2017年5月に発足した、孫正義(そんまさよし)氏が率いるソフトバンクグループの「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」。最先端テクノロジー開発を担う企業に、10兆円という大規模な投資を行うとのことで、世界中の注目を集めました。その同ファンドから2億ドル(約220億円)の資金調達をしたのが、屋内野菜工場のグローバル展開を目指すアメリカの農業ベンチャー「Plenty(プレンティ)」です。
孫氏が注目する農業ベンチャー「プレンティ」
孫氏は、90年代半ばに「Yahoo! JAPAN」を立ち上げ、2000年代にはブロードバンド事業、さらに携帯事業に参入と、日本のインターネットをけん引してきた人物です。孫氏が立ち上げた「ソフト・バンク・ビジョンファンド」には、ソフトバンクのみならず、サウジアラビア王国のファンドなど、世界の大手投資家たちが参加しています。「10兆円ファンド」と呼ばれ、世界最大規模のファンドとなりました。孫氏は、ファンド設立の目的を次のように語っています。
「ソフトバンク・ビジョン・ファンドの設立により、世界中のテクノロジー企業への出資をさらに推し進めることができます。本ファンドは、今後10年でテクノロジー分野において最大級のプレイヤーとなることでしょう。われわれは、出資先のテクノロジー企業の発展に寄与することで、情報革命をさらに加速させていきます」
そして、この「10兆円ファンド」から、2億ドル(約220億円)の投資を受けることになったのが、シリコンバレーで屋内野菜工場を開発している農業ベンチャー「プレンティ」です。
約220億円の投資は、農業ベンチャーへの投資としてはこれまでに類を見ない巨大な金額。ソフトバンク・ビジョン・ファンドからはマネージング・ディレクターのジェフリー・ハウゼンボールド氏が同社の取締役として加わり、大規模な屋内野菜工場のグローバル展開をサポートしていきます。
採れたての新鮮で安全・安心な野菜を低コストで提供
プレンティは、LED照明、センサー、ビッグデータ解析などのテクノロジーを活用して、高品質なフルーツや野菜を低コストで栽培することを目指しています。なかでも一番の特徴は、垂直の壁を作って、そこで野菜を栽培すること。暑さ対策のために壁面にツタをはわせている建物がありますが、そのイメージで垂直の壁に作物を育てていきます。さらに同社によると、水の使用量は従来の栽培方法と比べて、わずか1%に抑えられるそうです。
「これまでのフルーツや野菜は、収穫後何日も、ものによっては何週間もかけて運送され、貯蔵されてきました。私たちが食べたいものはそんなフルーツや野菜ではありません。その昔、祖父の農園で採って食べたような、そんな栄養豊富で魅力的なフルーツづくり、野菜づくりを目指しています」と、同社の創業者の一人でCEOを務めるマット・バーナード氏は語っています。
「今、世界では、効率的に野菜を栽培できる農地が不足しています。当社創業者の一人が10年の歳月をかけて研究してきた結果、我々はとても安全で安心な作物を栽培できる、ユニークな技術を確立しました。農薬も、遺伝子組み替え作物も使わず、また水の使用量も99%削減でき、どこでも栽培が可能です。我々は新しい農業ネットワークを構築し、世界中に作物を提供していきたいと思っています」
孫氏も、「我々は、プレンティが現在の農作物づくりを再構築し、世界中の人々のQOL(クオリティ オブ ライフ、人生や生活の質)を向上させることができる、と信じています」と語っています。
プレンティがこの屋内野菜工場を建築しようと計画しているのは、世界でも人口が密集した地域です。農地に適した土地がなくても野菜を栽培できるうえ、収穫から店舗に作物が並ぶまでの輸送コストや時間を削減できます。
屋内の野菜工場は、特に安全性や供給の安定性の面から、日本でも新たな農業の手法として期待されています。しかし施設や管理にかかるコスト等の問題から、広く普及するためには多くの課題があるでしょう。
2017年7月に「プレンティ」が発表した今回の資金調達先には、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の大規模投資に後押しされ、Google(グーグル)の親会社Alphabet(アルファベット)の会長を務めるエリック・シュミット氏のファンドや、Amazon(アマゾン)CEOのジェフ・ベゾス氏のファンドなどの名前も連なっています。世界のIT業界の大物が注目するプレンティ、日本にも上陸するのか、その動向に注目です。
参考:https://www.plenty.ag/plenty-attracts-largest-ever-agriculture-technology-investment-led-by-the-softbank-vision-fund-to-solve-global-fresh-produce-shortages/
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sb/2016/20161014_01/