【プロフィール】
■井本喜久さん
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地域商いデザイナー 人口300人の限界集落に、年間3万人が訪れる「田万里家」を創業。「在るに氣づく」暮らしをつくる一方、末期がんを経験。現在は専業主夫として「余命半年から100歳まで生きる実験」に取り組む傍ら、地方で商いをつくる人を増やす「農村起業塾」を主宰している。 |
■岩佐大輝さん
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株式会社GRA代表取締役CEO 1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本及び海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。 |
限界集落の魅力
岩佐:今日は広島県竹原市の田万里町にやってきました。ここに、井本さんが運営する「田万里家(たまりや)」があります。素敵な場所ですね。
井本:米粉ドーナツ専門店と農体験宿を運営しています。自分たちで2.5haの田んぼで米を栽培し、その米を使ってドーナツを作っています。店舗の奥に、1日1組限定の農体験宿(ファームステイ)もあります。
岩佐:「田万里家」がすごいのが、年間3万人が来るというところですよね。
井本:そうなんです。
岩佐:この集落の人口が約300人なので、人口の約100倍です。凄い。そもそも、なぜ田万里町でこういうことを始めようと思ったんですか?
井本:田万里は祖父母が暮らしていた土地なんです。僕も田万里の近くの市街地で生まれ育ちました。大学で上京し、広告業界に就職して、20年以上ブランディングの仕事をしていたのですが……。
岩佐:どうして田万里に戻ってくることに?
井本:ストレスを抱えない暮らしに興味を持つようになったんです。同時に、健康には食事が大事であることも身に染みて感じるようになりました。
心身ともに健康な生き方を求めていると、農家さんに出会うようになって。「こんなに健康的でカッコいい生き方があるんだ!これだ!」と思って。
しかも、農家って大変な割に経営が大変というイメージがあったんですが、僕が会った農家はちゃんと経営出来ていたんです。
岩佐:共通点はあったんですか?
井本:自分で商品をつくって、自分で価値を伝えて、自分で価格を決めて売っている。ブランディングができているんです。それを見て、「これ、すごくいいな」と思いました。
岩佐:それで自分も農家をやろうと?
井本:もちろん、やりたくなりました。でも、自分には農業技術がなかった。そこで、「自分ができることは何だろう」と考えた結果、都会にいる人たちを農村に連れていく。そこに新しいビジネスチャンスも生まれるんじゃないかと思ったんです。
そこで、2017年に農家を紹介するウェブマガジンを始めました。
岩佐:でも、読まれなかった(笑)。
井本:全然読まれなかった(笑)。で、2020年に「コンパクト農ライフ塾」をはじめました。農村視点の起業家が集まるようなことができないかなと。3~4年で350人くらいが卒業しました。
岩佐:すごい人数ですね。
井本:ただ、実際に農業や事業を始める人は1割しかいなくて。
「もう俺が背中を見せるしかない」と思って、田万里に戻って「田万里家」を始めました。
岩佐:宿も最初から考えていたんですか?
井本:農業があって、6次化があって、宿があって、スクールがある。
「この村全体を面白くできたらいいな」というグランドビジョンがあったんです。
岩佐:ブランディングの考え方ともかなり近いですね。
井本:まさにそうです。「ここに来る理由」をつくることが大事だと思っています。
その点、限界集落ってすごく可能性があると思っています。
都市の人たちは自然と一緒に暮らしたいと思っているなかで、集落には、自然も、人も、文化もある。「既に在る価値」に気づいて、それを磨く。そうすると、そこに人が集まって、その人たちがまた外に価値を発信してくれる。
僕は、そういうことを田万里から生み出したいんです。

田万里家の素敵な店内
農村で起業するための視点
岩佐:井本さんのように、これから小さく農業を始めたい人、農村で何か商売を始めたい人は、何から始めるといいですか?
井本:一円でもいいから何か生み出してみる!みんな、頭で考えすぎるんですよ。
採算はどうだ、設備はいくら必要だとか。で、計算して「無理だね」ってなって始めない。
だったらまず一円でもいいから、自分の力で生み出してみる。
岩佐:「田万里家」も、最初から今の形があったわけじゃないですもんね。
井本:そうです。祖父母の家にあったものを使って、足りない機材はヤフオクで買って。壊れたりもしましたけど、とにかくお金をかけたりせずに始めた。
岩佐:一方で、農業経営では「規模」が一つの大きなテーマになりますよね。規模を大きくして効率化するのか、それとも小さくても続けられる形をつくるのか。
井本:僕は、持続性のほうが大事なんじゃないかなと思っています。
「その仕事を続けたい」と思えるかどうか。その仕事に命をかけられますか、というくらい惚れていること。
そこに生きがいを感じられるなら、そのエネルギーが事業を続ける力になると思うんです。

農村リトリート宿で取材
余命半年から100歳まで 人生を自分の力でつくっていく
岩佐:実は今、井本さん自身も大きな「実証実験」をしていますよね。
井本:僕、末期がんなんです。ステージ4で余命半年と言われました。そこで、事業は妻とスタッフに託しました。今の僕の職業は「主夫」です(笑)。
岩佐:そして「100歳まで生きる実験」をしている。
井本:そう。人生そのものが実証実験になっています。
岩佐:最後に、井本さんにとって「戦略的な農業経営」って何でしょう?
井本:「わちゃわちゃ生きていく」ことじゃないですかね(笑)。
大きくすることだけが正解じゃない。自分が好きなことをやって、仲間が集まって、そこに商いが生まれて、また人が来る。そうやって持続していく。僕は、そんな農村を増やしたいですね。
岩佐:農村を「しんどい場所」と捉えるんじゃなくて、「面白い場所」と捉える。
井本:そうですね。一人でも多く、地方でアクションする人が増えてくれたらうれしいです。

稲刈りの様子(Instagram @tamari_ya__farmstayより)
取材協力:田万里家


















