野菜と魚を同時に育てるアクアポニックス
アクアポニックスとは、魚と植物と微生物の3つが支えあって育っていく「循環型農業」のことです。魚を養殖しながら野菜の水耕栽培を行い、野菜と魚を同時に育てます。
魚を飼えば、魚はフンをします。それを野菜が栄養として吸収するため、水が浄化されます。浄化された水は再び魚の水槽へ戻るため、水槽の水換えが不要です。生態系を生かした循環型システムにより、魚の飼育と野菜の成長が同時にできるのです。農薬や化学肥料は使用しないため、完全オーガニックで野菜を育てることができ、サラダ菜、ネギ、ルッコラなどの野菜からミントやバジルなどハーブ類の栽培が可能です。
このアクアポニックスを日本で広めるための事業展開しているのが、株式会社おうち菜園です。2014年、代表取締役社長の濱田さんが「消費者が自分で野菜やハーブを育てていける暮らしや社会を実現したい」と、同社を設立しました。
自然の生態系が目の前に
「私がアクアポニックスを知ったのは2012年のことです。アマゾンに住むピラクルという淡水魚の養殖に使った水を隣の畑に移す、という農業について紹介したウェブサイトを見たのがきっかけです。もともと宮崎県の田舎で、魚屋の長男として育ち、魚釣りが大好きだった私にとって『魚で野菜を育てる』というコンセプトは素晴らしく魅力的に映りました」。
濱田さんは、さっそくベランダに小さなシステムを作ることにしました。当時はアクアポニックスを紹介する日本語の書籍や動画などはなく、すべて英語で情報を入手する必要がありました。
「試行錯誤の末、やっとシステムが出来上がりアクアポニックスを始めると、そこに自然と生態系ができ、半永久的に循環を繰り返します。毎日魚にエサをやり、たまに水を足すだけで野菜がすくすくと育っていく。目の前で繰り広げられる自然の神秘に胸が躍りました」。
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アクアポニックスを広めるため「おうち菜園」を起業
「アクアポニックスを日本に広めたい」「実践者を増やしたい」という思いが高じて、起業を思い立った濱田さんは、農業大学校に1年間通い、集中的に有機農業を学びました。そして卒業後、それまで勤めていた会社を退職し、株式会社おうち菜園を設立。アクアポニックスを広げるための事業モデルを整えていきました。
「株式会社おうち菜園を創業した2014年当時、日本でのアクアポニックスの認知度はゼロです。まずは少しでも多くの人に、この農法のことを知ってもらうことが大切だと考えました」。
そこで「おうち菜園」というウェブサイトを立ち上げ、アクアポニックスについての記事を無料で発信しました。海外の実践者と協力して、日本向けのマニュアル本も出版しました。
「こうした啓蒙活動を通して、どこにどんなニーズがあるかを探っていきました。その結果、少ないながらもサイトや本を見た人から反応があり、家庭菜園や教育などの分野にニーズがあることがわかってきたのです。以降は、ニーズがある分野で事業を展開していきました」。
海外の実践者たちと協力してオリジナルのカリキュラムを作成し、アクアポニックスを指導するスクール事業を始めました。通学コースのみならずオンラインコースも開講しています。
システム事業では、生産者や個人の栽培家などに幅広くアクアポニックスを実践してもらうために設計図を公開し、資材や栽培キットをインターネットで販売しています。
アクアポニックスの家庭用キットの販売も
濱田さんが一番力を入れているのは、教育の分野です。「小学校などで、アクアポニックスを授業に取り入れてもらいたいと考えています。菜園よりも場所を取らず、畳半畳ほどのスペースで野菜作りが体験できるアクアポニックスは、子どもたちへの環境教育や自然への興味、食への関心を育てるうってつけの教材です」。
気軽にアクアポニックスを楽しんでもらいたいということで、2017年11月には、家庭用のキット『アクアスプラウトSV』の販売も始めます。アメリカで大ヒットした商品を日本の家庭に合うサイズに作り直したもので、水槽の幅はわずか45センチです。リビングやオフィスの卓上で気軽にアクアポニックスが楽しめます。
「このアクアスプラウトSVを家庭ではもちろん、学校やオフィス、病院、お店など、人が集まるところに置くことで、アクアポニックスを知って実践する人が増えると思っています」。
現在、日本でアクアポニックスの本格的な実践者は100名に満たないのではないか、と濱田さん。海外では日本よりもアクアポニックスが広く浸透しており、アメリカやオーストラリアなどではよく知られています。そのような状況を考え合わせると、日本のアクアポニックス実践者が10,000人規模になるのも夢ではない、と濱田さんは話します。
おうち菜園の挑戦はこれからも続いていきます。
おうち菜園
https://aquaponics.co.jp/