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株式会社TKS

【磯焼け対策】海水でも「見えない泡」を科学的に確認!養殖応用に向けた“研究の土台”をより確かにする研究成果を発表

公開日:2025年06月18日

株式会社TKS
廃酸素活用で“食害”に『商品価値』を与え、磯焼け対策をめざす

株式会社TKS ( 本社:岐阜市、代表取締役社長:岩永信幸、以下、当社 ) は、水制御技術の企業であり、ファインバブルシャワーヘッドの先駆け「Bollina(ボリーナ)」シリーズのメーカーです。

当社は2023年より、三井共同建設コンサルタント株式会社 ( 本社:東京都品川区、代表取締役社長 中野 宇助、以下、三井共同建設コンサルタント )との共同研究により、水素製造時に排出される「酸素」を目に見えないほど小さな泡「ウルトラファインバブル(以下、UFB)」とすることで、磯焼け対策で駆除したムラサキウニの蓄養効率を改善する共同研究を行っています。

この度、UFBを人工的に発生させた水槽(徳島県美波町の海水を利用)において、UFBの重要な化学的性質であるヒドロキシルラジカル(活性酸素の一種:以下、HR)の発生を確認したことをお知らせいたします。この結果は、今後の養殖や水生生物に対してUFBが“実際に「与えられている」”という裏付けになる可能性があります

UFBは水産養殖でも注目を集めてきましたが、これまで実際の海水を使用した測定は困難でした。
非常に微細な気泡(0.001mm未満)であり、海水にはさまざまな懸濁物質(2mm以下の水に溶けない物質)があるためです。また、HRの測定には通常、強い酸性状態をつくる試薬(例:濃硫酸など)を用いることが多く、実際に水生生物などに使用できる条件下での測定は極めて困難です。しかし、今回の研究により “実際に養殖で使用できる海水”を使用した環境下でも、UFBはHRの性質を持っている(UFBとしての性質を持ち存在している)ことがわかりました。

TKSのファインバブル発生装置「μ-Jet(ミュージェット)※」

磯焼け地帯のやせウニ


徳島県美波町の様子

この結果を受けて、2023年から行っている磯焼け地帯の駆除ウニ(可食部のない“ほぼ空洞”状態のやせたウニ)の畜養(短期間の養殖)の研究を2025年1月から3月にかけて再度検証しました。その結果、酸素ではなくUFB自体が駆除ウニのへい死(突然死)を抑制する可能性が高いことを改めて確認いたしました。

本研究成果は、2025年5月25日に日本水産工学会の学術大会(場所:国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産大学校)にて演題「ムラサキウニ養殖でのウルトラファインバブル効果の解析」として発表されました。

日本では、この20~30年で海の森と呼ばれる「藻場」が急速に衰退している現状があります。近年、磯焼けの原因となるウニを駆除したのち、数ヶ月畜養することより、駆除ウニの実入りをよくして商品化する取組みが増えています。一方、採算を取るには原料となる駆除ウニや生産規模の確保、畜養にかかる餌代などのコストなど、まだ課題が多くあります。

今回の研究成果は、UFBを養殖や水産業へ応用するための “研究の土台”をより確かにする内容となります。これによりUFB技術を活用した研究が進展し、製品化やサービス化、社会に活用しやすくなる可能性があります。

研究の目的 ~やせたウニの畜養に有用なUFBの検証~

本研究は、2024年5月に同学会にて発表した研究成果「P2G廃酸素の活用を想定した酸素曝気とウルトラファインバブルによるウニ蓄養実験」を土台とした、新たな研究成果です。2024年同学会では、ムラサキウニ(駆除したやせウニ)の畜養には酸素UFB(以下、O2-UFB)が有用であることを報告しました。

今回は、この研究時に発生した課題に対してUFBがどのような影響を及ぼすかを調査することを目的としました。O2-UFBの発生には当社のファインバブル発生技術「μ-Jet機構(ミュージェット)」を使用しています。(特許:第4999996号/国際特許取得済:中国・韓国)

<2024年:ウニの畜養実験での課題>
- 可食部にある「生殖腺」は繁殖するために放卵と放精を行うので、繁殖の周期にあわせて実入りが増減する。
- 畜養実験時、冬季の水温低下によりへい死(突然死)するウニが多くみられた。


実入り計測の様子

餌を食べるウニの様子

参考:2024年5月25日発表「P2G廃酸素の活用を想定した酸素曝気とウルトラファインバブルによるウニ蓄養実験」 (https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000119238.html

研究結果 ~大きく2つのことがわかった~
「海水中のUFBを確認」「UFBはウニの生残率を高める」

1)測定用の試薬がなくても “実際に養殖で使用できる海水”でUFBの性質を確認
UFBを人工的に発生させた水槽(徳島県美波町の海水を利用)において、UFBの重要な化学的性質である活性酸素の一種(HR)を確認しました。通常、HRは試薬(濃硫酸など)を用いて強い酸性状態にすることで測定を行います。今回は試薬を使用せず、水生生物の飼育が可能な状態の「海水」でHRの発生を確認しました。

2)UFBはウニの生残率を高める
ムラサキウニの蓄養水槽に対して、空気を送りこむ「空気ブロア」、酸素を送りこむ「酸素ブロア」、酸素を超微細な気泡UFBにして送りこむ「O2-UFB」、この3種類の水槽を用意しました。

2023年~2024年の駆除ウニ畜養実験では、夏季に138匹(図A)、冬季は180匹(図B)を畜養しました。その結果、酸素を微細な気泡にして送りこむ「O2-UFB」水槽は、夏季に比べ、へい死するウニが多い冬季でも、生残率が高くなる結果となりました。このことから、UFBがウニの生残環境を安定させる上で有効である可能性が高いと考えられます。

グラフ下部の“青色”は死亡率、上部の“黄色”は生残率。O2-UFBは冬季の生残率が高い


O2-UFBは夏季に実入りが増大し、冬季は空気ブロアの実入りが増大する結果

今回の実験では、実際のウニ畜養を想定して5トン水槽にカゴで小分けして飼育し、ウニの数を増やしました。640匹(320匹×2水槽:空気ブロア、O2-UFB)を用いて、へい死率の高い冬季(2025年1月1日~2025年3月28日)に畜養実験を行いました。

左:ウニの実入り(GSI)冬季はO2-UFB水槽は増大しない/右:冬季でもO2-UFB水槽は生残率が高い

その結果、畜養数を増やした状態でも、冬季の「O2-UFB」水槽は生残率が高いことを改めて確認いたしました。

先回の研究で明らかになった通り、酸素を送りこむ酸素ブロア区よりも「O2-UFB」水槽の方が溶存酸素量(DO)は少ない状態になります。このことから、生残率を高めるのは酸素ではなく「UFB独自の作用」だと考えられます。一方で、ウニの実入り(GSI)については、空気ブロア区が1.4%高い値を示しており、「O2-UFB」水槽では冬季において大きな増加は確認されませんでした。

ウニの可食部である生殖腺は、1年を通じて繁殖にあわせて変化することが知られており、食用として出荷できる旬は非常に短い期間です(地域や種類により期間は異なります)。徳島県美波町のムラサキウニは、初夏(6-7月)に生殖腺重量のピークを迎えます。2023年~2025年の実験個体の実入りについて、平均値をとり比較したところ「O2-UFB」水槽については「通常の生殖腺の成長サイクルと異なる乱れ」が生じていることが示唆されました。

このことから、UFBを水槽で使用することにより、生残率には年間通じて効果があると考えられます。
その一方で、実入りについてはウニの生殖腺の成長周期に通常とは異なる乱れが生じていると推察されます。

ウニの可食部である生殖腺は1年を通じて繁殖にあわせて増加、減少する

学会発表 ~2025年度 日本水産工学会~


学会発表の様子

2025年度 日本水産工学会
学術講演会にて以下内容を発表しました。
https://sites.google.com/view/jsfe2025spring/

第1会場10:00 講演番号25
『ムラサキウニ養殖でのウルトラファインバブル効果の解析』
発表者:櫻井崇光(三井共同建設コンサルタント)
<共同研究者名>
櫻井崇光、濱 隆博、吉田 恭平、本田陽一、松尾 智征(三井共同建設コンサルタント)
山下貴敏、三島良介(TKS)、横山峰幸(明治大学)、土屋光太郎(東京海洋大学)
社会的背景 1 ~水素社会で発生する廃酸素~
近年、自然エネルギー利用の必要性の高まりから、海に吹く風を利用して発電を行う風力発電(洋上風力発電)の事業開発・計画が多数なされつつあります。しかし、風力発電は気象条件により発電量のばらつきが大きく、安定的にエネルギー供給するには蓄電が必要だと言われています。その技術の一つとして注目されているのが、水電解による水素製造(P2G技術)です。余剰電力を水素に変換し、必要な際に電気に改めて変換することができます。

水素は水から生まれて水に還る「CO2フリーの再生可能エネルギー」として最も注目されているエネルギーです。今後、電気分解による水素の製造が増えると、その副産物として生成される酸素が大量に廃棄される可能性もあります。
社会的背景 2 ~世界の漁業生産量の40%を占める水産養殖、海の課題「磯焼け」~

磯焼けした徳島県美波町近海:コドラート調査の様子

徳島県でとれた痩せウニ:身がほとんど入っていない

水産物の養殖は、天然環境の悪化や、生産履歴(いつ、どのように生産されたのかを示す情報)への安心感から増大を続けています。すでに漁業の全生産量のうち40%を占めるとも言われています。(FAO 2022年)。ウニは生殖腺が食用に生産され、ほとんどが天然ものとして約7,900トンが国内で生産される(MAFF 2019年)重要な水産物です。

一方、世界中で沿岸漁場から海藻類が無くなる「磯焼け」という環境被害が深刻化しています。原因のひとつに、ウニやブダイなどによる食害(生物が過剰に海藻などを食べることで起こる被害)が知られています。磯焼け地帯のムラサキウニは、実入りが少なく「やせウニ」とも呼ばれます。人間が食べられる部分が少ない為、商業的価値が低く漁獲対象になりにくい存在です。磯焼けの課題解決の手段として、やせウニを蓄養することで商品価値をあたえる技術が注目されています。

<参照>
・FAO(国際連合食糧農業機関)“In Brief to The State of World Fisheries and Aquaculture 2024: Blue Transformation in Action”https://openknowledge.fao.org/items/22b0e37f-1785-4404-8743-5a44bc276674 (参照日2025-6-11)
・MAFF(農林水産省)“令和元年 漁業・養殖業生産統計:2-2 大海区都道府県振興局別統計 魚種別漁獲量”e-Stat[政府統計の総合窓口]https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500216&tstat=000001015174&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001015175&tclass2=000001148733&tclass3val=0
(参照日:2025-6-11)

この2つの背景から、エネルギーとして注目されている水素の製造時に排出される「酸素」と「UFB生成技術」を組み合わせることにより、水素社会におけるエネルギーの地産地消と、磯焼け対策の駆除ウニの活用を両立することを目的に研究を行っています。

ウルトラファインバブル(Ultra Fine Bubble)について

UFB技術は、赤潮でカキが全滅したことをキッカケに1998年に広島カキ養殖への適用がなされたことでも知られています。0.001mm(=1マイクロメートル)未満の目に見えないほど微細な泡で、水中で長期間(数か月~1年とも)維持される性質があり、水産分野でもすでに利用されています。
研究成果が寄与するSDGs

海の生物多様性の保全・回復(藻場再生)
・目標14.「海の豊かさを守ろう」
・目標13.「気候変動に具体的な対策を」

保護漁業のブランド化
(ムラサキウニを使った地場産品)
・目標9.「産業と技術革新の基盤をつくろう」

今後の展望

今後、UFBがウニの生殖腺の発達ステージにどのような影響を与えるのか、生殖腺の成長周期やピーク値への影響を引き続き調査いたします。養殖業や水産分野におけるUFBの効果的な活用を目指し、中小規模の事業者でも導入しやすいコンパクトな養殖設備や、運用の仕組みの提供に取り組んでまいります。
会社概要 ~ 水の真のチカラを最大限に ~
株式会社TKSは、1965年にたった一台の汎用旋盤からはじまった企業です。『水栓バルブ発祥の地』と呼ばれる岐阜県山県市(旧:美山町)で、わたしたちの水技術が育まれました。2010年よりファインバブルの研究開発を行っています。創業時から受け継ぐモノ創りの心を大切に、各分野の専門知識をお持ちの大学、企業様との共同研究・開発を通じて、多くの分野でファインバブルの活用・製品化を目指し、社会貢献に努めます。
「ファインバブル」、「ウルトラファインバブル」、「FINE BUBBLE」、「FBIA」ロゴは、一般社団法人ファインバブル産業会(FBIA)の登録商標です。
※μ-Jet機構:高速旋回液流とキャビテーションによる独自の発生方式
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