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良質な肉へのこだわりは、羊が生まれた意味を最大化するため。羊の畜産で、取り組んだ証を残したい。

良質な肉へのこだわりは、羊が生まれた意味を最大化するため。羊の畜産で、取り組んだ証を残したい。

山梨県富士山麓で観光牧場と羊の畜産を行っている藤田太一(ふじたたいち)さん。仕事をきっかけに山梨に移住し、未経験である羊の畜産を始めました。日本では珍しい羊肉の生産に取り組んだ背景とは。また肉質向上にこだわる意味とは。藤田さんが羊の畜産に懸ける想いをお届けします。

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藤田太一さん略歴

・東京生まれ、親戚の事業を手伝いに山梨へ

・山梨の自然が気に入り移住、宿泊施設を経営

・宿泊客に楽しんでほしいと、2008年観光牧場と羊の畜産をスタート

ふじさん牧場の取り組み

山梨県の富士山の麓で宿泊施設と観光牧場を経営し、牧場内で羊の畜産をしています。旅館と牧場の広さは合わせて4ヘクタールです。牧場では牛と戯れたり、乗馬や羊の毛刈り、羊毛を使ったクラフト体験ができ、併設のバーベキュー場とカフェでは羊肉を食べることもできます。

羊は、顔が白いサウスダウン種と顔が黒いサフォーク種、合わせて約100頭を飼育しています。牛は5頭、馬は1頭います。

基本的に休みはありませんが、10人強が働いているので交代制で休みを取っています。1日の流れは、朝7時に起きて事務仕事を行い、9時から従業員とのミーティングや家畜の世話と、世話の仕方の指導などをします。午後は羊を放牧場に移動させるので世話をすることはなく、打ち合わせなどに時間を割いています。

2月から4月は出産時期のため、世話する時間が流動的です。夜中から明け方に生まれることが多く、その時間帯は羊舎を何度も見回ります。

生まれた意味を最大化するためのエサ作り

羊の畜産をする上で大切にしていることは、良質な肉の追求です。良質な肉とは消費者においしいと言ってもらえる良質な肉にするために、2つのことにこだわっています。

一つは、質の良い赤身肉にすることです。その鍵は、羊の健康状態と赤みの発色です。そのために、エサにワインを作る工程で出たぶどうの搾りかすを混ぜて、ポリフェノールを摂取させています。ワインの搾りかすを食べているので「ワインラム」というブランドで展開しています。

もう一つは、極力臭みを減らす工夫です。臭みには様々な要因があります。羊が青草を食べると肉に青臭さがついてしまうので、乾燥した雑草を食べさせています。また、アンモニア臭を抑えるため、乳酸菌を与えて腸内環境を良くしたり、木炭を飼料に入れています。木炭は、臭いだけでなく病原菌も吸着して体外に排出してくれるので、一石二鳥です。

エサにこだわって、質の良い肉になるように育てています。

良質な肉の追求は、私の使命です。ふじさん牧場の肉を食べた方が幸せな気持ちを抱く。そんな肉作りをすることで、羊がここで生まれた意味を最大化できると考えています。

羊の畜産に可能性を感じた

牧場を始める前は、東京でコンサルタントとして働いていました。親戚の事業の手伝いで一時的に山梨県に来たのですが、自然豊かな環境が気に入り、土地が手に入ったこともあり、そのまま移住しました。

買った土地には、朽ちた旅館と広大な牧草地がついてきました。せっかくなので、旅館は宿泊施設として再生して、牧場も経営することにしました。

牧場経営は未経験だったので、最初は県庁で話を聞いたり、他の牧場で研修をしました。体験施設やレストランを作りたいと思ったのは、研修でうかがった三重県で食農教育をしている農業法人がきっかけでした。

また、羊を育てると決めたのもこの時期です。畜産を始める上で、牛・豚・鳥・羊など様々な家畜の選択肢がありますが、事業として発展する可能性が最も大きいのが羊でした。

牛、豚、鳥は、需要が大きいものの、生産者も多く、すでに確立された世界です。しかし、羊肉はまだまだ開拓の余地があります。流通している羊肉のうち、国産は1%以下。しかし、世界で見ると、羊肉は最も消費量が多い肉なのです。国産ブランドの羊肉を作れば世界に出ていくこともできます。

未経験でしたが、一生かけて取り組めば、成功できるかもしれない。コンサルタント時代、未経験の事業でも、依頼があれば短期間で必死に勉強して成果を出してきました。同じように取り組めば、羊の畜産でプロフェッショナルになれるのではないか。そう考えて、羊の畜産を始めました。

と畜場に連れて行く時

羊を育てる上で大変なことは、健康に細心の注意を払わなければならないことです。常に健康状態をチェックし、元気がなかったら小屋に何度も足を運んで世話をします。

毎日不安ですし、病気などによって命を落とした時は、自分に実力があったら救えたのではないかという後悔にさいなまれます。反対に、生まれつき虚弱体質だった仔羊を救えた時は大きな喜びです。積み重ねてきた技術に間違いがなかったと実感できます。

畜産に携わるまでは、育てた家畜をと殺する時に悲しい気持ちになるのではないかと想像していましたが、実際は違いました。と畜場に連れて行く時、感謝の気持ちと安心感に包まれるのです。

安心感は、羊が使命を全うするお手伝いが完了した解放感によるものだと思います。羊はおいしい肉になって、消費者の元に届けられるために生まれています。その使命を果たし、生まれた意味を最大化するためにも、肉質の向上は最大の命題です。

畜産業界全体が盛り上がるように

畜産は国内で縮小している業界です。自分が属する業界が縮むことは寂しいことです。自分の取り組みが注目され、たくさんの方がまねをして、畜産業界全体が盛り上がればいいと思っています。

そのためにも、品質、規模、後継者育成の分野で日本一を目指しています。引き続き品質を向上するための工夫を続けながら、飼育する羊の数は4年で5倍の500頭に増やす予定です。畜産従事者の育成については、畜産を勉強したい方の受け入れも行っています。話だけ聞きたいという方も大歓迎です。三分野とも達成して、日本一の羊飼いになるつもりです。

畜産や農業に興味のある方は、まずはできることから始めたらいいと思います。やってみてダメだったらやめればいい。考えすぎて始められないよりも、やってみて失敗する方が後悔が少ないし、本気でやってみて失敗したら後悔しないと思います。

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