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【郷土の保存食】沖縄の地漬(ジージキ)

【郷土の保存食】沖縄の地漬(ジージキ)

「地漬(ジージキ)」は沖縄の漬物の一種です。現地に行ったことがない人でも沖縄そばやゴーヤチャンプルなどの料理はご存知でしょう。地漬は主に家庭でのみ食べられている料理です。各家庭で作られている地元の人だけが知っている味と、それが生まれた背景について考えてみたいと思います。

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「地漬(ジージキ)」は沖縄の漬物の一種です。沖縄の食文化は独特な食材も用いる料理が多いのが特徴です。現地に行ったことがない人でも沖縄そばやゴーヤチャンプルなどの料理はご存知でしょう。ところが、「地漬(ジージキ)」を知らない人が多いのではないでしょうか。地漬は主に家庭でのみ食べられている料理です。各家庭で作られている地元の人だけが知っている味と、それが生まれた背景について考えてみたいと思います。

地漬(ジージキ)は、沖縄の家庭の味。野菜+黒糖の漬物

地漬は黒糖を使った野菜の漬物です。材料となる野菜は大根やゴーヤのほか、ラッキョウやニンニクも使われています。黒糖を使っているので見た目は深いべっこう色です。これは「香の物」と呼ばれるような白米に添えられるおかずとしてではなく、お茶請けとして使われる事が多いようです。

地理的条件から漬物が少ない沖縄

そもそも「漬物」は野菜の保存法の一つです。沖縄は一年を通して野菜の栽培が可能であり、暖かい季節に取れた作物を、野菜が育たない冬期に保存するような保存食の必要はあまりありません。また、亜熱帯気候に属し、どの季節でも短時間で発酵が進みやすいため、漬物の保存管理が難しいという条件も揃っています。漬物の種類によっては味を決める「本漬け」の前に野菜の水分を抜くため「下漬け」や「粗漬け」と言って、塩に漬ける手順を行うことがあります。下漬けの塩分濃度は野菜や漬物の種類で異なりますが、一般的には10から12%程度です。ですが、沖縄の場合は15%程度の塩分濃度でなければ発酵が始まってしまうそうです。塩分濃度が15%の漬物の例を探すと塩辛い梅干しになります。いかに沖縄の気候が漬物を作る条件として厳しいかうかがえます。

理に適っている沖縄での地漬の作り方

地漬は塩を使った下漬けの後、黒糖に漬けて作られます。下漬けの後、黒糖に1ヶ月程度漬けるとでき上がりで、その後は一年ほど保存が可能です。きつい塩で漬けただけでは塩辛くて食べにくい漬物を、砂糖で甘くするという訳ではないのでしょうが塩漬けの後に、砂糖に漬ける方法は色々と理にかなっている点があります。

塩漬けと砂糖漬けを比較すると、漬ける野菜の水分を減らして水分活性を減らし、雑菌の繁殖を抑えて保存性を高める点は同じです。ですが、分子構造などの違いから塩と砂糖では、漬ける物の水分と置き換わって脱水させるために必要な量は砂糖の方が多くなります。つまり、少ない量で早く水分を抜くには塩の方が向いていることになります。

しかし一方で漬け終わった後、塩漬けはそのまま食べることができませんので塩抜きをする手間も必要な上、塩抜きして塩分が低くなると傷みやすくなります。砂糖漬けであればそのまま食べることができます。地漬は漬物が作りにくく、保存も難しいという条件を塩漬けと砂糖漬けを組み合わせることでカバーしているのです。

暑い地方の体に合っている砂糖の漬物

地漬に黒糖が用いられている理由は沖縄で黒糖が生産されているという理由が大きいと思いますが、暑い地方で暮らす上で砂糖の持つ作用は体にとって大切な意味があります。

「寒い地方の料理は塩辛く、暑い地方の料理は甘い」という話を聞いたことはありませんか。実際に、日本各地で作られる味噌を比較すると、東北は辛口味噌で九州は甘口味噌など、好まれる味の傾向に当てはまります。これには塩と砂糖が持つ作用が関係していると思われます。塩には血圧を上昇させる作用があります。これはホースを潰して水流を力強く飛ばすのと同じ原理で血流を高めます。そのため、暖かい血液が末端まで届きやすくなって体が温まる効果があるのです。逆に砂糖は血中の糖分濃度である「血糖値」を上昇させます。血糖値が急激に上がると体は均衡を保つためにインスリンを多量に分泌します。これによって血糖値が急降下する事で体温が低下しやすいのです。人が住んでいる地域に体を合わせるため、それに適した味を好む傾向があることは人間に備わった適応力の一つとも言えそうです。

沖縄と黒糖の歴史

貴重な財源であった琉球地方の黒糖

沖縄で初めて黒糖が作られたのは1600年を過ぎてからです。それ以前の砂糖は中国からの輸入品で薬に近い扱いの高級品でした。1600年代中期頃には琉球の役人であった儀間真常(ぎましんじょう)という人物が中国の福建省へ部下を派遣して砂糖の製法を学ばせました。これ以後、黒糖は琉球の特産品となって行きます。サトウキビの栽培を行っていた琉球や鹿児島地方にある奄美大島は薩摩藩の管轄地であったため、そこで生産される黒糖は莫大な利益をもたらし薩摩藩の経済の支えとなります。

現在、黒糖の生産が行われているのは沖縄の小さな島々だけ

明治時代以降、台湾から砂糖が入ってくるようになったことがきっかけで、日本の精糖は沖縄県と奄美の黒糖のみとなりました。第二次世界大戦での砂糖不足を経た後、国の政策や経済的事情などからサトウキビの栽培は続けられているものの、沖縄本島での黒糖生産は途絶えてしまいます。現在でも沖縄県で黒糖の生産を行っているのは伊平屋村島、伊江島、粟国島、多良間島、小浜島、西表島、波照間島、与那国島の8島となります。

熱中症対策に黒糖の成分が有効

砂糖には体を冷やす(体温を下げる)効果があるとは先に述べた通りですが、精製された白砂糖と黒糖を比較すると成分が大きく異なります。サトウキビの絞り汁を煮詰めただけの黒糖は、精製の上では不純物として取り除かれてしまうカリウム、鉄、カルシウム、亜鉛などのミネラルを多く含んだ状態となっています。このため、若干の差ではありますが白砂糖より血糖値の上昇が緩やかです。また、黒糖は汗で失われるカルシウムや鉄などのほか、汗で失われやすい、糖の代謝を助けて夏バテを防ぐ効果のあるビタミンBも含まれています。沖縄ではミネラルを多く含んだ塩も作られていますので、これらを合わせて取ることで熱中症の対策となります。ここでも地漬の塩漬けと黒糖漬けの組み合わせに意味があることがわかります。

「身土不二」を体現している地漬

食養運動のスローガンとして使われている「身土不二(しんどふじ)」という言葉は、元は仏教用語ですが「住んでいる所で作られている旬の食品、伝統食が体に良い(合っている)」という意味合いで使われています。「地漬」のように昔から何気なく食べられている物が実はその土地にあった、体を養う働きを持っているという事例は珍しくありません。そこに住んでいる人には「あるのが当たり前で珍しくない物」がなぜ伝えられて来たのか。詳しい理由は頭ではわかっていなくても体はちゃんと理解しているのかもしれません。

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