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本当のしば漬けを知っていますか?伝統の味、生しば漬け

本当のしば漬けを知っていますか?伝統の味、生しば漬け

2017年09月28日

今では全国どこでも手に入り、定番の漬け物の1つとなっているしば漬けですが、元は京都、大原の郷土料理でした。一般に流通しているしば漬けは、大原が発祥の本来のしば漬けとは異なる作り方をされています。本当のしば漬けはどのようなものだったのでしょうか。

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名前の由来の1つは平家物語に関わる悲話

「しば漬け」という名前ですが、漬けられている原料の野菜はナス、キュウリ、ミョウガなどで「しば」ではありません。「しば」に当てられる字には、複数の説があります。

大原の里人の心遣いからついた名前

大原は古くから出家や隠遁の地として選ばれる静かな場所で、地名の由来も平安時代の初期に慈覚大師円仁がこの土地に修練道場として、開山した大原寺にちなんでいるとされています。平安時代の末期、いわゆる「源平合戦」の後で敗れた平家の娘である建礼門院は帝の妃でしたが、壇ノ浦の合戦で平家が滅亡した後も生き残り、大原の寂光院という寺に送られ出家します。夫である高倉天皇は既に亡くなっており、その上源平の戦いで子供である安徳天皇と一族を失って、侍女と共に仏に祈る生活を送る建礼門院に里の人が差し入れたのが「しば漬け」でした。

しば漬けの発祥の地、大原はシソの産地だったので自然と保存食の材料にも使われていました。赤ジソとナスで作られた漬け物は鮮やかな紫で彩りが美しく、それを喜んだ建礼門院が「紫葉漬け」と呼んだ事から「しば漬け」となった、というのが「紫葉漬け」の名前の由来とされています。

もう1つ、「柴漬け」の字を当てる説もあり、こちらは大原の産物であった柴を「大原女」と呼ばれる行商を生業とした女性が売り歩く事から、呼ばれるようになったとも言われています。

古来のしば漬けの材料は赤ジソとナスと塩

現在、しば漬けとして売られている物はキュウリやミョウガが入った物や、色が紫ではなく緑色のものもあります。これはどういう事かと言いますと元々「しば漬け」と呼ばれていた物は赤ジソとナスと塩で作られた、乳酸発酵によってできる物でした。現在では調味液に漬けて酸味のある味付けをした「調味しば漬け」が市販品の主流です。本来の作り方でできた物は「生しば漬け」と呼ばれ、区別されています。どうして本来の作り方の物が主流から外れたかと言いますと、微生物の発酵によって作られるため、味や品質を一定に保つのが難しいからです。「調味しば漬け」は味を一定に保てる事から、広く流通するようになりました。また、緑色のしば漬けは青ジソを使った物で「白しば漬け」という名前で売られている事もあります。

乳酸発酵で漬け物ができる仕組み

野菜と塩で乳酸発酵が起きるという事に不思議を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。「乳酸発酵」と聞いて先に連想されるのは、おそらく漬け物ではなくヨーグルトの方ではないかと思います。どちらも乳酸菌によって作られる食べ物ですが、ヨーグルトも乳酸発酵で作られているのに普通に量産されているのに対し、漬け物は品質が安定しづらいという違いがあります。この差は野菜を乳酸発酵によって「保存」できる仕組みにあります。

腐敗も発酵も仕組みは同じ。違いは人間から見た都合

「発酵」とは酵母や乳酸菌が活動するために糖分などを分解してアルコールや有機酸、二酸化炭素を作る事を言います。腐敗も同様に微生物による分解によって起きますが、腐敗の場合、主に分解される対象はたんぱく質で糖類が分解された場合でも人間にとって有害な変化であれば腐敗に分類されます。これは完全に人間の都合による分類で、人間にとって都合のいい変化が起きる状態で食品を作り出すのが、発酵食品です。

漬け物が出来る仕組み

乳酸発酵を利用した漬け物は、空気中や野菜に付着した菌を利用して作り出されます。ここで漬け物に関わる菌は大きく分けて4つに分類されます。

・乳酸菌A→空気が好きではない。植物や野菜についている。強い塩分にも耐えられる。

・乳酸菌B→空気が好きではない。植物や野菜についているが塩分が苦手。

・腐敗菌C→塩分も強い酸も苦手。

・腐敗菌D→塩分は平気。酸が苦手。

本来のしば漬け(生しば漬け)を作る手順

1.野菜を洗って刻むなどして、塩で揉む。

2.塩で揉んだ野菜を絞り、重しをかけて置き乳酸発酵させる。

まず、塩を揉み込む事で塩が苦手な腐敗菌Cと塩が苦手な乳酸菌Bが減ります。次いで、重しをかけて空気を抜く事で、空気が嫌いで塩分で平気な乳酸菌Aにとって居心地が良い環境になっていきます。好ましい環境に置かれた乳酸菌を増殖するために乳酸発酵をおこない、その過程で「乳酸」を生成します。乳酸はとても強い酸であるため、塩分には強くても酸には弱い腐敗菌を弱らせます。これによって野菜の腐敗を防ぎ、長期の保存が可能となるのです。

安定しない理由は「菌」を選べないから

ここまでの手順を見るとおわかりかと思いますが、漬け物の乳酸発酵に使われる乳酸菌は材料の野菜に付着している天然の菌になります。ヨーグルトの場合は、殺菌した牛乳に正常な発酵で得られた乳酸菌を種菌として使用するため比較的安定した結果が得られるのです。また、乳酸発酵に要する時間がヨーグルトは長くとも数日であるのに対し、漬け物は早くても二週間程度の時間を要します。環境によっては発酵が進み過ぎる事でサイレージ臭と言われる悪臭を放つようになる事もあります。夏から季節が進むと色がだんだんと黒ずんで来ます。調味漬けで作られるしば漬けの場合、気温に発酵の状態が左右される事はありませんし、野菜が年中供給される現在では、好きなタイミングでほぼ一定の味の漬け物を作る事ができます。夏に多量に取れた野菜を冬期まで保存するという必然性が薄れた事も、塩漬けによる乳酸発酵の需要の低下につながっているといえます。

発酵食品の味は場所でも決まる

漬け物に限らず、冷蔵庫がない時代は色々な原料で発酵食品を作って保存し、糧としていました。調味料である味噌や醤油も発酵の恩恵で作り出された物で、かつては各家庭でも作られていました。

「手前みそ」という言葉があります。これは「自分の家で作った味噌がおいしい」という自慢から転じて「自慢話になりますが」という前置きに使われた言葉です。各家庭の環境によって、仕上がる味噌の味が異なる事が知られている前提があってこそ理解出来る表現です。なぜ味の違いが出るかというと、発酵させる環境が家庭毎に異なるため、増える菌の種類や発酵の度合いが異なるからです。環境によって発酵食品の味は異なってきます。

「京の三大漬け物」とは

京都には、しば漬け以外にも有名な漬け物があります。聖護院かぶらを用いた「千枚漬」と、すぐき菜を漬けた「すぐき漬」を合わせて「京の三大漬け物」と呼びます。現在では千枚漬けは薄切りにした聖護院かぶらを昆布と共に酢漬けにするのが一般的ですが、かつては塩漬けによる乳酸発酵で作られる物でした。聖護院かぶらの現在の主力産地は亀山市ですが、かつては名が示すとおり京都市左京区の聖護院で作られていた野菜です。

すぐき菜は京都の上賀茂が産地で、かぶらと同様、冬期に収穫されます。土壌や季節が異なれば、同じ乳酸発酵であっても働く菌が異なってきます。それはそのまま味わいの違いにつながっていきます。

植物性乳酸菌のパワー

乳酸菌=ヨーグルトというイメージが強いであろう事は先にも記した通りですが、近年では植物由来の乳酸菌が話題になっています。すぐき漬けを作り出す乳酸菌はラブレ菌と呼ばれる物で、1993年に発見されました。植物性乳酸菌はヨーグルトに入っている動物製乳酸菌より過酷な環境に耐えられるとされ、摂取する事で腸内環境を整え、体の免疫力の向上に寄与するという事が広く知られるようになってきました。ちなみに、しば漬けからはプロテクト乳酸菌(S-PT84株)と呼ばれる乳酸菌がサントリーの研究により発見されています。

健康に寄与していた漬け物の乳酸菌

塩分の取り過ぎは体に悪いと漬け物を忌避する考えもありますが、乳酸菌を含む漬け物は腸内環境を整える働きによって、長く日本人の体を助けていた事も事実です。しば漬けに限らず、その土地独特の漬け物もまた、土地に合った菌が体を養っていたのではないでしょうか。しば漬けは今では広く日本中で食べられていますが、元々は冬期、雪に閉ざされる大原の気候によって生み出されたものです。自分の住む土地の「しば漬け」はどんなものか、郷土料理を調べてみるのも面白いかもしれません。

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