自らを「旅する八百屋」と呼ぶ2人の男性は、キャンピングカーに野菜を乗せて、宅配や出店形式で野菜を販売しています。ショップの軒先だったり、音楽フェスやスポーツイベント、アートやクラフト展の一画だったり、一般的な”八百屋”とは異なるフィールドを切り開く、彼らの名は「青果ミコト屋」。
農家と消費者をつなぐ青果ミコト屋の鈴木鉄平(すずきてっぺい)さんと山代徹(やましろとおる)さんに、八百屋を選んだ背景や、彼ら流の八百屋スタイルについてお聞きしました。
スタイリッシュな八百屋さんは、野菜と農家の熱きストーリーテラー
おしゃれな木の什器の上には色とりどり、大小さまざまな野菜が並べられています。作り手と売り手の思いがつまっていて、どれもみずみずしく新鮮そのもの。オーガニック野菜を中心に販売している「青果ミコト屋」には全国にファンがいて、青果ミコト屋のホームページやSNSで紹介する出店予定を、こまめにチェックしているという常連さんも少なくありません。
あえて野菜に無関係な場所にも出向くという青果ミコト屋。例えば音楽フェス、スポーツイベント、アート展やクラフト市など、「そんなところで野菜を買う人がいるの?」と思うような場所にも出店しています。その理由は「スポーツでもアートでも野菜でも、”良いものを求める”という価値観は共通すると思う」からです。
まずは「おいしい野菜」を味わってもらいたい。栽培方法や農家のこだわりといった理屈の前に、「食べたらおいしいと体が反応する感覚を味わってもらい興味を持ってもらいたい」と、教えてくれました。その証拠に、はじめは「なんだろう?」と思っていた人も、青果ミコト屋の野菜を試食で食べると「おいしい!」といって喜んでくださるそうです。
かつての同級生コンビが「八百屋」になった理由
鈴木さんと山代さんは以前、千葉県の農家で1年間の農業研修をしていたそう。研修を通して農業への興味は強くなったものの、その後のふたりが働く場として選んだのは農家ではなく八百屋でした。その理由は、研修時に市場へ野菜を卸しに行った時に「規格外の野菜が評価されない現実を知ったから」です。
サイズの不揃い、キズ、色味、虫食いなどがある野菜は、市場では規格外と判断され、とても安い値段をつけられてしまいます。今の流通では、野菜そのもののおいしさよりも、見た目の良さが重要視されています。そのため、多くの農家は、おいしい野菜を作る以前に、作物の規格を揃えることに大変気を使っているのが現状です。
同じ頃、「消費者と農家の間の大きな溝も感じた」と言います。市場に出荷した後、自分たちが育てた野菜がどう扱われて、どう食されているか。どのように運ばれて、どう食べられているか。それを知る術も、消費者の声を受け取る方法も持っていない。その現実を知り、もっと消費者の声が農家に届いてほしいと思ったそうです。
2015年に出版したふたりの著書『旅する八百屋 青果ミコト屋』のなかでも、八百屋になることを決めたときの思いが紹介されています。
ぼくらは不細工な野菜でも受け入れる八百屋になろう。
この不揃いこそが自然な姿だ、それは個性だ、と伝えてまわる八百屋になろう。
そして、生産者と消費者の距離を縮めることができる八百屋になろう
今でも、取り引きする農家とは丁寧に時間をかけて信頼関係を築いているというふたり。キャンピングカーを走らせて農家の畑へ出向き、農作業を手伝ったり、食事をしながらたくさん触れ合う機会を作っているそうです。
店舗を構えず、移動式を選んだ理由とは
2011年の開業以来今日に至るまで、彼らの販売方法は「宅配」か、「移動販売」のいずれかで、特定の場所に店舗は構えていません。自分たちの手で届けることで、農家の思いや野菜のことをダイレクトに伝えられるという信念を大切にしているからです。
店にやってくるお客さんを待つという”受け身”のスタイルから、自分たちで直接野菜を届けに行く、行動的な販売方法。その中で出会えた人、町、景色や思い出など、すべてが「青果ミコト屋の財産」となっています。
お客さんからの質問や疑問などにその場で応えることができ、顔の見える関係性は信頼を生みます。「お客さんから “野菜が身近になった”と言われた時は最高にうれしかった」彼らのメッセージが着実に伝わっています。
野菜を知り尽くした八百屋は、農家にも消費者にとっても大切な存在。青果ミコト屋は今日もどこかでたくさんのお客さんに囲まれています。
青果ミコト屋
http://micotoya.com/
写真提供:青果ミコト屋