情報発信や顧客集客、PRの手法として、多くの企業がSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を利用している現代。農業においても、農場で育った青果、牧場にいる家畜、それら加工品のインターネット販売などの目的でSNSを利用している農家が多くいます。
今回お話をうかがった、沖縄でマンゴー農家を営む「かんな農園」の漢那宗貴(かんなむねたか)さんは、SNSの発信に注力した一人です。約3年前の平成26年にFacebookを開始し、農園の認知拡大につながり、その年は農園の売上が前年比218%という結果になったそうです。「かんな農園」流のSNS活用法とは、どのようなものなのでしょうか。
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SNSのきっかけは自分たちが育てた生産物のブランディング
マンゴーや、“森のアイスクリーム”と呼ばれる果実「アテモヤ」などを栽培する、沖縄県糸満市にある「かんな農園」。農園のホームページのほか、オンラインショッピングのサイト、LINEのアカウントページ、さらにFacebook、Instagram、Twitter、Youtubeのアカウントを所有し、定期的に更新しています。それらの管理や運営すべてを一人で行っているのが、漢那さんです。
漢那さんは琉球大学数理科学科を卒業し、システムエンジニアとして現地のNECグループ企業で4年間働いていました。その後、地元の土地開発公社や役所勤務を経て、父親が叔父と一緒に経営するかんな農園で平成26年から働き始めました。そして、すぐに農園の名前でFacebookを開始したそうです。
Facebookを始めたきっかけは、自分自身や農園のブランディングのため。「畑にいることが大好きな父と、穏やかな叔父、おしゃべり好きの僕。この3人がいる畑はいつも和やかな雰囲気が溢れています。そこで丹念に育てたマンゴーだということをSNSで発信し、多くの方に知ってほしかったんです」
マンゴーは、少し傷がついただけで価格が半分にまで落ちてしまいます。一方、豊作だとどんなに良いものでも市場では値段が安くなってしまいます。「僕たちがいくら頑張ってもどうにもならない現実があって、“どうにかしたい”と感じていた」ため、Facebook開始から半年後にオンラインショップを開設。SNSで農園の四季の移り変わりや、マンゴーの収穫時期などを知ってもらい、そこからオンラインショップの購入につながるように考えたそうです。
SNSの運用を始めると、農園の売上は右肩上がりに。SNSを始めた初年度の売上は前年比218%、翌年は前年比156%という結果になりました。さらに、新聞やラジオ、雑誌、TVなどのメディアから問い合わせや取材がくるようになり、かんな農園の情報がSNS上でシェアされたり、口コミで少しずつ広がったそうです。
反応がいい投稿・悪い投稿
現在、漢那さんがSNSの更新やオンラインショップの運営にかける時間は、平均で1日2時間程度。中でも、FacebookとInstagramはほぼ毎日更新しているそうです。
Facebookは「いいね!」が付いたり、コメントが投稿されたりとユーザーとのコミュニケーションがとりやすく、他のSNSと比較しても反応の良さを感じているとのこと。PRツールとして適していて、ファンがつきやすいのもFacebookの特徴だ、と漢那さん。
Instagramは、自分が調べたい情報をハッシュタグで検索する方が多く、たとえばアテモヤの写真を「#アテモヤ」とハッシュタグをつけて投稿すると、同様にハッシュタグで検索した人がその投稿を見ることができます。
そのため、ハッシュタグ付きの投稿は反応が大きいのだとか。特にアテモヤは珍しいフルーツのため、「どんなものだろう?」「購入できるところはないか?」と興味を持って検索する方が多いようです。ハッシュタグ検索でかんな農園の投稿を見つけ、オンラインショップでの購入につながった例もあるそうです。
アテモヤは見かけないフルーツのため、ハッシュタグで検索されることが多いそう
投稿する内容については、どのSNSでも共通して言えることがあるそうです。「かんな農園に遊びに来た方、援農に来てくれた方、著名人の方、来園した友人など、“誰かと一緒に写った”動画や写真を投稿したときは、「いいね!」やシェア、コメントが増えたりと反応がいいですね。農園に出かけたり、作物を収穫することは、一般の方にとって非日常の経験。自分も行ってみたいな、楽しそうだな、と思ってくれるような投稿は反応が大きいようです」
マンゴーやアテモヤを買ってもらいたい、という思いが強すぎる投稿や、文章を書かず写真や動画だけを投稿したときは、ユーザーからのリアクションが悪いそうです。「どんな投稿だったら見てくれる人が喜ぶのか、という視点を忘れないことが何より大事です。売り込み感が強い投稿よりも、“かんな農園のありのまま”を発信するように心掛けています」と話してくれました。
SNSを活用した今後の目標は
漢那さんの今後の目標は、“マンゴー王”というかんな農園のオリジナルキャラクターとともに、かんな農園が広く世間に知られることです。
「“マンゴー王”はこれまでもSNSの投稿で紹介していますが、SNSでの発信を続けることによって、地元糸満市を代表する、多くの方から愛されるキャラクターとして定着させたいですね。そしてマンゴー王をきっかけに、かんな農園のマンゴーのブランド力をさらに高めていきたいです。」
意欲的に情報を発信する漢那さんですが、忙しい農家の方にとってSNSの運営を継続することは決して簡単なことではないはずです。しかし、自身が育てたマンゴーやアテモヤへの深い愛情、そして「みんなに食べてもらいたい」という強い思いが、漢那さんの原動力となっているのでしょう。
かんな農園の事例を見ると、農家のブランディング手法としてSNSの活用が有効であることがわかります。また、ユーザーとダイレクトにコミュニケーションをとりながら絆を深めていくツールであるとも言えるでしょう。
かんな農園
沖縄県糸満市与座412-31
http://kannanouen.com
https://www.facebook.com/kannanouen/
※写真提供:かんな農園