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島根県江津市の「石見麦酒(いわみばくしゅ)」手製の醸造設備で地元農産物を使ったクラフトビールを全国へ

島根県江津市の「石見麦酒(いわみばくしゅ)」手製の醸造設備で地元農産物を使ったクラフトビールを全国へ

人口約2万4,000人、島根県西部にある海と山に囲まれた自然豊かな江津市に9坪の小さなクラフトビール醸造所「石見麦酒」が誕生しました。醸造所のから車で約45分の所には世界遺産に登録されている石見銀山遺跡があります。
少量生産で造られるクラフトビールがどのように生まれ、地元の農家と繋がっていったのかの経緯を探ってみました。

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人口約2万4000人、島根県西部にある海と山に囲まれた自然豊かな江津市に9坪の小さなクラフトビール醸造所「石見麦酒」が誕生しました。醸造所のから車で約45分の所には世界遺産に登録されている石見銀山遺跡があります。

地元で育てられた大麦や柚子などの農産物を使い、少量生産で造られるクラフトビールがどのように生まれ、地元の農家と繋がっていったのかの経緯を探ってみました。

石見麦酒の醸造所設立は、ビジネスプランコンテスト大賞を受賞がきっかけ

石見麦酒(いわみばくしゅ)は2015年5月、代表山口梓(やまぐちあずさ)さん、厳雄(いさお)さん夫婦の二人で設立しました。同年12月に醸造免許(発泡酒)を取得し、2016年4月から本格的にクラフトビールの醸造と販売を開始。現在は島根県内の他、広島や東京でも味わえるようになりました。

厳雄さんは信州大学農学部在籍中に、将来は日本酒の杜氏になる事を希望して酒蔵をたずねるほど、もともと「酒造り」に興味を持っていました。高津市にもかつて酒蔵があったのですが、現在は操業停止。酒造メーカーが1件もなくなってしまったので、地域に根ざした地酒、地ビールを造り定着させたいという夢を実現しました。

醸造所の設立が具体化したのは、その前年に江津市主催のビジネスプランコンテストに応募したところから始まります。「目指せオクトーバーフェスト!街全体がブルワリー」というタイトルで応募し、プレゼン審査へ。「石見麦酒が造る地ビールを江津市の新しい特産品にしたい」とアピールし、みごと大賞を受賞したのです。

そこから覚悟を決め、夫婦2人で力を合わせ醸造所の設立を目指し、全国のクラフトビール醸造所をまわりヒントを得ました。1年がかりで醸造所の設計図を描いてきたそうです。コストを抑える工夫として手作業でオリジナル製作した醸造設備を設置するため、醸造許可が降りるまでに苦労もあったとか。

SNS発信から繋がった、地元の生産者たち

石見麦酒は地元の農作物を原料として取り入れ、生産者や自治体とコラボレーションしながらビール造りをしている点が特徴的です。

生産者と繋がる最初のアクションは、醸造免許取得間近の2015年12月のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の投稿でした。クラフトビールの醸造に向けて「地元の石見地方で作られた素材(今回は柚子やレモン)を購入希望。素材を生産していただける方も募集」という内容を発信したことから始まります。

興味深いのは「個人宅でたくさん実りすぎた」というものや、「農薬や肥料もやらずに放ったらかし」という条件の素材でも可能だったということ。石見地方の土地で育った素材そのままの味を感じられる、なんともワイルドなリクエストです。そのSNSを見た町の人達から口コミで広がり、紹介の輪が拡がっていきました。

実際に、この投稿がきっかけで、柔らかな酸味と柚子の香りがさわやかなビール「セゾン744」には、石見地方の益田市真砂地区の生産者、真砂公民館長である大庭さん宅の裏山で採れた柚子を使うことになりました。

ビールの名前に使われている数字の「744」は真砂地区にある日晩山の標高です。山から湧き出る水を飲料水や農業用に使用し、常に地域の人達の暮らしを支える日晩山に敬意を表し、命名しました。

石見麦酒が発掘、隠れた名産「シークワーサー」

石見麦酒自らのアプローチ以外にも、観光協会の依頼を受けて、町にまつわるビールを造ったこともありました。

依頼をしたのは、同じ島根県内の南西に位置する町、津和野町の観光協会です。地元で採れる農作物について調べてみると、津和野町は南国でのイメージが強い「シークワーサー」の産地だったのです。

ところが当時、この町で採れるシークワーサーは知名度がなく、在庫で山積み状態。そこで、在庫を分けてもらって試験醸造を行い、新たなクラフトビールとして商品化しました。

ビールの名前は「セッションIPA 151」。津和野産のシークワーサーと隣接する山口県萩市の夏みかんを使用することで、ホップの苦味だけでなく、柑橘の皮特有のさわやかな苦みと南国フルーツのような華やかな香りが特長的なビールに仕上がりました。発売されるとすぐにSNSで話題となり、原料として使用されたシークワーサーは津和野の隠れた名産として、農家に注文が相次いだそうです。

石見麦酒はクラフトビールの製造を通じて、地域の埋もれた名産を発掘し、世に伝える伝道師のような役割も果たしているのです。

ビールの醸造過程で排出される麦芽カスも地域を支える

岩見麦酒で造られるビールの醸造過程で出る麦芽カスは、地元の牧場に譲り渡されています。栄養分の高い自然の穀物として、麦芽カスを牛のエサとして与えるためです。

麦芽カスも無駄なく、地域の絆を深めるきっかけとなり、地域の生産者を支える貴重な役割を果たしています。

未来の醸造家が広げる、地元の農作物を使ったクラフトビール

石見麦酒が、本格的にクラフトビールの販売を開始して1年が経ちました。現在は未来の醸造家のための「醸造大学」を開講し、実体験に基づいた講義を行い、独立開業したい人達の道しるべとなっています。時には受講生を研修生として受け入れ、一緒にビールを醸造することもあるそうです。そうした人たちの中から独立を果たした方もいます。

現在は自身が作り出した醸造設備の販売やコンサルティングも行っています。

石見麦酒の技術をきっかけに、また新たな醸造家が生まれています。地元で心を込めて作られた農作物と、その素材が詰まったクラフトビールはますます全国各地に増えていくことでしょう。

編集:ビール女子編集部

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