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現代の「かかし」が繋ぐ日本の農業の未来。現場と研究を融合した精密農業を実現するために。

現代の「かかし」が繋ぐ日本の農業の未来。現場と研究を融合した精密農業を実現するために。

後継者不足が叫ばれる農業の技術を次世代に継承していく仕組みや、日本の農業の活路について、e-kakashi開発者の山口典男(やまぐちのりお)さんにお話をうかがいました。

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農業の現場から取得した環境データをもとに、最適な農作業を提案する「e-kakashi(イーカカシ)」を開発するPSソリューションズ株式会社。後継者不足が叫ばれる農業の技術を次世代に継承していく仕組みや、日本の農業の活路について、e-kakashi開発者の山口典男(やまぐちのりお)さんにお話をうかがいました。

山口典男さん略歴

・1963年、東京都生まれ

・大学卒業後、国際電信電話株式会社(現・KDDI株式会社)に入社し、人工知能を応用したネットワーク管理システムの研究開発に従事

・2000年より日本ヒューレット・パッカード株式会社にてサービス開発コンサルティングを担当

・2005年にボーダフォン株式会社(現・ソフトバンク株式会社)に入社し、通信卸売事業の責任者としてディズニーモバイルなどを手掛ける

・2008年、ヘルスケアシステムの情報モデル研究で博士号(情報システム科学)を取得(公立はこだて未来大学)

・現在はソフトバンクグループのPSソリューションズ株式会社にてe-kakashiを開発する

ただのデバイスではない。ソフトウェアとの連動が売り

e-kakashiは、情報を活用した畑の守り手「カカシ」です。農場で環境データを取得するセンサーノード(子機)と、通信用のゲートウェイ(親機)で構成されます。センサーノードにより、気温、相対湿度、地温、水温、土壌体積含水率、日射量、CO2濃度などを計測できます。

ただし、e-kakashiは、データを計測するだけの装置ではありません。取得した環境データを学術的な研究成果と掛け合わせ、今どんなリスクがあり、どう対処すべきか、最適な生育環境へ導くことができます。カーナビの様に、次にどんな作業をするべきかを教えてくれます。単なるIoTデバイスではなく、具体的に何をするべきかを導き出すソフトウェアまで包括しているところが強みです。

e-kakashiができたきっかけは、2008年に「地方の通信ニーズを掘り起こす事業の企画」に参加したことです。そこで初めて農業分野でのIT・通信の可能性を知り、当初は獣害対策の監視システムを作ろうと思いました。ところが、獣害対策をする前に、そもそも作物を栽培する段階で使えるIT機器自体がないことに気づき、この分野でサービスを作ることにしました。

現場のデータと研究成果を掛け合わせる

農業の世界は、現場の感覚と研究の世界が大きく離れている世界です。その間を埋めるのが私たちの役割だと考えています。例えば、熟練の農家は、水田に手を入れてかき混ぜながら温度や手触りを見て水田の水位を決めています。それを見た若い農業者が、単にその動作だけを真似しても、おいしいお米は作れません。科学的に裏付けする必要があります。この例で言えば、地温が12度を下回ると稲の生育が悪くなるということが研究から分かっています。その微妙な温度感を、熟練の米農家は手触りで感じているのです。

e-kakashiは、地温が12度以下になったのを検知すると、アラートを出して対策を促します。対策はその地域によって違います。その地域の特性を知り尽くした熟練農家の技はここでも活きるのです。そして、その技もその地域で営む若手農家に引き継がれます。経験による技術や勘が、継承可能な形になるわけです。

環境データをどう活用するかが非常に難しいのですが、e-kakashiの開発メンバーは元々その分野の研究者です。集めたデータから結果論的な提案を導き出すのではなく、学術的研究・植物生理の理論に即した提案ができることが何よりの強みです。

自然相手の農業で、学術的根拠がどこまで活かせるのか疑問に思う方もいるかもしれませんが、現段階で、かなりの植物の育成の仕組みが分かっています。もちろん、全く解明されていない事象もありますが、人類が解明したものは早く仕組みにしていこうという考えです。

日本の農業は精密農業=「フェノミクス研究」で生き残りを

これからの時代「精密農業」が鍵になると考えています。世の中には農業に対する様々な考え方を持つ人がいます。全ての農業を無農薬・有機肥料に変えるべきだと言う人もいれば、全てが有機になると人口の半分くらいにしか食料供給を担保できないという人もいます。

どの道に進むべきかは議論の余地があるかもしれません。いずれにせよ「決めた道に進むために精密な農業をする」ということは変わらないと考えています。e-kakashiは、パソコンの中にある表計算ソフトのように、精密農業をするためのインフラになるものです。必要なデータを取得して、適切な計算式を当てはめて、必要な結果を得る。その基本は変わらないと思います。

日本の農業は今、大きな局面を迎えています。海外で農業の研究や効率化が進み、近い将来、日本の農産物は海外産には価格で勝てなくなると言われています。世界の農業で見ると、種子はヨーロッパ、化学肥料は中国の企業が押さえているので、日本が入り込む余地がないようにも見えます。

しかし、一見成功したかのような欧米の農業では、過去化学肥料を乱用するなど、環境負荷の高い農業が行われていました。無理やり植物の調子を良くしようとしても、持続性がありません。逆に、日本は、古来より、牛糞など自然由来の肥料を活用した農業を続けてきており、植物本来の仕組みを活かす技術に長けています。その仕組みを解明することこそ、日本の農業の活路だと考えています。

植物自身の仕組みを活用するには、植物自身の遺伝子がいかなる条件で発現するのかという仕組みを知ることがベースとなります。植物の遺伝子がどのように条件でどう機能するかが分からなければ、植物と上手に付き合っていけません。日本の生産者が経験で培ってきた技術や勘を、フェノミクスに基づいた農業へと昇華させていければ、日本が世界の農業をリードできると考えています。

データ取得、精密化の先にある自動化

e-kakashiは精密な農業を可能にするものとして、日々改善を続けています。現段階では、農業技術を指導する農業大学校や行政などで活用していただく場合がほとんどです。農業を始める人への指導に利用していただいています。職人からの教えをデータで裏付けることにより、成長速度は格段に上がります。

e-kakashiを利用する与謝野町役場の声

e-kakashiは、ベテラン農家の技術の保存や新規就農者の修練のために利用しています。特に、後継者を育成する上で重宝しています。新規就農者では普通は分からないことが、リアルタイムにデータを見ることで判断できます。作物が全滅するような失敗を回避できるのが利点です。様々な作物を作る上で利用しています。

また、機械自体の耐久性も非常に高いと感じます。外で使う機械はすぐに壊れるのではないかと疑っていましたが、雪が降っても壊れません。ハイエンド機ならではの性能だと感じました。

今後は、ロボティクスと組み合わせて、農業の自動化にもチャレンジしたいです。現在は、環境データを元に、次にするべき作業を教えてくれるだけですが、人手が不要な単純な作業は、ロボットに任せれば効率も上がると思います。そういった自動化を進めるためにも、環境データと植物生理の裏付けが重要になります。精密農業を実現して日本の農業の鍵となるように、これからも自分たちの強みを磨き続けていきます。

 

 

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