【プロフィール】
■平勇人さん
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株式会社ファームノートデーリィプラットフォーム 代表取締役 2017年に株式会社ファームノートへ獣医師として入社。2024年3月にファームノートデーリィプラットフォームの代表取締役に就任。担い手を求める牧場から運営を引き受け、AIやデータ技術を活用した酪農経営を実践。経験に頼らないデータ駆動型の牧場運営に取り組んでいる。 |
■岩佐大輝さん
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株式会社GRA代表取締役CEO 1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本および海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。 |
牛を中心に、働き方と経営も改善する
岩佐:今日は北海道・中標津町(なかしべつちょう)にある、ファームノートデーリィプラットフォーム(以下、FDP)にやってきました。まず、この牧場はどういう運営になっているんでしょうか。
平:ここは、協業関係にある希望農場さんの敷地です。希望農場さんは長年先進的な取り組みをされている牧場で、FDPが自社牧場を立ち上げる際、希望農場の施設や牛舎を借り受ける形でスタートしました。
今はこの敷地内でFDPの酪農経営をしながら、希望農場の牧場運営をすべてFDPで請け負っています。
岩佐:牧場の土地や建物を買い取るのではなく、所有者から借り受けて運営を担っている。ホテルの所有と運営を分ける星野リゾートのような仕組みを酪農に取り入れた、いわば「酪農界の星野リゾートモデル」ですね。

牧場の所有権は希望農場が持ちつつ、経営と牧場運営はFDPが担っている
岩佐:この牧場には牛は何頭くらいいるんですか?
平:搾乳頭数で570頭です。搾乳牛以外も含めると700頭くらいです。
岩佐:700頭ですか!かなりの規模ですね。搾乳はロボットですか?
平:はい。全部ロボットです。ただ、ロボットを入れれば単純に効率化できる、というわけではありません。ロボットに合った牛づくりをしていかないと、本当の意味で生産性は上がらないんです。
だから、ロボットに合った牛群をつくることや、人が働きやすい環境をつくることも含めて、弱点のない牧場づくりを試行錯誤しています。
岩佐:搾乳も自動化されているんですね。ロータリー型だと、牛を集めて順番に搾乳していく仕組みなんですか?
平:そうですね。今は1日3回搾乳しています。もともとは2回でしたが、牛の状態を見ながら回数を増やしていきました。搾乳回数を増やしながら、売上も大きく伸ばしていく。そういう取り組みです。
岩佐:牛を改良しながら、経営も変えていくわけですね。
平:そうですね。牛も良くする、人の働き方も良くする、そして経営も良くする。その全部を一緒に考えています。
岩佐:しかも平さん自身は、現場を離れられるようになっているとか。
平:獣医師として少し対応することはありますけど、きちんと組織的に業務を回していることと、牛の状態はセンサーが知らせてくれるので、基本的には現場から離れても大丈夫です。

FDPの搾乳ロボット
経常利益10%を目指す「ガチ酪農」
岩佐:そもそもファームノートって、どんな会社なんですか?
平:酪農・畜産向けの牛群管理システム「Farmnote Cloud」などのソフトウェア開発・提供からスタートしました。BtoBの酪農DXですね。
岩佐:そこから、なぜ酪農へ?
平:最初は酪農生産者の方から、「牧場を管理するシステムをつくれないか」と問い合わせをいただいたんです。それをきっかけに、牛群を管理するソフトウエアや、牛に取り付けるセンサーなどを開発して、生産者に提供するようになりました。
ただ、酪農経営という大きなシステムの中では、ITやIoTは一部でしかありません。
自分たち自身が酪農をやってみて、現場を本当に理解しないと、価値のあるサービスや製品を届けられないんじゃないかと考えました。
岩佐:実証試験の牧場ではないということですね。かなりクレイジーな判断です(笑)。
平:そうですね(笑)。「ガチで酪農をやる」がコンセプトです。
岩佐:酪農の売上って、基本的にはどう決まるんでしょう?
平:搾乳している牛の頭数×1頭が1日に生産する乳量×乳価です。
岩佐:乳価は自分たちでは決められないですよね。
平:指定団体に出荷するか、自主流通にするかという選択肢はありますが、酪農経営者が自由に決められる部分は非常に少ない。
だから、生乳だけでなく、子牛の販売なども含めて、事業全体でどう利益を出すかを見る必要があります。
岩佐:経常利益はどれくらいを目指しているんですか?
平:単月10%くらい残せる構造を一つの目標にしています。
岩佐:飼料や資材の価格高騰が続くなかで、経常利益10%はかなり高い目標ですよね。
平:本業の生乳生産や子牛の販売では、親子三代、四代と積み上げてきた牧場さんには、まだまだ及ばないところがあります。
長く続いている牧場には、減価償却が終わっても使える設備など、利益を生み出すアセットが積み上がっています。
一方、うちはまだ投資したばかりの設備が多い。だからこそ他の生産者さんと連携して、今あるアセットを一緒に使ったり、生産効率を上げたり、生産量を確保したりすることも考えています。
岩佐:ファームノートの強みであるセンサーやモニタリングは、牧場経営にどう効いているんですか?
平:一番大きいのは人件費ですね。現場のメンバーは10人から12人くらいで、7人程度で回している時間帯もあります。ただ、700頭規模になると、人間だけでは全部を見きれません。
そこで、これまで人がやっていた牛のモニタリングをセンサーなどで置き換えています。
結果、同じ規模の牧場と比べて半分ほどの人数で回せていて、人件費も圧縮できていると思います。
岩佐:それは大きいですね。
平:会社経営としてやっているからこそ、だと思います。家族経営の農家さんは、家族の頑張りでこのコスト構造の中でやりくりされてきたのはすごいと思いますが、同じことを会社経営でやれるわけではない。これからは農業でも、人を雇う以上は、他の産業と同じように働く時間を考えなければいけない。
マクロ環境が厳しいから仕方ないと諦めずに、「酪農生産」から「酪農経営」に転換できるよう、数字に向き合うしかないと思っています。

酪農業は知的労働であり、感情労働
岩佐:今後は、どんな牧場を目指していきますか?
平:経営というものを、きちんと構造化していきたいです。ミッションやビジョンがあって、何年で実現するのかという戦略がある。そのための戦術があり、組織構造があり、事業計画がある。それを牛という生産システムの中で実現したいですね。
岩佐:酪農・畜産業は、肉体労働というイメージも強いですが……。
平:もちろん肉体労働の側面はありますが、それ以上にサイエンスの要素が大きい産業だと思います。生き物を相手にするので、知的労働でもあるし、感情労働でもある。
岩佐:感情労働ですか。
平:はい。なので、経営構造の中に人の感情まで含めて考えないといけない。みんなが気持ちよく働きながら、生産性も上がる。その構造をつくる必要があります。そのため、毎日社内にメッセージを出しています。もう3年くらい続けています。
岩佐:毎日!
平:人間なので感情が揺れることはあります。でも、そこで判断や行動に差が出てしまうことがないよう、行動規範というか、「うちはこういう会社だよね」という認識をそろえる必要がある。人を雇用している以上、そこには向き合わないといけないと思っています。
岩佐:5年後、10年後の酪農はどうなっていると思いますか?
平:生産者数は圧倒的に減ると思います。しかし、単に「生き残れる人だけが残る」というより、一人でも多くのステークホルダーに利益を出せる生産者が、どんどん伸びていくんじゃないでしょうか。
自分の牧場だけが利益を出せばいい、ではなくて、取引業者に対しても利益を生み、地域に対しても持続性を生み、さらにその先の業界や食料安全保障まで考える。
そういう人たちが増えていく未来だと思っています。
僕らも、自分の牧場だけを良くするということではなく、複数の牧場と生産機能を分担したり、アセットを融通し合ったりして、1牧場だけではできないことをやっていきたいと思っています。
岩佐:まさに「デーリィプラットフォーム」ですね。

まとめ
| FDPの戦略ポイント | ||
| ① | テクノロジーで酪農を科学する | ファームノートのテクノロジーを駆使しながらKPIを回す |
| ② | 社員の感情に寄り添う組織経営 | 感情の浮き沈みが、経営の浮き沈みにつながる。 社員のマインドをそろえるために毎日メッセージを発信 |
| ③ | 酪農で地域をつなぐプラットフォーム | 自社で得られたノウハウを地域の牧場にも実装して地域全体で底上げする |
岩佐:今回の取材で印象的だったのは、酪農を本当に科学していること。そして、「人の感情まで経営する」という考え方でした。数字を見ながら、社員の心にも向き合う。なかなかできることではありません。
そして、自社で酪農経営を本気で行い、得られたノウハウを地域の牧場にも還元して地域全体の酪農を底上げしていく。
「プラットフォーム」という社名には、そんな意思が込められているのだと感じました。


















