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「米づくり」に出会った若者に「稲作」がもたらした人生の転機

「米づくり」に出会った若者に「稲作」がもたらした人生の転機

2017年11月01日

NPO法人Kids of Earth(キッズオブアース)は「地球が笑顔になる」を基本理念に、米や野菜などの農産物が、どのような過程で作られて、消費者の口に運ばれるのかを体験するプログラムを提供しています。「楽しいことが好き」な代表理事の谷口裕紀(たにぐちひろき)さんがコーディネートする「楽しいだけではない」農の体験は、子どもから大人まで、私たち「地球の子ども」が地球のためにできることを考える機会に。「活動の目的は共生・循環型社会の実現」という谷口さんに話をうかがいました。

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キッズオブアース

知らないままで食べていた米や野菜

NPO法人Kids of Earthは「私たちは、自らが『地球のこども』として、地球の命を支える循環が自然に巡り、『地球が笑顔になる』ような選択と行動をしていきます」という理念を掲げ、2015年12月に東京都板橋区で発足しました。その活動の中心は、農業生産者の協力を得て、米づくりや野菜づくりの体験プログラムを生活者に提供すること。できる限り実態に即した形で、田植えから稲刈り、それぞれの野菜作りのプロセスを、子ども向け、大人向け、親子向けと対象者ごとに用意しています。「米も、野菜も人間の体をつくるもの。それなのに、自分自身が作物のできる過程を知らなかったこと」が活動のきっかけでした。法人設立から2年。「食」や「環境」をテーマにした講演会やワークショップの開催、パートナー生産者の商品販売など、活動の範囲は拡がり、法人のミッションである「共生・循環型社会を実現する」ための、生産者と生活者の架け橋となっています。
代表理事の谷口裕紀さんが法人設立に至った経緯をたどると、その原点には「楽しいこと」を求める好奇心と、若者ならではの行動力がありました。

きっかけは交流イベント「おとなの500人キャンプ」

NPOの活動を始めるきっかけは2012年に遡ります。当時は、企業に勤めていましたが、オンもオフも大切にする谷口さんは、友人が主催する「おとなの500人キャンプ」にスタッフとして参加。Facebookなどの告知で集まった人々が、毎年9月ごろ、関東近郊の施設で行う1泊2日のイベントは、参加者同士の親交を深める絶好の機会に。「次のキャンプまで待てない」若者たちが、月に一度、定期的に会う機会を求め、おいしい丼を食べるサークル「ごはん部」を発足させました。ところが、その活動が始まる前に、メンバーの一人が「丼の主役である米を作ること」を提案。「楽しそうなこと」に前のめり姿勢の仲間たちは意気投合し、ごはん部の活動を一回も行わないまま、米づくりにチャレンジすることを決意しました。「来年のキャンプにおいしい米を届ける」という目標を立てて、名称を「う米部(うまいぶ)」と改め、彼らは行動に移します。

キッズオブアース

「う米部」の活動を支えたメンバー。

米づくりの素人集団がイチから始めた無農薬米の栽培

「小学生の頃、田植え、稲刈り経験をしたことがある」とか、「親の知り合いが兼業農家で」米づくりに触れたことはあるといった程度の経験しかないメンバー。全くの素人集団は、場所探しからスタートします。米づくりの方法を学びながらの2013年2月。田植えから稲刈りまでのサイクル、稲作のスケジュールギリギリのところでついに、千葉県館山市の10年以上耕作の行われていなかった休耕田を貸してくれる農家を探しあてます。大切な人たちに届ける米。せっかくの機会だから「どうせやるなら、思い切って」と、無農薬無肥料栽培を決意した若者たちは、約1反5畝(およそ1,485㎡)を開墾し、育苗から「初めての米づくり」を開始しました。地元の農家の方々の「農薬を使わないなんて」という心配をよそに、無農薬無肥料栽培にこだわった半年間。毎週のように都心から館山に通い、雑草や動物、虫、気候と格闘した日々は、米づくりの「楽しさ」と「楽しいだけではない」現実を初めて経験する刺激的な日々でした。

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休耕田の開墾から始まった稲作。

館山の活動で見えてきたもの 米づくりの現場で感じた使命感

「水の管理は」「害獣対策は」と、なにかと気にかけてくれた地元の農家の方々に感謝しつつも、自分たちの手で、自分たちのやり方で、ゴールまでたどり着く。そのプロセスを満喫した谷口さんたち。初めて稲穂にカマを入れた時の「グッ!」という感覚は忘れられない。収穫した米を研いだときの、研ぎ汁でツヤツヤになった手、炊き上がった米を握った感触。その後、何度新米を食べても「あの時食べたイセヒカリが、生涯で一番おいしいおにぎりだった」と振り返ります。米づくり1年目は、興奮と大きな達成感に包まれました。
館山で自分たちが得た経験。そこで感じた米づくりの体験を伝えることを意識した2年目。農への関心を強くした彼らは、食料課題をテーマにした映画の上映会や、講演会、古米と新米を食べ比べる、利き酒ならぬ“利き米会”を開催するなど、硬軟様々な企画を通して、私たちが直面する食料事情についての課題の輪郭を捉えはじめました。自然環境が稲を育む。自分たちの食糧を作る。土の中の微生物の偉大さ。人間以外の様々な生物の力を借りる共生という思想と、その環境を維持するための循環型社会の重要性を知り、伝えていくことを自身の役割だと感じるようになります。
「楽しいこと」を求めた米づくりで「楽しいだけではない」現実を知った谷口さんが「共生・循環型社会を実現する」という自身の想いに、正面から向き合う決意を固めたのは、米づくり3年目の終わりのことでした。

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著名人を招いての講演会。

活動を続けていくために NPO法人を設立

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学童の子どもたちとの野菜作り体験

1年経験して満足。2年目でやりきった。様々な理由で、参加するメンバーも変わっていく中で、3年目は、活動の幅は広がるものの、運営面、費用面で、活動を続けていくための課題が浮き彫りに。代表が妻の元同僚という縁で、2年目から足立区の学童に通う子どもたちへのコンテンツ提供も始め、館山に通う手段も、レンタカーからバスに変わりました。子どもたちに食育という観点で米づくりを体験してもらうことは、谷口さんと共にNPOを運営する妻の理紗(りさ)さんの願いでもあり、学童との連携はそれを叶える機会でもありました。
「活動を続けていくためには、組織として確立する必要がある」。谷口さんは、う米部として行ってきた一連の活動を運営する団体として、法人化を決意。持ち前の行動力を発揮し、2015年12月にNPO法人Kids of Earthを設立しました。翌年春には勤めていた会社を辞め、ウェブ制作を請け負う[WARAI](カッコワライ)の事業をスタートします。

Kids of Earthと谷口さんのこれから

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佐渡の米農家さんを訪ねて。

2016年。法人化一年目は、変革の年でした。一番大きな変化は、運営上の判断で4シーズン続けた館山での米づくりを終了したこと。より目の届くところでの米づくりを行う必要性を優先し、埼玉県の田んぼを借り受ける判断をしました。「NPOとして事業を確立するためとは言え、思い入れのある土地を離れるのはつらかった」と言います。一方で、露地ものの小松菜、キャベツ、ダイコン、ニンジンなど、様々な野菜づくりの体験プログラムを提供することにもチャレンジし、活動の幅を広げました。
愛知県春日井市に生まれ、大学卒業後、広告代理店、シェアハウス運営会社を経て、自身の“楽しい”のアンテナを働かせてたどり着いた現在地。「大学生の自分に、今の姿を見せたい」と話す谷口さん。「まさか、自分が会社を辞めるとは。自分でしかも、好きな広告の仕事から離れるとは思ってもいなかった」。それを上回るやりがいや生きがいを感じる毎日。
これから力を入れていくことは「援農」だそう。「本当に良いものを一生懸命作っている生産者の商品を、生産者に代わって生活者に届けることで、農業をバックアップしていきたい」。
生産者と農家の交流機会を作るバスツアーの開催や、自身の経験を活かした自然素材シェアハウスの運営。「ポップで楽しく、かっこいい」農機具の企画や、オーガニックコスメの開発など、「共生・循環型社会の実現」という大きな目的に関心を寄せてもらうためのアイデア。それを一つ一つ形にしていくことが「今の自分の役割」と話します。
活動を通して出会った人たちと一緒に”笑顔”を分かちあう谷口さん。
「10年後、何をしているかわからないけれど、その時の自分が、今の自分に失望しないように」。谷口さんは自分の手で、頭で、行動力で、Kids of Earthの未来、自身の将来を切り開いていきます。

■特定非営利活動法人Kids of Earth

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