植物工場は日本の農業シーンを変えるか
今回の「農業ワールド」で大手電気メーカーをはじめとした民間企業や、研究機関までがこぞって自社製品をアピールしていたのが「植物工場」による生産システム。温度、湿度、自然光または人工光の照射量などを調整した人工的な環境の中で、培養液を用いて植物を栽培する。天候に左右されず安定した生産体制を築けることと、病害虫が侵入することがないことから、無農薬で栽培ができることなどのメリットがある一方で、コスト面の課題があった。
日栄インテック株式会社(東京都荒川区)も、今回、コンテナ型植物工場「スーパーアグリプラント」を発表した。「もともと立体駐車場やLED照明などを開発・販売していたので、植物工場の基礎となるノウハウを持っていました」と話すのは、髙田健一営業課長。同社の製品の特長は、コンテナ型を採用したことによる簡略化した設置方法と、増床のしやすさ。「植物工場は利益を出しにくい」という農家の意見には、季節差栽培、多品種同時栽培を提案する。コンテナは高い断熱性とその丈夫さが特長。そのおかげでいつでもどこでも多品種同時栽培が実現できる。「都市部だけではなく地方の方にも使ってほしい」と言う。各社の提案する「植物工場」が、ビニールハウスのように当たり前にある光景は、遠くない未来に目の当たりにするかも知れない。
日栄インテック株式会社 http://www.nichieiintec.jp/
株式会社クリーンファーム http://www.cleanfarm.co.jp
※本件の問い合わせは、株式会社クリーンファームまで。
接木ロボットのインパクト
植物の苗を生産・販売する株式会社ハルディン(千葉県印西市)のブースで人だかりを作っていたのは、同社が導入し、関連会社の株式会社グリーンコムジャパンが日本国内で販売する、オランダISO社製の半自動接木ロボット「Graft1100」。機械をはさんで2人の作業員が向き合い、一人が台木を、もう一人が接穂を設置し、機械が自動的に接木する様子は、とてもリズミカルでスムーズ。トマトやナスの苗を、1時間で1000本接木することが可能だという。
グリーンコムジャパンの担当者によると「労働力の確保が問題となっている中で、接木という大変手間がかかる作業を、最大限自動化・効率化する方法の一つを提示することを意識しました」と話す。機械を使った接木苗のロスは0~5パーセント以内と、人間の手で行うのとほぼ同じ精度を実現しているという。人の手と機械。手間と生産量とコスト。それぞれのバランスを検討し、どちらを選ぶか。「接木までも機械がやるのか」という驚き。同社のブースは、来場者に強いインパクトを与えていた。
株式会社ハルディン http://www.jsjardin.co.jp/
ありそうでなかった軽トラ用のアルミ製幌「ケーランプス」
岐阜県飛騨地方の農家が使用する軽トラックの荷台には、布製の幌がかけられているのが一般的。株式会社Lanps(ランプス)の今井敦氏と林広幸氏の両代表は、地元の農家のために「軽トラの幌をもっと便利に」と思い立つ。従来の幌は、鉄製の骨組みを使用し、重くて錆びやすいという欠点があった。その欠点を補う「新しい幌」の製作を目指した2人は、試行錯誤を繰り返して、アルミとステンレスを用いた幌「ケーランプス」を完成させる。
軽トラックの荷台に取り付ける「ケーランプス」は、軽くて丈夫。雨風をしのげて、積雪にも耐えられるように設計した。荷台のアオリを含めて3面を開閉できるため、荷物の積み下ろしにも不自由がない。果実の出荷作業はもちろん、マルシェや軽トラ市に出店する際のニーズを想定し、利用のしやすさと、外見の面白さで注目を集めることを意識した。飛騨地方では当たり前の軽トラックの幌も、全国的には珍しい存在。農作業だけでなく、キャンプや釣りなど、レジャーシーンまで、幅広い活用方法を提案していくという。
株式会社Lanps https://www.lanps.jp/
就農支援に力を入れる石川県 北陸ならではの魅力をアピール
北陸新幹線の開通が記憶に新しい石川県。交通網の発達は、農産物の販路開拓の役割と、県外からの就業者受け入れの追い風となっている。同県は、公益財団法人いしかわ農業総合支援機構が中心となり、新規就農者の支援に力を入れる。移住からスタートし、栽培管理指導、就農支援、営農定着まで手厚いサポート体制を敷いている。中でも就農支援事業の核となる「いしかわ耕稼塾(こうかじゅく)」は、農業者、就農希望者、農業体験希望者のそれぞれに向け、経営革新スキルアップコース、技術習得研修、農業学ぼうコース、開放セミナーなどを開講し、農業インターンシップと併せ、段階ごとのニーズに応えている。
ブースで話をうかがった、石川県の担当者は「種々の農作物の北限と南限が重なる石川県は独自の食文化を受け継いできた。伝統料理に欠かせない加賀野菜、能登野菜などに魅せられて、この地で就業を希望する人もいる」と、同県ならではの就農状況を明らかにする。
近年は、県の農林総合研究センターが育成したブドウ「ルビーロマン」が話題に。一房1万円の値が付くブドウは、ブランド化の取り組みの象徴となり、次に続く牽引力となっている。石川県の魅力と価値は年を追うごとに高まっている。
公益財団法人いしかわ農業総合支援機構 http://www.inz.or.jp/
総合6次産業都市を目指す愛媛県西条市の取り組み
全国各地で農業の6次産業化の取り組みが行われている中、愛媛県西条市は2002年から、市を挙げて「総合6次産業都市」を目指す計画を進めている。
総合6次産業都市の実現には、マーケットニーズに基づく、①安定的な農産物の生産と供給②付加価値を生み出すための加工③次代を担う専門人材の育成などの条件が必要とされる。その条件を満たすために、住友化学株式会社とJA、行政等が連携し、2011年には、安定的に農産物を供給するための実証研究を行う「株式会社サンライズファーム西条」を、2014年には、四国の一次産業の加工、流通、貯蔵の役割と、物流・販売のハブ機能を担う「株式会社サンライズ西条加工センター」を設立。長年の課題であった流通・加工施設を整備し、単なる農産物の原材料供給拠点から、農産物とその加工品の生産・出荷拠点への転換を図っている。
国の地域活性化モデルケースとしての指定を受けたこの取り組み。「今後は、産地づくりに向けた施策に加え、販売力の強化に向けた後方支援も実施していく」と話す西条市農林水産部の塩出一峻さん。資源・人材・技術の総合力を活かした「新しい産業形態を創出すること」を目指す西条市は、地域ともに新たな農業に挑戦したいと考える企業を求めている。
「農業ワールド2017」が示す農業の未来図
3日間で2万4,000人に近い人が訪れた「農業ワールド2017」。会場となった幕張メッセは、出展者と来場者の熱気で包まれていた。労働人口問題、気候変動、今後の農業に関わる政策など、他業界よりも不確かな要素の多い農業界だが、ここに集まった人々の表情は期待感に満ちていた。
会場内は、海外からの出展者、視察者の姿も目立った。グローバル化の波は止められない。ならば、その波にどのように乗るか。大きな資本から生み出された技術と、小さなアイデア。そのどれもが「明日の農業」を作る。ここで紹介された商品、技術、サービスがどのような「農業の未来」を描くのか。農業の現在地を確認すること、定点観測することの重要性を感じた「農業ワールド」。次回は、2018年5月9日~11日の3日間、インテックス大阪(大阪府大阪市住之江区)で「第2回関西農業ワールド」が予定されている。