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株式会社YE DIGITAL

飼料残量管理システム「Milfee」が照らす、畜産の明るい未来 デジタルデバイト地域でも使える「LoRa親子通信モデル」の開発秘話

公開日:2023年04月05日

「デジタルで、暮らしに明るい変革を。」福岡県北九州市の株式会社YE DIGITALは、IT技術を生かして製造業の現場でのさまざまな課題を解決する製品やサービスを提供してきました。

2019年からは農業分野にも参入し、特許取得の技術を活用した飼料タンクの残量管理システム「Milfee」(ミルフィー)は、農林水産省の「スマート農業技術カタログ」にも掲載されています。

 

開発者である、デジタルプロダクト本部情報機器開発部の小舟啓介に話を聞きました。

●人手不足と高齢化に悩む畜産農家

鶏や豚・牛を飼養する畜産は、生産額ベースで4割近くを占める日本の農業の一翼を担う重要な産業です。しかし、日々生き物と向き合う仕事の性質上、休みが取りにくく、若者には敬遠されがちな業種のひとつです。

高齢化が進む畜産農家には体を使う労働が負担になっていて、後継者不足と高齢化が業界全体の課題になっています。

毎日必要な飼料を管理する難しさ

畜産農家の肉体労働の一例に、飼料管理があります。毎日の家畜の飼料はタンクで保管されていて、切れ目なく補充しなければなりません。

しかし、外側からは見えない大きなタンクの中の飼料の残量を把握するのは難しく、ことに「マッシュ」とよばれる粉体の飼料の計測は、従来のセンサーでは正確にできませんでした。

このため農家は、暑い日も寒い日も広い農場を巡回し、4〜6mの高さのタンクをはしごで上り下りしては目で残量を確かめるのが日常ですが、悪天候の日は足場も悪く、高所の作業は危険を伴うこともありました。

●飼料残量管理の重要性

飼料が足りなくなることを、業界では「餌切れ」といいます。

もし残量の目測を誤って飼料が不足したときには、急いで注文しなければなりません。

しかし、こうした急な注文が頻発するとメーカーは飼料を計画的に製造できず、配送業者も効率よく配送する予定が立てられないため、生産調整や経費圧縮を阻む要因になっていました。

対策として、まず各契約農場を一巡して飼料の残量を調べ、あらかじめ必要な量を把握してから配送する方法が取られてきましたが、特殊な車両の運転手を長時間確保していなければならず、かつ大型車の燃料が余分にかかる問題が残ります。

飼料タンクの残量管理は、畜産業界全体の大きな課題になっていたのです。

●見えない飼料を可視化する「Milfee」が誕生

農家の収益を向上させるためには、生産費のなかで割合の多い飼料に関わる費用を圧縮する必要があります。

YEデジタルは研究の末、タンク内の飼料残量を計測する技術を新たに開発し、製品化、特許を取得しました。

小舟は2006年の入社以来、〝モノのインターネット〟IoT通信端末やクラウドシステムの開発にかかわってきました。

その経験を生かして新たに畜産分野に取り組み、タンク内の飼料の残量を計測するシステム「Milfee」(ミルフィー)を生み出しました。

「見る」+「feed(フィード:餌)」から名づけられた「Milfee」は、見えない飼料タンクの中を可視化することで、製造から配送までの飼料の流通を、より効率的に変える一歩を踏み出したのです。

●約2割の農場では使えないことが判明

「Milfee」はクラウド上にデータを送信して管理する仕組みで、2022年4月のサービス開始以後も、顧客のニーズに応じて細やかな改善が加えられてきました。

現在では全国の216の農場で利用されています(2023年2月時点)。

≪導入エリア≫

しかし、農場への設置が広がるうちに、新たな課題も見えてきました。農場は山間部に位置することが多く、電波事情により携帯電話がつながらないことがあります。

約2割の農場では、標準型の「Milfee」を利用できないことがわかってきたのです。

●サービスの空白地帯をつくらないために

電波の問題は、携帯電話会社が基地局を増やさない限り解決できません。

Milfee 開発チームリーダー/小舟啓介

小舟が思いついたのは、データのやりとりに携帯電話以外の無線を活用することでした。「方式自体はすぐ思いつきました。しかし、Milfeeの用途でどの規格が一番効率がよいのかを考える必要がありました」と振り返ります。

一口に無線といっても、さまざまな規格があります。通信環境は地形や障害物などによって異なるので、机上のシミュレーション通りにはいかないことがしばしばあります。速度、距離、内蔵電池など、センサー・ネットワーク向けに優先すべき条件を検討しました。

「技術課題の克服はできるまでストイックに打ち込みたい気質」という小舟は、自分のもち味を生かして、開発チームのメンバーとともに粘り強く検証を繰り返しました。

その結果、省電力ながら、導入が容易なLoRa(ローラ)を選定、通信距離が数十メートルのWi-Fi(ワイファイ)を大幅に超える通信が実現しました。 

●圏外でも使える新モデルが誕生

LoRa親子通信モデルの「Milfee」は、2023年2月にリリースされました。

≪ 「Milfee」 LoRa親子通信モデル設置イメージ  ≫

「親機」を電源やインターネットの設備が整った事務所などに置き、専用の無線ネットワークで「子機」と結ぶ仕組みです。

「子機」の設置場所に携帯電話の電波が届きにくくても、200〜400m程度の距離にある「親機」を経由してクラウドに接続できます。

「Milfee」は利用者自身で簡単に取り付けられる仕組みで設計されています。

新モデルでも、「子機」は電池で動くので電源がいらず、配線工事も必要ありません。

農場の防疫上、外部者の立ち入りはできるだけ少なくするための配慮が生かされています。

「うちの農場でも、これでMilfeeが使えるようになった」。

携帯電話がつながりにくい、これまでの「Milfee」は使えなかった地域の畜産農家からも期待の声が届いています。

小舟が率いる「Milfee」開発チームは、農家に寄り添いながら、畜産の現場が抱える日々の悩みを、実地の理解とIT技術で解決しようと奔走しています。 

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