日本に浸透していない「種の有機栽培」
「できる限り環境負荷を減らし、持続可能な形にしていくことが重要である」という考えのもと、株式会社グリーンフィールドプロジェクトでは、主にヨーロッパの有機種子を輸入し、国内で袋詰めして販売しています。輸入している有機種子は、有機認証の中でも厳しいとされる「ヨーロッパ有機認証」を取得したものです。
松崎さんは現地を訪問し、栽培状況や管理システムなどを厳しく調査した上で輸入し、さらに熊本県天草市で試験栽培の上、生育の良かった品種を厳選しています。
世界でもいち早く有機農業に取り組んだヨーロッパでは、「有機栽培の根幹は有機種子の使用にある」と、種子も有機認証の対象物になっています。それに対し、日本では有機JAS法が食料に限定して施行されたため、種子が有機かどうかについては明確に定められていません。
「本来、採種は農業であり、食の根幹である種は有機農法が推進されることが重要」と松崎さんはいいます。
日本の有機種子の未来 固定種とF1種の共存
輸入種子の販売を続けていく中、消費者や農業に関心の高い方から「固定種はないか」「日本の在来種が残るように」という声が聞こえてくるようになったといいます。
種子について、有機か有機でないか分類する他に、固定種とF1種という分類があります。固定種は親から子へ、代々同じ形質が受け継がれている種のことで、昔から続く在来種や伝来種もその一つです。
現代で急速に普及しているのはF1種です。異なる親を交配させることで、次に生まれた子(第一世代の種)が、親とは異なる新たな形質を持つ種子です。
松崎さんは、採種農家と知り合う機会を求めて種苗交換会などに通うなか、「このままでは、固定種が残っていく可能性は低い」と感じたそうです。
農業全体の課題ですが、種苗交換にくる農家も高齢化が進み、継承者が不足しています。仮に継承者がいても、採種に関する技術や知識の伝達が少ない。一方、大手種苗農家のほとんどはF1交配種を栽培しており、病害虫とのいたちごっこを続けざるを得ない状況です。
近年の気象変動は著しく、環境の変化にある程度耐えうる形質をもつ種子は、F1種でもできるかもしれません。現代農業や食のことを考えると、F1種は必要です。「だからといって今後の農業はF1種一辺倒で問題ないのだろうか」。と松崎さんは疑問を持っているそうです。
プロジェクトを応援いただいている方から、「F1種は危ないから固定種にしてほしい」という声もあります。情報の偏りもあるせいか、F1種は悪い種だと敵視する意見も多いのだそうです。
よく間違えられますが、F1種は遺伝子組み換え処理ではありません。固定種を守ろうと、「SAVE THE SEEDプロジェクト」の活動を始めた理由は、F1種をなくすことではありません。母本を残し続けることで、将来の農業生産のリスクを回避することが目的です。「決して固定種のみで全てをまかなえるとは考えていません。慣行農法の種子はもちろん重要ですが、有機栽培や自然農法をできる限り推進していくことが大切で、そのためには育てる元である種子に、自然に寄り添った種が存在することが重要だと考えています」。
独自の基準で販売し有機種子の販路を広げる
グリーンフィールドプロジェクトは、育種、採種の技術はないものの、有機種子という切り口で販路を広げています。固定種、在来種をできるだけ高く買取り、生産者と価格合意の上で販路を広げれば、採種も野菜の生産同様に利益になって、自然と採種農家が増えるのではないか。さらに、固定種の存続に貢献できるのではないかと、活動を続けています。
販売する種子として、グリーンフィールドプロジェクトでは安心して選べるための「GFPスタンダード」という自社基準を設けています。
■現在の種がある程度安定した青果になること
■発芽がMAFF(農林水産省)の定める指定種苗制度の発芽レベルにあること
■将来にわたり採種していく意思のあること
■有機栽培による採種を長期間にわたり確実に行える状態にあること
オーガニック認証などがないことを不安視する声もありますが、認証マークは取得するための時間や費用がかかりすぎて、肝心の生産者の利益にならない、といった側面があります。消費者に安心して選んでもらうための目安は必要であり、グリーンフィールドプロジェクトが取り扱う種の最大のテーマである「持続可能な農業へ貢献できる種であることを伝えたい」という思いから、自社認証をスタートさせたそうです。
GFPスタンダードに合わせると、実際に販売が出来る種子は、今のところ小松菜1品種のみとのことです。しかし2018年春には、和綿やその他数品種の販売を開始しようと準備しているところです。
今後は、採種活動を行う方々との接点をさらに増やし、プロジェクトを周知させていきたいという松崎さん。
「クオリティの高い採種農家と知り合い、母本選抜できる方々とのネットワークを作り、将来的には、採種農家に委託生産できる体制を構築していきたいと考えています。弊社自身が採種事業を国内や国外で行っていくことも視野に入れています」。他の採種活動を行っている方々のサポートも惜しみなくしていきたいと、松崎さんは今後について話してくれました。
現状では種子を販売できる採取農家はまだまだ少なく、採種技術の高いいくつかの農家は、すでに独自の流通経路を持っているため、協力体制が取りづらいといった側面もあるようです。日本でも有機農業への関心が高まっていますが、種子の有機栽培ついて知ることは、農業や食についてより深く考えるきっかけとなりそうです。
株式会社グリーンフィールドプロジェクト
http://gfp-japan.com/