今治市の中心に広がる瀬戸内海は、豊かな水産資源に恵まれています。日本三大急潮流の一つである来島海峡をはじめとする漁場では、激しい潮流にもまれて育つ、身の引き締まった魚が豊富に獲れ、本市の天然漁業による真鯛の漁獲量は、水産王国・愛媛県でも堂々のNo.1を誇ります。※「農林水産省 海面漁業生産統計調査 平成30年産市町村別データ」
ところが、近年、海の環境変化による漁獲量の減少や、燃料費の高騰、漁師の高齢化と後継者不足などの問題が立ちはだかり、本市の水産業も厳しい状況が続いています。
こうした中、浜の元気を取り戻そうと逆境に立ち向かい、奮闘する漁師まち・宮窪の新たな挑戦をご紹介します。
獲れる魚が変わってきた!?海の環境変化が招いた漁業の課題
■深刻な不漁の一方、天然の真鯛が一年中獲れるように
近年、日本各地で漁獲量の減少が取り沙汰されており、今治近海でも天然魚の漁獲量が
10年前の半分以下まで減ってしまい、深刻な不漁に陥っています。その一方で、天然の真鯛が一年中獲れるようになるなど、漁場そのものにも大きな変化が生じています。
その要因の一つと考えられているのが「海の温暖化」です。地球温暖化の影響が海にも波及し、海洋温度の上昇によって魚の生息域に変化が起きています。また、別の要因として、瀬戸内海では、水質改善に取り組んだ結果、海水中の窒素やリンなどの栄養塩類が不足してしまい、漁獲量の減少に繋がったと言われています。
さらに、追い打ちをかけるように、コロナ禍で飲食店などからの注文が減り、魚が売れない状況が続きました。そのため、家業を継いだ若い漁師が次々と浜を離れてしまう事態を招いています。
そうした中、獲れる魚の価値を最大化しようとブランド化やレストラン運営に奮闘する漁師まちがあります。
自慢の天然真鯛を全国へ届けたい!漁師まち・宮窪の奮闘
■激流生まれ。激流育ち。「10ノット真鯛」
今治市の漁師まち「宮窪(みやくぼ)」。しまなみ海道が縦断する大島の北部に位置し、沖合に浮かぶ能島(のしま)は、かつて戦国時代に活躍した日本最大の海賊「村上海賊」が活動拠点とした海城であり、船が折れるほどの急流が渦巻く地の利を活かし、瀬戸内海の航路を支配した海賊たちの遺構が国指定史跡として色濃く残っています。
能島周辺の潮流は最大で10ノット(時速18キロ)以上になり、この激流にもまれて育った鯛は、引き締まった筋肉質な身質で、特有の香りと旨味が凝縮され、プリプリして甘いのが特長です。
「昔は寒い時期に獲れるのが珍しかったが、この数年、鯛が一年中獲れるようになった。」と愛媛県漁業協同組合宮窪支所の關洋二(せき ようじ)運営委員長は言います。
これを反転攻勢の契機と捉え、「自慢の天然真鯛の価値を高めたい」と2023年に「10(テン)ノット真鯛」というキャッチーなネーミングでブランド化に踏み切りました。
地元で水揚げされた天然真鯛の中でも、漁師の目利きによる選別のもと、一定基準をクリアし、特定の方法で締め処理と出荷処理がされたものだけを「10ノット真鯛『極(きわみ)』」と命名。2024年1月には、天然魚では唯一、えひめブランド産品として『「愛」あるブランド』の認定を受け、全国への販路拡大を目指しています。
■「10ノット真鯛」は「宮窪鯛めし」で!!
知る人ぞ知るところではありますが、実は真鯛の一大産地である愛媛県には、郷土料理の「鯛めし」が地域によって2種類存在します。
県の中央から東側の東中予地域では、今治市や松山市を中心に鯛をまるごとお米と一緒に炊き込む「炊き込みスタイル」が一般的。一方で県の西側、宇和島市を中心とした南予地域では、刺身をご飯に乗せてタレをかける「刺身スタイル(いわゆる宇和島鯛めし)」が主流です。では、「宮窪鯛めし」とは!?
「宮窪鯛めし」は一見、宇和島鯛めしに似ていますが、大きな違いは、皮を残した切り身を湯引きし、さらに皮目を直火で炙っていることです。
これは、地元の漁師さんの食べ方をヒントに考案されたもので、湯引きすることで甘みが増し、さらに皮を残しつつ皮目を炙ることで、皮と身の間のジューシーな脂を余すことなく味わえます。
特に関東圏では、真鯛は切り身を熟成させて甘みを楽しむ食べ方が主流ですが、漁師まち宮窪では「10ノット真鯛」の激流にもまれて育った筋肉質で甘みのある身質を最大限引き出し、旨味と食感を楽しむのが流儀です。
プリプリのコリコリでありながら、甘みがあってジューシーな天然真鯛の切り身をご飯の上に並べ、これまた「10ノット真鯛」のアラから抽出した鯛だしを地元産の醤油と合わせた専用の鯛だし醤油でいただく。「10ノット真鯛」の美味しさを突き詰めた「宮窪鯛めし」はまさに絶品です!
■漁協直営レストラン「能島水軍」
「宮窪鯛めし」を味わえるのは、村上海賊ミュージアムの目の前にある宮窪漁港の一角、漁協直営のレストラン「能島水軍」です。店内では、大きな生簀に水揚げされた魚を活かしており、定番の「海鮮七輪焼き」や「鯛だしラーメン」に加え、期間限定の「生しらす丼」や「はも天丼」など、漁師まち宮窪でしか味わえない豊富な海の幸が堪能できます。
また、10ノットを誇る潮流のスリルと迫力を船に乗って体感できる「潮流体験」も「能島水軍」に隣接する桟橋から離発着しており、人気コンテンツの一つとなっています。
「村上海賊ミュージアム」で歴史に思いを馳せ、「潮流体験」で海賊気分を満喫した後は、炙りスタイルの「宮窪鯛めし」を堪能し、炊き込みスタイルの「鯛めし」と食べ比べてみるのも今治でしか体験できない新たな楽しみ方となっています。
ハモを次なる主役に!漁業の新時代を切り拓く、愛媛県漁業協働組合宮窪支所・關運営委員長の想い
■「浜を元気に」
「船の燃料費や魚の輸送費が高騰する中、魚の価格は下落する一方。激流の中で育った魚は身が引き締まって本当に美味しい。品質に見合ったブランド価値に高めたい。」と奮闘する關運営委員長に様々な人が関わるようになり、漁協が一枚岩となって新たな展開を図っています。
真鯛のブランド化に続く第2弾として注目しているのが“鱧(ハモ)”。
「ハモが安定して獲れるようになったが、食べるためには骨切りが必要で、京都の祇園祭以降は高値が付かない。なんとかハモに価値を付けていきたい。」と昨年にはハモ骨切り機を導入し、地元大学生と共同で「ハモ天丼」を考案。地元の「来島海峡サービスエリア」で提供するとともに、「ハモの海賊ちぎり天」や「ハモスープカレー」など、次々に新商品を生み出しています。
その他にも、地元の大手食品会社「日本食研ホールディングス㈱」とタッグを組んで共同開発した「村上海賊漁師鍋つゆ」が全国のスーパーで販売されています。
これらに触発された宮窪の若手漁業者による青年協議会も「牡蠣の養殖に挑戦しており、3年目にして成功の兆しが見えてきた。」と新たな取組に精力的で、漁師まち宮窪が一丸となって浜の活力を取り戻そうと動きを加速させています。
「浜を元気にしたい、頑張っている仲間の力になりたい。」
自らも船に乗りながら、漁協の舵取りも行う關運営委員長の奮闘はまだまだ続きます。
○来島海峡サービスエリアホームページ(株式会社瀬戸内しまなみリーディング)
「産学連携で新商品 『瀬戸内産はも天丼』販売開始」
https://s-leading.co.jp/archives/46778
愛媛県漁業協同組合宮窪支所 關洋二運営委員長
地域の魅力を活かしたまちづくりに寄り添う。今治市担当職員の想い
■地域の水産業を次世代へつなぐため、今治の漁村を持続可能に
今治市の宮窪地域では、「浜を元気に」を合言葉に、愛媛県漁業協同組合宮窪支所が主要な役割を担いながら、地域一体となって海や漁村の地域資源の価値や魅力を活用し、水産物の消費拡大や地域のにぎわいを生み出そうと奮闘しています。
今治市としても、宮窪地域が思い描く地域独自の魅力を活かした活気あるまちづくりを積極的に支援し、持続可能な地域へと発展できるよう寄り添っています。
また、今治市にはほかにも多くの漁村が点在していますので、それぞれの地域の特色ある資源を活用した漁村に発展し、水産業を次世代へつなぐために、協力して頑張っていきたいと考えています。
今治市役所農林水産課の担当職員たち
■今治産のおいしい食材をお届けしたい
瀬戸内海に面し、豊かな自然がまちをつくる今治市。恵まれた気候や風土を活かした農業や漁業が盛んに営まれ、おいしくて多彩な食材を収穫しています。
そんな今治の農林水産業を支える生産者さんと、その取組をご紹介し、多くの皆様に今治産の食材をお届けしたいと、今治市農林水産物カタログ「おいしい いまばり」を発行しました。
作り手さんの想いを受け取っていただき、推しの商品がございましたら、生産者様のお問い合わせ先から直接ご連絡いただくか、今治市農林水産課までお気軽にご連絡ください。
Ehime ebooks「おいしい いまばり」 ※画像をクリックすると、リンクが開きます。
★前回のストーリーはこちら。
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【関連サイト情報】
〇今治市公式ホームページ https://www.city.imabari.ehime.jp/
〇能島水軍(レストラン・潮流体験)公式ホームページ https://www.noshimasuigun.com/
〇今治市村上海賊ミュージアムホームページ https://www.city.imabari.ehime.jp/museum/suigun/
〇来島海峡サービスエリアホームページ(株式会社瀬戸内しまなみリーディング)
https://s-leading.co.jp/kurushima
〇今治市戦略的情報発信プロジェクト https://prtimes.jp/story/detail/xJQ2GZFz4EB