農機の出荷台数は年々減少 大規模経営でもコストは下がらない
農機は高額で、日本では1台当たりの機械利用面積が小さい状況にあります。個人所有が中心で、農機のシェアなど共同での利用はほとんどないため、必然的にコスト高になっています。さらに、農業を営む人も減少する中、農機の国内向けの出荷台数も減少しているという現状もあります。
「農業機械の国内出荷額は輸入を含め、約2,500億円です。主要農機の国内向け出荷台数は年々減少していますが、一方で大型、高性能機械の割合は増加しています。これは農業の法人化が進み、経営規模が拡大していることと関係しています。
しかし、農業の大規模化が進んでいても、生産費に占める農業機械の割合は約20%を維持していて、依然として大きな変化は見られません。つまり農業機械を導入したことにより労働費は小さくなるが、大規模経営になると農業機械の台数が増加し、コストがなかなか下がらないということです」(名取さん)。
機能を絞った低価格農機の共同購入へ
そこで、農機のコスト高を下げるために、JA全農では農機コストを引き下げる取り組みに着手しました。
具体的には、(1)機能を絞った低価格農機の共同購入、(2)大型コンバインなどの共同利用、(3)農業者を支援する修理・アフターサービス体制の整備、という3つを重点的に取り組んでいく構えです。
「まず、低価格農機の共同購入では生産者の意見を反映し、低価格モデル農機の仕様を決め、共同購入により安価な製品を提供していこうと考えています。それに続いて、大型コンバインの共同利用(農機のシェアリース)や野菜作機械レンタルを拡大し、機械投資を抑制していきます。さらに、アフターサービス体制を整えることで、負担の大きい機械の維持コストを削減したいと考えています」。
JA三井リースとの共同事業で遠隔地の農機シェアを実現
農機のシェアについては、複数の農業者で1台の機械を利用するレンタル事業や、JA三井リースとの共同事業を進めていくそうです。
JA三井リースでは、2012年度より農業法人、農機メーカーと共同して“農機シェアリース”という仕組みを開発。2016年には商標登録出願を行い、商標権を取得しています。
「この“農機シェアリース”は、1台の6条刈自脱型コンバインを、事前に登録した4軒〜6軒の利用者に対して、2年間ご利用いただく仕組みです。1台のコンバインの年間稼働面積を増やし、機械コストを削減することができると考えています」。
大型のコンバインは1台1,200万~1,300万円と高額な機械でありながら、年間の稼働期間が短く、結果的に農機のコスト高の要因になっています。しかし、地域が異なれば同じ作物でも成長時期が異なるため、同一機種を利用する時期も異なります。そこに着目し、“農機シェアリース”は遠隔地で共同利用を実現しようと考えています。
JA全農グループでは使用する機械のメンテナンスを行い、JA三井リース側では農家の調整、機械の移動手配などを行います。農機のコストが抑えられるとなれば、直接的に農家の所得にもつながっていきます。
今後は大規模農業が拡大 農機の共同購入によってコストを削減
低価格モデルの農機提供や農機のシェアは、これから本格化していきます。最後に、今後の農機購入のあり方についてお聞きしました。
「米の生産費に占める農機具費の割合は約2割を占め、どうしても農機具はコストが高くついています。そのため農業者の経営に与える影響は大きく、改善の余地のある問題となっています。
現在、一経営体あたりの経営面積が拡大する傾向にあり、今後は大規模農業者から、これまで以上に農機価格の引き下げを求める声が強まるだろうと予想しています。機能を絞った低価格モデル農機の提供は、まさにこの流れに沿うものであり、多くの農家の方の要望に応えるものにしていきたいと思っています」。
農機のシェアは、利用時期が重なる同じ地域ごとには解決しにくいため、JA全農のような全国的なネットワークが必要となってきます。コストが抑えられることで農業経営自体が大きく変わるきっかけになるかもしれません。
このJA全農の取り組みに対し、多くの反響が寄せられており、期待値が高いことがうかがえます。
JA全農