2種類ある生椎茸
椎茸の原産地は熱帯アジアと推測されており、中国では14世紀の書物に栽培法が載っているほど昔から食べられているようです。日本では本格的に食用にされたのは室町時代、栽培が始まったのは江戸時代と言われています。椎茸には「原木栽培」と「菌床栽培」という2種類の栽培方法があります。「原木椎茸」は、シイやクヌギやコナラなどの丸太に種菌を植える栽培法です。椎茸の名前の由来はここからきており、椎(シイ)から生えていたことから「椎茸」と言われています。
菌が育ち、生えてきた椎茸は原木が朽ちてしまうまで毎年収穫できるそうです。肥料や農薬は不要ですが、椎茸が育つまでに約2年から3年の長い歳月がかかります。それだけ時間をかけて育てた原木栽培の椎茸は、歯ごたえがあり、うま味が豊富で主に干し椎茸として販売されています。「菌床椎茸」は、おがくずに米ぬかやふすまなどを混ぜて固めた『菌床ブロック』に種菌を繁殖させて栽培する方法です。
約3ヵ月から4ヵ月という短期間で栽培できるだけでなく、天候に左右されないハウスなどで育てられるので、大量に安定した出荷ができるという利点があります。食感は柔らかくなめらかなため、主に生椎茸として生産されています。
店頭で販売されている椎茸はどちらが多い?
日本で流通する約85%は菌床栽培の椎茸です。菌床栽培椎茸は、原木栽培の椎茸に比べて大量に安定して出荷できるだけでなく、形が揃いやすいので、店頭で販売しやすいという販売側のメリットもあります。栽培日数が長く、重い原木を運ぶなどの労力がかかることから、原木栽培椎茸の生産者は年々減ってきており、原木椎茸は希少な物になってきています。日本産の椎茸のほとんどが原木栽培であるのに対し、中国産のほとんどは菌床栽培によるものです。販売する時に『菌床』か『原木』と栽培方法を明記する義務があるので、パッケージを確認してみてください。また、軸が付いているか付いていないかでも見分けることができます。中国産の椎茸は、傘だけを食材として用いるため、軸が付いていません。
干し椎茸の傘の開き具合・採れた時期によって変わる呼び名
生の椎茸は「原木栽培」と「菌床栽培の」2種類しかないため、覚えやすいです。しかし、干し椎茸は傘の開く具合によって3種類、椎茸が採れた時期によって5種類の呼び名があります。
まずは、傘の開き具合による3種類の干し椎茸をご紹介します。
■「冬菇」は肉厚で、傘が開いていないものです。高級品とされています。
■「香菇」は冬菇と香信の中間。大相撲で優勝力士に送られる干し椎茸です。
■「香信」は70%ほど傘が開いた薄い椎茸を乾燥したものです。冬菇に比べると戻し時間も短いため、家庭で使いやすい干し椎茸です。
原木栽培の椎茸の旬は年に2回あり、主に春(3月から5月)と秋(9月から11月)です。キノコ類の旬は秋ですが、椎茸は春にも旬を迎えるのです。「春子」は2月から4月頃の春に採れるものです。良い香りがするのが特長です。「藤子」は藤の花が咲く4月から5月頃に採れるものです。中には虫が混じっているものがあるのでご注意ください。「梅雨子」は梅雨の時期の椎茸です。「秋子」は秋に採れるものです。虫が付きにくいのが特徴です。「寒子」は1月頃に採れるものです。寒い時期にゆっくり大きくなるので大きく、うま味が凝縮されています。
発生したときの天候・傘についたひび割れの模様でも呼び名が変わる
傘の開き具合・採れた時期だけでも呼び名が多いですが、発生したときの天候・傘についたひび割れの模様でも呼び名が変わります。発生したときの天候により雨子(あまこ)、日和子(ひよりこ)に分けられます。「雨子」は雨にあたって水分を多く含んだものです。そのため、色も黒ずんでいます。「日和子」は晴天が続き、水分が少ない環境で発生したものです。肉質がしっかりしています。傘についたひび割れの模様により、「天白冬菇」「花冬菇」「茶花冬菇」「天白香菇」に分けられます。
椎茸を食べて骨を丈夫に!低カロリーなだけじゃない椎茸の隠された栄養効果
椎茸に限らず、キノコ類は全般的に「低カロリー」「食物繊維・カリウムが豊富」ということで有名です。椎茸には「エリデニン」「レンチオニン」「エルゴステロール」という成分を含んでいます。一体どのような成分なのでしょうか。「エリデニン」は、血管にコレステロールが溜まるのを防いで血流をスムーズにするのに役立ちます。そのため、高血圧や脂質異常症の予防に効果的です。干し椎茸の香りは「レンチオニン」によるものです。
「エルゴステロール」は紫外線を浴びることで、ビタミンDに変わります。ビタミンDは、骨の形成に欠かせない栄養素の一つです。カルシウムの吸収を助け、骨や歯を丈夫にし、骨粗しょう症を予防する効果が期待されると言われています。積極的に摂りたいものですね。生椎茸、干し椎茸、両方に含まれていますが、紫外線をたっぷり浴びた干し椎茸は生椎茸よりも多くエルゴステロールが含まれます。生椎茸を食べる前に1~2時間干すだけでも、ビタミンDの含有量は10倍近くになるとも言われているので、ぜひ試してみてください。
煮物に焼き物に汁物に。椎茸を入れるだけでうま味が増すのには理由があった
椎茸は様々な料理に合い、料理を一段とおいしくしてくれます。うま味成分と言えば昆布の「グルタミン酸」や、かつお節の「イノシン酸」が有名です。椎茸にはうま味成分の一つである「グアニル酸」が豊富に含まれています。グアニル酸もエルゴステロール同様、生椎茸よりも干し椎茸の方が豊富に含まれています。これは「乾燥→水戻し→加熱」という過程の中で細胞が変化することで、グアニル酸が大量に生成されます。
干し椎茸は水で戻した方がいい?それともお湯で戻した方がいい?
干し椎茸は、乾燥のままでは料理に使うことはできないので、水で戻す必要があります。水とお湯どちらでも戻すことは可能ですが、この時の温度が調理したときの「うま味」に違いがあるのです。干し椎茸を水につけると、急速に吸水を始めます。この温度が高くなるほど、吸水量が少なくなります。吸水量が多ければ大きく膨らみ、肉質が柔らかくなります。
そのため、水からじっくり戻すと良いでしょう。5℃から6℃で8時間以上が理想とされます。時間に余裕を持って準備しましょう。急いでいるときは、ぬるま湯に砂糖をひとつまみ入れて戻すと、早く戻すことができます。
椎茸のおすすめ調理法
生椎茸は水で洗ってしまうと、うま味や風味、香りが流れてしまいます。汚れが気になる場合はぬれ布巾で軽くふき取るか、さっと洗う程度にしましょう。生椎茸は食感を楽しめるソテーや揚げ物、炒め物、干し椎茸はうま味と香りを活かして、煮物やちらし寿司、汁物などに使うと良いでしょう。生椎茸の軸を捨てていませんか?軸は、山里のサルたちが傘を捨てて軸の部分だけ食べるほどおいしいとも言われています。先端の黒い部分(石づき)をカットして調理しましょう。しっかりとした歯ごたえのある軸は、炒め物やスープに使うのがおすすめです。
干し椎茸を戻した水は捨てずに、出汁として使うと料理の味わいがより深まります。また、椎茸に含まれるビタミンDは油との相性抜群なので、ビタミンDの吸収率を高めます。
おいしい椎茸の選び方
次のポイントをチェックしておいしい椎茸を購入しましょう。
<生椎茸>
■傘の開き具合が6~8割程度で肉厚なもの
■傘の裏側のひだがきれいな白色のもの
■軸は短めで太いもの。傘が開ききっていたり、ひだが茶色く変色したものは鮮度が落ちているので注意しましょう。
<干し椎茸>
■しっかり乾燥しているもの
■表面が茶褐色で傘の裏のひだが淡黄色のもの
生椎茸と干し椎茸。作り方や傘の開き具合・採れた時期によって変わる呼び名を初めて知った方も多いのではないでしょうか。生と比べて、乾燥させた椎茸は保存期間が長く、栄養素やうま味成分の量も多いので、干し椎茸の存在は知っていたけれども、いつも生椎茸を購入していた方や干し椎茸の使い方がわからなかった方は、この機会に購入してみてはいかがでしょうか。