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自然を作る アクアポニックス農法が示す循環型農業モデル

自然を作る アクアポニックス農法が示す循環型農業モデル

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本の農家が取り組まなければならないのが、化学肥料や農薬を使わないオーガニック(有機)農産物の増産です。12年のロンドン大会以降、オーガニックを優先的に使用する調達基準が設けられ、世界的に有機栽培のニーズが高まっています。より食品の安全・安心を求める機運の中、ホリマサシティファーム株式会社(東京都品川区)は、ハワイ大学が研究してきた「アクアポニックス農法」を運用するシステムを共同開発。環境に優しい都市型農業モデルを提案しています。

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アクアポニックス
アクアポニックス

植物と魚 お互いの特長を活かし、補完しあって育つ「アクアポニックス農法」の仕組み

アクアポニックス農法は、およそ40年前にアメリカで研究がはじまった水耕栽培(Hydroponics)と、魚の水産養殖(Aquaculture)を融合した有機循環エコシステムです。魚と植物の生育に必要な栄養分をそれぞれが供給しあって、お互いに成長する好循環を構築します。
循環のスタートは魚。真水の中で成育できる淡水魚の排せつ物から生成されるアンモニアが、水中のバクテリアによって亜硝酸塩、さらに硝酸塩へと変換されます。硝酸塩は、植物の成長に不可欠な養分。それを含んだ水を利用して水耕栽培を行います。植物が養分として硝酸塩を消費したクリーンな水が、魚にとって最適な状況となって、再び水槽に戻ってくるというサイクルを確立したのが「アクアポニックス農法システム」です。
システムを運用するために必要なのは魚のエサだけ。近年、注目を集める植物工場と異なるのは、農薬を使用しないことはもちろん、化学肥料も用いないことで、実質的な有機栽培を実現します。
耕作面積が小さいことと、真水の確保が難しいという土地柄から、アクアポニックス農法は、ハワイ大学で最先端の研究が行われてきました。食糧自給率の向上に課題を持つハワイでは、同州の農業省もバックアップ。産学が連携する中に同社が合流し、システムとして運用する方法を確立するための研究を進め、2012年、アメリカUSDAのオーガニック認証を取得しました。
 

堀雅晴社長

ホリマサシティファーム 堀雅晴社長

「農業に貢献したい」 アクアポニックスに込める思い

アクアポニックスを提唱するホリマサシティファームの母体は、80年の歴史を持つベアリングの総合商社、堀正工業株式会社。シティファーム社は、堀雅晴(ほりまさはる)社長の「食に関わる仕事を通して、農業に貢献したい」という思いを実現する組織です。長年、農業への思いを胸の内に秘めていた堀社長は、2007年ころ、農産物の新しい生産方法として脚光を集め始めた時期に「植物工場」に強い関心を持ちます。
支社のある香港へ出張する度に、現地の富裕層の無農薬野菜へのニーズの高まりを肌で感じる中で、農地の少ない香港で植物工場の運用を計画。植物工場のシステムを販売するメーカーと代理店契約を結び、国内外で工場を開発しますが、コストに見合わない、オーガニックではないなどの壁にぶつかりました。
場所を選ばないこと、天候に左右されないことなどの植物工場のメリット。「その方向性は正しい」と考えながら、それに代わる農業モデルを探す中で「アクアポニックス農法」と運命的に出会います。「そこに自然の縮図ができるような循環型のシステム」に、持続可能な都市型農業に希望を見出し、2012年、ハワイ大学との共同研究を進めるホリマサシティファームを発足させました。

アクアポニックス

アクアポニックス農法の現在地

同社が加わったアクアポニックスの研究は、当初、土地の確保に共通の課題を持つハワイと香港のサイエンスパーク内のラボで行いました。
ハワイでは、40フィートのコンテナの中で、生育が比較的容易で、需要も見込めるテラピアやナマズと、ハーブやウコンをはじめ、スーパーフードと呼ばれる栄養価の高い植物の栽培。香港では、室内でテラピアと、ハーブや葉物野菜を育成し、研究の精度を高めてきました。日々、安定運用の実現化に取り組む中で、世界各地で行われる農業技術の見本市に参加するごとに「アクアポニックス」は注目を集めます。各国から導入検討のオファーが舞い込む中で、同社は大分県宇佐市に、本格的な事業展開に向けた中核拠点「大分パイロットファーム」を新設しました。3,000㎡の敷地に、1,000㎡のビニールハウスによる屋外型アクアポニックス装置と、200㎡の室内型アクアポニックスを設置。岐阜大学と共同し、養殖が難しいとされるニジマスと、国外で需要が高いワサビの生育にチャレンジし、順調に生産体制を整えています。

アクアポニックス

アクアポニックスの可能性と今後

アクアポニックス農法システムは、飲食店のディスプレイサイズから、本格的な作物生産システムクラスまで、求める用途に合わせて、規模の大小、屋内・屋外を問わずどこにでも設置できることが最大の特長です。今後は、いよいよ農業事業者向けに、システム販売を本格化します。アクアポニックスのシステムは、利用者のニーズに応えたカスタムメイドが基本。導入に当たっては「どこで、何を生産するか」という基本設計を元に、温度、湿度、Ph(水素イオン指数)などのベストバランスの初期設定が最も重要です。同社は、システムの設置というハードの販売にソフト面のサポートをプラス。初期設定の検証から、魚の育成・植物の栽培のノウハウの提供、コンサルティング、アドバイスのほか、マーケティング、販売先の開拓をワンパッケージで提供します。堀社長は「システムを提供する側がハードを設置するだけでは、自分たちが目指す持続可能な農業モデルを構築するとは言えない。魚も植物も売り先を確保して初めて、ビジネスが成立し、アクアポニックスの循環が、社会の循環に寄与することになる」と言います。
規模の経済へ対応する研究が進む現在、国内では研究機関のニーズが主流ですが「段階を踏んで、必要とされるシステムにしていければ。その第一段階は、教育の現場で自然の縮図の学びを提供することであっていい」。今では農業の現場になくてはならない存在のビニールハウス。それが普及するのに20年の歳月がかかったと言われています。「アクアポニックスが目指すのは、生産方法の競争ではなく、新しい価値観のプレゼンテーション。サスティナブル(持続可能である様)の提供が大前提」と話す堀社長の視線の先には、農業の新しい姿があります。

アクアポニックス
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