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生産者と消費者をつなぐプロの八百屋を育成「よこはま青果塾」の試み

生産者と消費者をつなぐプロの八百屋を育成「よこはま青果塾」の試み

八百屋さんに野菜や果物の正しい知識や知恵を伝える「よこはま青果塾」を設立した、藤岡さん。毎回大盛況の青果塾で、プロの八百屋を育てるということは、どのような目的があるのでしょうか。詳しく藤岡さんにお話をお聞きしました。

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生産者と消費者をつなぐプロの八百屋を育成「よこはま青果塾」の試み
藤岡輝好さん(写真撮影:コバヤシ イッセイ)

生産者と消費者をつなぐ立場から、プロの八百屋を育てようと取り組む、八百屋さんがいます。藤岡食品株式会社代表取締役の藤岡輝好(ふじおかてるよし)さんです。横浜中央卸売市場の関係者で組織される「よこはま青果塾」を設立し、卸、仲卸、八百屋を対象に、横浜市の野菜消費拡大を目指して、精力的に活動を行っています。

横浜市場関係者が集う野菜の塾・よこはま青果塾

藤岡さんが代表を務める藤岡食品は、病院や福祉施設に注文野菜を納める、老舗の八百屋です。横浜中央卸売市場内に会社を構え、1941年の創業以来、神奈川県の食の変遷を見続けてきました。3代目である藤岡さんは、大学卒業後、種苗会社大手の「株式会社サカタのタネ」の研究農場に勤務した後、1986年に藤岡食品に入社しました。

野菜の納め業者として忙しく働くかたわら、藤岡さんは、2006年によこはま青果塾を設立します。横浜の野菜消費の拡大を目指すこの塾は、テーマに合わせた専門家を講師として招き、野菜や果物の知識を深める講座を開くほか、産地見学ツアーなども開催しています。卸、仲卸業者や八百屋など青果に携わる方々が参加し、参加人数は年を追うごとに増え、毎回大盛況となっています。

よこはま青果塾の様子(写真提供:金港青果株式会社)
よこはま青果塾の様子(写真提供:金港青果株式会社)

野菜の知識を正しく伝えたいという想い

青果塾を開く動機になったのは、市場に出入りを始めた頃に持った違和感だと、藤岡さんは言います。「まず感じたのは、買取価格の低さ。手間ひまかけた野菜が驚くほど安値で取り引きされているのがショックでした」。農業経験がある藤岡さんにとって、その光景は衝撃でした。価格優先で右から左へ流していく、そんな市場の現状に危機感を持ったと言います。

野菜の知識を正しく伝えたいという想い

昔ながらの八百屋が減ったことも、市場のあり方を変える一因となりました。野菜の知識や知恵が乏しい業者が、形がきれいに揃った野菜を大量に仕入れて、量販店で大量に売る。そんなスタイルが主流となっていったのです。

「形が不揃いなものや傷のある野菜も、昔なら八百屋が安く仕入れて、かご売りしていた。『傷んで見えるけど、品質には問題ない』と八百屋が教えてくれるので、お客さんは安心して買えたんです」。正しい野菜の知識を消費者に伝えるという、中間流通業者の大切な役割が八百屋の減少と共に、失われようとしていました。

消費者にもっと野菜について知ってもらいたいと思った藤岡さんは、その後数々の勉強会に参加。知識と人脈を蓄え2006年によこはま青果塾を設立します。野菜をただ売るのではなく、消費者に野菜に関する正しい知識を共に届け、横浜の野菜消費拡大を図りたい。その理念は若い市場関係者を中心に少しずつ広まり、横浜市場に根付いていきました。

青果塾の勉強会は、野菜に関する知識と知恵を培う場

ラ・フランスの熟度による食べ比べ(写真提供:金港青果株式会社)
ラ・フランスの熟度による食べ比べ(写真提供:金港青果株式会社)

よこはま青果塾の実際の活動は、年5から6回開かれる勉強会が中心です。勉強会では、毎回一つの品目にテーマを絞り、テーマの青果に詳しい専門家を講師として招いて講座を行います。

2016年11月に開催された青果塾のテーマは「ラ・フランス」。産地である山形県農林水産部園芸農業推進課 果樹振興専門員の米野智弥(よねの ともや)氏を講師に招き、ラ・フランスの来歴や山形県の消費拡大の取り組み、保管方法や食べごろの見極め方を学びました。

勉強会では座学だけでなく、ほぼ毎回品種や産地別の食べ比べを行い、その違いを自分の舌で学ぶ取り組みを行っているそうです。「同じ品目でも品種によって旬も味も違う。実際に自分で経験することが大事」という藤岡さん。青果の「生きた」知恵を学び、消費者に正しい知識を届けたいという願いが詰まっています。

テーマの青果を使ったレシピの提案も

試食として提供されたラ・フランスのタルト(提供:金港青果株式会社)
試食として提供されたラ・フランスのタルト(提供:金港青果株式会社)

また、勉強会ではテーマの青果を使った簡単な料理レシピも紹介する。これは、忙しい現代の消費者に向けて、野菜を売るときに、調理法を合わせて提案しようという思いがあります。

「現在、市場青果の半分は、外食・中食産業へ卸されています。これは、個人が家庭で料理をする機会が減っているということ。昔の食生活に戻すのは難しくても、少しでも家庭で手作りの料理を食べてほしい。素材の良さを生かした簡単な調理法を提案することで、その一助となればうれしいですね」

消費者においしく食べてもらうまでが八百屋の仕事。消費者と接する八百屋ならではの気配りと言えます。

八百屋が、消費者と生産者をつなぐ存在に

八百屋が、消費者と生産者をつなぐ存在に

2017年で11年目を迎えるよこはま青果塾の活動を経て、藤岡さんの夢はまだまだ広がります。

「今は一年中、野菜が食べられますが、野菜は本来、地元で旬のものを食べるのが一番おいしい。本来日本には、その土地土地で一番おいしく作れる品種を固定種として大切につないできた歴史があるんです。そういう食文化が失われるのは寂しい限りです。その地域で、その時期にしか採れない特別な野菜。そういった野菜が出てくることを期待しています」。

固定種の青果は、日持ちや均一化の点で、市場での流通が難しい側面があります。そういった現状を少しずつ、変えていきたいと藤岡さんは考えています。

「横浜は消費者と生産者が物理的に近い土地。このアドバンテージを活かして、消費者と生産者、我々中間流通業者のつながりをもっと密にしていくことができたらいいですね。八百屋が、消費者と生産者が野菜の知恵や知識を共有する、そんなプラスの循環を生むきっかけになれたら」と藤岡さんは願っています。

流通中間業者としてただ作物を売るだけではなく、八百屋が消費者と生産者を結びつけていく。藤岡さんの取り組みや、新たな挑戦はこれからも続いていきます。

※写真提供:金港青果株式会社

よこはま青果塾

藤岡食品株式会社

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