泥にまみれた根菜類をきれいに洗うには、回転ブラシや高圧シャワーが必要不可欠。それが無理なら、手洗いするしかない……。
そんな洗浄の常識を一変させた製品が、「気泡」と「水流」で洗う「AZx二流体根菜洗浄機」です。
発売開始からまもなく2年。当初の想定をはるかに超えて、幅広い農作物の生産者さま・加工業者さまからのお問い合わせをいただいています。
新しい発想の洗浄機は、どのようにして生まれたのか。二流体根菜洗浄機の開発者である、株式会社AZx(エイザックス)の荒井剛にインタビューしました。
新事業のキーワードは「洗浄」×「農業」
「開発当初は、形状が複雑で高単価なキクイモなどを洗浄対象として考えており、販売台数は正直それほど多くは見込んでいませんでした。しかし製品発売後、ショウガ、サツマイモ、ワサビ、生薬など、さまざまな農作物のお問い合わせをいただき、みなさんの"洗浄"に関するお悩みの大きさを改めて実感しています」
そう語る荒井は、AZxの親会社であるエムケー精工株式会社に勤めて29年。社内屈指のアイデアマンとして、そのキャリアのほとんどを商品開発に捧げてきました。2019年のAZx設立以降は二社を兼務し、新規事業開発の中心メンバーとして活躍しています。
親会社の既存事業とはひと味違う新事業へのチャレンジ。そのスタートのとっかかりになったのは「洗浄」と「農業」という二つのキーワードでした。
実はエムケー精工は、門型洗車機で国内トップクラスのシェアを誇り洗浄技術を磨いてきた一方で、保冷庫や精米機などの農業資材も手がけ、農業との関わりが深い企業です。ところが、「農業における洗浄の課題解決」は未着手の分野でした。
課題を探るため、生産者の集会におじゃましてお困りごとを伺い、時には農家さんの作業を丸一日お手伝いしながら実情の把握に努めました。
そしてたどり着いたのが、キクイモなどの根菜の出荷洗浄に関するお悩みです。
傷つきやすい農作物は、非効率でも手洗いするしかなかった
デコボコした形状で表皮が柔らかいキクイモのような根菜は、多くの生産現場で手作業で洗浄されているという実態があります。冬場の冷たい水で一日じゅう手洗いをする作業者の負担は大きく、洗浄作業が効率化できないことが増産の足枷になっているケースもあるのです。
従来の根菜洗浄機は回転ブラシや高圧シャワーで洗う方式が主流ですが、キクイモのように表皮が繊細な根菜では傷がつき売り物にならなくなってしまいます。また、大規模な洗浄ラインをオーダーメイドで設けるほどの規模ではない生産者が多く、手洗い以外の選択肢がもてない状況でした。
「市場にある根菜洗浄機は、ダイコンやニンジンなど流通量が多く洗いやすい根菜を主眼に設計されており、形状が複雑な農作物には不向き。ニッチなニーズを捉えた個性的なモノづくりはエムケー精工の頃からの得意技ですから、これは自分がやらなければと思いました」
開発のポイント1. ミリバブルとジェット水流
最初の課題は、「傷をつけない洗浄技術」の開発です。
デコボコした形状の奥の汚れまで優しく洗い上げるには、一体どうしたら良いのか……。高圧シャワーでも回転ブラシでもない洗浄方法として、荒井が着目したのは「気泡」でした。
「ナノバブルやマイクロバブルといった"ファインバブル"の洗浄力の高さが巷で話題になっていることにヒントを得て、試作を始めました。気泡を活用した洗浄を何パターンも試した結果、根菜洗浄機にはミリバブルが最適だという結論に辿り着きました。ミリバブル、つまり、ファインバブルよりも直径の大きな気泡を発生させると、同時に乱水流が生まれる。その"水流"と"気泡"の2つの流体で生じる大きなうねりが、洗浄物の隙間の奥まで入り込むのです」
この二流体を発生させる装置には荒井のアイデアが詰まっています。
特許を取得した「水中ジェットノズル」は、吸い込んだ流体を4〜5倍の勢いに増幅させて排出する新しい構造。このノズルの開発によって洗浄に必要になるパワーは、回転ブラシ式の5馬力から、わずか1馬力にまで省エネルギー化することができます。
一般住宅のお風呂にも相当する200Lの大きな水槽の中に、20kgもの根菜類を投入して、ほんの数分で洗い上げる二流体根菜洗浄機。電気代を抑えながらも、ジェット水流で重量のある根菜をまんべんなく旋回させ、洗浄することができます。
開発のポイント2. ろ過構造で節水
続いての課題は、「溜め水でも目詰まりしにくいフィルター構造」の開発です。
根菜類の一次洗浄では、土や小石、さまざまなゴミや汚れが大量に付着した状態から洗浄する必要があります。
一次洗浄を担う既存の洗浄機のほとんどは、かけ流し式。溜め水で洗う循環式では、大量に出る異物の除去が大きな課題になります。オーバーフロー(浮かび上がった異物をあふれ出させる)方式の洗浄機もありますが、水の中に浮遊するゴミは取り除くことができません。
溜め水を循環しても目詰まりせずに洗浄を続けられるフィルター構造の実現は、試行錯誤の連続でした。
「初期の試作機をモニターの農家さんに試していただいたところ、"これじゃあ作物を洗う手間が減っても、フィルターを洗う手間が増えるだけ"と言われてしまったことも。それでも循環式の構造にこだわり続けました。なぜなら、かけ流し式の洗浄機では、10分で約2,000Lもの水を消費するのです。SDGsが常識になっていくこれからの時代に、節水タイプの洗浄機は必須だと考えました」
大きなゴミが付着しても目詰まりしにくいよう、フィルターのサイズや形、水流の通り道など、随所に工夫を凝らした"ろ過構造"を開発しました。フィルター自体を水槽の中に沈めた設計で、水中に浮遊するゴミもキャッチします。
水中ジェットノズルに続いて2つ目の特許を取得したこの"ろ過構造"により、これまで実現が難しかった循環式の一次洗浄機が誕生しました。水道代を大幅に削減し、お手入れも簡単な、使い勝手の良い製品になりました。
開発のポイント3. 誰にでも扱いやすい操作設計
さらに大切にしたことは、扱いが簡単で、親しみやすい製品づくりです。洗浄作業を担うのは、パートタイマーや臨時スタッフなどが想定されるので、誰にでも分かりやすい製品を目指しました。
二流体根菜洗浄機の操作で使うのは、"ON"と"OFF"、2つのボタンだけ。水槽に水を溜めて、洗浄物を投入し、ONスイッチを押せば、あとは機械まかせで数分で洗浄が完了します。運転中に水槽に手を入れても怪我の心配はなく、シンプルな機構でお手入れも簡単。
目を引く水色の本体は、農家さんにお馴染みの樹脂製角形水槽を採用しました。農業用に設計されているサイズのため、収穫コンテナをそのまま沈めて洗浄することも可能です。軽量で取り回しが良く、省スペースで、一体型の台車付きなので手押しで楽に移動ができます。
さらに、動力にしているのは農業用の灌水ポンプです。
「循環式洗浄機にぴったりのボンプ選定には苦労しましたが、できる限り汎用資材を取り入れることで、メンテナンス性や部品調達のしやすさに配慮しました。農家のみなさんにとっても、馴染みの深いものの方が安心して使えるでしょう」と荒井。
二流体根菜洗浄機は今のところワンサイズ展開ですが、今後はサイズの異なるラインアップも増やしていくなど、ユーザーニーズに合わせた柔軟な対応を考えています。
商品開発はもちろん、製造から販売まで一貫体制で手掛けるAZx。自社で行うワンストップサービスだからこそ、お客さまの声を反映したモノづくりができるのです。
作業時間も、水道代も、半分以下に。多くのお客さまの喜びの声
さまざまなアイデアを詰め込んで完成した、二流体根菜洗浄機。
導入いただいたお客さまからは「洗浄作業に充てる時間が半分以下になった」「水道使用量が10分の1になったうえ、手洗いよりも欠損が少なく出荷ロスが減った」など、喜びの声をいただいています。
なかには「作業効率と品質が両立できたことで、出荷量の拡大が図れるようになった」と、事業拡大に結びついたケースもありました。
洗浄のお悩みごとがある限り、試行錯誤を続ける
「業界に先駆けたモノづくりを続けてきたエムケー精工で、長年その商品開発に携わってきました。だから、AZxでも、世の中にない新しい価値を提供する、オリジナルな製品をご提案できる自信があります」と、頼もしいコメントをくれた荒井。最後に、今後の展望を聞きました。
「二流体根菜洗浄機を発売した当初には想定もしていなかった、多彩な洗浄物のご相談をいただけるようになりました。農作物それぞれに特性があり試行錯誤を続けていますが、"この農作物ならAZxの洗浄機でキレイに洗えますよ"と胸を張って言えるものをもっと増やしていきたいですね」
洗浄にお悩みのお客さまがいる限り、これからもAZxのチャレンジは続きます。
「二流体根菜洗浄機」のご紹介
機械洗浄が困難とされてきた、根菜などの農作物のための洗浄機。二つの流体(気泡と水流)を活用し、表皮を傷つけることなく、隙間の奥までやさしく洗い上げます。AZxが独自に開発した「水中ジェットノズル」と「ろ過構造」は、特許を取得した新技術です。