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頑張るよりも夢中になる 経営者として感じる農業のおもしろさ

頑張るよりも夢中になる 経営者として感じる農業のおもしろさ

山梨県に拠点を置く株式会社サラダボウルを中心に、複数の地域で農業生産法人を経営する田中進(たなかすすむ)さん。農作物の生産だけでなく、ベトナム進出や就農をサポートする人材育成事業など、活動は多岐に渡ります。「頑張っているわけではない。やりたいからやっているだけ」と話す田中さんに、これまでの歩みと農業経営に対する考えをうかがいました。

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トマト

会社は経営者の情熱次第で変わる

私は山梨県に拠点を置き、いくつかの農業生産法人を経営していますが、昔から農業に興味があったわけではありません。農家の次男として生まれ、小さい頃から畑の手伝いはしていましたが、両親からは「お前たちの時代は、農業なんかする時代ではない」と言われて育ちました。そのためか、農業に関わるなんて全く想像もしていませんでした。むしろ農業は嫌いでしたし、一刻も早く田舎から抜け出して都会に行きたいと考えていました。

高校卒業と同時に地元を離れ、横浜の大学を卒業後、銀行員になりました。銀行では法人営業部に配属され、中小企業の経営者と関わるようになり、その中で「会社は、経営者の傾ける情熱次第でいくらでも変わる」ということを目の当たりにしたのです。

どんなに不況な業界でも好調な企業はありますし、逆にどんなに順調な業界でもうまくいかない企業があります。それは経営者次第だと学びました。

様々な経営者に会う中でも、ベンチャー企業の経営者からの刺激は特に大きかったと思います。お金も商品もサービスも人脈もない中で、「こんなサービスがあれば社会はもっと良くなる」という想いだけで突き進み、何もないところからカタチを創っていく姿に惹かれたのです。

会社は経営者の情熱次第で変わる

5年ほどして外資系生命保険会社に転職してから、経営者との付き合いはより深くなりました。経営者の苦悩や大変さも目の当たりにしましたが、自分でも事業をやりたいという気持ちが抑えきれなくなり、起業することとなりました。

私の中で「起業する」ということは、「農業で起業する」ということでした。自分のルーツであり、両親がやっていた影響は間違いなくあります。振り返ってみると、銀行で働いていた時から、様々な会社の事業を見て「農業に置き換えたらどうだろう」と考えることばかりでした。

いつの頃からか、間接的に支援する金融機関ではなく、自分で事業をしたいという気持ちがどんどん大きくなっていました。自分が作った野菜を嬉しそうに自慢したり、栽培に失敗した時に悔しそうにしている父の姿が、いつも自分の中にあり、自分の人生と農業は、切り離せないものだったのだと思います。

それ以上に、農業という産業に大きな可能性を感じていました。農業は、最も古い産業であり、常に保護されてきた産業だからこそ、改革が進んでいないのだ。他の産業は試行錯誤し尽くされている感覚がありましたが、農業は手付かずの領域がたくさんあるように思えました。

未踏の領域がたくさん残っている農業という産業に挑戦したい。「農業の新しいカタチを創りたい」。そんな強い想いで、2004年、32歳でサラダボウルを創業しました。

経営者として当たり前のことをするだけ

新しいカタチを創ると言っても、何か特別なことをしたということではありません。他の業界で当たり前に行われていることを、ただ農業にも取り入れてきただけです。

例えば、製造業で行われている生産工程管理や業務改善、品質改善のプロセス、小売業やサービス業で行われているホスピタリティの高いサービスや販売方法など、それまで出会った経営者から学んだ手法を取り入れました。派手なことをするわけではなく、当たり前のことを当たり前に積み重ねる。それが、結果として関わる人全てが「この農園があってよかったな」と思える、農業の新しいカタチにつながると考えていました。

常に難しい課題に挑戦するわけですから、忙しいのも想定通りですし、あまり苦労をした印象はありません。もちろん、全てがうまくいったという意味ではありません。目の前にはいつも課題だらけです。ただ、その課題に対して取り組み、改善を積み重ねていくことが経営者の仕事であり、当たり前のことを当たり前に続けてきただけです。

会社を始めた頃は、「農業はつらいのが当然。本当にやる気があるなら続けられるはず」といったスタンスで人材育成をしていたので、離職率もかなり高くなっていました。その状況が問題だと気づけたのは、ある人に「それは人材育成でも教育でもない」と言われたことでした。そして、それをきっかけに、色々な経験を重ねる中で少しずつ自分の考え方が変わっていきました。ひとつの大きな出来事で、自分や会社に大きな変化があったわけではなく、小さな全てのことが今につながっています。

日本の農業をアジアから世界に

サラダボウルを創業して14年経ちましたが、「農業の新しいカタチを創りたい」という強い想いは今も変わっていません。これに加え、「農業を地域の中で価値ある産業にしたい」という意識が、今まで以上に強くなってきています。

農業は、地域に就職するという側面を持っていると思います。自分たちが農業という仕事をして、そのことで「地域が良くなる」ことにつながるのであれば、自分たちにとってもこんなに幸せなことはありません。その地域の農業が発展することと地域が発展することは密接につながっているのではないかと感じています。

現在は、これまで積み重ねたことが一つひとつカタチになり始め、次のステージへの挑戦がはじまっていますが、直近の大きな課題は、人材育成の仕組みや多くの企業を巻き込んだフードバリューチェーンづくりだと考えています。

また、日本だけでなく、海外(ベトナム)での農業事業の展開がはじまっています。もともと海外展開は、日本の農業を守ること、そして、日本の農業と食産業をアジアから世界中に広めたいという思いから始めました。日本での農業経営が拡大するにつれ、雇用の課題が出てきました。今の私たちの事業では、一つの地域で数十人から数百人規模の働き手が必要になりますが、土日祝日や朝早い時間の作業など、家族や何かを犠牲にしないと働けない場になってしまう。働く人にとって農業が「やりたくない仕事、働きづらい仕事」にもなってしまいます。

そこで、違う文化や風習を持ち、その時間帯に喜んで働きたいと思う人が必要になります。そういった産業人材を育成するため、海外展開を始めたのです。さらに、海外の拠点から海外市場にも展開しようと考えています。

特に、ベトナムには世界の中でも農業生産の最適地があります。地球儀を見た中で、より最適な場所で、日本の農業経営のノウハウと技術を用いて、世界へと挑戦してみたいと純粋に思いました。親日国のベトナムで、お互いに尊敬しながら仕事ができる上に「おいしい」と感じる感性が日本人と近かったのも決め手のひとつでした。

農業も他の産業も変わらない

農業は特殊な産業のように思われがちですが、基本的には他の産業と何ら変わらないと考えています。

農業には天候リスクがあるとも言われますが、天候はリスクだとは考えていません。天候はある程度予想できるので、対策を打つことができます。前もって予測して、事前に備えることでリスクを最小限に抑えるのが経営者の仕事だと考えています。

人材面でも、農業だけ特別な能力が必要なわけではありません。他の業界と同じように、目の前のことを自分事として捉え、自立できるように解決していくだけです。人材育成では、ワーカーからミドルマネージャーへ、そして経営者へと育てることが、私たちの役割だと考えています。目の前の農作業をするだけの人材ではなく、未来のための行動を考えるミドルマネージャーや経営者が必要なのだと思います。

私も、会社を立ち上げた最初の数年は現場に出ていました。しかし、ある時、「現場は自分たちに任せてほしい。社長は、3年後、5年後のサラダボウルの未来を考えてほしい」とある社員から言われました。その時に覚悟を決め、現場を任すことにしたのです。今では、任せることや小さな失敗を経験することによって人は育つのだと確信できるようにもなりましたし、農業経営者は農作業に埋没するのではなく、しっかりマネジメントに関わらなければ会社は成長していかないとも痛感しています。

「頑張れる」よりも「夢中になれる」

農業に特別なスキルや能力は必要ありませんが、農業をやりたいと思っているかどうかは、重要かもしれません。私自身、創業当初と変わらず、農業に大きな可能性を感じていますし、まだまだこの分野で挑戦したいことばかりです。銀行の仕事も保険の仕事も、天職だと思っていましたが、それ以上に農業は面白い。サッカーやゴルフなど、遊びに夢中になっている感覚と同じです。

だから、自分が頑張っているという感覚はまったくありません。ただ遊んでいるだけという感覚です。自分が夢中になれることをやって、それが誰かのためになって、自分に喜びとして返ってくる。これほどおもしろいことはありません。「農業に夢中になっていたら、その農業が地域にとって価値ある産業になっていて、結果としてその地域が良くなっている。」もし仮にそんな仕事ができたら、こんなに素晴らしいことはないでしょう。そんな「農業の新しいカタチ」に、これからも挑戦し続けていきたいと思います。

サラダボウル

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