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外資系コンサルティングファームから農業の世界へ。ITの力で水不足解消を目指す。

外資系コンサルティングファームから農業の世界へ。ITの力で水不足解消を目指す。

土の中の水分量や温度を測るセンサー「SenSprout(センスプラウト)」の開発・販売を行う菊池里紗(きくちりさ)さん。コンサルタントだった彼女が、なぜ農業の世界に飛び込んだのでしょうか。センサーに込めた思いをうかがいました。

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水やりを効率的に行うためのセンサー


SenSproutは、畑に杭のように挿して土の中の水分量と温度を測るIoTデバイスです。数値をデータ化して植物の状態と照らし合わせることで、栽培している植物に必要な水の量や適切な水やりのタイミングが分かります。他のデバイスなどと組み合わせて、水やりを自動化することもできます。

水の管理は野菜のおいしさを大きく左右します。中でも、トマトや葉物野菜では水管理が重要となり、この製品が力を発揮します。

近年、土壌の状態を調べてデータ化する様々な製品があります。しかし、自社でセンサーの開発までしている会社はほとんどありません。私たちの製品は、デバイス本体だけでなく、水分量や温度を測るセンサーまで自社で開発していることが特徴です。製品に対して一貫して責任を持っているため、顧客のニーズを反映させて、製品をスピーディに改良できます。また、プリンテッド・エレクトロニクスという、基盤の印刷技術を用いることで、製品のコストを大幅に下げ、少量から生産することも可能です。

今の形になるまでは、多くの苦労がありました。土の中のデータを取るためには、製品と土の密着度が重要です。以前は筒型のセンサーだったのですが、土に穴を開けて製品を挿しても、土とセンサーの間に隙間が生まれてしまい、正確にデータが取れません。しかし、土と密着すると、センサーを土から抜く時に、センサーの上部についているデータを送信部分が折れてしまうのです。

そこで、筒型ではなく定規のような細い板状の形にして、センサー部分とデータ送信部分を取り外せるようにしました。定規型なら、穴を掘らずに土に突き刺すことができて、密着度は上がります。そのおかげで、土壌成分をより高精度に測れるようになりました。

「農業に貢献したい」学生時代の2つのきっかけ

農業に貢献したいという思いは、学生時代に芽生えました。

わたしは大学生の時、農学部で農業や漁業を勉強していました。初めは水産資源管理に興味を持っていたのですが、東日本大震災をきっかけに、よりピンポイントに、自身の研究を東北の農林水産業に役立てられないかと考え、東北に行くようになりました。

ボランティアツアーで地元の方にお話を聞いた後に農地や山林を見てまわったり、自分たちでツアーを企画したりと、被災地に何度も足を運びました。「震災ですべてを失っても、東北で農業を続けたい」という生産者の方の気概を感じ、新しい農業が東北から再興されていると感じました。

そして、新しい農業を一緒に創っていく手伝いをして欲しいと誘っていただいたこともあったのですが、農業を少し学んだだけで社会経験がないままでは、足手まといになってしまいます。そこで、貢献するための力をつけるために、大学院に進学してより専門的な農業を学ぶことにしました。

また、大学院1年の時にインターンで モロッコの農業プロジェクトに携わったことも、わたしの人生に大きな影響がありました。そこで関わったのが、点滴灌漑という技術を使った節水方法を伝えて農業生産性を高めてもらうプロジェクト。施設や設備などの建物を作るだけではなく、現地の人たちの技術を向上させて、生きて行くための資産を残せることに感銘を受けました。また、指導している日本人も、使命感を持って働いています。わたしも、実際に現場で人の役に立つ仕事をライフワークにしたいと感じました。

けれども、そのプロジェクトの任期は5年。専門家が張り付いて、5年毎に様々な地域に移動して技術を指導します。各地を転々とする生活は、順応できないと感じました。

また、確かにやりがいのある仕事ですが、属人的で個人の力で左右されてしまう状況で、規模を急激に広げることはできません。テクノロジーを活用して、もっとスケールアップする仕組みを作りたいと思ったのです。

テクノロジーを用いて農業や水産業の課題解決を途上国でしたい。軸は決まりましたが、そのためのスキルは備わっていませんでした。そこで、大学院卒業後は、スキルアップのために就職した会社で修行して、数年したらまた自然産業に関わる仕事をしようと考えていました。テクノロジースキルとビジネススキル、どちらを学ぶか迷いましたが、最終的にはビジネスを学ぶことに決めてコンサルティングファームに就職しました

水の無駄使いを減らすことで、世界の水不足の解消への貢献する

就職して1年半ほど経った頃、同僚からSenSproutのことを聞きました。SenSproutが生まれたきっかけは、アメリカで起こった大干ばつ。農業で水を使いすぎたため土地が干上がり、養殖など他の産業にも被害を出しました。

地球上で飲水として使える水は北極・南極の氷を除けば全体の1%もないと言われていて、そのうち70%が農業用水。今後世界の人口増加に伴い、水不足は深刻化されることが予想される中、農業における水の無駄を一滴でもなくしたい。そんな思いで生まれたのがSenSproutでした。

世界中の農業で水を効率的に利用するためにテクノロジーを用いている。海外を視野に入れていると聞いて、自分にピッタリだと思いました。そしてコンサルティングファームで様々な経験を積んで、転職することにしました。

日本発、世界へ。新しい農業の形を広げていきたい。

土壌データを計測するデバイスが完成したからといって事業が順調にいくわけではありません。今後は、計測したデータを農業に活用するためのモデルを作ることと、多くの方に使っていただくことが課題です。

まずは、日本の大手の生産法人の方々と協力して、水を効率的に使う事例を積み上げたいと考えています。さらに、デバイスだけを販売するのではなくて、データの活用方法や日本の生産法人が取り組んでいる効率的な生産方法とセットで販売し、日本の高い技術力を世界に普及したいと思います。

実際、日本の技術がある生産法人のデータを取ってみると、これ以上改善できないくらい効果的に水やりを行っているということが分かりました。SenSproutを使って水やりのコツを可視化し、データとして蓄積する。それを、水不足の深刻なインドやアフリカなどにも届けたい。世界中の農業で効果的な水の利用方法が浸透することで、水不足に対するひとつの解決策を提示していきたいです。

現在は、農業生産法人の方に協力していただくことが多いので、農業経営者とお話することが多く、いわゆる農家の方と関わることはあまり多くありません。「農業のために働く」というと、「農家になるの?」と言われることも多いですが、そうではない働き方もあることを知ってもらえたらと思います。

今後の日本の農業を考えたとき、効率的な農業を実践する農業経営者と、週末農業のように趣味として関わる人、どちらも大切だと思います。「職業としての農業」という選択肢を広げるために、新しい教育の形にも関心があって、子供向けにセンサー作成体験のワークショップも行っています。次世代の農業を担う子供たちに「ITを使って、農業はカッコ良く稼ぐ職業になる」と伝え、職業としての農業の在り方を変えていきたいです。

SenSprout

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