奈良県五條市にて、花木や切枝の生産・販売を行う堀園芸株式会社。花木業界の現状や、持続可能な仕組みづくりのための挑戦について、二代目の堀宏弐(ほりこうじ)さんにお話をうかがいました。
堀園芸株式会社と地域の繋がり
私たちは、奈良県五條市西吉野という山間の地域で、花木や切枝の生産と販売を行っています。扱っているのは仏花や生け花の材料、正月用の花です。元々は果樹や薬草を作っていた家系でしたが、戦後生花の需要が伸びたことに目をつけた父が「この山なら花木が育つのではないか」と考えて、花木や枝ものを作るようになりました。
様々な種類の花木を出荷していますが、その中には自分たちで生産しているものもあれば、近辺の生産者の花木を仕入れたものもあります。契約している生産者は200件程。周囲の農家との協力で事業が成り立っています。ただ、農家の方はほとんどが高齢者なので、体力が必要で危険が伴う作業は私たちがやる場合もあります。高齢化して住民の少ないこの地域で園芸事業をやるということは、地域の人の生活を支えていることにも繋がります。
その地域との繋がりを感じたことが、家業を継ぐと決めたきっかけでした。私は元々は家業を継ごうとは思っていませんでした。小さい頃から休みなく働く父の姿を見ていましたし、私も手伝いに駆り出されることが多かったので、正直なところ嫌気が差していました。特に、夏休みは繁忙期の出荷とかぶり、お盆明けまでは遊べないのがつらかったです。長男ですから、いつかは継がなければならないということが頭にありつつも、できれば継ぎたくないと考えていました。
そのため、大学卒業後は園芸事業とは全く関係のないメーカーで働き始めました。海外営業で月の半分は出張。やりがいのある仕事でした。
転機が訪れたのは26歳。祖父の葬儀で地元に戻ってきたときのことです。小さい頃にかわいがってくれた取引先の方々が私に話しかけてくれたとき、自分たちがどれほどの人にお世話になり、繋がりの中で生きているかを思い知らされました。最終的に、お世話になっていた方に「お前どうすんねん?家業は財産やぞ」と言われて、覚悟が決まりました。人との繋がりという財産を途切れさせてはならない。これが自分の運命だと思い、家業を継ぐことに決めました。
後世のため、持続可能な職場づくりへ
地元へ戻ってきて園芸の仕事を始めたときに決めたことのひとつが、勤務時間や残業時間の管理、休日の確保など、労働環境を改善することでした。私がかつて家業を継ぎたくないと感じたのは、働き過ぎている父の姿を見ていたから。園芸業界の担い手がいない原因も、そこにあると考えています。過酷な仕事のわりに利益がでない。その結果、70歳で若手だと言われる状況になっているのです。さらに、生産者が急激に減ったことで需要過多に陥り、さらに忙しくなるという悪循環が生まれています。
私たちの会社も取扱が増えていて、家族経営で続けることに限界を感じていました。流通の変化もあります。スーパーマーケットなどの量販店で花木が扱われるようになりました。大きなロットで注文が来るようになり、家族経営で対応できる量ではなくなったのです。事業を継続するため、法人にして体制を整えることにしました。
二代目としての苦悩
法人化すれば家族経営ではなく人を雇うことになるので、しっかりと利益を出し、本格的に労働環境を改善する必要があります。原価をしっかりと計算し、それまであいまいだった価格を見直しました。
花木の出荷には、たくさんの手間がかかっています。難しさの一つは、育成期間の長さにあります。一般的な農作物は1年単位で出荷できますが、花木は出荷するまでに2から4年、ものによっては5年以上必要です。その期間中、年中休みなく植物の管理をしなければなりません。また、鳥獣被害に遭うと長年育ててきた苦労が一瞬で無駄になってしまうので、細心の注意を払い続ける必要があります。さらに、収穫した後も、余計な葉を落とす作業など、細かい手作業を行い、やっと出荷ができるのです。
そういった背景をお客様へ丁寧に説明して、価格に納得してもらいました。メーカー時代に営業をしていた経験がいきたと思います。また、通販なども活用して、販売チャネルを広げました。
ただ、二代目の方ならよくある話かと思いますが、職人気質の父とはしばしば意見がぶつかりました。質を高めるためにこだわることは当然だと思います。一方で、しっかりと利益を出す状態を作らなければ、継続していきません。効率とこだわりのバランスが難しく、こだわりを大事にしたい父とはよく話し合いをします。
持続可能な園芸農業のために
生花の市場は緩やかに小さくなっていますが、それ以上の速度で生産者が減っているので、需要過多の状況は相変わらず続いています。当然、私たちだけで全ての花木を育てることはできませんので、生産者を増やすことは急務だと考えています。
今後は、生産者の教育にも力を入れたいと考えています。園芸の仕事は、コツコツ物事に取り組める人に向いていると思います。手をかければかける分だけ良いものができるし、それが価値につながりますから。私たちの元でしばらく働いてノウハウを学んでもらい、その後近辺で独立してもらえるようにサポートすることも考えています。そうすれば耕作放棄地をなくし、この近辺の産地を立て直すことができます。地域の社会も維持され、生産者も私たちにも便益がある。三方良しの状態を作ることが、継続する秘訣だと思います。10年先を考えると、今が地域を立て直す可能性があるギリギリのタイミングだと感じています。関わる人がしっかり収入を得て、地域に暮らし続けられるシステムを作り上げなければと思います。
労働環境は良くなったとは言え、今の段階で自分の息子に会社を継いでほしいかと問われると、答えは否です。自分自身が両親の働き方を見て「何で休めないんだろう」と考えてきたので、自分の幼い頃に立ち返って「ここで自分の息子を働かせられるか?」という視点で環境を整え続けます。その先に持続可能な園芸農業があるのだと思います。