(c)川名マッキー
約370万人の人口を抱える横浜市で「地産地消」の普及活動を10年以上にわたって続けている人がいます。横浜市の地産地消プロジェクト「濱の料理人」発起人の椿直樹(つばきなおき)さんです。
「地産地消をもっと身近なものにしたい」という椿さんは、自身が経営するレストラン「大ど根性ホルモン」と「ど根性キッチン」のオーナーシェフです。
農作物を「作る」立場でなく「使う」立場から、地産地消の普及に取り組んでいます。地産地消への取り組みについて、椿さんにお話をうかがいました。
横浜野菜にほれ込んだ名物シェフ
椿さんは、横浜市・保土ヶ谷区生まれの生粋のハマッ子。国内外のフレンチレストランで修行を積んだのち、2012年に独立。現在は横浜市内に2店舗を構えるオーナーシェフとして、忙しい毎日を送っています。
自身の店で提供するのは、もちろん横浜の地場野菜。店の名物「ど根性サラダ」は、横浜産の野菜が、たっぷり20品目以上味わえる人気の一品です。使用する野菜は、コマツナ、トマト、ネギ、ブロッコリーなど季節によって品目は変わりますが、どれも横浜の農家から直接仕入れた新鮮なもの。
野菜のこだわりや味の濃さなどが話題となり、口コミで人気になったと言います。「横浜と横浜野菜が大好き。もっと横浜の良さを出していきたい」という椿さんの思いが店づくりに色濃く反映されています。
身近でこんなにおいしい野菜が採れる
今では横浜野菜の伝道師となった椿さんですが、最初から地産地消に関心が高いわけではありませんでした。きっかけは2002年、独立前に勤めていたレストランで、地場野菜のおいしさに驚いたといいます。「味の濃さ、野菜本来の香りやうまみのインパクトがすごかった。これまで有名産地や外国産の野菜を取り寄せて使っていたのはなんだったのか、と。身近でこんなにおいしい野菜が採れることを知らなかったんです」。
シェフ人生が覆されるほど感銘を受けた椿さんは、さっそく知り合いを通じて、横浜の野菜農家を訪ねます。「昼休みにスクーターで畑を訪ね、野菜を卸して欲しいと毎日頼み込みました。どうしてもその農家の作った野菜を店で出したかったんです」。農家がレストランに直接野菜を卸すのはまれな時代でした。取り引きが成立するまで半年間、毎日のように畑に通い、農家の方に頼み込んだと言います。
その結果、店で出した横浜の野菜は大好評でした。しかし、「地元で採れた野菜だと言ってもなかなか信じてもらえなかった。横浜に畑なんかないじゃない、って」。そんな言葉を耳にするうちに、椿さんの中にある使命感が湧きあがりました。「これは商売を越えて、横浜野菜のおいしさを伝えていかなければならない」。
横浜野菜のおいしさを広める「横浜野菜推進委員会」を設立
(c)川名マッキー
横浜市は、意外にも市域面積の7.5%は農地です。市内では野菜を中心に、多くの農作物が生産され、コマツナやキャベツ、カリフラワーの生産量は全国トップクラスです。 (*1)
身近で、これほどおいしい農作物が作られていることを知り、その魅力を伝えたいと考えた椿さんは、2003年「横浜野菜推進委員会」を設立します。これは、料理人仲間や八百屋さんなど農家ではない人が集まり、横浜野菜の魅力を伝えることを目的にしたコミュニティ。メーンの活動は、市内で開催する料理教室です。料理を作るだけでなく、生産者・流通業者・八百屋さん・シェフなど、各分野のプロが横浜野菜を楽しむ方法をレクチャーしました。
料理教室は回を重ねるごとに人気となりました。教室の内容は、農業体験を主体にしたものから、親子向け、働く女性を対象にしたものなど、さまざまな教室を実施。この時期に、椿さんは農業関連のネットワークを広げ、ますます横浜野菜への思いが強くなっていきました。
横浜を全国に誇る地産地消都市に
横浜野菜推進委員会の活動を通して、椿さんは「料理人同士で情報交換をしたり、地産地消につながる活動を行ったりすることができれば、横浜野菜を知る人がさらに増えるのではないか」と感じるようになります。それを実現したのが、「濱の料理人プロジェクト」でした。
濱の料理人プロジェクトは、「横浜を全国に誇れる地産地消都市とする事」を目指して、2010年に結成された民間のプロジェクトです。行政主体で行われる地産地消活動が多い中、民間からこのようなプロジェクトが立ち上がることは、全国でも珍しいことでした。
椿さんの熱意に賛同した料理人をはじめ、農業従事者や管理栄養士、横浜にゆかりのある食品・飲料・調味料メーカーがサポーターとして参加。料理人、生産者、企業など、横浜の食にまつわるプロたちをつなぎ、地産地消を促すアイデアを出し合う場が誕生したのです。
農園見学やスーパー給食で地産地消が身近に
(c)濱の料理人
結成以来、さまざまな活動を通して地産地消の普及に取り組んできた濱の料理人プロジェクトですが、特に人気なのが「農園見学バスツアー」です。申し込みをすれば誰でも参加が可能で、シェフと一緒に「濱の料理人」会員である農家の畑に訪問できます。
お店で出される野菜が、どんな環境で育てられているのかを自分の目で見て触って味わうことができるツアーです。濱の料理人結成から7年、地産地消に向けた取り組みは、より活発に行われています。
©川名マッキー
2016年、椿さんはこれまでの活動の集大成ともいえるレシピ本を出版しました。横浜野菜の魅力を最大限に引き出しつつ、簡単に作れるレシピが55点掲載された「横浜の食卓~ど根性レシピ」。出版のための費用はクラウドファンディングで集められました。椿さんの活動を知る多くの人が参加し、目標金額の250万円を上回って、出版されました。
横浜野菜にほれ込み、周りの人と一緒に地産地消の推進に貢献してきた椿さん。今後も、横浜野菜の魅力を伝えつづける椿さんの取り組みから目が離せません。
椿 直樹
https://www.facebook.com/naoki.tsubaki.5
「横浜の食卓〜ど根性レシピ」
https://goo.gl/McWbMX
(*1)横浜市環境創造局 よこはまの農業力
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/nousan/tisantisyo/nougyou/yasai.html