確保するためです。北海道の農業は、12月から3月ごろまで農作業が少なくなります。農業法人として雇用を維持するには、年間を通して仕事をつくる必要がある。そこで、別の作物を生産し、加工によって付加価値をつけることを考えました。
岩佐:地域に新しい仕事をつくる。その手段としてポップコーンを選んだわけですね。
前田: そうですね。自分たちが農業をやる以上、誰かに喜んでもらいたいという思いもあります。僕は人を楽しませることが好きですし、地域の農地や農業のインフラ、十勝らしさを生かして、何か挑戦した証を残したい。そう考えたときに、ポップコーンが自分らしい事業だと思ったんです。

前田農産食品のトウモロコシ畑にて
世界で一番まずいポップコーン
岩佐:ポップコーン用のトウモロコシは、普段食べているスイートコーンなどとは品種が違うんですよね。
前田: ポップコーン用のトウモロコシは、加熱すると粒がはじけて膨らむ性質を持っています。まずは、十勝の冷涼な気候で栽培できる品種を探す必要がありました。品種によって弾け方も違いますから、複数の品種を試しながら適したものを探していきました。
岩佐:栽培そのものにも工夫が必要だったんですね。
前田: 初年度は5ヘクタールほど作付けしました。当時、うちには約120ヘクタールの農地があり、輪作体系を考えると、ある程度まとまった面積で取り組む必要があると考えたんです。
ところが、マルチを使わずに栽培したところ、黒っぽいトウモロコシができてしまって。スタッフと食べてみて、世界で一番まずいポップコーンだな、と。商品として売り出すのは難しい状況でした。
2年目にはマルチを使い、ようやくきれいな黄金色のトウモロコシができました。ところが、今度は乾燥機で温度を上げすぎてしまい、うまく弾けなかったんです。
岩佐:農産物をつくることと、商品として成立させることは別の難しさがありますね。
前田: そうなんです。3年目には、小麦の規格外品とポップコーンを混ぜて乾燥する「穀物混合乾燥」という方法を試しました。そうすることで、きちんと弾けるポップコーンをつくれるようになってきたんです。
栽培を始めたのが2013年で、販売を始めたのが2016年。販売が安定してきたと感じるまでには、さらに時間がかかりました。

収穫したポップコーン用のトウモロコシ
販路開拓のきっかけはカルディ
岩佐:現在の事業規模についても教えてください。
前田: 会社全体の売上高は約4億円で、そのうちポップコーンが約2億円を占めています。
岩佐:売り上げの半分ですか。それはすごいですね。農家が副業的に加工品をつくるという規模ではなく、経営の柱になっています。
前田: そうですね。昨年のポップコーンの製造数は約118万個で、約100万個販売しました。
岩佐:そこまで成長させるには、相当な投資も必要だったと思います。
前田: これまでの総投資額は、全体で約5億円になると思います。加工施設の整備にも大きなお金をかけました。
岩佐:投資したお金を回収するには、売り上げだけでなく、利益を確保することも重要です。6次産業化では売り上げが伸びても、加工設備や人件費、販売経費がかさみ、利益が残らないケースもあります。
前田: そこは非常に重要です。6次産業化を継続するには、利益が2~3割程度残るような体質にしていく必要があると思っています。もちろん、減価償却を何年で取るかによっても変わります。
それから、売れれば売れるほどいいというわけでもありません。急に売れて在庫がなくなり、取引先に商品を届けられなくなったら、信頼を失ってしまいます。だから、製造量や販売量をコントロールすることも大切です。
岩佐:農業生産とは違って、加工・販売は、設備や在庫、取引先との関係まで考えなければならない。経営管理の重要性が増しますね。
前田: そうですね。ポップコーンは、収穫してすぐに売り上げになるわけではありません。収穫したものを保管し、加工して袋詰めし、販売して、ようやくお金が戻ってくる。場合によっては1年半ほどかかることもあります。つまり、その間の運転資金も必要になります。生産だけを考えていたときとは違う資金繰りの難しさがあります。

岩佐:商品をつくっても、買ってくれる人がいなければ事業にはなりません。販路はどのように開拓していったのでしょうか。
前田: 最初のころは、本当に売れるかどうかも分かりませんでした。
転機の一つは、商談会でカルディコーヒーファームのバイヤーと出会ったことです。そこで商品を取り扱ってもらえるようになりました。
岩佐:カルディでの取り扱いが、その後の営業にもつながった、と。
前田: そうですね。商談では、すでにどこで販売されているのかを聞かれることがあります。カルディは、バイヤーさんも顧客ターゲットや価格帯をイメージしやすいんだと思います。
その後、コープさっぽろなどの生協や、北海道内のお土産店にも販路が広がっていきました。取引先が増えることで、別の取引先にも紹介しやすくなります。
岩佐:一つの販路を開拓することが、次の販路を開く信用につながるわけですね。商品の品質や生産体制を示す仕組みも整えてきたのでしょうか。
前田: はい。2015年にGLOBALG.A.P.の認証を取得し、加工場についても2017年に北海道HACCPの認証を取得しました。安全性や品質管理の仕組みを整えることは、取引先との信頼関係を築くうえでも重要です。

前田農産食品の「十勝ポップコーン」
自分たちで考える現場の仕組み
岩佐:加工場を見せていただきましたが、設備の配置や作業工程にも工夫がありました。こうした仕組みは、どのようにつくってきたのでしょうか。
前田: 工場のレイアウトや機械の設置も、自分たちで考えています。農業機械のメンテナンスも、できることは自社で対応しています。
岩佐:現場で起きた問題を外部に任せきりにせず、自分たちで原因を理解して改善する。そうすることで、ノウハウが社内に蓄積されていくんですね。
前田: 作業の工程管理も細かく整理しています。どの作業を誰が担当するのか、どんな目的で行うのか、どのトラクターや道具を使うのか、どの免許が必要なのか。そうした情報を分かるようにしています。
岩佐:人が増えたり、担当者が変わったりしても、作業を進められる仕組みをつくっているわけですね。
前田: はい。もう一つ取り組んでいるのが「モヤモヤ改善会議」です。例えば、「この場所の掃除は誰がするのか」「この作業はどちらが担当するのか」といった、日々の小さな疑問を解消するための会議です。
トヨタのOBの方に入ってもらい、コンサルティングを受けながら進めています。
岩佐:大きな経営課題だけでなく、現場の小さな曖昧さをなくしていく。組織が大きくなるほど、そうした仕組みが効果を発揮しますね。

地域の課題を解決できる次世代を育てる
岩佐:ここまでのお話を聞くと、前田さんの6次産業化は、単純に新しい商品をつくって売り上げを増やすという取り組みではないことが分かります。改めて、ポップコーン事業を通じて実現したいことは何でしょうか。
前田: 根底にあるのは、この町に雇用を残したいという思いです。北海道の農業は、これから担い手が減っていきます。農家が減れば、残った農家がより広い面積を担うことになります。しかし、規模を拡大すれば、機械も人も必要になります。人が集まらない地域で雇用を増やすのは簡単ではありませんし、農業機械も高額になっています。
岩佐:規模拡大だけでは、地域農業を維持できなくなる可能性があるわけですね。
前田: そうです。だからこそ、農業生産だけでなく、加工や販売、あるいは農作業を請け負うコントラクター事業など、年間を通じて仕事をつくる方法を考える必要があります。
もう一つ重要なのは、地域の農家同士が連携することです。すべての農家が、あらゆる作物を栽培し、すべての機械をそろえる必要はないと思っています。
岩佐:それぞれの農家が得意分野を持ちながら、地域の中で連携するということですね。
前田: 実際に、近隣の農家と交換耕作のような取り組みも始めています。行政やJAが最初に旗を振るというよりも、自分たちが困っていることをきっかけに、農家同士で「一緒にやらないか」と声を掛け合う。そういう連携が、これからますます必要になると思っています。
岩佐:日本の農業の未来を考えるうえでも、大切なテーマですね。
前田: そうですね。そして最も重要なのは人です。次世代の農業者が海外に行き、さまざまな農業の形を学んで、自分の農場や地域の課題を解決できるようになる。そうした人が増えれば、日本の農業ももっと面白くなるはずです。
僕自身、2016年にナフィールドという国際農業奨学金制度に参加しました。海外の農業経営者が、どのように農業を考え、実践しているのかを目の当たりにし、世界にはこんなに真剣に農業と向き合っている人たちがいるのかと気づくことができました。
ポップコーンも、もともとは海外の食文化ですが、それを日本の気候に合わせて栽培し、商品にして、食卓に届けることができる。農業者が食文化の一部をつくっているわけです。
そう考えると、世界から学ぶことはとても重要です。学んだことを地域に持ち帰り、実際の農場で試し、地域の課題を解決していく。そういう人を育てる文化をつくっていきたいですね。
岩佐:前田さんの取り組みを見て感じたのは、6次産業化を、農場の経営全体を変える戦略として位置づけていることです。
乾燥技術の開発、加工設備への投資、販路開拓まで、それぞれの段階で技術とノウハウを積み重ねてきた。簡単に真似できない仕組みをつくり上げている点が、大きな強みだと思います。
そして、その根底には、地域に雇用を残したいという強い思いがある。だからこそ、周囲の人たちも応援したくなるし、事業を続けるための投資にも踏み出せるのではないでしょうか。
前田: ありがとうございます。ただ、まだまだこれからです。農業を取り巻く環境は変わっていきますし、僕たちも改善を続けていかなければなりません。

ナフィールドジャパンのプログラムの様子
まとめ
| 前田農産食品の戦略ポイント | ||
| ① | 研究開発による競争優位の6次産業化 | 栽培技術や乾燥方法を確立し、加工設備を整備。GLOBALG.A.P.や北海道HACCPの認証取得。品質と販路の両面から事業基盤を築いてきた。 |
| ② | 地域を支える強い志 | 地域の雇用と農地を守るため、農家同士の連携を進める |
| ③ | 失敗を恐れない挑戦と改善 | まず試してみて、うまくいかなければ改善する。 |


















