農業とは異なる業界の企業が、本業のフィールドと農業を掛け合わせた新たなプロジェクトを行う例が多くあります。平成21年の農地法改正によって、農地賃借の企業参入が自由化されたことが、農業参入の追い風となっています(※1)。今回は誰もが知る大企業で、農業に関わる取り組みを始めた事例を3つご紹介します。
JTB×農業:観光のプロが“食&農業”で地域活性化を目指す
旅行会社大手のJTBグループが2015年から取り組んでいるのが、食と農業、観光と文化を結びつけて地域作りに貢献するプロジェクト、「食と農で地域を元気にするプロジェクト」(※2)です。
日本を訪れる外国人旅行客の数は、2020年の東京オリンピック開催に向けてさらに増加することが予想できます。日本の伝統的な食文化や農業に観光を結びつけ、新しい日本の魅力を国内外に伝えることで、地域活性化につなげていくことがこのプロジェクトの狙いです。
写真提供:株式会社JTB西日本
このプロジェクトの一例として、2017年3月に発表された「京都いちごシャトル」と「宇治茶畑サイクリング」をご紹介します。「京都いちごシャトル」は京都のタクシー会社と協同で実施されたもので、京阪電鉄八幡市駅から地元のイチゴ農園までの往復送迎を、イチゴ狩り体験とセットで販売したもの。「宇治茶畑サイクリング」は、宇治茶の青々とした茶畑や、生産地を電動アシスト付き自転車でめぐるというツアーです。
「京都いちごシャトル」と「宇治茶畑サイクリング」は、JTBが生産者とともに特産品の海外販路拡大を目指す「J’s Agri」(※3)事業ともコラボレーションをして展開。訪日外国人を主なターゲットとし、JTB西日本が運営する訪日外国人専用観光案内所「関西ツーリストインフォメーションセンター」(4店舗)で販売されました。「京都いちごシャトル」は香港、台湾、シンガポール、タイなどから訪れた約200名もの外国人が利用したといいます。
写真提供:株式会社JTB西日本
コラボレーションのポイント
生産者のメリットは、生産の現場に消費者を誘致し、生産物の良さを伝えられる点。交流文化事業を推進するJTBにとっては、生産者と消費者をつなぐことにより、地域の魅力を国内外に伝え、人とモノの交流を創出し、ビジネスにつなげられる点。プロジェクトに参加する消費者にとっては、食の発見につながる新しい体験ができるという利点があります。
JR東日本×農業:鉄道ネットワークで農業を応援
鉄道会社として知られるJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)が、グループ経営構想(※4)のひとつとして掲げている「地域との連携強化」。同社は地域の基幹産業である「農業」を軸に、地域活性化に取り組んでいます。この一環として、JR東日本はJR東日本東北総合サービス株式会社、さらに地域農業者の方々と共同出資して、「株式会社JRアグリ仙台」という新会社を2017年1月に設立しました。
写真提供:株式会社JRアグリ仙台
JRアグリ仙台が行うのは、約80アールの自社農地で、リーフレタスやニンジン、ネギなどを作る生産事業です。仙台駅近郊での自社直売所・農家レストランの開業や、上野駅、大宮駅など首都圏エリアでの産直市の運営を行う販売事業、さらに自社農産物を利用した商品企画を行う商品開発事業。この3つの柱をベースにしています。
写真提供:株式会社JRアグリ仙台
JRアグリ仙台は、農業経営改善計画を仙台市に提出し、農林水産省が定める「認定農業者」の認定を受けています。農業の担い手として“計画的で安定的な経営”に取り組むことを発表しています。
コラボレーションのポイント
農作物を生産しても、その流通経路を確保することは簡単なことではありません。その点、JR東日本は、自社販路の確保や最大の強みである鉄道ネットワークを活かすことができます。この取り組みは地元の方々にとって、力強い存在になっていくでしょう。
CCC×農業:エンタメ企業が農業分野をバックアップ
農園を貸してくれるサービス「シェア畑」のほか、農業に関するさまざまな取り組みを行っているのが「株式会社アグリメディア」です。
この会社が躍進したきっかけは、2014年に行われた、CCC カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下、CCC)グループ主催のベンチャー企業向け支援プログラム「T-VENTURE PROGRAM」。アグリメディアは第1回目となるこのプログラムで、最優秀賞を受賞したのです(※5)。CCCといえば、音楽や映像ソフトのレンタル事業の「TSUTAYA」で知られる企業です。エンターテイメント性が強い同社と農業という異色の組み合わせが話題となりました。
写真提供:アグリメディア
受賞者へのバックアップの好例として、アグリメディアの「シェア畑」に来園された方に、Tポイント(CCCが展開するポイントサービス)が付与されるキャンペーンが行われたことなどが挙げられます。
また、同プログラムでは2016年、新規就農者支援を目指す「株式会社坂ノ途中」に出資を行っています。農業分野のベンチャー企業にとって見逃せないプログラムであると言えるでしょう。
写真提供:アグリメディア
コラボレーションのポイント
農業に携わるベンチャー企業にとって、大手企業のバックアップは大きなサポートとなります。また、サポートする側は企業のイノベーションにつながります。農業に関するさまざまなサービスが増えていくことは、消費者に農業を身近に感じる一端となるでしょう。
これだけ多くの企業が農業に参入したり、バックアップを試みているということは、農業が今後も成長できるポテンシャルを秘めた分野であるということの証ではないでしょうか。
農業とは異なるジャンルのモノ、コトが、農業とうまく組み合わさることで、日本の農業界がさらに明るくなることを期待します。
参考
※1 なぜ企業の農業参入は増加傾向が続くのか(農林中金総合研究所)
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1505re2.pdf
※2 JTB地域交流事業
https://www.jtb.co.jp/chiikikoryu/solution/shokunou/
※3 J’s Agri
http://www.js-agri.jp/
※4 東日本旅客鉄道株式会社 グループ経営構想Ⅴ(ファイブ)~限りなき前進~http://www.jreast.co.jp/investor/everonward/pdf/all.pdf
※5 T-VENTURE PROGRAM
http://www.ccc.co.jp/tvp/