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リンゴの有機栽培を実現するための親子二代の挑戦 ~100年後も続く果樹園を作る~

リンゴの有機栽培を実現するための親子二代の挑戦 ~100年後も続く果樹園を作る~

長野県伊那市でリンゴやモモ、スモモを育てる白鳥農園。化学農薬や化学肥料に頼ることなく、農園で暮らす生きものたちの力を借りて果樹を育てるという信念を貫き、親子二代36年の試行錯誤の末、最難関の果樹の有機JAS認証を取得しています。栽培責任者を務める白鳥昇(しろとりのぼる)さんは、有機栽培で果樹を育てる難しさを痛感しながらも、有機栽培にこだわり続けています。その背景にあるストーリーをうかがいました。

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白鳥農園

有機栽培でリンゴを育てる、伊那市の白鳥農園。

-白鳥さんが栽培責任者を務める白鳥農園について教えてください。

私たちの農園では、リンゴとモモ、スモモを有機栽培しています。3種類とも有機JAS認証を取得しましたが、果樹で有機JAS認証を取るのは難しく、スモモでの認証取得は国内初、モモで国内2人目、リンゴで国内3人目となります。

もともと化学農薬を使っていなかったので、農薬使用回数や化学肥料の使用量が一定以下であることを示す特別栽培農産物のガイドラインは取得していました。ただ、それだけでは、自分たちの生産方法を表現するには不十分です。有機栽培で作られた野菜を求める人は、病気の治療中の方など、切実な思いを持つ方も多くいます。そういった消費者に対して、栽培者は栽培方法を分かりやすく説明する責任があります。白鳥農園では化学肥料や化学農薬や使っていないので、それを消費者にきちんと説明できる状態にしようと考え、有機JAS認証を取ることにしました。

-以前から化学農薬を使っていなかったとのことですが、
白鳥農園がスタートしたのはいつのことでしょうか。

この農園は1980年に父が始めて、私で二代目になります。父は、微生物とミネラルの有効活用の研究者で、仕事で農業と畜産の指導をしていました。自然農法の第一人者である福岡正信(ふくおかまさのぶ)さんを始め、有機農業を目指している様々な人たちと、日夜討論を続けたと言います。

自分でも農業をやってみようと考えた父は、手入れもせずに放置状態だった桑畑を開墾してリンゴ畑にしました。無農薬はとても難しいですが、最初から化学肥料や除草剤は一切使わないことを目指していました。まだ有機栽培という言葉もない時代に、炭と麦飯石と牡蠣殻を大量に使って土作りをしたのです。

白鳥農園

-最初から化学農薬を使わないことにこだわっていたのですね。
白鳥さんご自身はいつから農業に関わっていたのでしょうか。

子どもの頃から手伝っていましたが、高校卒業後しばらくは農業から遠ざかっていました。しかし、どんな仕事をしていても、自分の中で納得がいかない状態が続き、20代中盤で「自分には農業しかないんだ」と感じて農業を始めることにしました。

最初は、実家の農園に入ったわけではありません。地域の温泉熱を利用したビニールハウスでイチゴを栽培するという仕事があったので、その発起人の一人となりました。父から、有機農業をやる前に、化学的な農業も知っておいた方が勉強になると助言をもらったからです。高設栽培で育てて、イチゴ狩りに来た方向けに販売しました。

たくさんの方に食べていただけて嬉しい一方で、イチゴは大量の農薬を使っているので、「これでいいのだろうか」という気持ちもありました。お客さんは、農薬をまいた翌日のイチゴでも、あまり洗わずに食べてしまうのです。

その状況が気になっていたところ、父が育てているリンゴの取引先に「親父の子なら、無農薬でやってみなさい」と言われました。それがきっかけとなり、化学農薬を使わないイチゴを作ることにしたのです。

-違和感を拭えずに、化学農薬を使わない方法を始めたのですね。
それまでと全く違う方法ですが、栽培できましたか。

2年間、化学農薬を使わないイチゴ作りにチャレンジした結果、栽培は実現できましたが、経営的には成り立ちませんでした。

病原菌を制御するためには、微生物を拮抗させるのが一番です。ダニを食べてくれるダニや、微生物を食べてくれる微生物、アブラムシを食べてくれるてんとう虫など、作物に害となる生物の天敵も、生物農薬として買うことができます。さらに、天敵である生き物が活動しやすい環境を整えることで、化学農薬を使わずにイチゴを作ることができました。

ただ、生物農薬は物によっては1本何万円もします。それを何十本も買っていたら経営的に成り立たなかったのです。

残念でしたが、イチゴ作りをあきらめて実家の果樹園を手伝うことにしたのですが、生物の豊さに驚きました。それまで生物農薬として買っていた虫や微生物が、普通に生息していたのです。そして、化学農薬を使わなくても栽培できると確信し、実家の果樹園で有機栽培に挑戦することにしました。

しかし、実際は困難の連続でした。できるはずなのにできないのです。虫の発生はそれほど問題にはなりませんでしたが、病気は防げなかったのです。病気を抑えるのに有効と言われていた方法を色々と試しましたが、うまくいきません。2015年、2016年に関して言えば、モモとスモモは全滅で、リンゴも数百キロしか採れませんでした。

全て病気になって、実が落ちて葉っぱがボロボロになっていきます。野菜だったら、トラクターをかけて畑を作り直せば仕切り直すことができます。しかし、果樹の場合は木がある状態から回復させなければなりません。取り返しがつかないことになってしまったと思い、絶望しました。

それでも、諦められなかったのは、有機栽培が実現できる環境があるからです。これだけ微生物や昆虫がいるのに、できないはずがないと考えたのです。

白鳥農園

-大変なことが続く中でも、“できるはず”という確信は変わらなかったのですね。
改善を重ねていると思いますが、今後の取り組みを教えて下さい。

2017年は、失敗したらやめる覚悟で臨みました。病気だけはどうしようもないので、病気を抑えるために、有機農法で認められている薬を使うことにしました。その結果、2年続けてゼロだったモモとスモモは収穫することができましたし、リンゴの病気もかなり抑えることができました。

ただ、リンゴはやはり難しさを感じています。病気を抑えることと収穫量を抑えることが比例しているため、収穫量を増やしながら病気を抑えるのは難しいのです。また、病気が治まっても、なかなか実が大きくなりません。より大きなリンゴを作るための工夫も必要です。

さらに、作業を効率化する必要もあります。現状は、慣行栽培を行っているリンゴ農家と比べて、収穫量は100分の1程度しかありません。値段も100倍にしなければ成り立たない計算になってしまって、多くの人に届けることができません。作業を効率化しながら規模を大きくすることで、多くの方に提供できる価格のリンゴを作りたいです。

理想は、不要な枝を切る剪定と、果実を間引く摘果だけを行う状態にしたいです。そのためには、適切な草刈りが大切です。草は全部刈ってしまうと環境に対する影響が大きいのですが、伸びすぎると病気と虫の温床になってしまいます。一定の長さに抑えつつ、虫が生きられる長さに保つ必要があります。

しかし、人力で刈るには相当の手間がかかります。そこで、羊を飼うことにしました。羊は適度に草を食べてくれて、年に10回ほどしていた草刈りは、2回でよくなりました。しかも、その2回もムラがあるところを刈ればいいので楽なのです。

白鳥農園

病気を抑えて、草刈りも効率化できるようになってかなりの手応えを感じています。モモとスモモに関しては、改善点も明確になり、リンゴも確実に前に進んでいる実感があります。

リンゴは、一般的には年間で37種類の化学農薬を使うと言われています。しかし、生物が育つ環境を整えれば、大量の化学農薬を使う必要はありません。だったら使わない方法で作りたい。単純にそう考えています。

100年後にも続く果樹園を作るため、白鳥農園ではこれからも有機栽培に挑戦し続けます。

写真提供:岩澤深芳

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